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3章:それぞれのテイマーの道

65. 私の覚悟とギルド設立

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「待たせてしもうて、すまんのぅ。プログレス・オンラインのルールやら利用規約やらで中々決まらん所があっての、最終調整まで時間が掛かってしもうた」

 ロコさんに運営との交渉を任せて数日が経ち、昨日の夜に交渉が終わったと連絡を貰った。そして今日は、ロコさんのプライベートエリアでギンジさんも含めた3人で報告会となった。
 ちなみに、ギンジさんは初日以降はロコさんに交渉を任せて訓練の毎日だったらしい。実は私もアミューズメントダンジョンクリア後は、いつもの様にスライムダンジョンと猿洞窟での訓練と料理のスキル上げに勤しんでいたので、ギンジさんと同じ立場だ。

「いえ、ロコさんに交渉を任せっきりでしたので申し訳ないです。……それで、最終的にどういう話になったんでしょうか?」
「うむ、まず最重要事項を話すのじゃ……わっちらはバグモンスター対策チームとしてギルドを設立することとなった」

 ロコさんからのギルド設立宣言と共に、1枚の紙を提示された。

 [バグモンスター対策ギルドに対する報酬]
 ・一部課金アイテムの提供及び貸出
 ・運営スタッフ用キャラ育成ダンジョンへの入場許可
 ・ギルド員として運営スタッフを1人所属させる
 ・バグモンスターとの戦闘における損害補償
 ・バグモンスター対策における費用を運営へ請求
 ※請求対象はその都度運営スタッフと協議

 [ナツに対する追加報酬]
 ・レキがバグモンスターである事の公表不可

 [上記報酬を受ける場合の条件]
 ・バグモンスター関連情報の守秘義務
 ・向こう3年間、スキルを使用する公式イベントへの参加を辞退
 ・レキに危害を加えない事を絶対条件に、レキの情報サンプルを提供
 ・バグモンスターとの戦闘で手に入った仕様外アイテムの提供


 凄い。報酬として運営スタッフを1人引っ張って来てるとか、一部課金アイテムの提供だけでなく『バグモンスター対策における費用』という大きな括りで運営から支援してもらえる事も凄いけど、それ以上にこの報酬が私達3人に対してだけじゃなく『バグモンスター対策ギルドに対する報酬』になっている。
 報酬を受け取る条件があるから対象はそんなに多く出来ないかもだけど、報酬対象人数は確実に3人より増えるはずだ。……だけど。

「あの、報酬条件に3年間公式イベントへの参加辞退ってあるんですけど、お二人はそれで大丈夫なんですか? これってつまりテイマーの大会にも武闘大会にも出られないって事ですよね?」

 ロコさんはハイテイマーズの事件以降、大会等の表舞台には出ていないと聞いているが、それでも向こう3年間絶対に出られないという縛りは重くないのだろうか。それにギンジさんだって武闘大会に出られなくなるのは縛りが大きいはずだ。

「わっちは問題ないのぅ。元々公式イベントには出る気は無いんじゃ。……わっちにとっては目立っても良い事はないと身に染みたでな」
「俺も問題ないぞ? 戦いたい奴がいれば直接申し込みに行けばいいだけの話だしな。そもそも俺は公式の大会には出られねぇんだ」
「どうしてですか?」
「昔何度か大会に出てたんだが、それ以降俺と戦うのが怖えって辞退する奴が多く出てな。面倒くせぇからもう大会には出ないようにしてんだよ」

 ――……うん、ギンジさんに関しては深く考えるのを止めよう

 ちなみにこの公式イベントの出場辞退の条件は、報酬の中にあるスタッフ用ダンジョンの入場許可や成長促進系の課金アイテムの支給、そしてバグモンスター対策という大きな括りでの費用支援による大幅な急成長でイベントが荒れることを危惧しての対策らしい。
 確かにそれだけの手厚い支援をギルド員全員に提供するのであれば、大会等のイベントは荒れるだろう。

「それにしても、この報酬と条件を見て一番最初に気になる事がわっちらへの心配とはな。……つまり、覚悟は決まっているという事かえ?」

 正直に言えば今だって怖い。だって運営すらも訳が分からないと言うような未知のモンスターなのだ。レキ達の安全を考えれば進んで戦いたくはない。けれど、私の意志はもう決まっている。

「この前、レキ達とテイマー用のアミューズメントダンジョンに行ってきたんです。それが凄く楽しくて……他にもまだ私達が行った事のない場所がいっぱいあって。……私、プログレス・オンラインが壊れるのが嫌なんです! だから、これからもレキ達と沢山冒険をする為にバグモンスターと戦うことを決めました!」

 ロコさんもギンジさんも静かに私の宣言を聞いてくれた。たかがゲームにここまで熱くなり、レキ達との冒険の為にここまで自分の気持ちを宣言する。他人から見たらそれは失笑しかねない物かもしれない。けれど私にとっては本気なのだ。ここがゲームの中だとしても、レキもパルも本当に生きていて、ロコさんやギンジさんも居る大切な場所なのだ。

 ――これがゲームだとしても、私はこの大切な場所を壊されたくない!

「うむ、お主の気持ち、しかと受け取ったのじゃ。わっちもリアルよりこちらの世界を優先しているでな、よく分からんモンスターなんぞに壊されたらたまらんのじゃ」
「そうだな。俺もまだまだこの世界に満足してねぇ。ソロで倒せてないボスもまだ居ることだしな」
「ふむ、ナツ君の気持ちが決まっていたのはとても喜ばしい。では、早速対策会議と行こうじゃないか」
「っ!?」

 いつの間にか私達の輪にもう1人の女性、ファイさんが入って来ていた。……こういうドッキリ系には本当に弱いので止めて欲しい。
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