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第12話
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イヴェットは我が子を抱いて泣いていた。
出産から一晩明けた今、妹が赤ん坊を攫いにきていたことを知った。
しかも看護人を切り付け、身代わりのゴーレムを連れ去ったという。
イヴェットの赤ん坊は別の部屋に隠され、無事だった。
全部アランが取り計らってくれたお陰らしい。
「イヴェット様、ご加減は如何です?」
「ア、アラン様……!?」
そこにアランが現れた。
彼はいつも通りの笑顔を浮かべ、病室へ入る。
「お陰様で娘は無事でした……! なんとお礼を言ったらいいのか……!」
「いえ、いいんですよ。それより妹さんとご両親が自首したらしいですね」
「そうなんですか……!? あの三人が……!?」
「ええ、どうやら酷く取り乱し、泣き叫んでいたといいますよ」
イヴェットは信じられなかった。
あの罪悪感の欠片も持ち合わせていない三人が自首だなんて。
さらには取り乱して泣いていただなんて、どういうことだろう。
しかしアランが言うなら、それは本当なのだろう。
彼女はほっと胸を撫で下ろした。
「あらあら、これでイヴェットさん退院しちゃいますね?」
「そのまま行かせちゃっていいんですか? アラン様?」
その場にいた二人の看護人がにやにやと笑っている。
するとアランは二人を部屋から追い払い、イヴェットに向かった。
「イヴェット様……赤ちゃんを抱かせて下さいますか……?」
「え、ええ、勿論です! 抱いてあげて下さい!」
イヴェットは頷いて、赤ん坊をそっと差し出す。
それを受け取ると、アランは我慢できないというように微笑んだ。
「ああ! 何て可愛いんだ! 君は皆に祝福されて産まれたんだよ!」
その言葉にイヴェットは泣き出しそうだった。
長い長い試練を経て、この子は幸せの世界に産まれた。
それは全てアランのお陰だ――心からの感謝と希望を述べる。
「ありがとうございます、アラン様。あなた様がいてくれたからこそ、この子は祝福されたのです。大きくなったら、必ずそのことを話して聞かせますわ。それで……もし良かったら、この子の名付け親になってくれませんか? きっと名をいただければ、この子は生涯守護されるでしょう」
微笑んで語るイヴェットに、アランは首を振った。
「それはできません。僕は名付け親にはなれない」
「ど、どうしてですか……?」
イヴェットは不安そうにアランを見詰める。
そんな彼女の耳元へ彼は顔を寄せた。
「名付け親じゃなく、本物の親になりたいのです。この子は僕がこの手で生涯守り抜きますよ。イヴェット様、僕と結婚して下さい」
「そ……そんな……アラン様……――」
震えるイヴェットにアランは優しく微笑みかける。
すると赤ん坊も嬉しそうな声を上げ――笑った。
イヴェットは目を見開き、我が子を見詰める。
「え……? 笑ったの……?」
「もしかして、賛成してくれたのかな?」
赤ん坊に顔を寄せるアランを見て、イヴェットは泣いていた。
「ア、アラン様……本当に私なんかでいいんですか……?」
「あなたじゃないと駄目なんです、愛しいイヴェット様。今まで奪われてきた全てを、今度は僕が何倍にもして与えますよ。覚悟していて下さいね?」
そして二人は赤ん坊を囲み、微笑み合ったのだった。
―END―
出産から一晩明けた今、妹が赤ん坊を攫いにきていたことを知った。
しかも看護人を切り付け、身代わりのゴーレムを連れ去ったという。
イヴェットの赤ん坊は別の部屋に隠され、無事だった。
全部アランが取り計らってくれたお陰らしい。
「イヴェット様、ご加減は如何です?」
「ア、アラン様……!?」
そこにアランが現れた。
彼はいつも通りの笑顔を浮かべ、病室へ入る。
「お陰様で娘は無事でした……! なんとお礼を言ったらいいのか……!」
「いえ、いいんですよ。それより妹さんとご両親が自首したらしいですね」
「そうなんですか……!? あの三人が……!?」
「ええ、どうやら酷く取り乱し、泣き叫んでいたといいますよ」
イヴェットは信じられなかった。
あの罪悪感の欠片も持ち合わせていない三人が自首だなんて。
さらには取り乱して泣いていただなんて、どういうことだろう。
しかしアランが言うなら、それは本当なのだろう。
彼女はほっと胸を撫で下ろした。
「あらあら、これでイヴェットさん退院しちゃいますね?」
「そのまま行かせちゃっていいんですか? アラン様?」
その場にいた二人の看護人がにやにやと笑っている。
するとアランは二人を部屋から追い払い、イヴェットに向かった。
「イヴェット様……赤ちゃんを抱かせて下さいますか……?」
「え、ええ、勿論です! 抱いてあげて下さい!」
イヴェットは頷いて、赤ん坊をそっと差し出す。
それを受け取ると、アランは我慢できないというように微笑んだ。
「ああ! 何て可愛いんだ! 君は皆に祝福されて産まれたんだよ!」
その言葉にイヴェットは泣き出しそうだった。
長い長い試練を経て、この子は幸せの世界に産まれた。
それは全てアランのお陰だ――心からの感謝と希望を述べる。
「ありがとうございます、アラン様。あなた様がいてくれたからこそ、この子は祝福されたのです。大きくなったら、必ずそのことを話して聞かせますわ。それで……もし良かったら、この子の名付け親になってくれませんか? きっと名をいただければ、この子は生涯守護されるでしょう」
微笑んで語るイヴェットに、アランは首を振った。
「それはできません。僕は名付け親にはなれない」
「ど、どうしてですか……?」
イヴェットは不安そうにアランを見詰める。
そんな彼女の耳元へ彼は顔を寄せた。
「名付け親じゃなく、本物の親になりたいのです。この子は僕がこの手で生涯守り抜きますよ。イヴェット様、僕と結婚して下さい」
「そ……そんな……アラン様……――」
震えるイヴェットにアランは優しく微笑みかける。
すると赤ん坊も嬉しそうな声を上げ――笑った。
イヴェットは目を見開き、我が子を見詰める。
「え……? 笑ったの……?」
「もしかして、賛成してくれたのかな?」
赤ん坊に顔を寄せるアランを見て、イヴェットは泣いていた。
「ア、アラン様……本当に私なんかでいいんですか……?」
「あなたじゃないと駄目なんです、愛しいイヴェット様。今まで奪われてきた全てを、今度は僕が何倍にもして与えますよ。覚悟していて下さいね?」
そして二人は赤ん坊を囲み、微笑み合ったのだった。
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