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第3話
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その言葉にエドウィンと妻はまたしても困惑する。
「これはね? ドレスって言うのよ?」
「そうだよ、着るための服なんだよ?」
「そ、そうなんですか……。あんまり綺麗で、服だと思いませんでした……」
それを聞くなり、妻の涙腺が決壊した。この幼いアレクシアは美味しいお菓子やケーキも、綺麗なドレスも見たことすらないのだ。今までどんな状態で暮らしていたのか想像するだけでも胸が痛くなる。ただ泣き続けるだけの存在となった妻の代わりに、エドウィンが侍女へ指示を出した。
「僕は席を外すから、姉妹を着替えさせてやってくれ」
「かしこまりました」
そしてエドウィンは居間へ引っ込んだ。
しかしすぐに侍女がやってきて耳元で囁く。
「エドウィン様……」
「どうしたんだい?」
すると侍女は言いにくそうに答えた。
「あのう……姉のテレシア様は問題ないのですが、妹のアレクシア様の全身に恐ろしい傷跡がありました……。古傷から新しい傷まで……それはそれは痛々しいほどまでにびっしりと……」
「何だって? 姉は何ともないのか?」
「はい、美しい肌をしております」
「そうか……」
エドウィンの胸に疑念が生まれた。姉妹の体形、屋敷に来てから反応、体に付いた傷跡の有無――あまりにかけ離れ過ぎてはいないか? いいや、そんなことを考えてはいけない。二人共、虐待の被害者には違いないのだ。エドウィンはそう思うと、しばらくしてから姉妹の待つ部屋へ戻った。
「エドウィン様!」
「ぁ……」
そこには煌びやかなドレスを着て、髪を結われた姉妹がいた。テレシアはそれは美しく、貴族の娘として問題ない。しかしアレクシアはぶかぶかのドレスを着て、恥ずかしそうにしていた。その様子にエドウィンは申し訳なくなって、駆け寄った。
「アレクシア、ごめんね。ドレスのサイズが合わないみたいだ」
「いぇ……いいんです……」
「でも髪は凄く綺麗だ。お姫様みたいだよ?」
「うぅ……」
エドウィンはアレクシアの髪を撫で、微笑んだ。
その直後、後ろから金切り声が響いた。
「もう嫌ッ! もう嫌ッ! もう嫌あああぁッ!」
振り返ると、テレシアが地団太を踏んで怒っていた。
「エドウィン様も、奥様も、アレクシア、アレクシアって! 私のことなんてどうでもいいんでしょう!? もう嫌! こんな家出ていってやる!」
「テ、テレシア……!?」
それから姉を宥めるのに大変な苦労を要した。飛び切りのお菓子を差し出し、可愛い小物やリボンを差し出し……そしてようやくテレシアは怒りを収めた。その間、アレクシアはじっと部屋の隅に蹲り、嵐が過ぎ去るのを待っている様子だった。
「これはね? ドレスって言うのよ?」
「そうだよ、着るための服なんだよ?」
「そ、そうなんですか……。あんまり綺麗で、服だと思いませんでした……」
それを聞くなり、妻の涙腺が決壊した。この幼いアレクシアは美味しいお菓子やケーキも、綺麗なドレスも見たことすらないのだ。今までどんな状態で暮らしていたのか想像するだけでも胸が痛くなる。ただ泣き続けるだけの存在となった妻の代わりに、エドウィンが侍女へ指示を出した。
「僕は席を外すから、姉妹を着替えさせてやってくれ」
「かしこまりました」
そしてエドウィンは居間へ引っ込んだ。
しかしすぐに侍女がやってきて耳元で囁く。
「エドウィン様……」
「どうしたんだい?」
すると侍女は言いにくそうに答えた。
「あのう……姉のテレシア様は問題ないのですが、妹のアレクシア様の全身に恐ろしい傷跡がありました……。古傷から新しい傷まで……それはそれは痛々しいほどまでにびっしりと……」
「何だって? 姉は何ともないのか?」
「はい、美しい肌をしております」
「そうか……」
エドウィンの胸に疑念が生まれた。姉妹の体形、屋敷に来てから反応、体に付いた傷跡の有無――あまりにかけ離れ過ぎてはいないか? いいや、そんなことを考えてはいけない。二人共、虐待の被害者には違いないのだ。エドウィンはそう思うと、しばらくしてから姉妹の待つ部屋へ戻った。
「エドウィン様!」
「ぁ……」
そこには煌びやかなドレスを着て、髪を結われた姉妹がいた。テレシアはそれは美しく、貴族の娘として問題ない。しかしアレクシアはぶかぶかのドレスを着て、恥ずかしそうにしていた。その様子にエドウィンは申し訳なくなって、駆け寄った。
「アレクシア、ごめんね。ドレスのサイズが合わないみたいだ」
「いぇ……いいんです……」
「でも髪は凄く綺麗だ。お姫様みたいだよ?」
「うぅ……」
エドウィンはアレクシアの髪を撫で、微笑んだ。
その直後、後ろから金切り声が響いた。
「もう嫌ッ! もう嫌ッ! もう嫌あああぁッ!」
振り返ると、テレシアが地団太を踏んで怒っていた。
「エドウィン様も、奥様も、アレクシア、アレクシアって! 私のことなんてどうでもいいんでしょう!? もう嫌! こんな家出ていってやる!」
「テ、テレシア……!?」
それから姉を宥めるのに大変な苦労を要した。飛び切りのお菓子を差し出し、可愛い小物やリボンを差し出し……そしてようやくテレシアは怒りを収めた。その間、アレクシアはじっと部屋の隅に蹲り、嵐が過ぎ去るのを待っている様子だった。
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