親友 乙女ゲーヒロイン化作戦

豆子

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プロローグ

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 A組の橘さんは、とっても可愛くてモテモテだ。C組の斎藤さんはとっても優しくて人気者。世の中には、好かれるべくして生まれてきたんだろうなって人が沢山いる。残念ながら私はそんな人にはなれなかったんだけれど。

「湖? 何見てるの?」

そう、目の前で「ぼーっとしてたよ」と微笑むこの子は、好かれるべくして生まれてきた人種だと私は確信している。顔だって可愛いし、何より性格が良い。なのに何故一緒に食堂でご飯を食べているのがイケメンの彼氏でも可愛くて目立つ友人でもなく、平々凡々、大した特技も才能もない私、守田もりたうみなのだろう、と思う。 

この好永よしなが花恋かれんとは物心が付く前から家が隣同士という、よくある形の幼馴染みだ。小さい頃から、人と話すことが苦手な訳でもないし、男の子が嫌いな訳でもないのに、何故か沢山の人と話そうとしない花恋。生徒数の少なかった中学校では人気女子ランキングのトップ10には入っていたものの、小学校・高校では男子と仲良さそうに話している所を見たことすらない。

そしてそのことについて、私に原因があると思っていないこともない。ずっと花恋にべったりな私は彼女の他に友達を作ろうともしなかった。そのせいで、花恋が他の人と話す機会を奪っていたのかもしれない。直接花恋がそんな風に文句を言ってきたことなど一度たりともないが、少し負い目を感じている。

「食堂って賑やかだね~」
「きゃあああああ」

花恋が話し出したのとほぼ同じタイミングで起こった歓声は、食堂の入口の方から聞こえる。
今日はどの王子様が来たのだろう、と視線をチラとやる。私達の通う、この私立花影はなかげ高等学校の生徒会は毎年各学年から二人選出する形で役員が決まっている。つまり立候補演説などはない。選ばれた者は強制的に生徒会の役員になる決まりだ。三年には会長・副会長、二年には副会長・庶務、一年には書記・会計の役職が置かれている。学業成績や部活動成績、人柄などを重視される。今年の生徒会はこれまた顔も頭も今までの比ではないほど良いと言われている。六人全員分のファンクラブが存在する程だ。
そして今日食堂に現れた王子様は黒髪サラサラヘアがトレードマークの生徒会長、一条いちじょうしゅん先輩だった。キングと呼ばれるに相応しい何様だってくらい偉そうな態度が大変鼻につく。

「花恋、教室戻ろう」

私は昔から何故か、同年代のイケメンにそれほど興味がない。小学生のときは戦隊ヒーローのお兄ちゃんが好きだったし、今は30代~40代の俳優が好きだ。最近特に好きなのは田崎たざきまこと(35)です。だから勿論生徒会には興味がないし、ファンクラブにだって加入していない。寧ろ避けたい人種だ。だってよく考えて欲しい。たかが男子高校生にファンクラブて。怖いわ。そんな私と同様にイケメンに無関心の花恋は、そもそもキングが現れたことに気付いているのかもわからない程、周囲のことに疎い。
プレートを持ち上げて席を立った私。お弁当持参の花恋はまだ弁当箱を片付けている途中らしく、私に声をかけた。

「あ、待って湖」
「私、食器戻してくるから先に行ってて」

そう返事して返却口に向かう。「ありがとね」と毎回笑顔でお礼を言ってくれるおばちゃん達に、こちらこそいつも美味しいご飯をありがとうございます、という意味を込めて「ご馳走様でした」と返す。

「うわっ」

急いで花恋を追いかけようと食堂の出口に向かっていたら、出口付近の食券販売機の近くで人にぶつかってしまった。お互い倒れはしなかったものの、相手が持っていた財布の中身がバラバラと零れてしまった。それにしてもこの人財布に入ってる小銭の量多すぎないか。

「す、すんません」
「いえ、私こそぶつかってしまい申し訳ないです」

素早く全ての小銭を拾い上げ、その男子生徒に手渡すと、私は今度こそ食堂を出た。キングのギャラリーもいたことから、結構時間を食ってしまった。花恋どれくらい行ったかな…と足早に廊下を進む。

「わっ、す、すみません」

二階から三階への階段を登ろうとしたら、二階の廊下から花恋の声がした。足を止め、声のした方を覗くと花恋と知らない男子生徒がしゃがみ込んで小銭を拾っていた。さっきの私と同じ状況の花恋に苦笑いしつつ、仕方ないなと手伝いに行こうとした私だが、ふとあることに気付く。一緒に小銭を拾っている男子が、少し頬を赤らめて花恋を見つめているのだ。

「本当にすみませんでした」
「あっ、い、いえ…こちらこそ、拾ってくれてありがとうございます」

私がぼーっと二人を観察しているうちに、彼らは小銭を拾い終えてしまった。じゃあ、とお辞儀をした花恋は階段の方に歩いてくる。一方例の男子生徒はそんな花恋を未だ見つめている。

「わっ、湖!?」

びっくりした~と言う彼女。そうだよね、こんなに可愛いし性格も良いんだから、もっと男の影があっても良いよね。イケメンの彼氏がいてもおかしくないよね。





「って私は思うんですよね!」

家に帰った私は自分の部屋を通り越して妹の部屋に直行した。私と違ってそこそこパリピしてる我が妹、守田もりた木実このみは手に持った携帯ゲーム機から目を離し、「おかえり」と私に言った。先程の私の発言にはノーコメントらしい。

「ん、何してんの」

木実の持ったゲーム機に目を向ける。画面には、漫画に出てくるような男の子が表示されていた。

「友達が結構こういうの好きでさ。おすすめされたからやってる」

ふーん、と空返事をした私は、それが乙女ゲームなのだとすぐに理解した。
イケメン達と絆を深め、恋仲になっていく過程を楽しむゲームだと認識している。

「で、さっきのは何だったの」

飽きたのか目が疲れたのか、ゲーム機の電源を切って私に話しかける木実。私は今日あったことと自分が今思っていることを話す。

「つまり、あんなに可愛くて優しい花恋が目立たないのはおかしいし、彼氏がいないのもおかしい!」
「…こんなこと言うのもあれだけどさ…多分8割くらいお姉ちゃんの所為だよ」

あ、やっぱり? と答えることしかできない。だからって花恋ばなれするのは嫌だ。でもだからって花恋がこのまま私に引きずられる青春時代を過ごすのも嫌だ。

「…よし、決めた!」

花恋に楽しくて充実した学校生活を送ってもらうため、花恋の魅力を皆に知ってもらうため、私は花恋ばなれを頑張る。そして、花恋にはイケメンで優しくて将来有望な田崎誠のような彼氏を作ってもらう。

「花恋、乙ゲーヒロイン化作戦!」

さっき見たゲームで咄嗟に思い浮かんだ。別に少女漫画でも良かったか、と口に出した後思ったが、まあなんでもいい。胸の前で拳を握り締めて少し斜め上を仰ぎ見る私と、そんな私を無視して目にも留まらぬ速度で携帯に文字を打ち込み、友達にメールを送る木実。このシュールな状況に耐えられなくなった私は静かに自分の部屋に帰った。
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