13 / 35
再会
大きな過ち
しおりを挟む
◇◇◇
「ゆのかっ、今日の放課後、私んち来てよ~
お母さんが、ケーキ作ったんだって!せっかくだから、海に持っていって食べよーよ!」
次の日の休み時間、水湖がゆのかの腕に絡みつく。
「おっ、ケーキ!いいねぇ~!!
オレの大好物じゃん!!よしも来いよ!今日、塾ない日だろっ?」
「いや、俺は別に…」
襟元を掴まれた大和に、良也は迷惑そうな顔をする。
「誰もあんた達、誘ってないしっ!」
「えぇ~いいじゃん!
みぃのケチィ~!そんなんじゃ、モテないぞ…ウグッ!」
「よけーなお世話!!」
水湖の鉄拳が、大和の顎に炸裂。良也は呆れ顔をしている。そんな…いつもと変わらない生活。
……だが
『今日から放課後、遊びに行くの禁止。
破ったら罰、って昨日言ったよね?』
朝、学校に行く前、航に言われた言葉が、ゆのかの頭を支配する。
(罰って…何…?
お家、帰ったら…おじいちゃんはいなくて……あの怖い航ちゃんが、いるの…?
嫌だ…どうして航ちゃんは…あんなに怖くなっちゃったの?元の航ちゃんは、どこに行ったの…?)
泣きそうになるのを、必死に耐える。
葬式の次の日。本当なら、学校を休んでもよかった。
それでも何とか登校したのは…恐ろしい祖母と航がいるあの家に居たくなかったからだ。
「…………いっ!
おい、ゆのか!」
大和の声に、ハッと我に返った。
3人が、ゆのかに視線を送っている。咄嗟に、明るい声を出す。
「あ……ごめんね!
えっと…聞いてなかった。何?」
「…大丈夫か?」
大和の腕から逃れた良也が、心配そうにゆのかに聞く。
(きっと…おじいちゃんが亡くなった次の日だから、元気がないんだろうって…みんな、心配してくれてる……)
なんて言えばいいのか分からず、ゆのかは必死に考えた。
(航ちゃんが帰ってきたよ…って、言うべき…?
でも、あの航ちゃんを見て……みんな、何て思うかな…………)
言いたい気持ちと、言ってしまえばみんなが傷つきそうな気がして……さらに深く考え込む。
(でも………みんなに隠し事はしたくないし……
でも…でもっ……!)
何が正しいのか、分からない。ゆのかはもう、頭がぐちゃぐちゃだった。
「ちょ…ゆのか?!
えっとっ……ハンカチ…ハンカチ………あれっ、ポッケにない!!!」
いつの間にか、ボロボロ泣いていたゆのか。水湖が、慌ただしくハンカチを探す。
そんな水湖を横目に…良也はゆのかに、ティッシュを渡した。
「大事な人が亡くなって…大丈夫なわけないよな。」
「よし…くっ…」
「あのイヤミなババアに、何か言われたのか?
それとも…他に何かあった?」
「っ…!」
良也の優しい言葉に…ゆのかは、我慢の糸が切れてしまった。
「航…ちゃんっ……帰っ…て…きたの…っ………」
3人の表情が固まった。
「航くんが、帰ってきた……?
どういうこと?!!」
水湖は、ハンカチを探すのを止めて、目を大きく開いている。
「昨日……っ、突然…私の家に…来て……っ……
私の…ボディー…ガード……っ、する…って……」
「マジかよ…っ!
