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第1章

護衛達と仲良くなろう大作戦

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相変わらず勉強して、ロルフと遊んで、ロルフに読み書きを教えて…という数日を過ごしていた俺は、兼ねてより考えていた『護衛の2人と仲良くなろうの会』を実行するかどうか悩んでいた。

検査とか色々あって忙しかったので、なかなかしっかりとした時間が取れなかったのだ。でも取り敢えずは一旦落ち着いたし、取り組んでみてもいいのかもしれない。どのくらいの付き合いになるのか分からないけど、仲悪いよりは仲が良い方がいいと思うし、向こうもやりやすいだろう。

でも問題は、どうやって話す機会を設けるか、ということだ。いくら俺が子供でも向こうからしたら貴族で、公爵家の跡取りだ。扱いは難しいし、立場的に“仲良く“というのが難しいのも理解している。2人の負担にならない程度に交流出来るもの…。うぅん……。


「ねぇセト、勇者は絶対に剣を持ってるの?」


横で寝転びながら絵本を読んでいたロルフが俺を見上げた。どうやら、勇者と仲間たちの冒険譚を描いた絵本を読んでいるらしい。


「うーん、一般的にはそうかも。それが1番誰でも持てる武器なのかもね。ほら、ルークとロイみたいな騎士だって腰にいつも………」


ん??剣???


「セト?」


それだあああああ!!!!


「ロルフえらい!!でかした!!」

「…?よく分かんないけど、セトの役に立てたなら、嬉しい…」


えへへ、と照れくさそうにしているロルフのほっぺをモチモチしながら、俺は考えを巡らせる。そうだ、“剣“だ。

俺は今、魔法の授業しか受けていない。基礎を学び、最近漸く小規模な魔法から実践していて、小さな光の玉くらいは出せるようになった。しかし、剣術は全く学んでいないのだ。

父上としても、今すぐに剣術をやらせる気はないんだろう。俺は毒のせいで身体が弱っているし、そもそも元々剣術のような手荒なことを好むような性格でもなかったからだ。まぁ、セトの話だけど。

加えて光属性だと分かってからは、特に上乗せして剣術を学ぶ必要はないと判断したのだろう。魔法の技術を磨くだけでも十分生きていけるのが光属性だ。いざとなれば魔法で武器を作り上げることすら出来る。

でもやっぱり俺は男の子だし、剣術には興味がある。今は無理でも、もう少し大きくなったら出来るようになるかもしれないし、多分中等部に入れば嫌でも授業で習うだろう。その時に恥をかかないためにも、事前にふわっと触り程度でも知っておくことは無駄ではないと思うんだ。まぁつまり、見ておくだけでも違うのではないかということだ。

こんなこと言ったらまた父上がツテを探して色々動き回らなきゃ行けなくなるかも、と思っていたけど、そう言えば近くに適任がいた。護衛騎士となったルークとロイだ。

2人には俺が外出しないせいで退屈な思いをさせてしまっているし、久々に思い切り体を動かすのも良い気分転換になるかもしれない。彼等は運動をし、俺は剣術を生で見れる。これはかなりwin-winなのでは!?俺って天才か!?


「ロルフ!勇者みたいに剣を使うところ、見たくないか!?」

「…!見たい…!」


っしゃあ!!!そうと決まれば父上と交渉じゃい!!

善は急げと飛び出した俺は、すぐさま父上の書斎に飛び込んだ。そして二つ返事でOKを貰った。やっぱり俺に甘くないか?父上。

「私に考えがある」と自信満々に言い張る父上と、オーウェン公爵家の広い広い庭に繰り出した。勿論ロルフも一緒に。態々父上に呼び出されたルークとロイは少し表情が固かった。何かやらかしたかと思ったのかもしれない。

ルークとロイに大まかな説明を終えると、庭を見渡した父上は、魔法で庭にボコボコと何体もの氷像を創り出した。


「わぁ…」


隣でロルフが感嘆した。父上の魔法は初めて見たので、正直俺も感動している。出来上がった氷像は陽の光を反射させてキラキラと光っているが、溶ける素振りは全くない。サシェ先生が、魔法の練度が高ければ高いほど創った物は丈夫になると言っていたのを思い出す。う~ん、流石父上。


「あれを的だと思えばいい。各々普段の鍛錬のようにやってみてくれ」


父上の言葉に、呆気に取られていたルークとロイが姿勢を正した。成程、そういうことか、と俺も父上の趣旨を理解する。


「剣を使った戦い方を見たい…ということでよろしいでしょうか、セト様」

「うん。魔法も使えるのなら見てみたい。剣を軸として使う魔法はまだ見たことないんだ。サシェ先生が使っているのは杖だから」

「…成程、承知しました」


ルークがにっこりと笑って、ロイはゴキゴキと腕を鳴らした。おおぉ、何だかこれだけで様になっている気がする。


「どちらからいきます?」

「ルークさんからでいいんじゃないですか」

「では、私から」


ルークは氷像からそこそこ離れた位置に立って、それ以外の皆は安全な位置に移動した。もしもの時の為にと、セバスが俺達の周りにシールド魔法を展開させる。本当何でも出来るなうちのセバス。

事前に父上から聞いた話だと、ルークは木属性だ。つまるところ、父上の創った氷像とはかなり相性が悪い。それでも彼は、臆することなく鋭い目付きで目の前の氷像を見据えている。


「3.2.1…始めっ!」


父上の合図で、ルークは剣を抜いて駆け抜けた。鎧をつけているのに軽い身のこなしは、流石としか言いようがない。そのまま氷像との間合いを詰めると、走りながら細かく剣を振りかざした。キンキンキン!と金属が擦れる音がしたと思ったら、次の瞬間には全ての氷像が粉々に崩れ落ちていた。


