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第2話
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「天才手芸家はあなたですね。伯爵ヴィオラ・コフィ様――」
エヴァン様がそう断言すると、モニカ様が憤然と立ち上がりました。
「馬鹿なことを言わないでッ! 天才手芸家はこの私よッ! そんな髪をひっつめて片眼鏡を着けた芋女……天才手芸家な訳ないでしょうッ!」
モニカ様は激怒しながら、私の容姿をなじりました。センスのない芋女には、洗練された手芸品は作れないと言いたいようです。
確かに、私は髪を纏めてバレッタで留めていますが、これには【完全防御】の加護があるのです。さらに片眼鏡も着けていますが、これは【情報表示】の加護ありです。まあ、情報表示すると結構うるさいため、普段は加護をオフにしていますが。
「ほらッ! 芋女も、そうだと言いなさいよッ! ふうっ……ふうっ……!」
どうやらモニカ様は怒りのあまり呼吸を乱しているようです。しかしエヴァン様は冷静そのもので、事実を淡々と告げていきます。
「ネッシーレ国は調査を重ね、ヴィオラ様が天才手芸家だと確信致しました」
「その調査って……私のことも調査したのでしょうね……!?」
「勿論です。しかしモニカ様はすぐに候補から外れました」
「な……何ですって……!?」
そしてエヴァン様は慇懃に語ります。
「モニカ様の手芸品はあまり丁寧に作られていない上、基礎的な部分でミスを犯しています。しかもあなたの手芸品には、邪悪な気配を発するものがいくつか含まれていました。もしかして呪いをかけましたか?」
「そ、そんな訳ないでしょッ……!? 何を言っているのッ……!?」
「申し訳ありません。少々気になったもので」
否定の言葉とは裏腹に、モニカ様は動揺しています。エヴァン様は、そんな相手に頭を下げると、話を戻しました。
「兎に角、モニカ様の手芸品は未熟です。しかし天才手芸家の手芸品は非常に丁寧な作りで、基礎は完璧なのです。そしてヴィオラ様の手芸品も、同じように丁寧で完璧な作りでした。これは、天才手芸家の作品と一致します」
その言葉を聞くことができて、救われました。エヴァン様、調査員様、私の手芸を認めて下さって、ありがとうございます――と、心の中で感謝します。私は常に冷静ですが、手芸のことになると少しだけ興奮しやすくなってしまうのです。
一方、モニカ様は顔を真っ赤にして怒り狂いました。
「出ていってッ! 二人共、出ていきなさいッ! 私はねぇ、このビルンナ小国から正式に認められたのよッ! 誰よりも手芸が上手いんだからぁッ!」
私は席を立ち、荷物を持って扉へ向かいます。するとエヴァン様も私に続きました。一方、モニカ様はまだ怒っているようで、嫌味を吐いていました。
「せいぜい隣国で紛い物の手芸品を作るがいいわ! もし国王陛下があなたの手芸品を見ても、絶対に認めることはないでしょう! 国王陛下はね、私のことを実の娘のように可愛がってくれるんだからね!」
国王と仲が良いのですね。しかしあの国王は胡散臭いので、あまり関わりたくないと思っています。だから名乗り出なかったのです。
「大嫌い! アンタみたいな芋女……大嫌いなんだから!」
モニカ様はまるで幼子のように感情を露わにします。そうですか。モニカ様がそのレベルなら、私も同レベルまで降りて差し上げましょう。
「私も同じです」
「……何ですって?」
「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」
そして私はエヴァン様と共に、部屋を出ました。扉の向こう側から怒声が響いてきますが、無視して歩きます。
「……くっ……くはは!」
その時、エヴァン様が歩きながら吹き出しました。
「公爵令嬢と国王が大嫌い、か……。不敬罪を恐れず、よく言ったものだ……。確かに俺も、さっきの女とこの国の王は嫌いだが……くくく……」
あら? さっきと一人称が違うのですが?
笑いを堪える相手を見詰め、片眼鏡の【情報表示】の加護をオンにします。直後、あらゆる情報がレンズに表示されました。なになに……このお方は、ネッシーレ国の第一王子エヴァン……? スカウトマンではない……?
