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第五話

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 扉の先にあったもの――それは宝石、美術品、武器、防具などの高価な品でした。その横には引き裂かれた隣国の旗が置かれています。ふと壁を見るとエノク語で“我が宝、ここに眠る”とありました。

「ここにあるのは……魔術師の宝物でしょうか?」
「いや、どれも新品な上に隣国の船の旗があることからして、きっと船から略奪した品物だ。魔術師の宝物庫だった場所を、何者かが略奪品置き場にしているんだ」

 メレディス様はそう言って歩き回り、やがて岩上に置かれた書類を見付けました。そして目を通すなり、興奮した様子で叫びます。

「こ、これは兄上の字だ! 兄上は自筆で、略奪記録と入手品リストを書いている! ここにあるのは兄上が隣国の船を襲って、手に入れた略奪品だ!」
「それって、悪事の証拠じゃないですか……!」
「ああ、間違いない! 兄上は海賊行為をしていたんだ!」

 そして彼は続けて言います。

「兄上は国境にかかる山にも秘密の隠れ家を持っていると言っていた! 山に入った隣国の人々から奪った金品を隠している可能性が高い! 兄上は領地付近で、海賊行為と山賊行為をしていたのだ!」

 どうやらジャスパー様の悪事とは略奪行為だったようです。
 我が国は鎖国中ですが、航路の都合上、近海を貿易船や商船が頻繁に通過します。さらに国境の山には高価な果物が実るため、隣国の人が侵入することがあるのです。ジャスパー様はそんな人々を襲っては金品を奪っていたのでしょう……そして襲われた人々は口封じに殺されたに違いありません。

「メレディス様! すぐに第一王子へ知らせましょう!」
「ああ! この書類を持って、すぐに城へ戻ろう!」

 私達は糸を手繰って螺旋階段まで戻りました。そして壁の石を引き出し、隠し扉を元に戻したのです。メレディス様は自室に籠って手紙を書き、やがてその手紙を足に括り付けた鳥を空へと放ちました。

「必ずエイベル様へ届けてくれよ……!」

 そして私達は手紙の返事を待ち続けました。



 それから十日後のことです。
 私達が幽閉されているアンセロイズ城に、ジャスパー様とワンダ様が訪れました。二人はずかずかと城に入ってくると、広間の椅子へ腰かけました。

「メレディス、我が妻アシュリーと随分と仲が良いらしいな?」
「夫と離れている間に、その弟と浮気するなんてとんだビッチね」

 そう言って、ニヤニヤと笑っています。その様子を見た瞬間、私はもうひとつの悪巧みに気付きました。ジャスパー様は浮気の罪をでっちあげるために、私達を同じ城に幽閉したのです。

「何の話ですか、兄上?」
「私は……浮気なんてしていません……」

 私は少しだけ不安になりましたが、すぐにその思いを振り払います。洞窟で手を繋いで以来、私達は一度も触れ合っていません。それ以前に抱き締められたことも、浮気と言えるほどのものではないはずです。するとジャスパー様とワンダ様はせせら笑いました。

「嘘を吐くな! お前達が肉体関係にあると使用人が言っていたぞ!」
「そうよ! どうせ寂しい者同士、慰め合ったんでしょ!」

 そしてジャスパー様は手を上げて叫びました。

「さあ、こいつらを浮気の罪でひっ捕らえろ! アシュリーの実家には莫大な慰謝料を請求するからな! あはははははは!」

 しかしその声に従う者はひとりも現れません。静寂が広がり、ジャスパー様はばつが悪そうに舌打ちします。

「チッ……どうした? なぜ誰も来ないのだ?」
「――それは貴様の従者を、我が兵が捕らえたからだ」

 その時、ひとつの足音が近付いてきました。それが誰のものなのか分かった瞬間、ジャスパー様は顔色を変えます。

「第一王子エイベル様……!? どうしてここに……!?」
「おやおや、ジャスパー。辺境にいるだけあって国の情勢に明るくないと見た。私はもう第一王子ではない。国王だ」
「何だと……!? 国王陛下がなぜここに……!?」

 するとエイベル様はにっこりと微笑みました。

「メレディスが貴様の悪事を知らせてくれたのだ。数日前から、我が兵が領地を探っていたことに気付かなかったのか、ジャスパーよ? 国境の警備をする振りをして、よくもこの私の目を欺いてくれたな?」

 その瞳には怒りの炎が燃えていました。
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