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第四話
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アリアが国外追放されてから一ヶ月後――
ヴント国より訪れたイェールとウィリアは、セクト国の貴賓室で頭を下げていた。“ごめんなさい”や“すみません”という口ばかりの謝罪を繰り返す二人にアリアは苛立ちを隠せない。セクト国の第一王子エンティも同様に怒りを含んだ表情のまま沈黙していた。それほど二人の謝罪は不誠実だったのだ。
そんなアリア達の態度に、謝罪するイェールとウィリアは段々と腹が立ってきた。なぜ原因も分からぬ怪奇現象をアリアのお腹の子の所為と決め付けられ、謝らなくてはいけないのか。そもそも自分達は国王に命じられて来ただけで、謝罪する気などさらさらない。
そして二人の見当違いな怒りは爆発する。
「おい! いつまで黙っている気だ!? そもそもあの晩、お前が強く抵抗しなかったのがいけなかったんだぞ! 俺はお前なんて抱きたくなかった! ウィリアだと思ったから抱いたのだ! しかも妊娠するとはどういう了見だ! むしろ心からの謝罪が欲しいのはこの俺だ! この迷惑な馬鹿女め!」
「そうよ、そうよ! この私にも謝罪しなさい! 兎に角、お姉様は狡いわ! 国外追放されたと思ったら、この国の王族になってる? そんなの絶対に狡過ぎる! しかもお腹の子が特別ですって? そんなの信じられないわ! それが本当なら、今すぐに私達を元に戻しなさい! お姉様も、お腹の子も、詐欺師よ!」
アリアはそんな二人の言葉に、激しく傷付いた。
二人は自らの悪行を反省していないと、悲しくなる。
その時、ふとアリアの頭の中にお腹の子の声が響いた――
『お母様、あの二人の魔法を解いていい?』
それは怒りに満ちた幼い声だった。
アリアは戸惑いつつも答えを返す。
「え、ええ……? あなたがそれを望むなら……」
その途端、イェールとウィリアを襲っていた怪奇現象が消えた。イェールの体に浮かび上がっていた印は消え、以前通りに戻っている。ウィリアの体の青さも消え、元通りになっていた。二人はお互いを指差し、喜びの声を上げる。
「おい、ウィリア! 体の色が元に戻っているぞ!」
「イェール様こそ! あの模様が消えているわ!」
「やったッ……やったぞおおおぉッ……!」
「私達は解放されたのねッ……!」
一方、アリアはこの奇跡をただ受け入れていた。お腹に宿っている子は特別だと、エンティから言われていたからだ。彼が占った限りでは、アリアの奥底に潜んでいた“聖なる魂”がお腹の子に宿っているという。
やがてイェールとウィリアは用無しとばかりにアリアへ唾を吐き、帰っていった。そのあまりの不敬さに、摘まみ出されたというのが正しいだろう。その様子を見守っていた第一王子エンティは苦笑した。彼は占術によって、未来を大まかに予知している。きっとヴント国は恐ろしい事態に見舞われるだろう。
そのエンティの占いは的中することになる。
なぜなら、イェールとウィリアの怪奇現象が消えたことは……――
………………
…………
……
そして五ヶ月後、ついにアリアの子供が産まれた。
その子は勇者の印を額に刻み、聖女の証のロイヤルブルーの髪と瞳を持っていた。しかもその子は男であり女――つまり両性具有者だったのである。産まれた子は明らかに人間を超越した“神人”である。エンティは予定通りアリアを妻として迎え入れ、産まれた子を第一子とした。
その子はオパールと名付けられ、大切に育てられたのである。
その頃、ウィリアはイェールの子供を身籠っていた。
アリアの出産を知った彼女は、自分の子も“神人”になると確信する。
「うふふ、勇者の血筋であるイェール様と聖女の血筋である私の子供は“神人”に違いないわ! そんな子供を産んだら、私は誰よりも偉くなれるはずよ! きっとこの国の女王様になれるんだわ!」
ウィリアは邪まな笑みを浮かべ、命の宿った腹を撫でる。