「あなたは、ネッシーレ国の王子なのですか?」
私がそう尋ねると、エヴァン様は微笑みました。
エヴァン様がそう断言すると、モニカ様が憤然と立ち上がりました。
「馬鹿なことを言わないでッ! 天才手芸家はこの私よッ! そんな髪をひっつめて片眼鏡を着けた芋女……天才手芸家な訳ないでしょうッ!」
モニカ様は激怒しながら、私の容姿をなじりました。センスのない芋女には、洗練された手芸品は作れないと言いたいようです。
確かに、私は髪を纏めてバレッタで留めていますが、これには【完全防御】の加護があるのです。さらに片眼鏡も着けていますが、これは【情報表示】の加護ありです。まあ、情報表示すると結構うるさいため、普段は加護をオフにしていますが。
「ほらッ! 芋女も、そうだと言いなさいよッ! ふうっ……ふうっ……!」
どうやらモニカ様は怒りのあまり呼吸を乱しているようです。しかしエヴァン様は冷静そのもので、事実を淡々と告げていきます。
「ネッシーレ国は調査を重ね、ヴィオラ様が天才手芸家だと確信致しました」
「その調査って……私のことも調査したのでしょうね……!?」
「勿論です。しかしモニカ様はすぐに候補から外れました」
「な……何ですって……!?」
そしてエヴァン様は慇懃に語ります。
「モニカ様の手芸品はあまり丁寧に作られていない上、基礎的な部分でミスを犯しています。しかもあなたの手芸品には、邪悪な気配を発するものがいくつか含まれていました。もしかして呪いをかけましたか?」
「そ、そんな訳ないでしょッ……!? 何を言っているのッ……!?」
「申し訳ありません。少々気になったもので」
否定の言葉とは裏腹に、モニカ様は動揺しています。エヴァン様は、そんな相手に頭を下げると、話を戻しました。
「兎に角、モニカ様の手芸品は未熟です。しかし天才手芸家の手芸品は非常に丁寧な作りで、基礎は完璧なのです。そしてヴィオラ様の手芸品も、同じように丁寧で完璧な作りでした。これは、天才手芸家の作品と一致します」
その言葉を聞くことができて、救われました。エヴァン様、調査員様、私の手芸を認めて下さって、ありがとうございます――と、心の中で感謝します。私は常に冷静ですが、手芸のことになると少しだけ興奮しやすくなってしまうのです。
一方、モニカ様は顔を真っ赤にして怒り狂いました。
「出ていってッ! 二人共、出ていきなさいッ! 私はねぇ、このビルンナ小国から正式に認められたのよッ! 誰よりも手芸が上手いんだからぁッ!」
私は席を立ち、荷物を持って扉へ向かいます。するとエヴァン様も私に続きました。一方、モニカ様はまだ怒っているようで、嫌味を吐いていました。
「せいぜい隣国で紛い物の手芸品を作るがいいわ! もし国王陛下があなたの手芸品を見ても、絶対に認めることはないでしょう! 国王陛下はね、私のことを実の娘のように可愛がってくれるんだからね!」
国王と仲が良いのですね。しかしあの国王は胡散臭いので、あまり関わりたくないと思っています。だから名乗り出なかったのです。
「大嫌い! アンタみたいな芋女……大嫌いなんだから!」
モニカ様はまるで幼子のように感情を露わにします。そうですか。モニカ様がそのレベルなら、私も同レベルまで降りて差し上げましょう。
「私も同じです」
「……何ですって?」
「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」
そして私はエヴァン様と共に、部屋を出ました。扉の向こう側から怒声が響いてきますが、無視して歩きます。
「……くっ……くはは!」
その時、エヴァン様が歩きながら吹き出しました。
「公爵令嬢と国王が大嫌い、か……。不敬罪を恐れず、よく言ったものだ……。確かに俺も、さっきの女とこの国の王は嫌いだが……くくく……」
あら? さっきと一人称が違うのですが?
笑いを堪える相手を見詰め、片眼鏡の【情報表示】の加護をオンにします。直後、あらゆる情報がレンズに表示されました。なになに……このお方は、ネッシーレ国の第一王子エヴァン……? スカウトマンではない……?
「あなたは、ネッシーレ国の王子なのですか?」
私がそう尋ねると、エヴァン様は微笑みました。
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