実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん

文字の大きさ
上 下
4 / 6

4話

しおりを挟む
 夜をひとり歩く――ああ、街が燃えていく光景は美しい。
 攻め入った魔物達が次々と家を焼いているのだ。
 人々は泣き喚き、逃げ惑っている。

「でもこのままじゃ罪のない人まで巻き込まれるわ……」

 力の戻った今なら、善き人間も悪しき人間も見分けられる。
 私は清浄なオーラを持った善人へ向けて、無数の守護を放つ。すると善人達の周りには魔物や悪人に襲われない結界が生まれた。これで善人達だけは生き残るだろう。

 それにしても手元に戻ってきた力は守護という行為により増幅したらしい。
 襲ってくる魔物は飴のように溶けていくし、目が合った悪人は次々発狂していく。
 とても気分がいい。罪のない人を不当に苦しめるやつらは皆消えてしまえ。

「――ノア」

 その時、背後から声がした。
 聖なる気配。きっと聖獣に違いない。
 そっと振り返ると、そこには予想外の姿があった。

「あなた、誰……?」

 そこには美しい男性が立っていた。
 褐色の肌、夜色の髪、星の瞳――全てが整い過ぎている所為か人間には見えない。
 そう、あまりに神々しいその印象から連想するのはやはり聖獣。

「まさか……あなた聖獣なの……?」
「その通り。私はずっと君に語りかけていた聖獣だ。名をルキと言う」

 聖獣――いや、ルキはそう言ってわずかに微笑んだ。
 しかし彼はすぐに厳しい表情となって、こう続ける。

「君には本当に迷惑をかけた。無理を言って国を守ってもらった挙句、あんな目に遭わせてしまって……全ては私の責任だ。何なりと罰を下してほしい」
「そ、そんな……あなたは国を守ろうとしただけでしょう……?」
「しかし君には相当な負担をかけた。良ければ私の力を半分差し出そう」

 その言葉に私は首を横に振った。
 ルキは悪くない。罰を受ける必要なんてないのだ。

「いらないわ。その力で他の人を守ってあげて」
「他の人か……私は君の前にしか姿を現していないんだけどな……」
「え?」

 魔物達の砲撃で、ルキの声がよく聞こえなかった。
 私が聞き返すと、相手は少しだけ笑ってこう尋ねる。

「ノア、私の住む場所へ来ないか?」
「あなたの住む場所? もしかして神界かしら?」
「いいや、他の聖獣や妖精が住む楽園のような場所だ。きっと気にいるだろう」

 楽園――それは何度も夢見た場所。
 行けるなら行ってみたいけど、いいのだろうか。
 ルキの顔を伺いつつ悩んでいると、相手が破顔した。

「どうやら気持ちは決まってるみたいだね。さあ、行こうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~

四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

処理中です...