その子供が産まれた時、ヴント国が地獄と化すとも知らずに――
ヴント国より訪れたイェールとウィリアは、セクト国の貴賓室で頭を下げていた。“ごめんなさい”や“すみません”という口ばかりの謝罪を繰り返す二人にアリアは苛立ちを隠せない。セクト国の第一王子エンティも同様に怒りを含んだ表情のまま沈黙していた。それほど二人の謝罪は不誠実だったのだ。
そんなアリア達の態度に、謝罪するイェールとウィリアは段々と腹が立ってきた。なぜ原因も分からぬ怪奇現象をアリアのお腹の子の所為と決め付けられ、謝らなくてはいけないのか。そもそも自分達は国王に命じられて来ただけで、謝罪する気などさらさらない。
そして二人の見当違いな怒りは爆発する。
「おい! いつまで黙っている気だ!? そもそもあの晩、お前が強く抵抗しなかったのがいけなかったんだぞ! 俺はお前なんて抱きたくなかった! ウィリアだと思ったから抱いたのだ! しかも妊娠するとはどういう了見だ! むしろ心からの謝罪が欲しいのはこの俺だ! この迷惑な馬鹿女め!」
「そうよ、そうよ! この私にも謝罪しなさい! 兎に角、お姉様は狡いわ! 国外追放されたと思ったら、この国の王族になってる? そんなの絶対に狡過ぎる! しかもお腹の子が特別ですって? そんなの信じられないわ! それが本当なら、今すぐに私達を元に戻しなさい! お姉様も、お腹の子も、詐欺師よ!」
アリアはそんな二人の言葉に、激しく傷付いた。
二人は自らの悪行を反省していないと、悲しくなる。
その時、ふとアリアの頭の中にお腹の子の声が響いた――
『お母様、あの二人の魔法を解いていい?』
それは怒りに満ちた幼い声だった。
アリアは戸惑いつつも答えを返す。
「え、ええ……? あなたがそれを望むなら……」
その途端、イェールとウィリアを襲っていた怪奇現象が消えた。イェールの体に浮かび上がっていた印は消え、以前通りに戻っている。ウィリアの体の青さも消え、元通りになっていた。二人はお互いを指差し、喜びの声を上げる。
「おい、ウィリア! 体の色が元に戻っているぞ!」
「イェール様こそ! あの模様が消えているわ!」
「やったッ……やったぞおおおぉッ……!」
「私達は解放されたのねッ……!」
一方、アリアはこの奇跡をただ受け入れていた。お腹に宿っている子は特別だと、エンティから言われていたからだ。彼が占った限りでは、アリアの奥底に潜んでいた“聖なる魂”がお腹の子に宿っているという。
やがてイェールとウィリアは用無しとばかりにアリアへ唾を吐き、帰っていった。そのあまりの不敬さに、摘まみ出されたというのが正しいだろう。その様子を見守っていた第一王子エンティは苦笑した。彼は占術によって、未来を大まかに予知している。きっとヴント国は恐ろしい事態に見舞われるだろう。
そのエンティの占いは的中することになる。
なぜなら、イェールとウィリアの怪奇現象が消えたことは……――
………………
…………
……
そして五ヶ月後、ついにアリアの子供が産まれた。
その子は勇者の印を額に刻み、聖女の証のロイヤルブルーの髪と瞳を持っていた。しかもその子は男であり女――つまり両性具有者だったのである。産まれた子は明らかに人間を超越した“神人”である。エンティは予定通りアリアを妻として迎え入れ、産まれた子を第一子とした。
その子はオパールと名付けられ、大切に育てられたのである。
その頃、ウィリアはイェールの子供を身籠っていた。
アリアの出産を知った彼女は、自分の子も“神人”になると確信する。
「うふふ、勇者の血筋であるイェール様と聖女の血筋である私の子供は“神人”に違いないわ! そんな子供を産んだら、私は誰よりも偉くなれるはずよ! きっとこの国の女王様になれるんだわ!」
ウィリアは邪まな笑みを浮かべ、命の宿った腹を撫でる。
その子供が産まれた時、ヴント国が地獄と化すとも知らずに――
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