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第1話

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「汚らわしい偽聖女ライカ! 貴様には呆れた……聖女解任だ!」
「えっ……?」

 煌びやかな夜会の席――
 ジエン王子の言葉に、貴族達が一斉に嫌な笑みを浮かべた。
 まるでこの出来事が約束されていたかのように、パーティの参加者全員が私と王子の周囲に集まっている。
 何……? 何なの……? 見世物になった気分だわ……。

「ど、どういうことでしょうか、ジエン王子様……?」

 私、聖女ライカはおずおずと王子に尋ねる。
 すると王子は虫を見るような目で見下してきた。

「どういうことだと!? 貴様は聖女であるにもかかわらず、聖女候補達に仕事の全てを押し付けていたそうだな! 全て聖女候補達が白状したぞ!」

 まるで身に覚えのないことだ――私は身を粉にして働いている。
 しかし聖女候補達は非難の表情を浮かべ、口々にこう言った。

「ええ、そうです! ライカ様はひとつだって聖女の仕事をしていません!」
「豊穣の祈りも、結界維持も、怪我や病気の治癒だって私達がしています!」
「ライカ様は無能な聖女です! 全ての功績は私達聖女候補にあるのです!」

 私はあまりのことに言葉を漏らした。

「そ、そんな……! 仕事を押し付けているのはそっちじゃない……!」

 聖女候補――その九割はその立場を金で買った貴族の娘である。
 はっきり言って、彼女達はまるっきり無能だ。才能がない。
 祈りなんて欠伸みたいなものだし、結界なんて張れもしない、怪我はかすり傷を治せればいい方。
 私は毎日そんなお荷物の聖女候補達の仕事まで請け負ってきた。
 それなのに彼女達が聖女の仕事をこなすなんて、絶対に無理だ。
 しかし――王子は聖女候補達の言葉を信じたのだ。

「平民出身の偽聖女よ、聖女候補達のほとんどは貴族だぞ! 言葉を改めろ!」
「そんな……私は偽聖女なんかじゃ……」
「黙れ! 貴様にはもうひとつ罪状がある! 恐れ多くもこのナクア国の王、我が父上をたぶらかしたな! この淫売が!」
「そ、そんなことはしていません――」

 むしろ逆だった。
 性的な被害を受けたのは私の方――ナクア国王は好色爺だ。
 病気を治してほしいという名目で私を呼び出し、体を触ってくる。
 何度もやめてほしいと申し出たが、やめてもらえず――私は――
 嫌な場面がフラッシュバックし、思わず放心する。

「ふんッ! 無能で淫売――こんな平民女が聖女である必要は全くないな! 偽聖女ライカ! 貴様はこの場で聖女を辞め、処刑されるがいい!」

 勝ち誇ったように告げた後、王子はにやりと残忍な笑みを浮かべた。

「ああ、お前の聖力は全て聖女候補に受け渡すがいい。それと処刑は一週間後だ。それまでお前は貴族の玩具として扱われる」

 その言葉に、目の前が真っ暗になった。
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