2 / 4
第一話
しおりを挟む
「あ、湖。おは…どうしたの? 大丈夫?」
次の日の朝。家を出たら、いつも通り我が家の前の道に立って待ってくれている花恋。挨拶をした私に同じく挨拶で返そうとしたが、あまりにも私の顔色が悪いことに驚いたようだ。実は昨日、木実が友達から借りたという乙女ゲームを貸してもらい、プレイしてみた。するとまあ話が面白くて一晩で一周プレイしてしまった。最後の方は感動で涙が止まらなかったから、目が腫れているし頭も痛い。乙女ゲームの醍醐味は何周もプレイして違うエンドを探すことだと友達が言っていた、と木実が言っていたから、今日は二周目に挑戦してみるつもりだが、流石に睡眠時間二時間は身体に良くない。自重しなくては。
隣を歩く花恋に、ゲームをしていて寝不足なだけだから心配ないと笑いながら伝えると、ゲームは程々にね、とお咎めを受ける。それに軽く返事をする私に、花恋はまだ心配そうな視線を向けるが、話はすぐに学校の話題に変わった。花影高校は昨日入学式を終え、今日から授業がスタートする。クラス替えでは、めでたく花恋と同じ二年B組になれた。二年連続で同じクラスなのは、私にとっては有難い。しかし昨日、花恋ばなれをすると決めたばかりだから、少しずつ他の友達も作らなければいけない。…不安でしかない。
「転校生、どんな子だろうね?」
「転校生?」
花恋に「先生の話聞いてなかったの?」と呆れられる。今年の担任、話長いんだわ! と内心担任に毒づきながら、花恋の話に耳を傾ける。昨日担任から、私達のクラスに転校生が来るということが伝えられたらしい。しかし、転校生が来るというのは少し前から生徒の間で噂になっていたという。どうやら、見たことないくらいの美女がお母さんらしき女性と二人で学校に来ていたのを、部活生が春休みに見かけたそうだ。そんな噂私のとこまで流れてこなかったんですけど。改めて自分の友達の少なさを思い知った。少しショックを受けている間に、今度は昨日のドラマの話になり、盛り上がったところで学校に着いた。
「出席とるぞー。安達~…」
ホームルームが始まり、先生が出席番号の順番で名前を呼んでいく。クラス替えしたばかりということで、先生や生徒が名前と顔を覚えやすいように今から一週間は出席番号順で並んだ席らしい。非常に有難い。最初に呼ばれた安達さんの方を見ると、不自然に彼女の前の席が空席になっている。あそこが転校生の席なのかな。てか昨日あの不自然な空席に気付かなかった私、普通に周り見えてなさすぎだわ。
「じゃあ、お待ちかねの転校生を紹介しまーす。愛中~」
出席確認してる間ずっと待たせてたのかよ、とは思ったが、前の席の男子が興奮してうるさすぎるのですぐにどうでもよくなった。静かにしろ。お前その頭野球部だな。今私の中で野球部の印象めちゃくちゃ悪くなったぞ。
騒がしい教室に入ってきたのは、本当に芸能人でもなかなか見ないのではないかと思うくらい可愛い顔の女子だった。一瞬静かになる教室。前の席の野球部が小声で「ガチじゃん」と呟く。ガチなのはお前の反応だ。
「愛中杏です。よろしくお願いします!」
愛中さんが、ぺこっと効果音がつきそうな可愛いお辞儀をすると、また教室が騒がしくなった。照れた表情を浮かべながら空いている席に座る愛中さんを、ぼーっと見つめる。白い肌にくりっくりの目。ふわふわ揺れるロングの髪に華奢な身体。一言で言うと、絶世の美女。この間、好きな俳優が相手役として出ていた恋愛映画のヒロイン役の女優を思い出す。ふと例の野球部を見ると、頬を赤らめて愛中さんを見ている。これは恋に落ちた顔してるわ。
