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第五章

大草原血に染めて-06

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フォォォ… !
複数並べられたドラグナーの背面のブースターが唸りを上げる。そして、大きな一枚の金属の板の上を、ロープとピッケルを持った騎士たちが強い風に流されないよう走っていく。先頭のものは絶えずハーケンを金属板の隙間や、それこそ面上に打ち込みカラビナを使ってロープを通していく。こうして張られたロープを伝い、騎士たちは移動するのだ。

「最初は吹き飛ばされてばかりでしたが、今はなんとか動けてますね」
この訓練に参加している、ある者のコメントだ。
「ハーネス… と言うんですか? 最初は窮屈に感じていましたが、今はこれが無いと怖くて参加できませんよ」
どれもこれも皆、特注品だ。この作戦のためにヌッツに依頼し、作ってもらった一品である。実際にはルフト・フルッツファグリッターの速度はそう早くない。だが、上空を吹く風の速度は相当なものである。念には念を入れた対応が必須だった。

さて。次は、工房へと移動した。
人がフル装備で5名は入れる大きな樽を、今回の作戦に参加するランダーに取り付ける作業の途中だった。
整備班の班長は言う。
「まぁ、そんなに難しいものではないですね。金属のパーツを作って、ドラグナーの両脇か腹の下にこの樽を固定・取り付けるだけですので。樽自体の出入り口が側面にあるので、これを殺さずに如何に上手く取り付けるかが腕の見せ所ですよ。それよりも… なんです、このバンバスと羊皮紙のバケモンは。こっちの方が難しいですよ」

そして、取り付けの終わった機体からパラグライダーの演習に参加してもらっていた。これにはアギルとフラウの経験者が当たっている。万が一の事故を想定して、シェスターとヘリンさんのスカイアウフ騎にも参加してもらった。
「最初だけだな、皆が戸惑うのは。空に浮いてしまったら、皆が夢中で操縦してるよ。…ああ、今のところ困ったトラブルはないかな? うん、安心して次を回ればいい」
「ええ。私も実際に空で指導している。心配? …やだ、大丈夫だよ。え、私? わ… わたわた私は勿論、何の問題はない。安心するといい」
「今のところ、傍で見ててもそう危ないって場面はないよ。…ボク? ああ、全く心配してない。だって、ボクのライヴ君が立案したアイデアだもの。今回も成功するに決まってるさ!」
「あたしも今は安心して見ていられるわ。特に不安は感じてないわよ?」

そして今、マーダー対策である。
一度対峙してしまったら、その隊旗を見るだけで部隊全隊が使い物にならなくなるという。その効果を自ら味わってしまった身としては、他の練度の低い者と戦わせるのはマズい。あの時の惨劇がフラッシュバックして、一気に戦闘不能に陥るだろう。そういう事態だけは避けなくてはならない。

まてよ?
俺は何かに引っかかった。
…ここは逃げるのもアリ、か…。

…アリ、だな。
俺は決断すると、バンバスの幹にイロイロ書き込むのだった…。

◇     ◇     ◇     ◇

「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸福である。心安らかであろうから。だからこそ、伝えよう。発掘された数々の遺跡が語る、英雄たちの物語を。…皆さん、こんばんは。当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。皆様、ご機嫌はいかがですか?

さて。この章の最初に触れたトリアージュの話が前回取り上げられました。果たして、マーダー卿の脅威にあてられたブラウ・レジスタルスと反乱軍の面々は、どのようにマーダー卿の呪縛から逃れて戦うのでしょうか? 現代に於いてもなお、PTSDの治療には数カ月を要します。マトモにマーダーという人物の影響を受けたライヴ少年の運命はどうなっていくのでしょうか…」

