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第1章

まさかのてんこ盛り!?

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「じゃあ、セトくんはここに手を置いて」

「はい」


サイードさんに促されるまま、俺はそっと天秤のような部分の一方に手を乗せた。何も言わず、もう片方にドミニクさんが手を乗せる。


「セトくん、手に力を込めるように意識を集中させてみて。最初はちょっと難しいかもだけど、感覚を掴めば簡単だから」


魔力をこの皿に注ぐってことなんだろうけど、そう簡単に出来るものなのか?

半信半疑で乗せた手に力を込めてみるが、特に何も反応はなかった。そろりとサイードさんを見上げたが、こんなものは良くあることのようで、優しく言った。


「身体の中にある力を手のひらに流すようなイメージだよ」

「はい…」


そう言われたって、やったことないんだから難しいもんは難しい。魔法ってやっぱり習うより慣れろ的なアレなのかな。

う~ん、手に力を集めるイメージ…イメージ……。そういえば、ロルフを助けた時に、手から光の玉が飛び出たことがあった。あの時はバカのアシストかと思ってたけど、あれってもしかしておれの魔法だったのか?確かに手はちょっと熱かったし、あの時はロルフを助けるために必死だったから、力もこもってたかもしれない。

同じように、誰かを助けるイメージで力を込めれば上手くいくかも。取り敢えずロルフを助けるイメージでやってみるか。


「ぬぉおおおお」


牢屋に転がっていたロルフを思い出しながら、俺は必死に全神経を集中させた。奇特な俺の掛け声に、サイードさんとドミニクさんがちょっと変な顔をした気がしたけど、気のせいだと信じたい。

酸欠になりそうになりながら、手に力を込めているとさっきまでビクともしなかった天秤がガタガタと揺れだした。


「良いよ!その調子!気にせず続けて!」


いや、無理だって!!気になるって!!揺れるなら揺れるって最初に言っといてよ!すげー気が散るんですけど!?

内心そう叫びながらも続ける。対するドミニクさんは始終涼しそうな顔で揺れる天秤を見つめている。なんか悔しい。

やがて、ガタガタと揺れていた天秤は光り輝きながら水平な状態でピタリと止まった。どうやらこれがの合図なようで、ドミニクさんはスッと手を引っ込めた。

 
「セトくん、もういいよありがとう。ドミニク、結果を書いてくれる?」


俺は言われた通りに手を戻して、サラサラと紙に筆を走らせるドミニクさんを見つめた。やがて、ドミニクさんの手が躊躇うようにして止まる。


「ドミニク?」


不思議そうにサイードさんがドミニクさんの顔を見る。ドミニクさんはそんな兄を一瞥してから、小さく息を吐いてから再び筆を動かした。滑るように流れていくドミニクさんが書いた文字を見て、サイードさんが息を飲むのが分かった。

やっぱり、嫌な予感がする。


「えぇーと……」

「何だ。何か問題が?」


言い淀んだサイードさんに、途端に表情が険しくなった父上が問う。俺は息を殺すようにしながらことの成り行きを見守った。


「いや…うん……悪い結果ではないんだけど…」

「……」


今までずっと鉄壁だったドミニクさんの眉根に皺が寄った。わぁ、どうしよう。ちょっと怖くなってきた。

ドミニクさんが表情を変えぬまま、自身が書いた紙をひらりと翻した。父上が身を乗り出してその紙を覗き込む隣で、俺は恐る恐る薄目を開けて紙に書かれた内容を読んだ。



セト・オーウェン

属性:光属性

スキル:祈り

加護:■■■■の愛し子







………ん?なんだコレ???



「これは……なんというか……」

「てんこ盛り、だねぇ……」


頭を抱える大人達の横で、俺は一人状況が読み込めないでいた。そんな俺に、溜息を吐いてから父上が説明してくれる。


「セト。光魔法というのは、癒しの魔法の使い手の中で最も優れた属性だ。勿論治癒魔法以外も使えるけれど、光属性の人間の治癒魔法は特段に治癒力が素晴らしいとされる」

「…治癒魔法は、水属性と木属性の人間も使えるんだ。でもそのどちらと比較しても、光属性の人間には敵わない。オマケに治癒魔法だけじゃなく攻撃も防御にも万能なもんだから、属性としての価値が高いんだよね」

「属性に価値なんてあるんですか?」


魔法についての勉強は、属性が分かってから本格的にやるということで、まだサラッとしかしていない。教科書に載っているような知識は知っていても、そういう、というものはまだ何も勉強していないのだ。

それにしたって、魔法の属性1つでその人の価値が変わるなんて馬鹿げたこと、あって欲しくないと思うけどなぁ。


「んー、難しいところだね。魔法を扱う者としてはどれも優劣なんてないと言いたいところだ。でもやはり、人間が定めた特殊なルールや価値観のせいで、見下される属性があるのも事実だね」


サイードさんが眉を下げながら言った。ドミニクさんもコクコクと隣で頷く。そして2人を補足するように、父上が付け足した。


「闇属性なんかはそうだな。使い方をしっかり学べば、他人を傷付けることは殆どないんだが、やはりそのイメージの悪さから毛嫌いされることが多い」


"闇属性"。


この世界にある魔法の属性を学んだ時に、闇属性のことも習った。俺なんかは、その危うい響に少しワクワクしてしまう心が居ないでもないので、怖いとか気味悪いとかは特に思わなかったのだが、この世にはそう思う人もいるらしい。

