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第9話
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数日後、イヴェットは陣痛よりも破水が先に訪れた。
そして彼女は出産室へ移されたが、担当はアランではなかった。
彼は外せない用事があるらしく、信頼のおける治療人を彼女に付けた。
イヴェットは少し心配だったが、いざ陣痛が始まるとそれどころではなくなった。
激しい痛みの中で自分の子供が無事生まれることを切に祈る。
「がんばって! イヴェットさん! 私達が付いてるわ!」
「そう! 息を吸って吸って吐いて! 元気な子が産まれるわよ!」
エマともうひとりの看護人が必死に励ましてくれる。
やがてイヴェット長期間痛みと戦って、無事に娘を出産した。
元気に産声を上げる我が子を見たイヴェットは感動のあまり涙を零す。
その後、赤ん坊は看護人が見張る新生児室へ運ばれ、彼女は病室へ帰った。
「イヴェット様、この度は担当になれず、申し訳ありませんでした」
「アラン様、謝らないで下さい……。お陰様で、娘が無事に産まれました……」
ベッドに横になるイヴェットを見て、アランは申し訳なさそうに微笑んだ。
彼はせめてもと、出産後の母体を丁寧に診察する。
するとエマが焦った様子で駆け付けた。
「アラン様……ちょっと……――」
彼女はアランを外に連れ出すと、息せき切ってこう告げた。
「た、大変です……! イヴェットさんの赤ちゃんが攫われました……!」
「本当か……!? 見張りがいただろう……!? 犯人は見たのか……!?」
「見たそうです……! でも見張りに立っていた看護人がナイフで腕を切られて、怪我をしているんですよ……!」
「何だって!? それを早く言い給え!」
そしてアランとエマは現場の新生児室へ駆け付けた。
その床にはおびただしい血が滴り、傷の深さを物語っている。
怪我をした看護人は先ほど処置室へ運ばれ、治療を受けているという。
二人はすぐさま処置室へ移動した。
「あぁ……アラン様、エマ……」
「クレア、大丈夫!? 怪我はどの程度!?」
「かなり深く切られたわ……。今は縫合して、治癒をかけてもらったの……」
クレアの腕は大きく切り裂かれており、縫合箇所が痛々しい。
もしかしたらこれは傷跡として残るかもしれない。
「クレア君、抜糸後に僕のところへ来なさい。傷跡を消してあげよう」
「はい、アラン様。ありがとうございます」
「それと……犯人の顔は見たかい?」
そう問うと、クレアは目を伏せて答えた。
「犯人は看護人に扮した女でした。その顔は……イヴェットさんにそっくりでした」
そして彼女は出産室へ移されたが、担当はアランではなかった。
彼は外せない用事があるらしく、信頼のおける治療人を彼女に付けた。
イヴェットは少し心配だったが、いざ陣痛が始まるとそれどころではなくなった。
激しい痛みの中で自分の子供が無事生まれることを切に祈る。
「がんばって! イヴェットさん! 私達が付いてるわ!」
「そう! 息を吸って吸って吐いて! 元気な子が産まれるわよ!」
エマともうひとりの看護人が必死に励ましてくれる。
やがてイヴェット長期間痛みと戦って、無事に娘を出産した。
元気に産声を上げる我が子を見たイヴェットは感動のあまり涙を零す。
その後、赤ん坊は看護人が見張る新生児室へ運ばれ、彼女は病室へ帰った。
「イヴェット様、この度は担当になれず、申し訳ありませんでした」
「アラン様、謝らないで下さい……。お陰様で、娘が無事に産まれました……」
ベッドに横になるイヴェットを見て、アランは申し訳なさそうに微笑んだ。
彼はせめてもと、出産後の母体を丁寧に診察する。
するとエマが焦った様子で駆け付けた。
「アラン様……ちょっと……――」
彼女はアランを外に連れ出すと、息せき切ってこう告げた。
「た、大変です……! イヴェットさんの赤ちゃんが攫われました……!」
「本当か……!? 見張りがいただろう……!? 犯人は見たのか……!?」
「見たそうです……! でも見張りに立っていた看護人がナイフで腕を切られて、怪我をしているんですよ……!」
「何だって!? それを早く言い給え!」
そしてアランとエマは現場の新生児室へ駆け付けた。
その床にはおびただしい血が滴り、傷の深さを物語っている。
怪我をした看護人は先ほど処置室へ運ばれ、治療を受けているという。
二人はすぐさま処置室へ移動した。
「あぁ……アラン様、エマ……」
「クレア、大丈夫!? 怪我はどの程度!?」
「かなり深く切られたわ……。今は縫合して、治癒をかけてもらったの……」
クレアの腕は大きく切り裂かれており、縫合箇所が痛々しい。
もしかしたらこれは傷跡として残るかもしれない。
「クレア君、抜糸後に僕のところへ来なさい。傷跡を消してあげよう」
「はい、アラン様。ありがとうございます」
「それと……犯人の顔は見たかい?」
そう問うと、クレアは目を伏せて答えた。
「犯人は看護人に扮した女でした。その顔は……イヴェットさんにそっくりでした」
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