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第5話 クラリッサ視点
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目を覚ますと、綺麗な天井が見えました。
ここは記憶の中のお屋敷でしょうか? もしかしてお父さんとお母さんがいるんでしょうか? 私はゆっくりと体を起こします。
「ああ、目覚めたのね? 可愛いクラリッサ」
「起きなくても、いいんだよ? ベッドに横になっていて」
そう言ってくれたのは、記憶と変わらないお父さんとお母さんでした。今にも泣き出しそうな表情で、笑っています。その後ろには綺麗な男の子が立っていて、同じく微笑んでいました。
「あ、あの……私のお父さんとお母さん……そして王子様ですか……?」
そう質問すると、三人は涙ぐみました。
「そうだよ、君の父上だよ……! 分かるのかい……?」
「ええ、えぇ……! あなたのお母様ですよ……!」
「僕は婚約者のサイラスだよ……! クラリッサ……!」
お父さんとお母さんが、私を抱き締めます。二人の体はとても優しい温もりがして、私の中で何かがプツンと切れてしまいました。
「あ、あああぁ……うわあああああああああん! お父さん……! お母さん……! 怖いよぉ……首を吊って死ぬなんて嫌だよぉ……! 死刑になるのは嫌ぁ……!」
「大丈夫、大丈夫だよ! クラリッサ!」
「その通りよ! もう怖くないのよ!」
「でも……でもぉ……私は汚い女中で……罪人で……――」
私が泣き続けていると、サイラス様がそっと声をかけてくれました。
「裁判は無効になったんだよ。ここは安全な場所なんだ。君のことは、ご両親と僕が守るからね? 他にも大勢の味方がいるんだよ? それに君はもう女中ではないし、罪も犯していない。君はクララではなく、皆から愛されるクラリッサなんだよ」
「ク、クラリッサ……? 私が……?」
「そうだよ。愛しいクラリッサ」
優しく笑っているサイラス様は、とても綺麗です。ぼんやり見惚れていると、執事さんがやってきて美味しいジュースをくれました。それは薬草の匂いがして、飲んでいると眠くなってきます。私はベッドに横になり、少しだけ笑って言いました。
「そっか……私はクララじゃなかったんだ……。クラリッサなんだ……」
そしてクララだった私は、クラリッサに戻ったのです――
………………
…………
……
裁判から九日が経ちました。
私は少しずつ元気になってきました。でも“まだまだ痩せているから、栄養のあるご飯をいっぱい食べないといけないよ?”とお医者様に言われています。だから今日も、料理長さんが腕によりをかけた料理が次々と運ばれてきました。
「わあ、可愛い……!」
ピンクのケーキを見るなり、私は驚きます。スカートが丸いケーキになっていて、その上に砂糖菓子で出来たお姫様の体が乗っているんです。私がケーキを眺めていると、お母様が微笑みました。
「あら? ケーキが気になるの? お腹を壊さないように油を控えめにして作らせてあるから、安心して食べてちょうだいね」
「はい……いただきます……」
私は礼儀作法を知りません。だから少しずつ丁寧に食べました。あまりの美味しさに、頬っぺたと耳の間が痛くなります。
「美味しい……! お父様とサイラス様にも食べてもらいたいです……!」
「うふふ、お二人のご用事が終わったら、一緒に食べましょうね?」
「ご用事……? それは、どんなものですか……?」
そう尋ねるとお母様は戸惑って、少し間を空けてから答えてくれました。
王家とユクル公爵家は、ハリオット伯爵が私を誘拐したんじゃないかと、疑っています。だからお父様とサイラス様は、ハリオット伯爵が私を誘拐した証拠を探しているそうなんです。その証拠を見つけないと、伯爵を完全に倒すことができないらしいんです。女中だった私を死刑にしようとした罪だけでは、牢に入れられても何十年かしたら戻ってきてしまうって――
「ねえ、クラリッサ。何か手掛かりになることを覚えていないかしら?」
「えっと……私は女中として働き始める前、一年か二年、窓のない部屋に閉じ込められていました……。そして目隠しをされてハリオット伯爵家に連れてこられて、女中になったんです……」
「窓のない部屋ですって? それは地下部屋かしら? ハリオット伯爵はクラリッサを地下に隠し、捜索の手を逃れていた可能性があるわね。良かったら、覚えていることをもっと話してくれる?」
そして私は必死で記憶を手繰り、証拠を探そうとします。きっと何かあるはずです。私は思いつくまま、お母様に話しました。
「執事ウィリアムさんは私を可愛がってくれましたよね? それと侍女キャシーも。あとは侍女ソフィに抱っこされて屋敷の裏側に行ったことがあるのですが……」
「ちょっと待ってちょうだい。屋敷の裏側って隠し通路のこと? なぜ侍女が、公爵家の秘密を知っているの? まさかソフィが、あなたを攫ったのでは――」
それからすぐお父様とサイラス様が帰ってきました。そして侍女ソフィとお話をしてから、私のお部屋を訪ねてくれたのです。するとお父様が私をぎゅうっと抱き締め、サイラス様が瞳を輝かせながら私の手を握りました。
「これでハリオット伯爵家はお仕舞だ! 心配の種は消えた! あいつらは二度と、クラリッサに手出しできない……良かった……本当に良かった……」