「…凄い、粉々だ」


宝石の欠片のようになった氷達が、キラキラと蒸発していく。本当に一瞬の出来事だった。10体はあった氷像が、ルークの攻撃によって全て崩れ落ちている。

細身のルークからこんな技が出るなんて予想していなかった為、初めて剣術を目の当たりにした俺は大興奮である。


「ふむ、剣に風魔法を纏わせたな」


隣で父上が満足気に頷いた。成程、解説ありがとうございます父上。通りで色々な所作が素早かった訳だ。見えないだけで、何度も剣を振っていたということだろうか。


「えぇ、仰る通りです。私の魔法は接近戦には向いておりませんので、少々見劣りしますね」


ルークが謙遜しながらも剣を鞘に収める。俺は思わずぶんぶんと首を左右に振った。


「そんな事ない!あんな一瞬で粉々にするなんて、十分凄いよ!?」

「…ふふ、ありがとうございます」


確かに、主に魔法で戦う人達には見劣りするかもだけど、あんな早業見せられたら誰だって感嘆してしまう。

木属性は戦いに向いていないとサシェ先生が言っていたから、ルークもそれなりに苦労をしてここまで登り詰めたのだろう。その努力は、紛れもなく本人の功績だ。


「私は普段、実践には参加しないのです。主に作戦を立てたり、指揮を取ったりが私の役割りですね」


つまり、頭脳派ってコトだな!?めっちゃかっこいいじゃんルーク!!

興奮した俺の横で同じ様に見ていたロイが、自慢げに言った。


「ルークさんの風魔法はかなり高度だ。作戦中どんなに遠く離れていても、風に乗せてその声を届けてくれるから、俺達も安心して取り組める」


その表情からは興奮と尊敬が読み取れた。物腰柔らかなルークと違ってロイは、いつも何かを我慢しているように仏頂面で必要以上に口を開かない。騎士団に所属しているのにやることが貴族の子供の護衛なんて、退屈にも程がある。加えて俺は公爵家の嫡男だ。扱いが難しいというのもあるだろう。

必要以上に接してこない護衛達に、何処か寂しさを感じていた俺は、初めて感情の乗ったロイの声を聞いて嬉しくなった。


「ロイ、言葉遣い」

「あ…すいません。敬語慣れてなくて」

「申し訳ありません、セト様」


ルークに窘められて頭を下げたロイに、俺は慌てて首を横に振る。折角壁が薄くなったかと思ったのに、これじゃ台無しだ。


「オーウェン家の人間しかいない時はロイの話しやすい話し方で良いよ」

「セト様…!」

「幾ら公爵家の子息だからって、こんな子供に敬語使うのも思う所あるでしょ?その代わり、ちゃんとしなきゃいけない所ではちゃんとしてね」

「…じゃあ、遠慮なく」

「ロイ!お前…!」


すんなりと受け入れたロイとは裏腹に、ルークは顔面蒼白といったように取り乱している。まぁ、騎士団の人間が貴族相手にラフに話すことなんて言語道断だろうからなぁ。慌てるのも分からなくはない。でも俺は、カチカチな敬語め話されるより全然こっちの方がやりやすい。


「俺は…」


ルークを制するように、ロイが口を開いた。逡巡しながらも丁寧に言葉を選び取っていく。


「…俺は、平民出身なので。……敬語とか慣れてないし、大目に見て貰えるとありがたいです」


それは多分、勇気の要る告白だったように思う。貴族相手にどうなるかなんて、俺でも想像がつく。それでも、警戒心の強いロイが打ち明けたのだから、主人である俺が受け止めなければ。その勇気も芽生えかけた信頼も全て失うことになる。


「…分かった。俺も、2人の前では猫被らないし、素で話すよ。それでおあいこだろ?」


ニヤッと笑うと、ロイは面食らったように目を見開いた。何か言われると構えていたのかもしれないけど、生憎俺はそんな気狭な貴族様じゃあないんでねっ!


「よろしいのですか公爵様…」


驚くロイの傍らで、弱々しくルークが父上を見た。


「セトがいいなら、私は文句は言わないさ。然るべき場面でしっかりとこなすことくらい、君達なら出来るだろう?」

「……はぁ…承知しました。ではロイの口調には目を瞑りましょう。…私はこのままで行かせて頂きますけどね」


溜息を吐きながらルークが了承してくれた。今のオーウェン公爵家で最も苦労人ポジなのはもしかしたら俺でもセバスでもなくルークかもしれない。これから先苦労をかける気満々なので、ルークには何か良い胃薬を見繕っておいた方が良いかもなぁと思いつつ、俺はロイに目を向けた。


「…さて、次はロイの技を見せてもらおうかな」

「…!」

「よし、じゃあもう一度同じように氷像を建てよう」


そう言うやいなや、父上はルークが粉々にしたのと同じ氷像を複数体建てた。う~ん、今度何かを型どった氷像でも建ててもらおうかな。オーウェン領は特段寒い地域だし、氷像祭りとかしても楽しそうじゃない?

頼んだら父上は喜んでやってくれそうだけど、公爵にそんなことさせるなって怒られるかな。……いや、少なくとも家の人間は怒らないか。父上が家族大好きなことは周知の事実だし。


「ロイ、準備はいい?」

「……はい」


何か言いたげな顔をしたままロイが頷く。俺はあえてそれを見て見ぬふりして、父上を一瞥した。


「では、…3.2.1…始めっ!」


父上の溌剌とした声が庭に響いて、ロイがゆっくりとその剣を抜いた。
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