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第3話 ハリオット伯爵視点
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クララが裁判所に現れた――儂はそれを見て、ほくそ笑む。
こいつ、見たところ何も分かっていないな。自分がこれから有罪判決を受けるとは、思っていないのだろう。きょろきょろと周囲を見渡すばかりだ。
やがてクララは被告席に立たされた。原告マイルズも、証人ロナウドも、裁判官も、傍聴人も座っている。自分だけ立たされているのが、不安な様子だ。これから始まるのは公正な裁判官による裁判だが、クララは必ず有罪になる。
やがて木槌が三度打ち鳴らされた。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! これより開廷する!」
裁判官がそう宣言し、裁判が始まった。さて、クララはどう裁かれるのか。
「本法廷における審理を主宰するのは、この私リチャード・フレッカー裁判官である。原告は前に出て、女神像へ宣誓せよ」
「原告マイルズ・ミルは女神様に誓って、この法廷で真実を述べると誓います」
「宜しい。廷吏は罪状を読み上げよ」
そして廷吏が声を響かせる。
「罪状を読み上げます! ハリオット伯爵家の女中クララは、同じく伯爵家の小間使いマイルズ・ミル氏を空き家に呼び出し、その頭を壺で殴りました! そして身動きできないマイルズ・ミル氏を性的に辱めたのです! 傷害及び強姦の罪です!」
その罪状に傍聴人が、大きくどよめいた。ふふ、そりゃあそうだ。十二歳の小娘が、二十五歳の男を犯したのだ。どうだ? 儂が考えた罪は、最高の見世物だろう?
その時、クララが手を上げて発言した。
「あのう……性的に辱めたって何ですか……?」
儂は、吹き出しそうになった。馬鹿な小娘が! お前に発言権はない!
「被告クララは、本法廷で発言してはならん。一度でも嫌疑をかけられた者は、法廷での発言権を失う。発言したければ、弁護人に頼むがよい」
「べんごにん……? どうやって頼むのですか……?」
「金銭を支払って依頼するのだ。裁判の前に雇わなかったのか?」
「はい……雇ってません……。お金がないので……」
「ならば、発言はできない」
今にも笑いそうだった。指を差して笑いたかった。しかし儂は膝を揺らして堪える。しかしマイルズが証言を始めると、儂はついに笑ってしまった。
「事件が起きたのは五日前の夕方です。俺はクララから“大切な話がある”と書かれた手紙をもらい、サフィル街の空き家に呼び出されました。そしてひとりで行くと、いきなり頭を殴られたのです。クララはそうやって自由を奪うと、俺のズボンを降ろしました。そして自らのスカートを捲り上げて……あぁ……――」
そこでようやくクララが青ざめた。おやおや、流石に分かったのか。可哀想に。
そのまま裁判は進んでいった。空き家に駆けつけたロナウドの証言、治安官が近隣住民に聞き取りを行った際の調書、殴られた傷の診断書……クララを有罪にするための証拠はいくらでもあった。
そして裁判官が、木槌を鳴らした。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! 本法廷は、被告クララが原告マイルズ・ミル氏に対し、傷害と強姦を行ったものと認定する! よって原告側の勝訴! 被告側には、絞首刑を言い渡す! 幼くも恐ろしき犯罪者よ! 死をもって罪を償え!」
やった! やってくれた! 裁判官はまんまと有罪判決を下してくれた! クララを見ると、顔面蒼白で震えていた。
「絞首刑って……もしかして縛り首のこと……? 私、死刑なの……?」
クララは涙を流し、その場に崩れ落ちる。
「首吊りで死ぬの……? 嘘ですよね……? あ、あのう……嘘ですよね!? 全部嘘なんですよね!? うっ……ううぅ……嘘だぁ……! 嘘って言ってよぉ……! いや……いやあああああああああああああああッ!」
これでユクル公爵とポーラの娘はお仕舞だ! この儂に屈辱を与えた夫妻の娘は、死刑となる! この光景を、夫妻に見せてやれないのが残念だ!
最高の気分だった。今すぐに立ち上がって、クララに罵声を浴びせてやりたかった。しかし今はじっと我慢して、閉廷を待つしか――
「待てッ! その判決は、間違っているッ!」
「その通りだッ! 今すぐ彼女を解放しろッ!」
突如、裁判所の扉が開き、身なりの良い紳士と見目麗しい少年が飛び込んできた。金髪に夕陽色の瞳をした紳士。銀髪に瑠璃色の瞳をした美少年。少年は身元が分からないが、この紳士はよく知っている……! なぜここにいるのだ……!?