「私は今、スラックフェルト第13遺跡に来ています。そう、ここで大きな戦闘があったとされる場所ですね」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「さて。クーニフ歴3月20日、この地で大きな戦いが再び起きることになります。第二次フラックフェルトの戦いです。前回は惨敗に帰したこの戦いも、今回は少し様子が違ったものとなりました。おそらくは、歴史物の物語で多く扱われていますので、その流れを知る方はきっと多いことでしょう。ライヴ少年はアーサーハイヴにスターファの動きを牽制させ、増援の可能性を打ち消したのです。また、ライヴ少年はマーダーという男についてこのように評価していたと思われます。

『自分の手口・方法論に固執し続ける、豪胆だが愚かな男』

この言葉の裏付けとして、グランデ・ダバージスで発掘されたオベリスクに刻まれた一文があります。

『ライヴ=オフウェイは言った。どうせやることは一緒だ、彼の者は同じ攻め方しか知らない』

つまり、この時点である程度攻略法を見出していたのだと思われるのです」

その点について、ミンダーハイト=ギリアートン教授も同様の意見を述べる。
「計画実行のその日、3月20日はとても晴れていたといいます。何故それが分かっているかというと、グランデ・ダバージスのオベリスクに刻みつけられているためなのです。それも、この日まで毎日の天気が詳細に。それだけ天候を気にしていたと思われます。つまり、ライヴ少年の策は天候に大きく左右されるものであったと思われるのです。そのことはマーダー攻略の糸口をかなり具体的に掴んでいたということであり、後はタイミングだけであったといえるのです」

◇     ◇     ◇     ◇

決行の日、クーニフ歴37年3月20日。朝、斥候の一人が戻ってきた。
「帝国軍はキャンプを張り、我々の進路上約16Giz(約26km)先にあります!」
「ありがとう、ご苦労様』
俺は天を見上げた。天気は十分に持ちそうだ。距離もちょうどいい。この機を逃すのは得策ではない。
俺はブリッジへ上がった。

「日は今日、時は今から。例の作戦を決行します。ブリッジまで上がってきてください」

『-ルーカイラン、敵上空5000Gizまで上昇します-』
「貴艦には本当に無理を言う。どうか無事の帰還を願う」
『-感謝します。…ご武運を!-』
俺達は上昇していくルーカイランに敬礼をして見送った。
「では、俺達も出ようか。…艦長!」
「了解。アジ・ダハーカ、全速前進!」
『-ファグナック、全速前進!-』

◇     ◇     ◇     ◇

それから30分も経過しただろうか。俺達は件のポイントの近くへとたどり着いた。
「ドラグナー隊、全騎発艦!」
俺はレクルート・ファハンのコクピットから叫んだ。アジ・ダハーカの三箇所の甲板から、次々とランダーやスカイアウフが飛び出していく。俺の順番も、あと少し。兵装は両腕に三連装のハンディ・カノンが二基と、大剣。もともとパイルバンカーは両腕についているので、これで全部である。俺は大きく深呼吸をして、カタパルトに足を載せた。
「レクルート、ライヴ、出ます!」
前方からのしかかるような強いGを感じる。ブースター出力も十分。俺はスタビライザー・スラスターで体位の調整を取り、ダッシュローラーの回転を開始、無事に着地した。

ここは… そう、前回辛酸を嘗めた場所。敵艦アイアタルの突入により、敵味方関係なく多大な損害を出した場所だ。その場に来ると、あれから一週間近く経つと言うのに、戦場の回復のひとつもしていない。辺りは焼け焦げ、消し炭のようになった死体が山のように転がっていた。この戦いが終わったら、きっと…。俺は英霊に誓いを立てた。

敵のキャンプが見えてくる。こんな趣味の悪い土地で、よくもキャンプを張れるもんだ。俺は全体を見渡すと、次に上空を見上げた。うん、上手く小さな雲の中に隠れている。

「全隊、散開!」
俺は号令を上げると、固まって走っていたドラグナー隊はバラバラに配置されていく。その中から、スカイアウフ隊が上空へと飛び出した。地上を走っていたこちらの軍勢は、ヘイムダル15騎、ファハン23騎、クアット15騎。良くもこれだけ短期間に回復できたし、また、アーサーハイヴからの援軍も間に合ったものだ。騎士もまた龍馬オプタルを駆り、大きく扇形に展開を図る。兵士は遥か後方で、ガイスト・カノンの発砲命令を待つだけだった。

