古本屋とおっぱい

灯台守

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3.あの、おっぱい、大きいですね

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彼女が古本屋へ再びやってきたのは、暑い最中のことだった。
おそらく大学も夏休みになっているはずだ。弱くクーラーをかけた店内で、男は麦茶を飲みながらぼんやり本に読み耽っていた。ガラス越しに見える外はいかにも暑そうで、蝉のやかましい声が辺りに響いている。

女は、白いノースリーブの木綿のワンピースを着、麦わら帽子をかぶっていた。髪は一本の三つ編みに束ねてある。足元には、歩きやすそうな皮製のサンダル。そのいかにも夏らしく爽やかな装いは、男の胸を高鳴らせるには十分だった。少しだけちらりと覗く胸元が、健康的なエロさを放っている。

「こんにちは」
女は愛想よく男に挨拶した。光の権化のような、完璧な美しさを備えた女は、男には眩しくて直視できない。
「あ、どうも」
男は彼女から少し目を逸らしながら、そう言うのがやっとだった。
「この間は、Tシャツを貸していただき、ありがとうございました。とても助かりました」
女は紙袋を差し出した。
「洗ってありますので」
男が袋の中を覗くと、例の黒Tシャツの他に、二つの桃が入っていた。
「あれ、これは・・・」
「ああ、田舎の親戚が送ってきたんです。よかったらどうぞ」
甘い匂いが男の鼻腔をくすぐる。まろやかなカーブを描く二つの豊かな果実は、男に彼女の乳房を思わせた。まじまじと桃を見つめた後、女の膨らみをちらりと盗み見た。彼女の「桃」も、きっと熟れた果実のように良い匂いがするのだろう。男はごくりと生唾を飲み込む。
「あの、む、麦茶でもどうですか」
下心を隠しながら、男は女を誘った。
「ありがとうございます、いただいていいんですか」
女は屈託なく男に笑いかけながら、返事をする。
「ど、どうぞ。あの、すっ、座って」
男はちゃぶ台の置いてある部屋に女を通した。
「お客さん、大丈夫ですか。」
「た、たぶん、来ないから、大丈夫」
男は冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、花柄のレトロなガラスのコップに注いだ。男は意外に、可愛らしいものが好きだった。
「可愛いコップですね。いただきます」
女はうまそうに喉を鳴らしながら、茶褐色の液体を飲み干していく。
「はあ、美味しい」
女の感嘆のため息が何とも色っぽく、男の胸はどきっとする。女の顔から目を逸らすと、座布団の上のむっちりした太ももが視界に飛び込んでくる。
男は混乱した。自分から女を招き入れたのに、どうしたらいいのかまったくわからなくなってしまい、オドオドしてしまう。ああ、もう何をしても気持ち悪いと思われそうだ、きっと彼女も陰で誰かに、俺をキモい男だと言って嘲笑しているに違いない。

自虐と被害妄想で頭が一杯になってしまった男は、まるでバグの発生したゲームのように、とんでもない言葉を言い放ってしまった。
「あの、おっぱい、大きいですね」
言ってしまったそばから、男は自分がしでかしてしまったことを悟り、顔面蒼白になった。女の驚いた顔。さっきまでの和やかな雰囲気はどこへやら。
せっかく仲良くなりかけていたのに、全てが無に帰してしまった。いや、無になる方がどんなに良いだろう、むしろ莫大なマイナスが生まれてしまったのだ。
・・・男は自分の過ちを悟った。
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