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エール号、出航
「頑張ったな。」
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うみがドアを閉めると、広場から嘆き声が響き渡った。
孤独に耐えきれなくなったモンスターがあげる悲鳴のようで、先程の怒鳴り声とのギャップに、ゆのかは少し驚いた。
「あ…の……」
「ん?」
「あの……方…達……」
「あぁ。気にしなくていいよ。」
あまりにも悲しそうな声に、先程まで萎縮していたゆのかが、思わず心配してしまう。
「どーせゆのかは、この後あの人達に、うんざりするほど絡まれるだろうし…それに、びっくりしたでしょ。」
「え……?」
「さっき。」
見透かされているようで、心臓がドキリとした。
「基本、男所帯だし、体鍛えてる人も多いし、悪い人達とやり合うこともあるから…あの風貌で、ああいう口調になっちゃうんだよね。
あの人達的には、俺にちょっかい出そうとしてるだけで…別に怒ってたわけじゃないよ。」
「え……?」
「初めて見ると迫力あったよね。怖がらせてごめん。」
仲間の代わりに、うみは謝った。
(私が、変だったの…気づいて……連れ出してくれた…?
っ、駄目…早速、迷惑…かけた…!)
決意がこんなにも早く崩れるなんて思ってもいなかったゆのかは、謝罪するべく口を開いた。
「あ…のっ」
「ここにいたのか。」
だが、ゆのかの声は遮られた。早足で近づいてきたのは…副船長で、ゆのかの大好きな星だった。
「星…さん…」
「ただいま。」
「おかえり。よく帰ってきたな。」
「ギターも無事、奪還できたよ。」
「助かった。」
「いーえ。」
星は広場の嘆き声には触れもせず、ゆのかに目を向けた。
「ゆのか、おかえり。
大丈夫だったか?」
「…………。」
ゆのかは、困ったような顔をした。
「どうした?」
「た…だいま……って…言って…いいのかな……って…」
成り行きで仲間になると決めてしまったゆのか。だが、実際は、まだ船長に挨拶すらしていない。
ようやく、家出成功を実感してきたゆのかに、初めて乗る船を本当の家のように扱っていいのか……気持ちが追いついていなかった。
すると、くしゃっと頭を撫でられた。
「いいに決まってるだろ。
今日からここが、ゆのかの家なんだから。」
「っ……」
家を飛び出したゆのかにとって、頼もしく温かい言葉だった。
(星さんとあいるさんが、いる場所に…帰ってきていいんだ………)
泣いたら、目立つかもしれない。うみの気を悪くしてしまうかもしれない。だから、船に戻るまでの間は、どんなに怖い思いをしても、泣くことはなかった。
だからだろうか。兄のような星を前に気が緩んで、涙が溢れそうになる。
「た…だい…っ…ま………」
「おかえり。」
「っ……!」
とうとう、涙がポロリと零れ落ちた。
「っく……ふ…」
「ん。」
星が両手を広げる。ゆのかは、躊躇いなく星に抱きついた。
星は、照れる様子すら見せることなく、ただ優しく、愛おしげにゆのかの頭を撫でていた。
「もう大丈夫だ。頑張ったな。」
淡々と、短い言葉の中に…今日のことだけじゃなく、今までのゆのかへの労いの意味が含まれているような気がして。ゆのかの涙は、次々と溢れていった。
「っ……う…っく……
せっ……さ…ん……ご…ごめっ…」
「いいんだよ。謝るな。」
家に戻るという重圧から解放され、こんなにも幸せな気持ちになるなんて……ゆのかは、魔法をかけられているようだった。
「うみ、ありがとな。行ってくれて、マジで助かった。」
「いーえ。
船長室に、挨拶に行こうとしてたんだけど……一旦俺だけで行ってくるよ。」
「あぁ。落ち着いたら、連れてく。」
うみは、小さなゆのかの背中をチラッと見て…船長室へ向かった。
孤独に耐えきれなくなったモンスターがあげる悲鳴のようで、先程の怒鳴り声とのギャップに、ゆのかは少し驚いた。
「あ…の……」
「ん?」
「あの……方…達……」
「あぁ。気にしなくていいよ。」
あまりにも悲しそうな声に、先程まで萎縮していたゆのかが、思わず心配してしまう。
「どーせゆのかは、この後あの人達に、うんざりするほど絡まれるだろうし…それに、びっくりしたでしょ。」
「え……?」
「さっき。」
見透かされているようで、心臓がドキリとした。
「基本、男所帯だし、体鍛えてる人も多いし、悪い人達とやり合うこともあるから…あの風貌で、ああいう口調になっちゃうんだよね。
あの人達的には、俺にちょっかい出そうとしてるだけで…別に怒ってたわけじゃないよ。」
「え……?」
「初めて見ると迫力あったよね。怖がらせてごめん。」
仲間の代わりに、うみは謝った。
(私が、変だったの…気づいて……連れ出してくれた…?
っ、駄目…早速、迷惑…かけた…!)
決意がこんなにも早く崩れるなんて思ってもいなかったゆのかは、謝罪するべく口を開いた。
「あ…のっ」
「ここにいたのか。」
だが、ゆのかの声は遮られた。早足で近づいてきたのは…副船長で、ゆのかの大好きな星だった。
「星…さん…」
「ただいま。」
「おかえり。よく帰ってきたな。」
「ギターも無事、奪還できたよ。」
「助かった。」
「いーえ。」
星は広場の嘆き声には触れもせず、ゆのかに目を向けた。
「ゆのか、おかえり。
大丈夫だったか?」
「…………。」
ゆのかは、困ったような顔をした。
「どうした?」
「た…だいま……って…言って…いいのかな……って…」
成り行きで仲間になると決めてしまったゆのか。だが、実際は、まだ船長に挨拶すらしていない。
ようやく、家出成功を実感してきたゆのかに、初めて乗る船を本当の家のように扱っていいのか……気持ちが追いついていなかった。
すると、くしゃっと頭を撫でられた。
「いいに決まってるだろ。
今日からここが、ゆのかの家なんだから。」
「っ……」
家を飛び出したゆのかにとって、頼もしく温かい言葉だった。
(星さんとあいるさんが、いる場所に…帰ってきていいんだ………)
泣いたら、目立つかもしれない。うみの気を悪くしてしまうかもしれない。だから、船に戻るまでの間は、どんなに怖い思いをしても、泣くことはなかった。
だからだろうか。兄のような星を前に気が緩んで、涙が溢れそうになる。
「た…だい…っ…ま………」
「おかえり。」
「っ……!」
とうとう、涙がポロリと零れ落ちた。
「っく……ふ…」
「ん。」
星が両手を広げる。ゆのかは、躊躇いなく星に抱きついた。
星は、照れる様子すら見せることなく、ただ優しく、愛おしげにゆのかの頭を撫でていた。
「もう大丈夫だ。頑張ったな。」
淡々と、短い言葉の中に…今日のことだけじゃなく、今までのゆのかへの労いの意味が含まれているような気がして。ゆのかの涙は、次々と溢れていった。
「っ……う…っく……
せっ……さ…ん……ご…ごめっ…」
「いいんだよ。謝るな。」
家に戻るという重圧から解放され、こんなにも幸せな気持ちになるなんて……ゆのかは、魔法をかけられているようだった。
「うみ、ありがとな。行ってくれて、マジで助かった。」
「いーえ。
船長室に、挨拶に行こうとしてたんだけど……一旦俺だけで行ってくるよ。」
「あぁ。落ち着いたら、連れてく。」
うみは、小さなゆのかの背中をチラッと見て…船長室へ向かった。
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