どん底の先は地獄でした

ふたつぎ

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3.

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頭上に空いた穴から顔をのぞかせて笑っている白い髪の女を見ながら、アレクサンドラは学院の卒業式で起こったことを思い返していた。

なぜ・・・。
なぜここにいるの?
処罰されたのではないの?
なぜあんなに朗らか笑っているの?

疑問は尽きないが、彼女が自分たちを助けに来たわけではないことだけは分かる。

だけど、だったら何をしに来たというのか。
わざわざ来なくとも、放っておけばいずれは皆死んでいたのに。


あの卒業式直後から始まった夫の治療は完治まで丸一年かかった。
それからさらに半年後に無事結婚し、今は夫婦で城に住みながら臣籍降下して与えられる地の領主となる為の準備を進めているところだった。
とはいえ王もまだお若く第一王子に代替わりするのは大分先のこと。それに大変な経験をしたのだから急ぐことはないと周囲からも言われており、のんびりとしたものだったが。

こんなことになるなら、さっさと臣下して領地に行っていればよかったと、閉じ込められて以来何度も後悔していたアレクサンドラだが、もしもこれを行った犯人がララ=シームだったのであれば、領地に行っていても同じ目にあっていたのかもしれないと思いなおした。


「どうも皆様、ごきげんよう」

鈴を転がすような澄んだ声が頭上から響く。
あれから何年も経ったというのに学生時代と変わらず、いや、むしろあの頃よりも明るい声だ。

「王様、第三王子様、王子妃様、騎士様、王子様のご学友様方・・・ああ、今は"側近様”ですかね?皆様お久しぶりです。ほかの方々ははじめまして、でしょうか?ララと申します。
 孤児の"ただのララ”から、魔力量を認められシームの姓をいただき"ララ=シーム”となり、罪人となって姓をはく奪され再び"ただのララ”に、いえ"稀代の悪女・ララ”となった、取るに足らぬゴミムシでございます」

ふふふっと笑う可愛らしい表情と闇をはらむセリフの乖離に皆戸惑っている。

「ねぇ王様、騎士様。わたし、何度も言いましたよね?私は魅了なんてかけていない、と。そのような能力は持っていないと。それなのにどうして聞いてくれなかったのか、ずっとずっとずぅっと考えてるんです。
それでね、気付いたんです。あの件で得したのは誰か・・・・・・・ねぇ?王子妃様?」

アレクサンドラは働かない思考を無理やり動かして答える。

「何を言っているの?あの件で誰が得したと言うの?誰もが傷を負っただけよね?成功していればあなただけは得したでしょうけれど」

そう言ったアレクサンドラに、ララは肩を竦めてみせるだけだった。

「まあいいわ。それよりも皆様。助けて差し上げましょうか?」

優しい笑顔で紡がれた言葉は待ち望んだもののはずだったのに、なぜかその場にいる全員が恐怖した。




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