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第二話
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処分を受けたアリアとその元婚約者イェールの血筋はこうだ。
公爵令嬢アリア・セントウルズは聖女の血を引く娘である。聖女の血を色濃く受け継ぐ者はその髪と瞳がロイヤルブルーになる。姉アリアと妹ウィリアもわずかにその血を引いており、髪と瞳が薄い青みを帯びていた。
そして第一王子イェール・トワ・ヴントは勇者の血を引く少年である。勇者の血を色濃く受け継ぐ王家の者は、誰しもその体に印が刻まれる。その印は王家の紋章に使われ、イェールもまたその腕に印を刻んでいた。
そんな二人が婚約した時、人々は大いに期待した。
聖女と勇者の血を引き継ぐ子供はきっと優秀に違いないと。
しかしその希望はあえなく潰えた――アリアが浮気をしたからだ。
人々はアリアを罵り、あんな女は不幸になればいいと呪詛すら吐いていた。
そんなある日、怪奇現象が起きた。
イェールの体に“王家の紋章”がいくつも浮かび上がったのだ。体中に発疹のように現れたその印はあまりに不気味で、医者も尻込みしていた。元々、イェールは腕に印をひとつだけ刻んでいる。それは赤褐色の濃い痣であったが、それと同様のものが髪の毛、眼球の白目、歯、歯茎、舌にまで浮かび上がったのだ。
一方、似たような現象はアリアの妹ウィリアにも起きていた。イェールと同じように髪の毛、眼球、歯、歯茎、舌、そして肌までもが聖女を示すロイヤルブルーに染まったのだ。どこまでも真っ青な少女の姿に、人々は恐れをなして逃げ出した。しかも取り乱して泣き喚く彼女の涙さえも濃い青色であった。
その不気味な現象を目にした王家は騒然となった。これは間違いなく勇者と聖女の呪いだ。きっとイェールとウィリアが何か仕出かしたに違いない。王家は早急に動き、事態の究明に努める。
すると驚愕の事実が判明した――
まずは侍女カトレアの証言。
「あれは五月の夜会のことです。イェール様はウィリア様と一緒にお酒を浴びるほど飲み、酔っ払っておりました。ええ、婚約者アリア様の前で、その妹ウィリア様をよく贔屓できるなぁ、と内心思っておりました。そして予想通り、アリア様は悲しい顔をして会場から出ていったのです。私は彼女が心配で、そっと後をつけました。するとアリア様の後ろから酔ったイェール様が歩いてきて……なんと空き部屋に引きずり込んだのです。その後、使用人のニックに呼ばれて、場を離れました」
そして使用人ニックの証言。
「はい、俺は侍女カトレアに用事を告げた後、空き部屋を覗きました。あの空き部屋にはイェール様とアリア様がいて……二人はその……何と言うか……。ええ、はっきり言います、男女で交わっていました。かなり激しく。いや、それだと語弊がありますね。正しくはイェール様が勝手に盛り上がっていたと言うべきでしょう。何と言うか、強姦めいている感じもしました。俺は婚前交渉を目撃して震え上がり、逃げ出しました。もし覗き見していることがバレたら、只じゃ済まされないですからね」
その証言を知った国王は激怒した。
アリアは本当にイェールに犯され、身籠っていたのだ――
公爵令嬢アリア・セントウルズは聖女の血を引く娘である。聖女の血を色濃く受け継ぐ者はその髪と瞳がロイヤルブルーになる。姉アリアと妹ウィリアもわずかにその血を引いており、髪と瞳が薄い青みを帯びていた。
そして第一王子イェール・トワ・ヴントは勇者の血を引く少年である。勇者の血を色濃く受け継ぐ王家の者は、誰しもその体に印が刻まれる。その印は王家の紋章に使われ、イェールもまたその腕に印を刻んでいた。
そんな二人が婚約した時、人々は大いに期待した。
聖女と勇者の血を引き継ぐ子供はきっと優秀に違いないと。
しかしその希望はあえなく潰えた――アリアが浮気をしたからだ。
人々はアリアを罵り、あんな女は不幸になればいいと呪詛すら吐いていた。
そんなある日、怪奇現象が起きた。
イェールの体に“王家の紋章”がいくつも浮かび上がったのだ。体中に発疹のように現れたその印はあまりに不気味で、医者も尻込みしていた。元々、イェールは腕に印をひとつだけ刻んでいる。それは赤褐色の濃い痣であったが、それと同様のものが髪の毛、眼球の白目、歯、歯茎、舌にまで浮かび上がったのだ。
一方、似たような現象はアリアの妹ウィリアにも起きていた。イェールと同じように髪の毛、眼球、歯、歯茎、舌、そして肌までもが聖女を示すロイヤルブルーに染まったのだ。どこまでも真っ青な少女の姿に、人々は恐れをなして逃げ出した。しかも取り乱して泣き喚く彼女の涙さえも濃い青色であった。
その不気味な現象を目にした王家は騒然となった。これは間違いなく勇者と聖女の呪いだ。きっとイェールとウィリアが何か仕出かしたに違いない。王家は早急に動き、事態の究明に努める。
すると驚愕の事実が判明した――
まずは侍女カトレアの証言。
「あれは五月の夜会のことです。イェール様はウィリア様と一緒にお酒を浴びるほど飲み、酔っ払っておりました。ええ、婚約者アリア様の前で、その妹ウィリア様をよく贔屓できるなぁ、と内心思っておりました。そして予想通り、アリア様は悲しい顔をして会場から出ていったのです。私は彼女が心配で、そっと後をつけました。するとアリア様の後ろから酔ったイェール様が歩いてきて……なんと空き部屋に引きずり込んだのです。その後、使用人のニックに呼ばれて、場を離れました」
そして使用人ニックの証言。
「はい、俺は侍女カトレアに用事を告げた後、空き部屋を覗きました。あの空き部屋にはイェール様とアリア様がいて……二人はその……何と言うか……。ええ、はっきり言います、男女で交わっていました。かなり激しく。いや、それだと語弊がありますね。正しくはイェール様が勝手に盛り上がっていたと言うべきでしょう。何と言うか、強姦めいている感じもしました。俺は婚前交渉を目撃して震え上がり、逃げ出しました。もし覗き見していることがバレたら、只じゃ済まされないですからね」
その証言を知った国王は激怒した。
アリアは本当にイェールに犯され、身籠っていたのだ――
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