古本屋とおっぱい

灯台守

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1.男はただ、薄ピンク色の春物ニットに包まれた女の膨らみを見ていた

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男は、その日も彼女のおっぱいを見ていた。
静かに獲物を狙う爬虫類のように、黒縁メガネの下の無機質な三白眼が、薄ピンク色の春物ニットに包まれた、ふわふわと柔らかそうなその女の胸元を盗み見る。
大学の新入生だろうか。彼女の春風のような瑞々しさは、誰からも顧みられることのない忘れ去られた時空の歪みのようなこの古本屋には、あまりにも不似合いだった。彼女は時々、男の古本屋にやってきては、じっくりと本と向き合っていた。

彼女が俺にとって大変眩しく感じられるのは、彼女が生殖に最も適した年齢だからだろうか。俺の子孫を残したいという本能が、彼女の肉体に惹かれてしまうのだろう。男は思った。
だが、女は少しでも良い遺伝子を残したいだろうから、俺のような社会的に何の評価もされない、ただ気持ちの悪いだけの男を好きになるはずはないだろう。彼女のようなおっぱいがでかくて顔も整った女なら、いくらでもいい男を引っ掛けることができるだろう。
男はレジで本を読むふりをしつつ、彼女の姿をちらりと盗み見ながら、そんなことを考えていた。

男なら誰しも多かれ少なかれ、おっぱいへの執着があるものだ。男もまたそうだった。幼少期に母親からの愛情が足りなかったとか、母親との関係が悪かったせいで女性に対してコンプレックスがあるとか、そういう訳ではなかったのだが、他者と関わることが苦手な男にとって、女性のおっぱいは遠い存在だった。同じ次元に存在しているはずなのに、すぐ近くにあるはずなのに、その二つの柔らかい塊に触れることは叶わなかった。

男は「そういうお店」に行けば触れることも無論知っているが、男が触りたいのは、古本屋で見る彼女の膨らみなのだった。これが恋なのか、男にはわからない。彼女の性格はおろか、どんな声で話すのかさえ知らない。彼女についてもっと知りたいような気もするし、知りたくないような気もする。万が一、デートをするようなことになったら、どんな風に振る舞えばいいのかも皆目わからない。
男はただ、その手に彼女の体温と柔らかさを感じながら、自分の押さえきれない欲望をぶちまけたいだけだった。
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