担任の長い話が終わるや否や、愛中さんの席に人が集まる。おい安達さん困ってるぞ。廊下にも人だかりができている。私はあれに混ざる気力がないので自分の席で机に突っ伏して寝ている。当然輪に混ざりに行った野球部の席に座って、私の方を向いている花恋が何かを言いかけた瞬間に、廊下から女子の黄色い声が聞こえた。こちとら寝不足なんだよ! と心の中で理不尽なことを叫びながら、ざわついている廊下を見ると、なるほど女子が叫ぶはずだ。生徒会六人の内の二人がいた。二人とも一年時の後半から生徒会に入ったから残念ながら名前はまだ覚えていない。花影高校は中高一貫校だが、他の中学からも結構な人数の生徒を募集する。私も花恋も高校から花影に通うことになった、所謂『外部生』である。これは珍しいことではなく、この学校の半分は外部生だ。花影高校の一年生の生徒会役員は、花影中学校で生徒会に所属していた二名が引き続き選ばれる。しかし、入学後に大変優秀だと判断された外部生がいた場合、三年生が抜けて新体制になるときに選出されることも稀にあるらしい。つまりあの二人は大変優秀な生徒らしい。
「あっ君が転校生ちゃん? めっちゃ可愛いじゃん!」
そんな二人のうち、眉が少しハノ字になっている茶髪の男が、大変優秀な生徒とは思えないくらいチャラそうな口調で愛中さんに話かけた。もう一人の短髪の男は、ハノ字眉に無理やり連れてこられたのか、愛中さんにはあまり興味がないようだ。
「そ、そんなことないですよっ…! あたし、愛中杏です。あんって呼んでね!」
「あははっ、可愛い~! 俺は園宮晃。よろしくね、あん」
その言葉に「うん。よろしくね、晃君」と語尾にハートマークがつきそうな声で返事をする愛中さん。その瞬間場が静まり返った。愛中さんに夢中で質問していた男子や、生徒会の二人のファンは何とも言えない表情だ。そんなことお構いなしに愛中さんとハノ字眉は二人の世界に入っている。 皆が二人に注目する中、ハノ字眉の隣にいる短髪君だけがこちらを見ているのは気のせいや自意識過剰ではないはず。
次の日の朝。家を出たら、いつも通り我が家の前の道に立って待ってくれている花恋。挨拶をした私に同じく挨拶で返そうとしたが、あまりにも私の顔色が悪いことに驚いたようだ。実は昨日、木実が友達から借りたという乙女ゲームを貸してもらい、プレイしてみた。するとまあ話が面白くて一晩で一周プレイしてしまった。最後の方は感動で涙が止まらなかったから、目が腫れているし頭も痛い。乙女ゲームの醍醐味は何周もプレイして違うエンドを探すことだと友達が言っていた、と木実が言っていたから、今日は二周目に挑戦してみるつもりだが、流石に睡眠時間二時間は身体に良くない。自重しなくては。
隣を歩く花恋に、ゲームをしていて寝不足なだけだから心配ないと笑いながら伝えると、ゲームは程々にね、とお咎めを受ける。それに軽く返事をする私に、花恋はまだ心配そうな視線を向けるが、話はすぐに学校の話題に変わった。花影高校は昨日入学式を終え、今日から授業がスタートする。クラス替えでは、めでたく花恋と同じ二年B組になれた。二年連続で同じクラスなのは、私にとっては有難い。しかし昨日、花恋ばなれをすると決めたばかりだから、少しずつ他の友達も作らなければいけない。…不安でしかない。
「転校生、どんな子だろうね?」
「転校生?」
花恋に「先生の話聞いてなかったの?」と呆れられる。今年の担任、話長いんだわ! と内心担任に毒づきながら、花恋の話に耳を傾ける。昨日担任から、私達のクラスに転校生が来るということが伝えられたらしい。しかし、転校生が来るというのは少し前から生徒の間で噂になっていたという。どうやら、見たことないくらいの美女がお母さんらしき女性と二人で学校に来ていたのを、部活生が春休みに見かけたそうだ。そんな噂私のとこまで流れてこなかったんですけど。改めて自分の友達の少なさを思い知った。少しショックを受けている間に、今度は昨日のドラマの話になり、盛り上がったところで学校に着いた。
