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第三話
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メレディス様は私を自室へ通すと、地図を広げました。
「我がローザレイル辺境伯家の領地は国境とアンセロイズ地方の沿岸だ。国家防衛のため国境を警備しているというのが建前だが、兄上は国に顔向けできないことをしている」
「国に顔向けできない? 一体何をしているのです?」
「それが分からない。兄上の腹心から悪事を働いていることだけは聞き出せたのだが、罪をなすり付けられて幽閉されたんだ。しかし望みはある」
そしてメレディス様は何通もの手紙を見せてくれました。それは小さな筒に入っており、伝書鳥が運んだものだと分かりました。
「これは第一王子エイベル様と秘密裏にやり取りした手紙なんだ」
「第一王子と? お知り合いなのですか?」
「昔からの親友で、彼だけが僕の無罪を信じている。エイベル様も探りを入れてくれているが、兄上は尻尾を出さない。だから君には、兄上の悪事の証拠を見付ける手伝いをしてもらいたいのだ」
「わ、分かりました! 頑張ります!」
私は意気込んで頷きました。メレディス様も頷き、もう一枚の地図を広げます。
「これはアンセロイズ城の古い地図だ。かつてこの城の持ち主は魔術師だったらしく、地下に抜け道を造ったらしい。そこから城を抜け出して、兄上の悪事を暴きたいのだが……その道筋が暗号で書かれている」
彼が指差す文字を見て、私は目を丸くしました。
「え? 暗号?」
「ああ、これを一緒に解読してほしいのだが……」
「メレディス様、これって暗号じゃありませんよ? 魔術師が呪文や魔法陣に使うことで知られている天使言語エノク語です」
「何だって……? 君、これが読めるのかい……?」
「はい、私は国内で学べる全ての言語を勉強してきましたから。えっと、螺旋階段の三百十七段目の側面に隠し扉があり、そこから海沿いの洞窟へ出られるとあります」
私はずっとずっと夢のためにあらゆる言語を勉強してきました。だからこの地図に書かれた古代文字を読むことなんて、造作もありません。しかしメレディス様は驚愕の表情で、こちらを見詰めていました。
「僕も外国語はできる方だが……君は博士か何かか?」
「ええ、博士号を持っていますよ。メレディス様も外国語が好きなのですか?」
「ああ、大好きだよ……。それは僕の夢に関わるから……」
そしてメレディス様は地図を手に歩き出しました。私もその後に続き、螺旋階段を降りていきます。そして三百十七段目に辿り着くと、彼は壁を調べ始めました。色の違う石を押すと、隠し扉が開いて奥に洞窟が見えました。
「凄いよ! 本当だった! 全部君のお陰だよ、アシュリー!」
「きゃっ……危ない!」
メレディス様に抱き付かれ、私はバランスを崩しました。しかし彼は私の体ごと持ち上げて喜び続けます。綺麗な顔が間近に迫り、思わず胸が高鳴りました。
「ああ、ありがとう! 君に会えて、本当に良かった!」
「メレディス様……落ち着いて下さい……」
私は頬を赤らめながら、相手を宥めます。このまま洞窟へ入るなんて大丈夫かしら、そう思うと私の心臓は破裂しそうでした。
「我がローザレイル辺境伯家の領地は国境とアンセロイズ地方の沿岸だ。国家防衛のため国境を警備しているというのが建前だが、兄上は国に顔向けできないことをしている」
「国に顔向けできない? 一体何をしているのです?」
「それが分からない。兄上の腹心から悪事を働いていることだけは聞き出せたのだが、罪をなすり付けられて幽閉されたんだ。しかし望みはある」
そしてメレディス様は何通もの手紙を見せてくれました。それは小さな筒に入っており、伝書鳥が運んだものだと分かりました。
「これは第一王子エイベル様と秘密裏にやり取りした手紙なんだ」
「第一王子と? お知り合いなのですか?」
「昔からの親友で、彼だけが僕の無罪を信じている。エイベル様も探りを入れてくれているが、兄上は尻尾を出さない。だから君には、兄上の悪事の証拠を見付ける手伝いをしてもらいたいのだ」
「わ、分かりました! 頑張ります!」
私は意気込んで頷きました。メレディス様も頷き、もう一枚の地図を広げます。
「これはアンセロイズ城の古い地図だ。かつてこの城の持ち主は魔術師だったらしく、地下に抜け道を造ったらしい。そこから城を抜け出して、兄上の悪事を暴きたいのだが……その道筋が暗号で書かれている」
彼が指差す文字を見て、私は目を丸くしました。
「え? 暗号?」
「ああ、これを一緒に解読してほしいのだが……」
「メレディス様、これって暗号じゃありませんよ? 魔術師が呪文や魔法陣に使うことで知られている天使言語エノク語です」
「何だって……? 君、これが読めるのかい……?」
「はい、私は国内で学べる全ての言語を勉強してきましたから。えっと、螺旋階段の三百十七段目の側面に隠し扉があり、そこから海沿いの洞窟へ出られるとあります」
私はずっとずっと夢のためにあらゆる言語を勉強してきました。だからこの地図に書かれた古代文字を読むことなんて、造作もありません。しかしメレディス様は驚愕の表情で、こちらを見詰めていました。
「僕も外国語はできる方だが……君は博士か何かか?」
「ええ、博士号を持っていますよ。メレディス様も外国語が好きなのですか?」
「ああ、大好きだよ……。それは僕の夢に関わるから……」
そしてメレディス様は地図を手に歩き出しました。私もその後に続き、螺旋階段を降りていきます。そして三百十七段目に辿り着くと、彼は壁を調べ始めました。色の違う石を押すと、隠し扉が開いて奥に洞窟が見えました。
「凄いよ! 本当だった! 全部君のお陰だよ、アシュリー!」
「きゃっ……危ない!」
メレディス様に抱き付かれ、私はバランスを崩しました。しかし彼は私の体ごと持ち上げて喜び続けます。綺麗な顔が間近に迫り、思わず胸が高鳴りました。
「ああ、ありがとう! 君に会えて、本当に良かった!」
「メレディス様……落ち着いて下さい……」
私は頬を赤らめながら、相手を宥めます。このまま洞窟へ入るなんて大丈夫かしら、そう思うと私の心臓は破裂しそうでした。
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