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第8話
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「えっと、私はあなた様の婚約者ですわ……? そうでしょう……?」
ルージュは目を白黒させて、そう呟く。
それを見ている貴族達も驚いている様子である。
しかしブラッドは冷たい態度を崩さずにこう言った。
「僕の婚約者はあなたではありません。本当の婚約者にはすでに結婚の承諾をもらっています。もう一度問います、なぜ無関係のあなたが前へ出たのですか?」
その言葉にルージュは目を剥いて口をぱくぱくさせた後、反論した。
「はああぁっ……!? 私はフェシニーク家から婚約を求める書簡を受け取っていますわよ……!? お父様、持ってきていますでしょう……!?」
紳士の集まりの中から、慌てた様子のルデマルク伯爵が現れた。
その手にはひとつの書簡がしっかり握られている。
それを目にしたブラッドはこう告げた。
「では、それを父上へお渡し下さい」
そして伯爵はフェシニーク公爵へ書簡を渡した。
公爵は眼鏡をかけて書簡を見るなり、首を振った。
「全くのまがいものです。これは我が家の書簡ではありません。紋章も似てはいますが、違います。おそらく捏造されたものでしょう。そもそも我が家では書簡だけで婚約を求めるなんて無礼なことはしませんし――」
「なっ……!?」
「そ、そんな……!?」
会場は騒然となった。貴族達は騒めき、好奇の視線をルージュへ送る。見られた当人は顔を赤くして震えるばかりだ。一方、ヴィオレットはその成り行きを不安な心地で眺めていた。きっとブラッドが裏で何かをしたのだ――そんな予感が胸を支配していた。するとブラッドが貴族達のざわめきの中で、こう発言した。
「ここでひとつルデマルク家のことで、忠告したいことがあります。ここにいますルージュは大嘘吐きです。実の姉ヴィオレットが呪われたと言いふらし、彼女が勘当されるように追い詰めたのです。ですから、かつて巷に流布していたヴィオレット様の噂は全くの大嘘なのです――」
会場はさらに騒然となった。ルデマルク家のルージュは大嘘吐き――この発言は彼女が書簡を捏造したと暗に告げているものだった。
「な、何をおっしゃっているんですの!? 私は嘘吐きじゃありませんわ! 書簡だって、捏造なんてしていません!」
「そうです! 我が家と娘を侮辱するなんて、許しませんぞ!」
ルージュと伯爵は口角泡を飛ばし、食ってかかる。ヴィオレットはそれを見て、内心はらはらしていた。確かにルージュが広めた噂は嘘だが、今の自分は体調を崩すあまり月のものが止まっており、子供を産めるとは言い難い。ルージュの言葉が嘘だという証拠がない今、ブラッドの発言は覆されるかもしれなかった。
するとそれを見ていた国王が声を上げた。
「ルデマルク伯爵とその娘ルージュよ、今は王位継承者の婚約者発表の場だ。発言を控えるがいい」
その言葉に二人は驚き、そして沈黙した。ヴィオレットは国王の言葉にほっと胸を撫で下ろす。ここで噂の真偽を確かめるからと、自分が引っ張り出されたら不味いことになっていた。やがて会場が静まると、ブラッドは王に一礼してから発言した。
「それでは、僕の婚約者を発表させていただきます」
そしてブラッドは愛しい人へ手を伸ばした。
「ヴィオレット様――さあ、前へ」
「え……――?」
ブラッドはそう言うと、ヴィオレットの目を見て微笑んだ。それはいつも男子寮で見ていた優しい笑みで、彼女は泣き出しそうになった。あまりのことに動けず立ち尽くしていると、彼の方からゆっくりと近付いてきた。
「久しぶりですね、愛しいヴィオレット様。“もし僕が求婚したら受け入れてくれるか”と尋ねたら、あなたは“勿論”と返してくれましたね? その気持ち、今でも同じですか?」
「あ、ああ……ブラッド様……私の気持ちはずっと同じです……――」
ヴィオレットの目から、嬉しさのあまり涙が零れる。
一ヶ月間の不安と心配が一気に消え去った瞬間であった――
しかしそれを見ていたルージュと伯爵は声を張って怒鳴り散らした。
「信じられませんわッ! 呪われて死ぬばかりの女が婚約者だなんてッ! あの女は呪いの剣を受けた所為で死ぬんですッ! これは嘘なんかじゃありませんわよ!」
「そうだッ! そいつは呪われている上に伯爵家から勘当された娘だ! 王位継承者の婚約者には相応しくないぞッ!」
するとブラッドは顔を上げ、国王を見詰めて言った。
「陛下、僕はヴィオレット様の呪いの解呪方法を見付けました。そして陛下は勘当された娘でも婚約者にする許可を下さいました。そうですね?」
「うむ、その通りだ。ヴィオレットはやがて健康を取り戻すであろう。勘当された娘であれど、我が認めれば問題はない。何か不満はあるか、ルデマルク伯爵よ?」
「ぐっ……ぐう……――」
「うぅ……――」
