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再会

交わした約束

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「私…春から、みんなと別の中学校に通うんだ…
 だから…今日は……みんな…と……っ、さよなら…しなきゃ……いけ、ないの…っ」

 祖父に引き取ってもらえて、ゆのかは幸せだった。
 祖父は、家族になってくれた。家の人達も、1人になったゆのかに優しくしてくれた。
 幼馴染にも出会えた。
 伸び伸びと、何不自由なく暮らすことができたのは……ゆのかの祖父が、州長だったおかげで
 そんな祖父を支えていたのは…きっと、祖母だった。

(だから、みんなから引き離そうとするおばあちゃんに背くのは……おばあちゃんを恨むのは、きっと駄目。
 それに…背いたところで、航ちゃんが許すわけないもん……)

 “このお別れは仕方ないこと”……昨日何度も、自分に言い聞かせた言葉を、もう一度頭の中で唱える。

「みぃちゃん…に、っよろしくね…?
 みぃちゃんの、こと…放り出して…申し訳ないけど……っく…」

 分かっているはずなのに…涙がドッと、溢れた。嗚咽が混じって、視界がぼやける。

(苦しい……お別れ、したくない………
 みんなと……ずっと、一緒にいたい……)

 何度も忘れようとした思い。結局、消し去ることなんてできなかった。

(でも、みんなには…これ以上、迷惑をかけられない……)

 気持ちを振り切った。

「私……っ、みん、な…のこと…っ、本当に、大好き!今も…この先も…ずーっと…!!
 今まで…ありがとう………」

 ボロボロ涙を流すゆのかを見て、大和は戸惑った。

「な…泣くんじゃねぇよ!
 一生の別れじゃあるまい…中学が違うだけで、たまに会うくらいはできるだろっ?」

 大和が、ゆのかの頭を、ポンッと撫でた。

(…そうだったら、いいのに。
 それすらもう…叶わないんだ…………)

 また、胸が苦しくなって…せっかく、大和が慰めてくれているのに、涙は止まらない。

「まさか…航に何か、言われてるのか…?」
「二度と会うな、だって。
 だから、もう……っ、3人とは…会えない…これからも、ずっと。」

 冗談で言ったつもりの“一生の別れ”が、現実となり大和の顔が、引きつった。

「そっ…そんなこと、言われても…なぁっ?よしっ!」
「……大和。
 ゆのかのこと…大切に思っているか?」
「何、当たり前のこと…聞いてるんだよ…?」
「お前は昨日、航に殴られそうになった。みぃが庇ったけど…頬が腫れるくらいには本気で殴っていたんだろう。
 ゆのかだって…あの航に“罰を与える”と言われていた。俺達だけじゃない。これ以上一緒にいたら、ゆのかにも危害が加わるかもしれない。
 だったらお互い、会わない方がいい。」

 そう…それが、“正しい答え”。
 大和は、納得いってないようだった。

「けどっ…このままじゃ、ゆのかを見捨てることになるじゃねぇか!!」
「…それで、いいの。」
「よくねぇっ…そんなの、おかしいだろ?!!
 なんで、ゆのかがっ…」
「私が!!」

 声を荒らげたのは、久しぶりだった。大和はびっくりして、言葉を失っている。

「私がっ…我慢すれば…全部、収まるの…
 もう、充分だから……私は、他所の州から、来たのに…みんなは、仲良くしてくれた……
 もう、いいの……だから…っ…もう私に、関わらないで!!」
「ゆのか。」

 良也は、叫ぶゆのかの手を、ギュッと握った。

「ゆのかが、俺達を巻き込まないために…別れを切り出したことは、分かってる。
 悔しいけど…俺達は、まだガキで。こんな状況からゆのかを助ける方法も、みぃが目を覚ます方法も…何も分からない。」

 良也は、あまり感情を出さない子どもだった。
 いつも冷静で、動じなくて、無愛想と言う人も、子どもらしくないって言う人もいた。

(よしくんの手……あったかい。)

 ゆのかは思わず、良也の手を握った。

「でも…死に物狂いで、見つけてやる。
 必ず、ゆのかを助ける。必ず、みぃを元に戻す。必ず、また会える機会を作り出す。
 充分じゃない。俺は…もっともっと、ゆのかと一緒にいたい。」

 心の奥から、勇気が湧いてくるような気がした。

(こんな必死になっているよしくん…初めて見た……
 私………本当に…みんなと一緒にいても、いいの………?)

 泣き止んだゆのかに、良也は笑いかけた。

「何年かかるか、分からない。その間に、ゆのかが辛い目に遭う可能性だってある。
 でも…また会える日まで、待っててくれないか…?」

 別れは、悲しい。それでも、一緒にいたいと一生懸命伝えてくれたことが、ゆのかは嬉しかった。
 良也と大和が、小指を差し出した。
 ゆのかも、小指を出して…2人の小指に絡ませる。
 また会おう。指切りをして約束を交わす。
 不確かで曖昧な約束。でも、とてもあったかい約束。

 この約束が、今日までを生き抜くための理由になるなんて…この時のゆのかは、思いもしなかった。

「2人が、また会える方法を探すなら…私も、それを探してみる。
 今のところ、頼み込む以外の方法が見つからないけど。」
アイツ、ちょっとしたことで怒るからな。気をつけろよ。」
「大丈夫。きっと、2人よりは見つけやすいだろうし………また、みんなに会いたいもん。」
「…自分の身の危険を感じたら、すぐやめとけ。」
「分かった。」

 本当はこんな話じゃなくて、もっと楽しいことをお喋りしたかった。
 それでも……別れの時は、すぐ目の前にあった。

「本当に…本当に、ありがとう。
 ばいばい。」
「おうっ!」
「またな。」

 僅かな力で絡み合った小指を、これほどまで離し難いと思ったことは、きっともうない。

(今まで、仲良くしてくれて…ありがとう。
 私は、みんなに出会えて……本当に、幸せだった。またいつか、会おうね。)

 心の中でも、何度もお礼を言った。
 水湖が、早く元気になることを祈って…ゆのかは、大切な幼馴染達と別れた。


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