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2章:テイマーとしての覚悟

40. 次のステージへ

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 小さな亀裂が無数に入った卵から最後にバリッと大きな音を上げて、白くて小さなドラゴンがひょっこりと顔を見せた。

「パルゥ」
「生まれた!」
「おお、可愛いね! スノードラゴン自体は見たことあるけど、幼体だとこんなに可愛いんだ」
「やはり生まれるシーンは感動的じゃのぅ……わっちももう一体程飼うかの?」

 卵から生まれた小さなドラゴンは、小さくてくりくりした眼で私のことを見ている……とても可愛い。巻き舌交じりの「パルゥ」という鳴き声もとても可愛らしくて大変結構!
 ゲーム的には当たり前のことなのだけれど、やっぱりこの3人の中から一目で私がこの子のテイマーだってことに気付いて貰えるのはとても嬉しい。
 それからも殻をバリバリ割りながら這い出たこの子は、小さな翼をはためかせて私の方へと飛んできた。私はそれを胸で受け止め抱きかかえると、頭に乗っていたレキがズルっと落ちてきて超至近距離でクンクンしだした。

 ――レキも興味津々だね。新しい子の方も全然怯えてないし、皆で仲良くやっていけそう。

「う~ん、名前をどうしようか迷いますね。うっかりしていて何も考えてなかったです」
「レキの時はどうやって名付けたのじゃ? あの時はすぐに思いついておったようじゃが」
「あの時は……何となくレキって名前を付けようって思えたんですよね」

 あの時は本当に自然と、前の飼い犬の名前を付けようと思い至ったのだ。けれど今回に至ってはそういった物はとくにない。
 私が首を傾げて「う~ん」と唸っていると、この子も首を傾げ「パルゥ?」と不思議そうな顔をして私を見上げて来た。

「……うん、よし! この子の名前はパルにします!」
「あはは、ナツちゃんならきっとその名前を付けると思っていたよ♪」
「ちょ、それどういう意味ですか!?」
「ナツ、すまぬ。……わっちもナツならパルかパルゥという名前にするだろうなと考えておった」
「ロコさんまで!?」

 その後も2人から笑われてしまったが、別にいいのだ。パル、うん、とてもいい名前じゃないか!
 そんなこんなでこの小さなスノードラゴンの名前はパルで決定した。そしてパルも含めた皆でロコさんお手製のお菓子に舌鼓を打ちつつ、今日の私のパフォーマンスや他の出場者のパフォーマンスについての思い出話に花を咲かせていった。

「それにしても、よくあれだけハイレベルな参加者の中で2位に成れたのぅ。確かにミシャから根拠は聞いておったし、勝算のある戦いなんだとは思っておった。じゃが、正直あの参加者たちのパフォーマンスを見ていたら、入賞はちと難しいかとも思ってしまっておったよ」
「私もあの参加者の中で本当に2位になれたなんて、もしこれが夢オチだったとしても『あぁ、やっぱりね』って納得できちゃいます」
「も~、勝算はあるってちゃんと説明したのに私に対して信用低すぎない? 私はプログレス・オンラインで1番のプロパフォーマーだよ?」
「いえ、信用してなかった訳じゃないですよ!? ただ、本当にみんな凄かったので」
「……まぁ、ナツちゃんは本当に良く頑張ったと思うよ? 実際理屈の上で勝算があったとしても初めての本番であれだけ練習通りに動けるのは凄いことだからね」

 そんな話をしつつも祝勝会は楽しく進んで行った。

 ……

 …………

 ………………

「さて、今日の思い出話も一通り出尽くした所じゃし、ちっとばかしナツのこれからの話をしても良いかの?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「うむ、まずはこれを渡しておこう。『闇のスティグマ』の上位モデル『常闇のスティグマ』じゃ」

 私はロコさんから新しいタトゥーシールを受け取ると、今着けている物と交換しロコさんに前の物を返した。
 新たなタトゥー『常闇のスティグマ』は前の物より縦に少し長い物となっており、前の物は目の下から顎上までの長さだったが、新しい物は鎖骨あたりまで伸びている。『常闇のスティグマ』でこの長さなら最上位モデルだとどんなデザインになるのだろうか。

「そいつのMP自動回復効果と魔法系統スキルの上昇率UP効果は同じじゃが、HP上限の低下デバフは3割から4割に上がっておる。ほぼ半分になるので気を付けるのじゃぞ」
「HP4割カットはなかなかきついデバフですね。ただ、これまでも極力相手の攻撃を回避していく戦い方だったので、より一層気を付けるぐらいな気もします」
「うむうむ、下手に気負わんのは良いことじゃ。それと、ナツはこれでスキル値60までの育成環境と2匹のペットを手に入れたことになる。そこでこれからの方針なんじゃが……」

 それからの話を簡単にまとめると。
 ・最初はペットの多頭飼いにおける連携訓練を行う
 ・ある程度戦い方が固まって来たら、バフ料理の素材集め兼レベル上げに良い狩場に移る
 ・ペット育成に関しては暫くロコさんが一緒に行動してくれる
 という感じだった。

「あの、暫く一緒に行動して頂けるのはとてもありがたいんですけど……時間的にも労力的にもロコさんの負担になりませんか?」
「いや、大丈夫じゃ。わっちは半分隠居した身で、普段はこの家でペット達と戯れるぐらいしかやっておらんからの。それに、多頭飼いや他プレイヤーが居る狩場での立ち回りは覚えることが多いでな、最初に覚えておいた方が良いじゃろう」
「なになに? ロコっち随分過保護じゃない?」
「……先日ナツがMPKされかけたんじゃよ。犯人はペットを使ってモンスターを引き連れて来たそうじゃ」
「あぁ、なるほどね」

 そう言って2人は深刻そうな顔になり、暫く沈黙の時間が流れた。

「ロコさん。前にMPKの話をした時もそうでしたけど、ロコさんは何か心当たりがあるんですか?」

 前に複数のゾンビと戦った話をした時、ロコさんはそれに心当たりがあるようなことを言っていた。けれど、その時のロコさんがとても辛そうな顔をしていたから、それを追及することが出来なかったのだ。
 
 ――でも、ここまでロコさんが私のことを考えて行動してくれるのであれば、私がその理由を知らない訳にはいかない。

「恐らくじゃが、このMPKを仕掛けて来た者はハイテイマーズという最近評判が最悪なギルドじゃ」

 ロコさんは辛そうな顔をしながら、懺悔するように言葉を紡ぎだす。

「そしてこのハイテイマーズの創設者は……わっちじゃ」
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