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第3話

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(悔しい……悔しい……あのドブネズミめ……!)

 その頃、宮廷ではファティマが苛立たし気に歩き回っていた。アルフォード王子の手は簡単に治せるものと思っていた。自慢の治癒力なら絶対に治る――そう信じていた。しかし実際は二回も治癒を放ったにもかかわらず、王子の手は悪化した。

(あの女……! 一体どんな呪いをかけたのよ……!)

 治療に当たった宮廷魔術師は恐らく呪いだと言っていた。しかし聖女は呪いなど使えないはずだ。では一体どうやって――いや、相手は偽聖女だ。きっと呪術を使ってアルフォード王子を苦しめているのだ。しかし宮廷魔術師も簡単な状況を知らせてから、一度も顔を出さない。余程解呪は難航しているらしい。

(あの女の悪い噂を流し、聖堂へ引き籠らせ、その間に王子を寝取る作戦は成功した……! なのに王子がこんなことになっている所為で、肝心の聖女の儀式が受けられないわ……!)

 “聖女パメラは宮廷魔術師の術を盗んでいる”という噂を流したのはファティマだった。パメラの聖女の才能を妬み、そんな噂と王子の寝取り計画で破滅に追い込もうとしたのだ。そう、きっと彼女は今頃、男共に犯されて聖女の力を失っている。そんな残酷な場面を想像し、ファティマはほくそ笑んだ。

「ファティマ……」
「アルフォード様! 大丈夫なのですか!?」

 その時、奥の扉からアルフォード王子が姿を現した。手には痛々しく包帯を巻き、足元がおぼつかないまま歩いてくる。ファティマはそれを抱き止め、偽りの涙を零した。すると王子はその涙を信じ、優しく拭ってくれる。

「心配させて悪かった……。さあ、聖女の儀式を始めよう……」
「アルフォード様、無理をなさらないで……!」
「大丈夫だ……。それよりお前と早く結婚がしたい……」
「ああ……! わたくしもです……!」

 そして宮廷舞踏会の最後のイベントとして、聖女の儀式が始まった。王位継承者と聖女の血を混ぜ、国宝石に塗るという儀式である。ファティマは王子と自分の血を混ぜると、真っ白な石へそれを擦りつけた。その途端、国宝石が輝き出し、ファティマの脳内に声が響き渡った。

(新しき聖女よ……貴様に国を守れるのか?)
「はい、守れます! わたくしはこの国で最も優秀な聖女です!」

 自信満々に答えると、国宝石が怒りに震えた。

(この国で最も優秀だと!? 笑わせる! お前のような小者にかつての聖女様の働きができるはずがない!)
「そんな……わたくしはあのドブネズミより優秀で……――」
(馬鹿な! あのお方――パメラ様はその実力によって最高神、邪神、精霊王、魔王と通じるほどの存在だぞ! あのお方がいたから国は守られていたのだ!)
「えっ……――?」

 ファティマの脳内が真っ白になった。それはあまりの衝撃を受けたためでもあり、国宝石がそうなるようにしたからでもあった。今や彼女は肉体と精神が切り離されていた。その肉体は国宝石が乗っ取り、ひたすら聖女の仕事をするように操るつもりなのである。聖女となったファティマはその苦痛を受けるだけの存在となったのだ。
 国宝石がそれを説明すると、彼女は泣き叫んで許しを請うた。

(ごめんなさい……ごめんなさああい! そんなつもりじゃなかったの……! わたくしは聖女になってお妃様になって、幸せに暮らしたかったの……! それだけだったのよぉ……!)
(愚か者め……そんな幸せのために、お前はあのお方を追放させたのか……! あのお方は無償で十数年も働き尽くしていたのだぞ……! お前もそれを味わえ……!)
(いや……いやぁ……ゆるしてぇ……――)

 そしてファティマは国宝石の操り人形となった。しかしパメラの強固な結界と加護が消えた今、ルイアッシュ国は大きな危機に見舞われることとなった。まず国王がファティマの様子がおかしいことに気付いた。そして飛び込んできた家臣から国境沿いで魔物の侵入が相次いでいることが報告され、国王のみならず貴族も青ざめる。
 そんな最中、アルフォード王子が腕を押さえて転げ回った。

「うぐあああっ……! く、苦しい……!」

 控えていた宮廷魔術師達が駆け寄り、王子の手を見る。
 するとそれは何倍にも腫れ上がり、腕には聖なる印が浮かび上がっていた。
 宮廷魔術師達はそれを見るなり恐れ戦く――

「こ、これは神の怒りの印……!」
「こんなもの俺達に解呪できる訳がない……!」
「今すぐにでも、この国を出た方がいいレベルだぞ……!」

 その言葉に銀の鈴を転がすような美声が答えた。

「その通りです、命が惜しければ今すぐこの国を出て行った方がいいでしょう――」
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