使用人の僕とお嬢様の秘められた情事

灯台守

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10.傷ついた女神

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その翌日、僕がお嬢様のお茶のためにハーブを摘みに温室へ行くと、庭師のポールさんに呼び止められた。
「ちょっと、ジュール。」
「どうしたんですか、ポールさん。」
「ちょっと聞いて、あたし驚いちゃった。」
ポールさんは30代くらいの逞しい男性だが、女性的な話し方をする。
「昨日、お嬢様と、婚約者だっけ?マレシャルさんのご子息が温室にいらっしゃったのよ。」
「はあ・・・」
「まあ、いい男と言えなくもないけど、何だか軽薄そうな方ね。彼がね、お嬢様をぎゅっと抱きしめて、不意打ちでキスをしたのよ!あたしがいることに、気づいていなかったみたいね。」
ポールさんの言葉に、僕の胸はズキッと痛む。
「でもお嬢様は驚いたみたいで、咄嗟に彼を突き放したの。」
マレシャルさんの倅はお嬢様に謝っていたけど、顔はちょっとひきつってたわ。婚約者とはいえ、無理矢理はよくないわよね。あたし、万が一彼がお嬢様に乱暴を働こうものなら、止めに入らなきゃって思って、ハラハラしてた」
「・・・それで、どうなったのですか」
「マレシャルさんの倅は、それ以上お嬢様に触れることはなかったわ。まあ、私が丹精込めて育てた薔薇を勝手に手折っていたのには、ちょっと頭に来たけど。他人の苦労の結晶を自分のモノにして女を口説こうなんて、本当に生意気な小僧だわ」
ポールさんの毒舌に、僕は苦笑した。確かに、彼の言うとおりだ。
「あーあ。お嬢様もお父様の顔を立てるために、あんなつまらない男に嫁がなければいけないなんて、本当に可哀想。」
ポールさんはため息をつきながら言う。
「お嬢様は、あなたのことをとりわけ信頼しているように見えるから、辛い時は話を聞いてあげたりしなさいよ。」
ポールさんの一言に、僕はどきりとした。他の人から見たら、お嬢様は僕を信頼しているように感じられるのだろうか。

僕はその後、ハーブティーを淹れてお嬢様の元に持っていった。
僕は、セルジュに無理矢理唇を奪われたお嬢様が、心配でならなかった。
お嬢様は一見、いつも通りの気高くクールな表情だったが、それは持ち前の気丈さでカバーしているに過ぎないのかもしれない。
「ありがとう、ジュール」
ティーカップを受け取るお嬢様は、少し潤んだ目で僕を見た。ミエル様のお顔から、ほんの少しの弱さが滲み出ているように感じられた。僕はその表情がとても愛おしくなってしまい、ついお嬢様を抱きしめたくなったが、理性で何とか抑え込んだ。

「ジュール、今夜は私のところに来なさい」
お嬢様は僕が部屋を後にしようと踵を返した時、そう言葉をかけてきた。
驚いて振り返ると、お嬢様は涼しいお顔でハーブティーをお口に運んでいた。朝の眩い光の中で、お嬢様のその姿は女神のように神々しく美しかった。
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