敵ルフト・フルッツファグリッター:ハイド・ビハインドとフルッツファグ・リッター:チェルーべ、セェレが浮上を開始した。そして俺達の方へゆっくりと回頭。その砲門も俺達に向けられた。…そう、それでいい。

「左右へ!」
俺は叫んだ。ランダー隊は左右へ大きく割れていく。そして、スカイアウフ隊は遙か上空へと高度を上げた。
「砲門開け…、撃て!」
俺達の遙か後方から、ガイスト・カノンの斉射が始まった。その中にはアジ・ダハーカやファグナックのモノも含まれる。

敵さんのドラグナーが出てきた。明らかに俺達とは異なる隊旗を身に着けて、やって来ている。
「ハンディ・カノン、撃て!」
敵にとっては前方と、左右、前方上空から一斉に砲撃を喰らった形となった。敵ドラグナーが面白いように落ちていく。そして、敵旗艦であるハイド・ビハインドが上空へと舞い上がった!

「雷撃戦用意… 撃て!」
敵の遙か上空から、ガイスト・カノンと爆弾の雨が注がれた。ルーカイランである。操舵を自由落下に任せたまま、次々とハイド・ビハインドに命中させる。ハイド・ビハインド上面は、濛々とする煙を吐きながらゆっくりと高度を下げていった。

「空挺部隊! 取り付け!」
俺の号令で、ルーカイランは転舵。自由落下モードから水平飛行モードへと変更。そのまま船首を敵ハイド・ビハインドに向けたまま、後退を始める。そして、下部にいるチェルーべとセェレに向けて発砲! 次々とヒットさせた。
その頃、空挺部隊が自由落下モードでハイド・ビハインドに突進、該当船の上空数メートルの位置で逆噴射、そして各々カタパルトや甲板上に取り付いた。ここからでもパイルバンカーが打ち込まれる音が聞こえる。空挺部隊はパイルバンカーでその巨体を固定すると、両脇や腹部に取り付けてある”樽”を開けた。その樽からは完全装備をした工作部隊が次々とハーケンを打ち込み、ザイルを張っていく。そして攻撃によって開いた穴やカタパルトなどの整備用扉を破壊し、中へと突入した。空挺部隊は工作隊の突入を見送った後、カタパルト奥の格納庫を目指し、足のピックとパイルバンカーを利用して進んでいった。

ハイド・ビハインドの格納庫の幾つかが吹き飛んだ。付近にいた空挺部隊のドラグナーが、爆風で弾け飛ぶ。
そして、何体かの敵ドラグナーが地上に降りてきた。ハイド・ビハインドの舵が大きく切られ、戦線から離脱した。

『-伝令!敵旗艦、ハイド・ビハインドは奪取に成功した。繰り返す、ハイド・ビハインドは我らが手に落ちた!-』
『-うおおおおおおおお!-』
我が軍の士気が嫌でも上がった!
「よし、いい仕事だ! ハイド・ビハインドはそのまま我が方へ転身せよ。敵兵士は投降を呼びかけ、従わぬなら討て!」
『-了解!-』
「で、マーダーの姿は?」
『-ありません。隊旗があった痕跡は確認しましたが、おそらく先に飛び降りたのかと…-』

「…地上のランダー隊、各自索敵を厳に! マーダーが隠れている可能性がある。例え見つけても、戦うな! 繰り返す。マーダーを見つけても戦うな!」
『-了解!-』


地上戦においては、味方の損失も少なく我々の優位を持って戦況は進んでいた。俺は先行部隊の取りこぼしを一騎、また一騎と片付けることに専念している。それもこれも、対マーダー戦に向けての温存だった。

『-さかしい…-』
突然、俺達の海戦に割り込んできた。
『-小賢しい手よのう、わっぱ!-』
突然、チェルーベの軌道が変わった。俺のいる方向へ、側面を向けたまま落ちてくる・・・・・
「総員、全速展開!」
ドウ… ゥゥ …ン!
チェルーべの右舷から大きな火球が弾けた。俺達はダッシュローラーの回転にブースターの噴射を最大に加えて現場から撤退、その爆発から辛うじて難を逃れた。俺は超信地旋回をキメると、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「…総員に告ぐ。いいか、マーダーを見つけても、絶対に手出しすんじゃねぇぞ。とにかく離れて、逃げろ!…ヤツは作戦通り、俺達が落とす!」
心なしか、声がブルってた。
『-ヤダなぁ、君が声を震わせててどうするの! ボクだっているんだよ!-』
「いやいや、怖いねぇ…。怖いよ、シェスター。戦ったからこそわかる。…奴は本気で、強い!」
『-心配しなくても、俺がガイスト・カノンで援護してやんよ-』
「ああ、アギル。その隙があったら頼まぁ…」
『-…大丈夫だ、お前の背中は私が守る!-』
「ああ、頼りにしてるぜ、フラウ…」
『-任せろ、ライヴ-』
「ありがとう、頼りにしてるよ。シュターク」
『-頑張れ、坊や-』
「ヘリンさん、ソレはない」
『-お前は気に食わん。…が、今は味方だ-』
「ありがとう、マーン」
合計六騎のドラグナーが俺のもとに集った。
墜落したチェルーべの炎の向こうから、五体のドラグナーらしき姿がやって来る。一歩、また一歩。焼けた大地を踏みしめながら、それでも確実に俺たちの方を認知し、指向していた。

『-散!-』
轟砲一声、4騎のドラグナーが一気に間合いを詰めてきた。
瞬間、スカイアウフ:シェスターのラーヴァナ、ヘリンのベスティア二騎が空を舞った。アギルのマガン・カドゥガンがガイスト・カノンを構え、右へと騎体をスライドさせる。フラウのラウェルナ、シュタークのダグザード、マーンのバイコーン、そして俺のレクルートはスッと身構え、それぞれ剣を抜いた。敵先頭は… 二騎の白銀のファハン! 独特の文様が施されたスペシャル騎のようだった。

飛び出したのはラウェルナとバイコーン! 二騎ともシールドアタックを避けられ… た勢いで、大きく剣を振り回す!

ヒット! しかし、浅い!
それぞれ足にダメージを受けた白銀のファハンはラウェルナとバイコーンと共に煙の中に消えていった。

続けざまに白銀の敵ヘイムダルが間合いを詰めた! この騎も全身に文様が彫られている。コイツには…

パパパァァ…ン!
銃声三発、右のヘイムダルが三方向からの銃撃を信地旋回で避けた! ラウェルナとベスティア、マガン・カドゥガンの同時攻撃だった。ラウェルナとベスティアが交差するように着地。スピアを構え、右後方へ移動したヘイムダルを追う。

左は… ダグザードがその巨大な剣を振り回していた。その鉄の塊のような剣を、ヘイムダルが剣で… 受けた! しかし、その威力には逆らえず、左方の煙の中へと消える。ダグザードはその剣を唸らせて、ヘイムダルを追って煙の中へと入っていった。

これら四騎に共通していたのは、腰にたなびいている隊旗だった。ダンズン・ボッパ… 踊る人形の紋章である。最後に現れた俺の眼前の大きな影は、多分、間違いない。

風が、吹いた。

炎が嬲られ、煙が消えてゆく。腰の隊旗は、踊る人形・隊長騎!
「マーダー…!!」
俺は大剣を抜いて、切先を敵コクピットに向けた。それを腰溜めにグッと引き絞る。
『-童か…-』
地の底から響くような低い声がバイザーを通して聞こえてきた
「味方を巻き添えにするなんぞ、てめぇは人じゃねぇ!」
『-…で?-』
「よくも俺にあんな酷ェ想いさせやがったな!」
『-…で?-』
「それから…」
『-童、怖いか…?-』
「…ああ、怖いね。怖すぎて逃げ出したいぜ!」
『-そんな中で、よくぞこんな大胆な作戦ことやらかしたな…-』
「ああ、てめぇにゃ立ち回って欲しくないんでな」
『-そんなに効いたかよ-』
「ああ。効いたよ。効きすぎて、俺も駄目になりそうだったわ…!」

