上 下
13 / 28
第1章

side ロルフ セトとの出会い

しおりを挟む




ボクはロルフ。狼の獣人で、獣化が出来ない役立たず。

ロルフという名前は、ボクを拾ってくれた人間、セトが付けてくれたもの。

ボクは元々群れで暮らしてて、そこには父親も母親も兄弟もいた。けど、居場所はなかった。一族で唯一獣化が出来ないボクは、一族から欠陥品として扱われた。別に暴力を振るわれていたとか、虐げられていたとかそういう訳じゃない。

でも、確かに感じていた蔑みの視線と落胆の目。ボクが言葉を発する度、憐れみと同情と優越感が入り交じった顔をされるのが心地悪くて、必要なこと以外喋らなくなった。そのせいで話すこと自体苦手になったけど、特に支障はなかった。

群れとはぐれたのは、引越しの時。ボク達みたいな狼の獣人は、人間に見つからないように山奥や森の奥で過ごす。そのため、気候によって住む場所は変わる。いくつかの拠点を毎年転々としながら暮らすのだ。

拠点を移す大移動の時、ボクは足を滑らせて崖から落ちた。当然だ。本来は狼の姿で歩く道を、2本の足で歩いていたのだから。幸いそこまで高くはなくてかすり傷程度で済んだけど、家族の群れは落っこちたボクに気づくことなく進んで行って、あっという間に見えなくなった。

ボクは鳴かなかった。鳴けば……声を上げれば、渋々といった感じで助けられて、何事もなく群れに戻っていたかもしれない。でもそうしなかったのは、そこにボクの居場所がなかったから。

一生あそこに居続けるくらいならば、もし死ぬことになったとしても外の世界を見たかった。一族以外の存在と話してみたかった。誰かに、触れてみたかった。


その後、食料を探す道中で人攫いに捕まって売り飛ばされた。ボクは檻の中に入れられて、動物と同じ扱いを受けた。ボクを降りに入れた人間は最初はボクの存在に喜んでいたけど、獣化が出来ないことを知ると急に冷たくなった。こんなもんか、と思った。殴られ、蹴られ、胃液を吐きながら、物凄い形相でボクを睨む男を見て絶望した。

結局ボクは、獣としても人間としても価値のない、欠陥品なのだ。


何もかも諦めて、汚い檻の中で死ぬのをじっと待っていた。欲を言えば最期にもう一度だけ、青い空を見たかったと思いながら、空腹さえ感じなくなったその時。


「起きろ!死ぬな!おい!」


聞いた事のない声が、聞こえた。ボクを殴る人間よりも、ボクに興味のない両親よりも、ボクを蔑む兄弟よりも、綺麗で澄んだ声。

薄らと目を開けると、見たことない男の子がこちらに向かって手を伸ばして、何かを叫んでいた。視界もぼやけて、耳もくぐもっていてよく聞こえなかったけど。

でも何故か、その、空みたいな青い瞳は、はっきりと見えた。


綺麗だ。

いつも見ていた、あの青い空よりももっと。宝石みたいで、キラキラしてて、綺麗。

無意識に手を伸ばしていた。そのそらに、触れるんじゃないかと思って。


それからはあっという間だった。男の子になんか美味しい丸いのを口に突っ込まれて、必死にそれを噛み砕いた所までは覚えていたけど、次に目を覚ましたら、ボクは立派でふかふかのベッドに寝ていた。

顔を上げると空色の瞳を持った男の子がこちらを見ていた。驚きと嬉しさが入り交じったような表情で。

ボクは死んだのかと思ってたから、目の前の男の子がもしかしたら神様なのかもしれないと思った。けどどうやら違うようだった。その男の子は、セトと名乗った。ボクが寝ている間に色々と交渉してくれたようで、ボクはそのままその家に留まることとなった。人間の世界の仕組みはよく分からないけど、どうやら地位のある家柄らしく色々問題があるようだった。