本当でしょうか? 本当に大丈夫なのでしょうか? 私の胸の奥に、モヤモヤしたものが残っていました。
ここは記憶の中のお屋敷でしょうか? もしかしてお父さんとお母さんがいるんでしょうか? 私はゆっくりと体を起こします。
「ああ、目覚めたのね? 可愛いクラリッサ」
「起きなくても、いいんだよ? ベッドに横になっていて」
そう言ってくれたのは、記憶と変わらないお父さんとお母さんでした。今にも泣き出しそうな表情で、笑っています。その後ろには綺麗な男の子が立っていて、同じく微笑んでいました。
「あ、あの……私のお父さんとお母さん……そして王子様ですか……?」
そう質問すると、三人は涙ぐみました。
「そうだよ、君の父上だよ……! 分かるのかい……?」
「ええ、えぇ……! あなたのお母様ですよ……!」
「僕は婚約者のサイラスだよ……! クラリッサ……!」
お父さんとお母さんが、私を抱き締めます。二人の体はとても優しい温もりがして、私の中で何かがプツンと切れてしまいました。
「あ、あああぁ……うわあああああああああん! お父さん……! お母さん……! 怖いよぉ……首を吊って死ぬなんて嫌だよぉ……! 死刑になるのは嫌ぁ……!」
「大丈夫、大丈夫だよ! クラリッサ!」
「その通りよ! もう怖くないのよ!」
「でも……でもぉ……私は汚い女中で……罪人で……――」
私が泣き続けていると、サイラス様がそっと声をかけてくれました。
「裁判は無効になったんだよ。ここは安全な場所なんだ。君のことは、ご両親と僕が守るからね? 他にも大勢の味方がいるんだよ? それに君はもう女中ではないし、罪も犯していない。君はクララではなく、皆から愛されるクラリッサなんだよ」
「ク、クラリッサ……? 私が……?」
「そうだよ。愛しいクラリッサ」
優しく笑っているサイラス様は、とても綺麗です。ぼんやり見惚れていると、執事さんがやってきて美味しいジュースをくれました。それは薬草の匂いがして、飲んでいると眠くなってきます。私はベッドに横になり、少しだけ笑って言いました。
「そっか……私はクララじゃなかったんだ……。クラリッサなんだ……」
そしてクララだった私は、クラリッサに戻ったのです――
………………
…………
……
裁判から九日が経ちました。
私は少しずつ元気になってきました。でも“まだまだ痩せているから、栄養のあるご飯をいっぱい食べないといけないよ?”とお医者様に言われています。だから今日も、料理長さんが腕によりをかけた料理が次々と運ばれてきました。
「わあ、可愛い……!」
ピンクのケーキを見るなり、私は驚きます。スカートが丸いケーキになっていて、その上に砂糖菓子で出来たお姫様の体が乗っているんです。私がケーキを眺めていると、お母様が微笑みました。
「あら? ケーキが気になるの? お腹を壊さないように油を控えめにして作らせてあるから、安心して食べてちょうだいね」
「はい……いただきます……」
私は礼儀作法を知りません。だから少しずつ丁寧に食べました。あまりの美味しさに、頬っぺたと耳の間が痛くなります。
「美味しい……! お父様とサイラス様にも食べてもらいたいです……!」
「うふふ、お二人のご用事が終わったら、一緒に食べましょうね?」
「ご用事……? それは、どんなものですか……?」
そう尋ねるとお母様は戸惑って、少し間を空けてから答えてくれました。
王家とユクル公爵家は、ハリオット伯爵が私を誘拐したんじゃないかと、疑っています。だからお父様とサイラス様は、ハリオット伯爵が私を誘拐した証拠を探しているそうなんです。その証拠を見つけないと、伯爵を完全に倒すことができないらしいんです。女中だった私を死刑にしようとした罪だけでは、牢に入れられても何十年かしたら戻ってきてしまうって――
「ねえ、クラリッサ。何か手掛かりになることを覚えていないかしら?」
「えっと……私は女中として働き始める前、一年か二年、窓のない部屋に閉じ込められていました……。そして目隠しをされてハリオット伯爵家に連れてこられて、女中になったんです……」
「窓のない部屋ですって? それは地下部屋かしら? ハリオット伯爵はクラリッサを地下に隠し、捜索の手を逃れていた可能性があるわね。良かったら、覚えていることをもっと話してくれる?」
そして私は必死で記憶を手繰り、証拠を探そうとします。きっと何かあるはずです。私は思いつくまま、お母様に話しました。
「執事ウィリアムさんは私を可愛がってくれましたよね? それと侍女キャシーも。あとは侍女ソフィに抱っこされて屋敷の裏側に行ったことがあるのですが……」
「ちょっと待ってちょうだい。屋敷の裏側って隠し通路のこと? なぜ侍女が、公爵家の秘密を知っているの? まさかソフィが、あなたを攫ったのでは――」
それからすぐお父様とサイラス様が帰ってきました。そして侍女ソフィとお話をしてから、私のお部屋を訪ねてくれたのです。するとお父様が私をぎゅうっと抱き締め、サイラス様が瞳を輝かせながら私の手を握りました。
「これでハリオット伯爵家はお仕舞だ! 心配の種は消えた! あいつらは二度と、クラリッサに手出しできない……良かった……本当に良かった……」
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