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3章:それぞれのテイマーの道

72. ハイテイマーズとの邂逅

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「ほほぅ、中々思い切った金の使い方をしたのぅ。じゃが、装備のチョイスは良いと思うのじゃ」
「はい、装備が出来上がるのが楽しみです♪」

 ショッピングを楽しんだ翌日、私はいつものようにスライムダンジョンで死に戻りして猿洞窟での訓練を終えた後、ロコさんのプライベートエリアへと来ていた。最近では死に戻りにも慣れつつあり、このままでいいのかと少し心配になっていたりもする……。

「今日の立ち回りの訓練に関してなんじゃが、実は先ほど検証を手伝って欲しいとファイから連絡があってのぅ。申し訳ないんじゃが、そちらを優先しても良いじゃろうか? 今の所、バグモンスターに対する攻撃手段がないのはわっちだけじゃから、早いとこ目途を立てたくてのぅ」

 ロコさんは極力ペットロストアイテムを使わない方法でバグモンスターと戦う手段を探したいらしく、ファイさんと連携を取りながら色々模索している所なのだそうだ。
 私もペットロストアイテムがどういう物なのか知っているため、ロコさんの考え方には賛同している。なので、私との訓練を優先する様に要求する気はない。

「分かりました。攻撃手段が増えればそれだけ戦力が増えますから、そちら優先で全然問題ないです! ……ただ、レキ達のレベル上げをどうするか。何処かお勧めの場所とかはありますか?」
「今のレベル帯であれば『蟻巣の森』が良いかもしれん。そこは様々な種類の蟻が生息しておるのじゃが、倒してもすぐ湧く故に敵探しが楽で人気エリアなのじゃ」

 蟻巣の森は奥へ行くほど強敵になっていくので、敵の強さを見ながら自分のペットに合わせた敵を調整しやすいとの事だ。
 ちなみにこの狩場を選んだもう1つの理由が、蟻はペット育成に丁度良い敵なのでテイマーにも人気があり、そういう人気エリアでは他の者の目があるのであまり悪質な事が出来ず、ハイテイマーズも滅多なことが出来ないだろうと予測してらしい。
 
 私はロコさんから転移先の座標が書かれた紙を貰い、転移屋へと向かった。

 ……

 …………

 ………………

 転移で蟻巣の森へとやって来た私は、早速1匹の蟻と遭遇した。

「転移して早々蟻と遭遇するんだ。えっと、鑑定……レッサーアントか、まずは自分で戦ってみた方がいいよね」

 今の所あまり活躍の場はないが地味に鑑定スキルは上げ続けていて、今は鑑定スキル25となっていた。基本的にスキルレベル以下のモンスターの名前は取得出来る仕様なので、このレッサーアントのレベルは25以下ということになる。
 ロコさんが言うには、対象のレベルと鑑定スキルの差が開いていくと、弱点やフレーバーテキストなど様々な情報が表示されるらしい。

 この蟻の名前からして劣等種であることは分かったが、レキ達をいきなり戦わせるのは怖いため、まずは私1人で戦ってみることにした。

「じゃあ、まず様子見で……スラッシュ! 意外と固めだけど、動きは遅くて苦戦はしなさそう。確かにペット育成向きかも」

 その後もヒット&アウェイで敵との間合いを調整しながら攻撃を続けること数分、特に苦戦することもなくレッサーアントを倒すことが出来た。
 けれど、レッサーアントだと弱すぎてパルのレベル上げ相手としては効率が悪そうだ。そこで私はもう少し森の奥へと進みながら、レキやパルに丁度良いレベルの敵が出てくるのを待った。

「おい、そこのお前」
「はい! ……えっと、なんでしょうか?」
「ここから先は今、ハイテイマーズが使っている。邪魔になるから別の狩場に行け」
「ハイテイマーズ……」

 ――この人達がリンスさんをギルドから追い出し、ロコさんを傷つけ、今もハイテイマーズの名を貶め続ける元凶。

 私を呼び止めたのはハイテイマーズを名乗る1人の男性プレイヤーだった。私は今まで聞いていた話を思い出し、自然と表情が険しくなる。

「……ハイテイマーズが使っていると言いますが、ここはパブリックエリアです。誰にも独占する権利は無いはずですけど?」
「独占などと人聞きの悪いことを言わないでもらおうか。俺は親切で言ってやってるんだ。この先には俺たちハイテイマーズのギルメンが多くいる。……そんな所でうろちょろして、不慮の事故で攻撃が飛んでくる可能性もあるからな。それを未然に防いでるのさ」
「そんな屁理屈がっ!」

 溜まり続けるフラストレーションが今にも爆発しそうになる。けれど、駄目なのだ。
 実は、ロコさんはいつかこういう事が起きるのではないかと予期していた。そしてもし、ハイテイマーズに絡まれるようなことがあれば、相手の狙いが分からない以上下手に相手をせず、運営に通報するなりしてその場を離れろとアドバイスを受けていた。
 
 私はロコさんのアドバイスに従い、その場から離れることにした。すると、それを見ていたハイテイマーズのプレイヤーが話しかけてきた。

「こっちは駄目だが、此処から東に進んだところに木々が赤く紅葉しているエリアがある。ここまでこれる実力があるなら、そっちでも普通にやれるはずだ。……まぁ、何だ。一応迷惑を掛けた形だからな。迷惑料替わりの情報提供だ」

 先ほどまでの人をイライラさせる態度から打って変わって、今度は頬を搔きながら少しばつが悪そうな態度でそう言った。
 もしかしたら、この人は他のメンバーにここでの見張りを言い付けられているだけなのかもしれない。それでも悪質な狩場の独占行為をしている事には変わらないが、その態度によって少しだけフラストレーションで熱くなっていた頭を冷やすことが出来た。

 もし今のハイテイマーズ全員が悪い人ではないのであれば、上層部のプレイヤーをどうにかすればギルドは大きく変わるのかもしれない。そんなことを考えながら、私は先ほど貰った情報の場所に向かう事にした。
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