伯爵は顔を青ざめさせてわなわな震え出した。
ルージュも首を締められたアヒルのように押し黙る。
ルージュは目を白黒させて、そう呟く。
それを見ている貴族達も驚いている様子である。
しかしブラッドは冷たい態度を崩さずにこう言った。
「僕の婚約者はあなたではありません。本当の婚約者にはすでに結婚の承諾をもらっています。もう一度問います、なぜ無関係のあなたが前へ出たのですか?」
その言葉にルージュは目を剥いて口をぱくぱくさせた後、反論した。
「はああぁっ……!? 私はフェシニーク家から婚約を求める書簡を受け取っていますわよ……!? お父様、持ってきていますでしょう……!?」
紳士の集まりの中から、慌てた様子のルデマルク伯爵が現れた。
その手にはひとつの書簡がしっかり握られている。
それを目にしたブラッドはこう告げた。
「では、それを父上へお渡し下さい」
そして伯爵はフェシニーク公爵へ書簡を渡した。
公爵は眼鏡をかけて書簡を見るなり、首を振った。
「全くのまがいものです。これは我が家の書簡ではありません。紋章も似てはいますが、違います。おそらく捏造されたものでしょう。そもそも我が家では書簡だけで婚約を求めるなんて無礼なことはしませんし――」
「なっ……!?」
「そ、そんな……!?」
会場は騒然となった。貴族達は騒めき、好奇の視線をルージュへ送る。見られた当人は顔を赤くして震えるばかりだ。一方、ヴィオレットはその成り行きを不安な心地で眺めていた。きっとブラッドが裏で何かをしたのだ――そんな予感が胸を支配していた。するとブラッドが貴族達のざわめきの中で、こう発言した。
「ここでひとつルデマルク家のことで、忠告したいことがあります。ここにいますルージュは大嘘吐きです。実の姉ヴィオレットが呪われたと言いふらし、彼女が勘当されるように追い詰めたのです。ですから、かつて巷に流布していたヴィオレット様の噂は全くの大嘘なのです――」
会場はさらに騒然となった。ルデマルク家のルージュは大嘘吐き――この発言は彼女が書簡を捏造したと暗に告げているものだった。
「な、何をおっしゃっているんですの!? 私は嘘吐きじゃありませんわ! 書簡だって、捏造なんてしていません!」
「そうです! 我が家と娘を侮辱するなんて、許しませんぞ!」
ルージュと伯爵は口角泡を飛ばし、食ってかかる。ヴィオレットはそれを見て、内心はらはらしていた。確かにルージュが広めた噂は嘘だが、今の自分は体調を崩すあまり月のものが止まっており、子供を産めるとは言い難い。ルージュの言葉が嘘だという証拠がない今、ブラッドの発言は覆されるかもしれなかった。
するとそれを見ていた国王が声を上げた。
「ルデマルク伯爵とその娘ルージュよ、今は王位継承者の婚約者発表の場だ。発言を控えるがいい」
その言葉に二人は驚き、そして沈黙した。ヴィオレットは国王の言葉にほっと胸を撫で下ろす。ここで噂の真偽を確かめるからと、自分が引っ張り出されたら不味いことになっていた。やがて会場が静まると、ブラッドは王に一礼してから発言した。
「それでは、僕の婚約者を発表させていただきます」
そしてブラッドは愛しい人へ手を伸ばした。
「ヴィオレット様――さあ、前へ」
「え……――?」
ブラッドはそう言うと、ヴィオレットの目を見て微笑んだ。それはいつも男子寮で見ていた優しい笑みで、彼女は泣き出しそうになった。あまりのことに動けず立ち尽くしていると、彼の方からゆっくりと近付いてきた。
「久しぶりですね、愛しいヴィオレット様。“もし僕が求婚したら受け入れてくれるか”と尋ねたら、あなたは“勿論”と返してくれましたね? その気持ち、今でも同じですか?」
「あ、ああ……ブラッド様……私の気持ちはずっと同じです……――」
ヴィオレットの目から、嬉しさのあまり涙が零れる。
一ヶ月間の不安と心配が一気に消え去った瞬間であった――
しかしそれを見ていたルージュと伯爵は声を張って怒鳴り散らした。
「信じられませんわッ! 呪われて死ぬばかりの女が婚約者だなんてッ! あの女は呪いの剣を受けた所為で死ぬんですッ! これは嘘なんかじゃありませんわよ!」
「そうだッ! そいつは呪われている上に伯爵家から勘当された娘だ! 王位継承者の婚約者には相応しくないぞッ!」
するとブラッドは顔を上げ、国王を見詰めて言った。
「陛下、僕はヴィオレット様の呪いの解呪方法を見付けました。そして陛下は勘当された娘でも婚約者にする許可を下さいました。そうですね?」
「うむ、その通りだ。ヴィオレットはやがて健康を取り戻すであろう。勘当された娘であれど、我が認めれば問題はない。何か不満はあるか、ルデマルク伯爵よ?」
「ぐっ……ぐう……――」
「うぅ……――」
伯爵は顔を青ざめさせてわなわな震え出した。
ルージュも首を締められたアヒルのように押し黙る。
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