紳士は裁判官に歩み寄り、声を上げる。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
その言葉に、儂は凍り付いた――
こいつ、見たところ何も分かっていないな。自分がこれから有罪判決を受けるとは、思っていないのだろう。きょろきょろと周囲を見渡すばかりだ。
やがてクララは被告席に立たされた。原告マイルズも、証人ロナウドも、裁判官も、傍聴人も座っている。自分だけ立たされているのが、不安な様子だ。これから始まるのは公正な裁判官による裁判だが、クララは必ず有罪になる。
やがて木槌が三度打ち鳴らされた。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! これより開廷する!」
裁判官がそう宣言し、裁判が始まった。さて、クララはどう裁かれるのか。
「本法廷における審理を主宰するのは、この私リチャード・フレッカー裁判官である。原告は前に出て、女神像へ宣誓せよ」
「原告マイルズ・ミルは女神様に誓って、この法廷で真実を述べると誓います」
「宜しい。廷吏は罪状を読み上げよ」
そして廷吏が声を響かせる。
「罪状を読み上げます! ハリオット伯爵家の女中クララは、同じく伯爵家の小間使いマイルズ・ミル氏を空き家に呼び出し、その頭を壺で殴りました! そして身動きできないマイルズ・ミル氏を性的に辱めたのです! 傷害及び強姦の罪です!」
その罪状に傍聴人が、大きくどよめいた。ふふ、そりゃあそうだ。十二歳の小娘が、二十五歳の男を犯したのだ。どうだ? 儂が考えた罪は、最高の見世物だろう?
その時、クララが手を上げて発言した。
「あのう……性的に辱めたって何ですか……?」
儂は、吹き出しそうになった。馬鹿な小娘が! お前に発言権はない!
「被告クララは、本法廷で発言してはならん。一度でも嫌疑をかけられた者は、法廷での発言権を失う。発言したければ、弁護人に頼むがよい」
「べんごにん……? どうやって頼むのですか……?」
「金銭を支払って依頼するのだ。裁判の前に雇わなかったのか?」
「はい……雇ってません……。お金がないので……」
「ならば、発言はできない」
今にも笑いそうだった。指を差して笑いたかった。しかし儂は膝を揺らして堪える。しかしマイルズが証言を始めると、儂はついに笑ってしまった。
「事件が起きたのは五日前の夕方です。俺はクララから“大切な話がある”と書かれた手紙をもらい、サフィル街の空き家に呼び出されました。そしてひとりで行くと、いきなり頭を殴られたのです。クララはそうやって自由を奪うと、俺のズボンを降ろしました。そして自らのスカートを捲り上げて……あぁ……――」
そこでようやくクララが青ざめた。おやおや、流石に分かったのか。可哀想に。
そのまま裁判は進んでいった。空き家に駆けつけたロナウドの証言、治安官が近隣住民に聞き取りを行った際の調書、殴られた傷の診断書……クララを有罪にするための証拠はいくらでもあった。
そして裁判官が、木槌を鳴らした。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! 本法廷は、被告クララが原告マイルズ・ミル氏に対し、傷害と強姦を行ったものと認定する! よって原告側の勝訴! 被告側には、絞首刑を言い渡す! 幼くも恐ろしき犯罪者よ! 死をもって罪を償え!」
やった! やってくれた! 裁判官はまんまと有罪判決を下してくれた! クララを見ると、顔面蒼白で震えていた。
「絞首刑って……もしかして縛り首のこと……? 私、死刑なの……?」
クララは涙を流し、その場に崩れ落ちる。
「首吊りで死ぬの……? 嘘ですよね……? あ、あのう……嘘ですよね!? 全部嘘なんですよね!? うっ……ううぅ……嘘だぁ……! 嘘って言ってよぉ……! いや……いやあああああああああああああああッ!」
これでユクル公爵とポーラの娘はお仕舞だ! この儂に屈辱を与えた夫妻の娘は、死刑となる! この光景を、夫妻に見せてやれないのが残念だ!
最高の気分だった。今すぐに立ち上がって、クララに罵声を浴びせてやりたかった。しかし今はじっと我慢して、閉廷を待つしか――
「待てッ! その判決は、間違っているッ!」
「その通りだッ! 今すぐ彼女を解放しろッ!」
突如、裁判所の扉が開き、身なりの良い紳士と見目麗しい少年が飛び込んできた。金髪に夕陽色の瞳をした紳士。銀髪に瑠璃色の瞳をした美少年。少年は身元が分からないが、この紳士はよく知っている……! なぜここにいるのだ……!?
紳士は裁判官に歩み寄り、声を上げる。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
その言葉に、儂は凍り付いた――
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