上 下
17 / 18

第17話

しおりを挟む
 数日後、魔王の言う通りデルラ国は滅んだ。
 そしてエイリスは何のしがらみもなく、スライア国の聖女として認められた。
 彼女は喜んで、国に、国民に、聖女の力を限りなく尽くす――
 そんなある日のこと――

「ふう、午前中は忙しかったわね」
「お疲れ様でした、姫君」
「ええ、ありがとう」
 
 季節は移り変わり、花盛りの日々が訪れていた。
 そんな麗らかな午後、エイリスとコーディは中庭でお茶をしていた。
 焼きたてのジャム入りクッキー、新鮮な果物たっぷりのタルト、香り高い拘り抜かれたお茶――侍女達は働き者の聖女のために飛び切りのアフターヌーンティーを用意していた。
 いつもは世話焼きな侍女達が給仕するのだが、今日はその姿がない。
 エイリスは秘密の話しがあると言い、侍女達を下がらせていた。

「ねぇ……コーディ……」
「何でしょう?」

 飲んでいたお茶を下げ、こちらを見詰めるコーディ。
 いつ見ても、彼は理想の王子様のように麗しい。
 褒美として私の従者になることを望んだコーディ……魔王はその彼が私のことを慕っていると言った……――
 それが本当なのか、どうしても確かめたい……――

「コーディ、あなた、私のことをどう思っているの?」
「わたくしは姫君を素晴らしき聖女様だと思っておりますよ」
「そ、そうじゃなく……もっと……女性としてどう思ってるかよ……」
「え……――」

 コーディは美しい碧眼を見開いた。
 そしてみるみるうちに、その頬を薔薇色に染める。
 あまりに素直な反応に、エイリスも釣られて赤面しそうになった。
 するとコーディはすぐさま席を立ち、そのまま芝生の上に跪いたかと思うと、エイリスの手を恭しく取った。

「我が姫君、あなた様をひとりの女性として、深くお慕い申しております」

 その告白にエイリスの鼓動が高鳴る――
 やはりコーディは自分のことを慕ってくれていたのだ。
 辺境伯としての二年間、彼には世話になりっぱなしだった。
 そんな中で、エイリスはコーディに惹かれる自分に気付いていた。
 だから……このままもし彼が求婚してくれたら……きっと私は……――

「必ず幸せにすると約束します。ですから、わたくしと……」
「――その言葉、聞き捨てならないな」
「――私もその話しに混ぜてもらえますか?」
「……え?」

 恐ろしげな声に顔を上げると、テーブルの横にトワイルとレイトが立っていた。
 こめかみに青筋を浮かべたトワイル――
 冷ややかな笑みを浮かべたレイト――
 凄まじい迫力にエイリスとコーディは怯んだ。

「え、えっとトワイルさん……? 陛下……?」
「エイリス様、まさか従者と結婚するなんておっしゃりませんよね?」
「エイリス様、私からの求婚を断るなんてこと、ありませんよね?」
「えっと……えっと……――」

 その時、上空から風を切る音がした。
 そして目の前の芝生の上に振ってきたのは――キリヤ。
 彼は着地すると、一直線にエイリスへ近寄ってコーディの手を振り払った。

「エイリスさんと結婚するのは僕です。コーディさんは引っ込んでて下さい。僕達は街の外れに小さな家を建てて、辺り一面を花畑にして幸せに暮らすんです。子供の数は最低でも……――」
『離れろ、小僧』

 エイリスの影――それが蠢き、キリヤを押し返した。
 その影はエイリスの体の下へと滑り込むと、やがて麗しき魔王となる。
 今や椅子には魔王が座り、その膝の上にエイリスが乗っている状態となっていた。
 コーディも、トワイルも、レイトも、キリヤも、苛立たし気に睨んでくる。
 エイリスは魔王の膝で硬直するしかない――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

【完結】復讐姫にはなりたくないので全て悪役に押し付けます

桃月とと
恋愛
 預言により未来の聖女としてチヤホヤされてきた伯爵令嬢アリソンは、新たな預言により男爵令嬢デボラにその地位を追われ、婚約者である王太子も奪われ、最後は家族もろとも国外追放となってしまう。ズタボロにされた彼女は全ての裏切り者に復讐を誓った……。  そんな『復讐姫アリソン』という小説の主人公に生まれ変わったことに、物語が始まる直前、運よく頭をぶつけた衝撃で気が付くことができた。 「あっぶねぇー!」  復讐なんてそんな面倒くさいことしたって仕方がない。彼女の望みは、これまで通り何一つ苦労なく暮らすこと。  その為に、とことん手を尽くすことに決めた。  別に聖女にも王妃になりたいわけではない。前世の記憶を取り戻した今、聖女の生活なんてなんの楽しみも見いだせなかった。 「なんで私1人が国の為にあくせく働かなきゃならないのよ! そういうのは心からやりたい人がやった方がいいに決まってる!」  前世の記憶が戻ると同時に彼女の性格も変わり始めていた。  だから彼女は一家を引き連れて、隣国へと移住することに。スムーズに国を出てスムーズに新たな国で安定した生活をするには、どの道ニセ聖女の汚名は邪魔だ。  そのためには悪役デボラ嬢をどうにかコントロールしなければ……。 「聖女も王妃も全部くれてやるわ! ……だからその他付随するものも全て持って行ってね!!!」 「アリソン様……少々やりすぎです……」  そうそう幼馴染の護衛、ギルバートの未来も守らなければ。  作戦は順調に行くというのに、どうも思ったようには進まない。  円満に国外出るため。復讐姫と呼ばれる世界を変えるため。  アリソンの奔走が始まります。

王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える

綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」 結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。 だがオリヴィアは、 「そんなことないわ」 と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。 その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。

家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。

四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。 しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。 だがある時、トレットという青年が現れて……?

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

処理中です...