裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん

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第10話 王子サイラス視点

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 ハリオット伯爵とその息子フィリップが拘束されてから一ヶ月後――

 貴族院にて、裁判が行われた。

 ハリオット伯爵は……王家の血を引く公爵令嬢クラリッサの誘拐を指示したこと、彼女を女中として雇って虐待したこと、彼女を死刑にするため目撃者に賄賂を渡したこと、マイルズとロナウドに嘘の証言をさせて法廷を欺いたこと、さらにクラリッサそっくりの少女と本人を交換させようとしたこと、領民である少女に変身魔法をかけさせてその肩に焼印を押したことなど……多くの罪に問われた。

 フィリップは……貧しい農村から少女を十八人も攫ったこと、その少女達を辱めたこと、そしてそのうちの三人を死に至らしめたこと、そしてクラリッサに夜伽を命じたこと、公爵家に侵入しようとしたこと、王子である僕へ襲いかかったことなど……こちらも多くの罪に問われた。

 そして裁判長である貴族院の議長は、そんな二人に有罪判決を下した。

「判決を言い渡す! ハリオット伯爵並びにその息子フィリップは有罪! ハリオット伯爵は爵位を剥奪した後、絞首刑に処す! フィリップは去勢を施した後、同じく絞首刑に処す!」
「い、嘘だ嫌だ嫌だ……嘘だろう……? どうして誰も助けてくれないんだ……? どうして儂が死刑なんだ……? 死刑はクララだろうが……――」
「うわあああああああああッ! 嫌だあああッ! どうして去勢されて、死なないといけないんだあああッ! 俺はッ……俺はッ……うぐぅぅぅ……――」 

 二人は泣き喚き、フィリップは失禁までした。

 それにしても――

 ハリオット伯爵も、フィリップも、これで分かっただろうか。幼いクラリッサが、どれほど恐ろしい目に遭ったのか。いいや、こいつらには分からないだろう。冤罪で死刑を宣告される恐怖は、こいつらみたいな下衆に味わうことはできない。なぜなら、こいつらは罪を重ね過ぎている――

 その後、マイルズ、ロナウド、老司祭、事件を目撃した住民、そして侍女ソフィの裁判も、平民のための裁判所で行われた。

 マイルズとロナウドは、法廷で嘘の証言をしたこと、フィリップの犯罪を手伝ったことを罪に問われた。しかしフィリップの犯罪を告白し、貴族院の裁判にて証人となったことから、減刑された。死刑は免れて、無期投獄及び永久労働の刑となった。

 老司祭と目撃者の住民は、ハリオット伯爵から金銭を受け取り、嘘の証言をしたことを罪に問われた。しかし脅されていたこともあって、罰金だけで済んだ。

 侍女ソフィは、クラリッサを誘拐してハリオット伯爵に引き渡し、さらには魔法除けの指輪を持たせて魔法での捜索を妨害したという重罪に問われた。ハリオット伯爵の犯罪を告白し、貴族院の裁判にて証人となったことを考慮しても、死刑は免れない。しかし彼女は自ら死刑を望み、絞首刑を言い渡された際には深く頭を下げていた。

 そしてクラリッサと交換するために変身魔法をかけられた少女だが、彼女は裁判所に所属する魔術師により魔法を解かれ、肩の焼印も癒してもらった。ライオン型の跡は完全に消え、今は両親と共に幸せに暮らしているらしい。

 それと、僕がフィリップの太腿を剣で貫いた件は、正当な自己防衛が認められた。ユクル公爵家を警備する騎士団が、フィリップは自分達の腕を振りほどくほど興奮しており、僕の喉に喰らい付こうとしていたと証言した。

 さらに事件に関与した者が、何人か裁かれ……ようやくハリオット伯爵家に関する裁判は終了した。

 半年もすれば、あの親子の死刑は執行されて、この世から消えてなくなるだろう。しかし僕はあいつらを許せない。到底、許せる訳がない。あいつらはクラリッサだけでなく、ユクル公爵、叔母上、父上……あらゆる人間に苦しみを与えたのだ。

 だが、そんな僕の怒りは、クラリッサによって癒されつつあった。



………………
…………
……



 ユクル公爵家の屋敷にて――
 僕達は、クラリッサが教わった通りにお辞儀するのを見ていた。

 帰ってきたばかりの時は、可哀想なくらい痩せて、怪我や汚れも酷かった。しかし今では少しふっくらとして、怪我も完治して身綺麗にしている。それに、言葉遣いや礼儀作法の勉強をとても熱心にしているらしい。

 クラリッサのお辞儀はそれはそれは可愛らしかった。

「お父様、お母様、サイラス様、私のお辞儀は変じゃありませんか……?」
「変だなんて、そんなことはない。とても綺麗だったよ」
「ええ、私が教えたのだから、間違いないわ!」
「全く変じゃないよ。とても上手だよ」
「わあ……! ありがとうございます……!」

 嬉しそうなクラリッサを見て、僕は心から満足した。

 失踪時、彼女は四歳、僕は七歳。現在、彼女は十二歳、僕は十五歳。まだまだ幼いと周囲には思われているだろうが、僕は決意していた。

 クラリッサに愛を告白し、婚約者を続けてくれるのか確認しようと――
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