「出席とるぞー。安達~…」
ホームルームが始まり、先生が出席番号の順番で名前を呼んでいく。クラス替えしたばかりということで、先生や生徒が名前と顔を覚えやすいように今から一週間は出席番号順で並んだ席らしい。非常に有難い。最初に呼ばれた安達さんの方を見ると、不自然に彼女の前の席が空席になっている。あそこが転校生の席なのかな。てか昨日あの不自然な空席に気付かなかった私、普通に周り見えてなさすぎだわ。
「じゃあ、お待ちかねの転校生を紹介しまーす。愛中~」
出席確認してる間ずっと待たせてたのかよ、とは思ったが、前の席の男子が興奮してうるさすぎるのですぐにどうでもよくなった。静かにしろ。お前その頭野球部だな。今私の中で野球部の印象めちゃくちゃ悪くなったぞ。
騒がしい教室に入ってきたのは、本当に芸能人でもなかなか見ないのではないかと思うくらい可愛い顔の女子だった。一瞬静かになる教室。前の席の野球部が小声で「ガチじゃん」と呟く。ガチなのはお前の反応だ。
「愛中杏です。よろしくお願いします!」
愛中さんが、ぺこっと効果音がつきそうな可愛いお辞儀をすると、また教室が騒がしくなった。照れた表情を浮かべながら空いている席に座る愛中さんを、ぼーっと見つめる。白い肌にくりっくりの目。ふわふわ揺れるロングの髪に華奢な身体。一言で言うと、絶世の美女。この間、好きな俳優が相手役として出ていた恋愛映画のヒロイン役の女優を思い出す。ふと例の野球部を見ると、頬を赤らめて愛中さんを見ている。これは恋に落ちた顔してるわ。
担任の長い話が終わるや否や、愛中さんの席に人が集まる。おい安達さん困ってるぞ。廊下にも人だかりができている。私はあれに混ざる気力がないので自分の席で机に突っ伏して寝ている。当然輪に混ざりに行った野球部の席に座って、私の方を向いている花恋が何かを言いかけた瞬間に、廊下から女子の黄色い声が聞こえた。こちとら寝不足なんだよ! と心の中で理不尽なことを叫びながら、ざわついている廊下を見ると、なるほど女子が叫ぶはずだ。生徒会六人の内の二人がいた。二人とも一年時の後半から生徒会に入ったから残念ながら名前はまだ覚えていない。花影高校は中高一貫校だが、他の中学からも結構な人数の生徒を募集する。私も花恋も高校から花影に通うことになった、所謂『外部生』である。これは珍しいことではなく、この学校の半分は外部生だ。花影高校の一年生の生徒会役員は、花影中学校で生徒会に所属していた二名が引き続き選ばれる。しかし、入学後に大変優秀だと判断された外部生がいた場合、三年生が抜けて新体制になるときに選出されることも稀にあるらしい。つまりあの二人は大変優秀な生徒らしい。
「あっ君が転校生ちゃん? めっちゃ可愛いじゃん!」
そんな二人のうち、眉が少しハノ字になっている茶髪の男が、大変優秀な生徒とは思えないくらいチャラそうな口調で愛中さんに話かけた。もう一人の短髪の男は、ハノ字眉に無理やり連れてこられたのか、愛中さんにはあまり興味がないようだ。
「そ、そんなことないですよっ…! あたし、愛中杏です。あんって呼んでね!」
「あははっ、可愛い~! 俺は園宮晃。よろしくね、あん」
その言葉に「うん。よろしくね、晃君」と語尾にハートマークがつきそうな声で返事をする愛中さん。その瞬間場が静まり返った。愛中さんに夢中で質問していた男子や、生徒会の二人のファンは何とも言えない表情だ。そんなことお構いなしに愛中さんとハノ字眉は二人の世界に入っている。 皆が二人に注目する中、ハノ字眉の隣にいる短髪君だけがこちらを見ているのは気のせいや自意識過剰ではないはず。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる