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ねこ

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首輪、しっぽ、猫耳。私は猫、そう鏡の中の自分に言い聞かせる。

今日は土曜日。いつもは仕事で忙しい彼だが珍しく明日も休日であるため、朝から部屋でまったりすることになっていた。これから過ごすひとときに胸をときめかせながら、そっと扉を開けリビングを覗いてみる。ソファの上でクッションを手にくつろぐ彼は全身スウェットというリラックスした格好でぼんやりスマホを眺めていた。
すると何気なく顔をあげた彼とふと目が合う。

「どうしたの?はやくこっちおいで」

隠れて見ていたことがバレたのが恥ずかしくて、もじもじしながらも少し間をあけて隣に座った。
そんな私を見て彼は笑いながら静かに引き寄せ猫耳から髪へと手を滑らす。それがとても心地よく、思わず目を閉じていた。

「いいこだね」

すぐ近くでささやくように発せられた言葉に過敏に反応してしまい、照れて胸に顔をうずめると彼は追い打ちをかけるように言葉を重ねる。

「なに?今日は甘えん坊な猫ちゃんだね」

真っ赤になった顔を隠したくてさらにぎゅっとくっつと少し笑ってまた撫でてくれた。





ぎゅるるるる

しばらくそうしてると急にお腹が鳴った。いたたまれない気持ちをごまかすように知らんぷりしていると

「そろそろ朝ごはんにしようか」

優しくそう言って彼は立ち上がった。一緒に用意するため体を起こそうとしたが

「だーめ。今日は猫ちゃんでしょ。ご主人様が持ってくるまでおとなしくしてて」

という言葉とともにおでこにに唇をおとされる。そういわれてしまうと私はもう何もできない。離れていく唇に名残惜しいような感覚を覚えながら、言われた通りおとなしく待つことにした。




準備を終えた彼はスープとパンを持って

「おまたせ」

と満面の笑みで私の隣に座る。いつも向かい合って食べるため不思議がっていると彼は自分のひざをぽんぽんと叩いた。

「猫は人間の食べ方を知らないでしょ。ぼくが抱っこして教えてあげるよ。」

一瞬きょとんとした後、意味を理解しまたもや顔に熱が集中していく。恐る恐る近づきおとなしく抱っこされる様子を見た彼は、満足そうに頭をなでてくれた。その後は「これは果たして猫なのかなどと考える」などと考える余裕もなくなり、ただひたすらに目の前に差し出される朝食を食べることに集中した。

一口食べるたびに「えらいえらい」とほめられ、その甘い表情に絆されているとだんだんと感覚も麻痺していきこれが自然なのだと思えてくる。そしてとうとう最後の一口であるパンをちぎって口元まで持ってきてくれた時、油断していたのか誤って彼の指までくわえてしまった。あっ、と思ったときにはもう遅い。

「こら。噛んじゃダメでしょ?そんなふうにしつけた覚えはないよ」

途端にまじめな顔になり叱られてしまう。そんなつもりじゃなかったんです。しゅんとなり様子をうかがう私に彼はまじめな顔のまま続けた。

「こういう時どうしたらいいんだっけ?」

その眼差しが怖くなり、目の前に差し出された指を私は必死にぴちゃぴちゃと舐め始める。すると彼はにっこりと笑い

「そうだね。いいこ。」

とほめてくれた。だんだんと自分の体が火照ってきた頃、突然もういいよと言うように指が引き抜かれる。口寂しくなってしまったが、これは噛んでしまったお詫びのためであって自分の欲求をご主人様に押し付けてはいけない。

「じゃ、食べ終わったし食器洗ったり掃除したりしてこようかな」

そう言って食べる前の甘さはどこへやら、急に彼は離れようとする。待って、行かないで、今日は一日いっしょに居てくれるんじゃないの?そんな言葉を飲み込み、彼のそでをひっぱる。

「何?言いたいことがあるならわかるようにしてくれないと伝わらないよ。どうしてほしいの?」

どうしたんだろう。やっぱり怒っているのかな。わがまま言ったら迷惑じゃないかな。そんな不安からオロオロしてしまい視線を床に落とす。

「ごめんね、ちょっと意地悪だったかな。甘えたいときは甘えていいんだよ。ほら、おいで」

私はその言葉と甘い笑みに安心して拡げられた腕に飛び込んだ。首筋に顔を埋め込みぐりぐりと頭をこすりつける。

「ふふっ、ほんとに甘えん坊だね。いいよ、きみの好きにしな」

その言葉にスイッチを押され、先ほどの名残から私は唐突に彼のスウェットをめくりあげて胸をちろちろと舐め始めた。彼は一瞬驚いた表情を見せたがすぐいつも通りに戻った。

「ぼくの猫ちゃんは甘えん坊だなだけでなくエッチなんだね」

私を辱めるようなことを言いながらもただひたすらに頭を優しくなでてくれる。そんな彼を近く感じられるこの瞬間がうれしくて舐め続けていたが、ふと彼の様子が気になり顔をあげてみる。

「もう気は済んだの?エッチな猫ちゃん」

唾液でべとべとな私の口周りを彼は指で拭いながらさらに耳元でささやいた。

「今度はぼくがきみを好きにさせてもらおうかな」
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