上 下
6 / 18

第6話

しおりを挟む
 そして午後――エイリスとリネットの力比べが始まった。
 従者、使用人、護衛の者……大勢の人間が集まる広間で、勝負は行われる。

「ふははッ! エイリスよ、城の者の前で恥をかくなよッ!」
「うふふ、全力で参りますわよ? 欠陥だらけの聖女様?」

 バイロン王子とリネットが挑発するように笑う。
 しかし負けると決めたエイリスは冷静だった。
 怒りは感じない――むしろ憐れんでしまう。

「では、最初に祈りの勝負を致しましょう――」

 王子が連れてきた従者がエイリスへ十字架を渡す。
 聖女は十字架を手に祈るのが基本であり、それにより成果を挙げれば勝ちだ。
 エイリスが横を見ると、リネットは自前の十字架を強く握り締めていた。

「公正を期すため、エイリス様はバイロン様の護衛を祈り、リネット様はこの城の使用人を祈って下さい。それでは、始め――」

 そして二人は祈り始めた。
 リネットは額に汗を光らせ、懸命に祈っている。
 エイリスは心の中を無にし、祈るポーズを取っていた。

「どうだ? 何か変化はあったか?」
「いいえ……何も変化はありません……」

 王子の質問にエイリスに祈られている護衛が答える。
 その答えは正しい――エイリスは祈っていないのだから、変化があるはずない。
 一方、リネットに祈られていた城の者が大声を上げた。

「あ、ああ……体が軽い! 目が、目がよく見えるぞぉ!」

 その言葉に広間が湧いた。
 やはり聖女はリネットなのだと、護衛達は言う。
 逆に城の者達は肩を落とし、どこか悔しそうだった。

「おお! 成果を挙げたか! 流石は我がリネット!」
「うふふ! 当り前ですわ、王子様!」

 そして二人は抱き合い、公衆の面前で唇を合わせた。
 エイリスは溜息を吐きつつコーディの元へ戻る。

(姫君……)
(大丈夫よ、コーディ)

 二人は視線を交わし、頷き合った。
 そしてその後の力試しも、エイリスは無能を演じた。
 結界だけは力を発揮したものの、手加減したためリネットに敗北する。
 傷を癒す治癒も、何もないところから水を湧かせる奇跡も、エイリスは敗北した。

「くく……勝負は決まったようだな……?」
「うっふふ、無様に負けましたわね? 欠陥聖女様?」

 嫌な笑みを浮かべ、王子とリネットは言う。
 やがて王子は優越の笑みを浮かべると、エイリスの眼前に立った。
 一体何をする気なのかと、エイリスは訝しむ。
 すると相手は口角泡を飛ばし、罵り始めたのだ。

「この無能で欠陥だらけの平民女がッ! よくも今まで聖女面してくれたなッ! 俺達王族も、貴族も、国民も、お前が無能で迷惑かけられっぱなしだッ! さあ、跪いて謝れ――もし上手く謝れたら、王宮の豚として飼ってやるッ!」

 その言葉にリネットも声を上げた。

「キャッハハハ! 平民の癖に調子に乗るから、こうなるのよ! あんたの祈りも、結界も、治癒も、奇跡もショボ過ぎて笑っちゃったわ! さあ、王子に謝るならあたしにも謝りなさい! 聖女の振りしてごめんなさいって靴を舐めれば豚さんとして扱ってあげるわ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

王太子から愛することはないと言われた侯爵令嬢は、そんなことないわと強気で答える

綾森れん
恋愛
「オリヴィア、君を愛することはない」 結婚初夜、聖女の力を持つオリヴィア・デュレー侯爵令嬢は、カミーユ王太子からそう告げられた。 だがオリヴィアは、 「そんなことないわ」 と強気で答え、カミーユが愛さないと言った原因を調べることにした。 その結果、オリヴィアは思いもかけない事実と、カミーユの深い愛を知るのだった。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

処理中です...