まぁ確かに、闇魔法って聞くと命を吸い取られそうと思うのも無理はないかも。何となく悪いイメージが先行してしまうのも分かる。でもやっぱり、闇属性の人が悪いんじゃなくて、闇魔法を悪用する人が悪いんだと俺は思う。その点では、他の属性の魔法だって一緒だ。

いつだって道具ツールが悪いのではなく、それを使って悪いことをする人間が悪いのだ。闇魔法だってきっと、人を助けることが出来るし、光魔法で人を殺めることだって多分可能だ。

俺だって充分、誰かを殺してしまう可能性はある。


「光属性は誰もが羨む属性で、注目度も高い。普通は嬉しいものなんだけど、今の君の場合はちょっと何か考えた方がいいかもね。余計な注目を浴びるのは嫌でしょ?」

「あー…」


サイードさんの言葉に俺は同調するように唸った。毒殺未遂事件のせいで注目されないように自粛しているというのに、ここで俺の魔法の属性が光魔法だと知られたら、また要らん注目ややっかみを浴びることになるということだろう。父上がさっきから渋い顔をしているのはそれか。


「うーん、まぁそれだけじゃないけどね」


俺の思いを見透かしたようにサイードさんが言って、ツンツン、と紙に書かれた文字をつついた。


「スキルはさっき説明した通りで、君は"祈り"って書いてあるから、君が心から祈れば何かしら君にとっていい方向に進むというものだと思う。…で、問題は"加護"のほう」

「加護……」


チラリとその部分に目をやる。■■■■の愛し子、と書かれているのは、どうやら俺の見間違いじゃないらしい。サイードさんもドミニクさんも父上も、解読不可能な部分を睨んで唸った。


「いずれにせよ、神か妖精の名前が入るんだと思うんだけど……。ドミニクの力を持っても測定出来ないとなると、存在を知られていないか、新しい存在か、意図的にその神か妖精が隠しているかのどれかだろうね」


うわぁ、絶対アイツだ。あのバカだ。それ以外ありえないだろコレ。


「これは、どういう力なんですか?」


そう聞くと、サイードさんは首を傾げながら口を開いた。


「…正直、分からない。だって肝心の名前が分からないんだもん、どんな加護なのか予想もつかないよ」

「まじですか……」


思わずラフな言葉が漏れてしまい、慌ててて口を噤んだ。少し焦ったけど、大人達は他のことに気を取られていて聞いていなかったみたいで、突っ込んでは来なかった。危ない危ない。


「取り敢えず、もっと細かく解析出来る人間を探すしかないだろうな」

「って言ったって、ドミニクはうちの神殿ではトップクラスの測定の正確さだよ。ドミニクが分からないとなると、神殿の外から探して来なきゃならなくなる」

「仕方ないだろう。他でもない私の息子だ。親としての義務を怠って、万が一セトに何かあったらどうする」

「はぁー…。お前のそういうとこ、ほんと変わらないよね」

「褒め言葉として受け取っておこう」


重苦しい雰囲気が途端に旧友との会話になった。やっぱり、父上とサイードさんはかなり仲がいいらしい。幼なじみってことは、かなり昔からの付き合いだ。今度、子供の頃の父上の話を聞いてみよう。


「つまりまとめると、俺は光属性で、祈ると俺に有益なことが起きて、何かしらの加護が付いてるってことですか?」

「そうだね」

「なんか……ふわっふわしてません?」


光属性なのは分かったし、それがかなり羨ましがられるものなのも理解した。けど、肝心のスキルと、あのバカの仕業としか思えない加護の力がどんなものなのか、一切理解出来ていない。

あまりにもふわふわ過ぎて心配になってきた俺は、ジュエリードロップをひと粒口に放り込んでからサイードさんを見上げた。うん、レモン味だ。


「うんまぁ……。加護については現時点で分かってないことも多いし、スキルについても使ってみないと何とも言えないんだよね。その人特有のものだし」

「成程。ちなみに加護って、珍しいんですか?」

「加護持ちは、昔は例えどんな力でも持ち上げられることが多かったくらい貴重なものだよ。まぁ神殿にはうじゃうじゃいるけど、あそこは者の終着点だからね。君も、何か困ったら神殿においで。…まぁ、アダムが親なら、そんな心配もないだろうけど」

「当然だ」


父上がドヤ顔で頷く。確かに、父上は俺が加護持ちでもそれをダシに商売をしたり、俺を高値で売りつけたりなんてことはしないだろう。それは息子の俺がよく分かっている。


「父上が俺の父上で良かったです」

「セト…!」

「うわ、親バカ~」


サイードさんが白い目で主に父上を見ながら肩を竦めた。俺は父上の腕の中で苦笑いしつつ、どうやったら自称神に会えるか考えていた。取り敢えず会ったら、ここまでノータッチなことへの文句と、加護がアイツのものかどうかの詰問だ。


待ってろ、バカ神…!!!










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