俺は仕掛けた!
俺の大剣が、オフツィーア・ベクツェのコクピットに吸い込まれた! が!
マーダーは避けることなく、俺の大剣を握った。
『-甘い… 甘いのだ …甘いのだよ! 全てが甘い!-』
マーダーは俺の体を崩そうと大剣を引き上げた。同時に俺はその大剣から手を離し、ダッシュローラーを回して右へと回り込んだ。その側面からハンディ・カノンを三発、御見舞する。だが、俺の大剣を盾に弾丸を弾いた。そのまま大剣を手放し、大きくフック気味の上からのパイルバンカーが三連! 信地旋回で避けると、今度は左フックからのパイルバンカー三連! 音など聞こえていなかった。ただ反射的にマーダーの動きを追い、反応するだけだった。回し蹴りが飛んで来る。スレスレで避け… ようとすると、踵のピックを起こしてきた。俺は右のパンチを下から食らわし、その軌道を変化させるしかできなかった。

「いきなり… やってくれるやんか…!」
『-その戦い方も小賢しいな…-』

「ぐぁああああ!」
『--フン!』
俺はフェイントをかけてマーダーの軸となっていた左足にケリを入れた。しかし、傷ひとつ入れるどころか弾かれてしまう。マーダーの右足ピック付きの踏み込み三連撃! 俺は転がってマーダーの間合いから出る。そのまま立ち上がり、背を低くして構える。マーダーの膝がきていた! ダッシュローラーで一気に間合いを詰めていたのだ。その体勢からの、右膝! 右へ体をかわし、左腕のパイルバンカーを撃ち上げる! ヒット! しかし…!?

マーダーはその膝を振り抜いた。”爪”が刺さったままの俺はその勢いに負けて引き飛ばされる…!
俺は無様に地を転げ、左のパイルバンカーが破壊された。当然だが、”爪”を撃ち込んだ時点でハンディ・カノンはパージされている。
『-足を、取ったか…-』
「俺の左も持っていきやがって…」

マーダーが右腕のハンディ・カノンのマガジンをパージした。新たに腰からマガジンを突き刺す。そして、発砲音!

そこには、ハンディカノンから光の爪が三本、伸びていた。
『-こういうのは、初めて見たろう…?-』
マーダーは一気に間合いを詰めると、おおきく振りかぶって右腕の”それ”を振り回した! 俺はとっさに体を捻り、右腕のハンディ・カノンで受けた。受けた… はずだった。

光の爪が、めり込んでいた。その爪は俺の右腕の中ほどまで食い込むと、更に力を込めて振り切った。俺は肘でその軌道を変え、腕一本丸々という事態だけは避けようとした。俺の右腕は、真っ赤に焼け、大きく削られていた。指を動かす。なんとか辛うじて動いた! 俺はマーダーの方に目をやった。

”光る爪”が、小さくなっていく。

『-…やるではないか-』
「やかましい! 右腕まで持っていきやがって!」
俺の顔に、嫌な汗が伝う。

『-ライヴ君!-』
シェスターが飛んできた。
『-撤退信号が出たわ! すぐに帰還だよ!-』
「了解!」
俺は差し出されたラーヴァナの手を取ると、そのまま空へと舞い上がった。マーダーに追撃の意思はない。俺を一瞥すると、後方に向かって去っていった。

『-よく頑張ったね! おかげで、前線が随分前進したそうだよ!-』
「…そうか…」

こうして、第二次フラックフェルト決戦は我が軍の勝利を刻んだのだった。
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