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第六話

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 国王は全てを理解した。
 あの怪奇現象は呪いなどではなかった。
 あれはイェールとウィリアが魔王の親にならぬための守護だったのだ――

「あ、ああ……エンティ様……。儂は何という過ちを……」
「そう、あなたは判断を間違った。あの現象は守護魔法だったのに、アリアのお腹の子の呪いと断じて、愚かなイェール様とウィリア様を我が国へと送り込んだ。そして二人はアリアへ不誠実な謝罪をした」

 国王は低く呻くと、その顔を両手で覆う。
 エンティはそんな相手を眺めつつ話しを続ける。

「結局、母親を罵倒されたオパールはイェール様とウィリア様の守護魔法を解いて、魔王の親となる道を歩ませることしたのです。これはあの子なりの復讐ですが、全てはあなた方の自業自得なのですよ――」

 エンティは口の片端を持ち上げ、冷酷に笑った。
 公爵家の屋敷の外で、風が吹き荒れている。
 様子がおかしいのは明らかだった。

 その時、国王が口を開いた。

「そ、それでは……魔王はどうなるのですか……?」
「オパールが倒します。今はまだ幼いので、ある程度成長してからですが」
「そんな……オパール殿が育つまで、我が国はどうなるのです……?」
「残念ながら魔族に支配されます。じきに隠れていた魔王軍が攻めてくるでしょう」
「は、はは――」

 国王は乾いた笑い声を上げると、それっきり黙り込んだ。
 オパールの復讐は壮絶であった――ヴント国ごと滅ぼすのだ。
 国王は判断の誤りを痛感し、王族は助言しなかったことを悔やむ。



 その時、ひとり貧乏揺すりをしていたイェールが大声で言った。

「お、おい! お前の話しぶりだと、最初から全て知っていたようだな! それならなぜ教えてくれなかったんだ! なぜアリアを罵倒するなと忠告しなかった!?」

 さらに失神から目覚めて話を聞いていたウィリアも叫び声を上げる。

「そうよ、そうよ! あなたは私達が謝っている時、近くにいたでしょう!? あなたが一言助言すれば、私は魔王なんて産まなくて済んだのよ!」

 その二人の訴えにエンティは悲し気な顔をした。
 怒りや蔑みを通り越し、哀れみを感じたのだ。

「私はただの占術師に過ぎません。未来に介入する権利などはないのです。何より、我が子は“神人”です。あの子の機嫌を損ねるようなことは絶対にできなかった」
「なんだと……!? オパールはこうなることを望んでいたのか……!?」
「信じられないわ……! オパールは心が捻じ曲がっているわ……!」

 最早エンティは感情を動かさなかった。
 ただ事実を語ることだけに徹する。

「あの子はありとあらゆる可能性を見通せます。一時とは言え、あなた達に守護を与えたのは更生の可能性があったからなのでしょう。しかしあなた達は自らの意志で、アリアを罵倒することを選んだ。それを私に止めろと言うのは筋違いです。さらにあの子が望んでいたとか、心が捻じ曲がっているとか、そういう話でもないのですよ。あの子……オパールはあなた達の魂を試していたのです」

 それを聞いたイェールとウィリアは顔を歪ませて睨む。
 エンティはその視線を無視すると、話を続けた。

「あの子はお腹の中にいた頃から、この事態を語っていました。“イェール様も、ウィリア様も、後になってから謝っても遅いよ”と。“後になってから反省するのは誰でもできるんだよ”と――」
「何だ……? どういう意味だ……?」
「何なの……? 何が言いたいのよ……?」

 するとエンティはにっこりと微笑んで答えた。

「つまりこうですよ、今後あなた達はオパールに謝りたくなるほど悲惨な目に遭うと、そういう意味です」

 イェールとウィリアは目を見開いて固まった。
 二人はようやく自分達の立場を理解できたのだ――

 その時、公爵家の屋敷が激しく揺れた。
 魔王軍が近付いてきたのである。

「さて、私はもう帰ります。オパールから守護を受けてやってきましたが、ここはあまりにも危険な戦場となる。しかし無罪の方や罪の軽い方には、オパールが守護を飛ばしてくれるかもしれません。まあ、イェール様とウィリア様にはあり得ませんが。それでは皆様、さようなら」

 そう言ってエンティは帰っていった。
 オパールの守護を纏った彼を襲う者はひとりもいない。
 王族達は油汗を掻き、これから訪れる悲惨な未来に絶望していた……――


………………
…………
……


 そして一ヶ月後、イェールとウィリアは荒廃したヴント国を彷徨っていた。
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