公爵様はいい人だった。セトが決めたのなら、とボクのことをセトに一任することを決めたらしい。奥様も、ステキな人だった。ボクを見ると優しく撫でて、「セトと仲良くね」と楽しそうに笑った。ボクは初めて、家族の温かさを知った。


セトは、本当はボクが自由に過ごせて、歩き回れるようにしたいらしい。でも現状それが出来ないらしくて、セトは何度も申し訳なさそうに謝った。ボクは本当に、何も気にしていなかった。だって元々獣人だった時から、ボクは自由に駆け回ることも、誰かと心から楽しいお喋りをすることもなかったから。

でもここに来てからは、セトの家の広いお庭で遊んだり、2人でおやつを食べたり、お部屋で遊んだり、一緒にお昼寝したり。楽しいことばかりだ。セトがくれるお菓子はいつも美味しくて、綺麗で、楽しくて好き。でも一番好きなのはやっぱりセトだ。

セトはボクが何かすると絶対褒めてくれるし、撫でてくれる。話すのがゆっくりでも、ちゃんと最後まで聞いてくれる。だからボクがこれ以上望むものなんて、何もないのだ。

今はただ、セトに恩返しがしたい。あのごみ溜のような場所から救ってくれて、家族の温かさを教えてくれたセトを、守れるようになりたい。ボクはまだ子供だけど、早くセトを抱っこできるくらい大きくなるんだ。…そうなったら、一緒に寝ることは出来ないかもしれないけど。


「ロルフ、おやつだよ~!」


廊下の向こうからセトの声が聞こえる。どうやら今日の授業が終わったらしい。

魔法が使えるようになって、セトはきっともっともっと強くなる。…でも、セトは少し怖がっていた。今はもう何でもないように振舞っているけど、きっとその不安はまだ胸の中にある。

大丈夫だよ、セト。ボクが、セトを守れるようになるよ。

君がボクを助けてくれたみたいに、ボクも君を助けたいから。


だから待っててねセト。……ボクが立派な獣人になるその時まで。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話

楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。 立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。

【BL】婚約破棄されて酔った勢いで年上エッチな雌お兄さんのよしよしセックスで慰められた件

笹山もちもち
BL
身体の相性が理由で婚約破棄された俺は会社の真面目で優しい先輩と飲み明かすつもりが、いつの間にかホテルでアダルトな慰め方をされていてーーー

犯されないよう逃げるけど結局はヤラれる可哀想な受けの話

ダルるる
BL
ある日目が覚めると前世の記憶が戻っていた。 これは所謂異世界転生!?(ちょっと違うね) いやっほーい、となるはずだったのに…… 周りに男しかいないししかも色んなイケメンに狙われる!! なんで俺なんだぁぁぁ…… ーーーーーーー うまくにげても結局はヤられてしまう可哀想な受けの話 題名についた※ はR18です ストーリーが上手くまとまらず、ずっと続きが書けてません。すみません。 【注】アホエロ 考えたら負けです。 設定?ストーリー?ナニソレオイシイノ?状態です。 ただただ作者の欲望を描いてるだけ。 文才ないので読みにくかったらすみません┏○┓ 作者は単純なので感想くれたらめちゃくちゃやる気でます。(感想くださいお願いしやす“〇| ̄|_)

潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話

あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは マフィアのボスの愛人まで潜入していた。 だがある日、それがボスにバレて、 執着監禁されちゃって、 幸せになっちゃう話 少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に メロメロに溺愛されちゃう。 そんなハッピー寄りなティーストです! ▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、 雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです! _____ ▶︎タイトルそのうち変えます 2022/05/16変更! 拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話 ▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です 2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。   ▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎ _____

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

【完結】会社後輩と変態催眠

にのまえ
BL
成績の良い後輩に劣等感を覚えている元教育係の林藤。しかしある日、妙に緊張した十和田にスマホの画面を突き付けられ彼と残業することになり……。X→@nino_mae_bl

えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回

朝井染両
BL
タイトルのままです。 男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。 続き御座います。 『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。 本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。 前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。

処理中です...