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6話
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「それはそうと……この世界を気に入ったかな、ノア」
「まだ来たばかりだから分からないけど、美しいところね」
そう答えると、ルキは嬉しそうに笑った。
「良かった。私が造った世界をそう言ってくれて嬉しいよ」
「え? ルキがこの世界を造ったの?」
「ああ。聖獣達の楽園――それがここなんだ」
そう言われ、私は辺りを見渡した。
薔薇の先には広い草原が広がり、その奥には立派な建物が建っている。
とても綺麗だけど、外の世界とよく似ている。もしかして聖獣達は外の世界で不遇に遭っていたのだろうか。それをルキが救ったのだろうか。
三人の男達はどこか誇らしそうにルキを見ていた。
「さあ、君はここで自由に暮らしてくれ。この三人も君の力になるだろう」
その言葉にそれぞれが頷く。
どうやら彼らも私を歓迎してくれているらしい。
「しかし――」
不意にルキが語調を強めた。
「ひとつだけ条件がある」
「条件……?」
「ああ。さっき言った通り、ここは聖獣達の楽園だ。部外者が住むことはできない」
「そ、そんな……。私、思い切り部外者だけど……」
突然、突き放すようなことを言われて、戸惑う。
人間が聖獣になることはできない。どうしよう。
ひとり困っていると、ルキが私の両手を強く握り締めた。
「確かに君はまだ部外者だ。しかしひとつだけ、私達の仲間になる方法がある」
「仲間になる方法……? それは何……?」
「聖獣と結婚するという方法だ」
「え……?」
するとルキは私の手を握ったまま跪いた。
「ノア、良かったら私の妻になってほしい――」
「な、なにを言っているの……ルキ……」
「生まれた時から見守っていたが、私はずっと君に惹かれていた。そして聖女候補に汚されそうになった姿を見て、確信した。私はノアが不幸になるところは見たくない。心から愛している、どうか結婚してほしい」
ルキの口から紡がれる言葉に目を白黒させる。
ずっと惹かれていた? そんなこと言われても知らないよ!
助けを求めるように辺りを見渡すと、三人の悪戯っぽい笑顔と目が合った。
「ルキ様、ノア嬢はお困りの様子です」
「あまりに唐突な結婚の申し込みは嫌われますよ」
「ええ、それに結婚するのはルキ様でなくても構わないのですよ」
その言葉にルキは猛然と立ち上がる。
しかし三人は態度を崩すことはない。
「お、お前達……!」
「こうするのはどうでしょう。ノア嬢は婿が決まるまで客人としてここに留まると」
「それはいいね。ノアちゃん、僕がこの世界を案内しようか?」
「いいえ、ノアさんは私と話をするんです」
三人は再び寄ってくると、私の手を引いて歩き出した。
すると薔薇の匂いが風に乗って香り、少しだけ緊張がほぐれる。
ルキには悪いけど、まだ結婚なんて考えられない。
それより平和な暮らしを味わってみたい。
私なんかにそれが許されるなら――
「ねえ、私は国を滅ぼした重罪人だけど、それでも客人として扱ってくれるの?」
「勿論だ。むしろ君の株が上がったね。あの国は腐敗していた」
「そうだよ。悪しき存在を一掃したこと、尊敬するよ」
「私達は聖獣ですが、聖人ではありません。固いことは言わないのです」
その言葉を聞いて、私の胸は晴れた。
ここにいてもいい、そんな許可をもらった気持ちになったのだ。
そっと振り返ると、ルキが不貞腐れた顔でついてきている。
私はそんな彼に微笑みかけ、こう告げる。
「ありがとう、ルキ。あなたのお陰で私、人生をやり直せそう」
すると陰っていた彼の顔がみるみるうちに明るくなった。
「ああ! ノア、君の幸せが一番だよ!」
私達は薔薇が咲き乱れる道を歩き続ける。
下界では私を苦しめた国が壊れていく。
弱者を貶める恐ろしい人間達の国――
私は少しだけ復讐心を思い出した。
でもそれは彼らの楽し気な声にかき消されてしまった。
「まだ来たばかりだから分からないけど、美しいところね」
そう答えると、ルキは嬉しそうに笑った。
「良かった。私が造った世界をそう言ってくれて嬉しいよ」
「え? ルキがこの世界を造ったの?」
「ああ。聖獣達の楽園――それがここなんだ」
そう言われ、私は辺りを見渡した。
薔薇の先には広い草原が広がり、その奥には立派な建物が建っている。
とても綺麗だけど、外の世界とよく似ている。もしかして聖獣達は外の世界で不遇に遭っていたのだろうか。それをルキが救ったのだろうか。
三人の男達はどこか誇らしそうにルキを見ていた。
「さあ、君はここで自由に暮らしてくれ。この三人も君の力になるだろう」
その言葉にそれぞれが頷く。
どうやら彼らも私を歓迎してくれているらしい。
「しかし――」
不意にルキが語調を強めた。
「ひとつだけ条件がある」
「条件……?」
「ああ。さっき言った通り、ここは聖獣達の楽園だ。部外者が住むことはできない」
「そ、そんな……。私、思い切り部外者だけど……」
突然、突き放すようなことを言われて、戸惑う。
人間が聖獣になることはできない。どうしよう。
ひとり困っていると、ルキが私の両手を強く握り締めた。
「確かに君はまだ部外者だ。しかしひとつだけ、私達の仲間になる方法がある」
「仲間になる方法……? それは何……?」
「聖獣と結婚するという方法だ」
「え……?」
するとルキは私の手を握ったまま跪いた。
「ノア、良かったら私の妻になってほしい――」
「な、なにを言っているの……ルキ……」
「生まれた時から見守っていたが、私はずっと君に惹かれていた。そして聖女候補に汚されそうになった姿を見て、確信した。私はノアが不幸になるところは見たくない。心から愛している、どうか結婚してほしい」
ルキの口から紡がれる言葉に目を白黒させる。
ずっと惹かれていた? そんなこと言われても知らないよ!
助けを求めるように辺りを見渡すと、三人の悪戯っぽい笑顔と目が合った。
「ルキ様、ノア嬢はお困りの様子です」
「あまりに唐突な結婚の申し込みは嫌われますよ」
「ええ、それに結婚するのはルキ様でなくても構わないのですよ」
その言葉にルキは猛然と立ち上がる。
しかし三人は態度を崩すことはない。
「お、お前達……!」
「こうするのはどうでしょう。ノア嬢は婿が決まるまで客人としてここに留まると」
「それはいいね。ノアちゃん、僕がこの世界を案内しようか?」
「いいえ、ノアさんは私と話をするんです」
三人は再び寄ってくると、私の手を引いて歩き出した。
すると薔薇の匂いが風に乗って香り、少しだけ緊張がほぐれる。
ルキには悪いけど、まだ結婚なんて考えられない。
それより平和な暮らしを味わってみたい。
私なんかにそれが許されるなら――
「ねえ、私は国を滅ぼした重罪人だけど、それでも客人として扱ってくれるの?」
「勿論だ。むしろ君の株が上がったね。あの国は腐敗していた」
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