アイツ、帰ってきたのか?!すげぇじゃんっ!!!」
「……なんでゆのかは、泣いてんの?」
嬉しそうな大和とは対照的に、良也は冷静だった。
「私だってっ……航ちゃんが、生きててくれて……会えて……本当に…嬉しかったっ…!……でもっ…航ちゃん…変わっちゃった…」
この2年間、航に何があったのかは知らない。
だが、確実に……航は、あの時の航ではなかった。
「怖…くて……っ、どうすれば、いいか…分かんなくて……ふっ…く…」
ゆのかの手を、力強く振り払った航。ずっと無表情で言葉は冷たくて、ゆのかに憎しみをぶつけるように笑っていた。
何か訳があるに違いない。そんな可能性が考えられないくらい…祖父を亡くしたゆのかに、心の余裕はなかった。
「じゃあさっ!」
大和が、明るく口を開く。
「今日、ゆのかんちに、遊びに行ってもいいか?」
「……え?」
「航にも、久しぶりに会いたいし!
覚えてるか?航ってさ、昔はすげぇチビで、俺がいなきゃ、上級生にいじめられてさ……航と2人でよく、仕返ししてただろ?
だから…もし、航が変わっても……戦友の俺なら、何とか出来る気がすんだよな!………なーんて。」
「私も、航くんにめちゃくちゃ会いたい!!
ゆのかの様子も変だし、私も遊びに行ってもいいかなっ?」
水湖も、大和の意見に賛成する。
「よしは?来るよなっ?」
大和が良也に聞く。ついてくるのが当然のような空気に、良也は溜め息を1つ吐いた。
「俺は……あまり、乗り気じゃない。」
「なっ…!なんでだよっ!?」
「今の州長に関して、あまりいい噂が流れてないから。
裏でヤバい奴らと組んでて、犯罪をもみ消しているらしいとか…近々、禁海法を実施するかもしれないとか…
もしかしたら……航の母親の死と関係している可能性もある。」
「……?!!」
良也の言う噂に、ゆのか達3人は、驚きを隠しきれない。
「それ、マジか?!」
「……まぁ、あくまでも噂だからな。
けど、そんな噂が出るような州長だ。普通なら、無闇に関わらない方がいい。」
正論に何も言い返せないようで、水湖と大和は黙った。
だけど、良也は…ゆのかを見て、小さく笑った。
「でも…ゆのかが関わってる。
航だって大事な幼馴染だ。俺は2人を放っておけない。」
「……!」
クールで、たまに何を考えているのか、分からない時もあるが……良也の顔は、優しかった。
ゆのかはまた、涙が出そうになった。
「それに…少なくとも、ケーキよりかは興味があるし。」
「おまえ、一言余計だっつーの!!
それ言わなきゃ、かっこよかったのに…くそっ、もったいないっ!」
大和が残念そうに呟く。水湖は、クスクス笑った。
いつもの様子を見て、ゆのかの気持ちは、ほんの少し軽くなった。
(それに…明日は、小学校の卒業式……落ち込んでなんか…いられない。
とにかく、3人に会わせて……航ちゃんを、元に戻さなきゃ…!)
両頬をペチンと叩いて、ゆのかは、なんとか自分を奮い立たせた。
だが、この選択が、後に大きな過ちにとなることを……この時のゆのかは、知る由もなかった。
◇◇◇
卒業式前日ということで、学校は早帰りとなった。
いつもより長い放課後。ゆのかは3人を連れて、家までやってきた。
門を開けてもらって、庭を通りかかる。すると大和の目が輝いた。
「いつ見ても、ゆのかんちってスゲーよなぁっ!
でっけーイスに座って、オホホ~とか、やるんだろ?!」
「うーん……
ちょっと…やってないかなぁ…」
ちょっとというか、全くやってないゆのかは、返事に困ってしまう。その様子に、水湖は頬を膨らませた。
「大和はしゃぎすぎっ、ゆのかがそんな風に笑うわけないでしょ?!
まったく…少しは、よっしー見習ったら??」
「みぃだって、いつもはうるさいくせに~こーゆー時だけ、いい子ぶるなよ~」
「はぁ?!あんたにだけは言われたくない!!」
水湖と大和が、さっそく漫才をしている。
「…もういい。
ゆのか、あの2人ほっといて、早く中に入ってくれ。」
良也は、すっかり呆れ顔だった。ゆのかは苦笑いしながら、ドアを開ける。
「ただい…」
「遅い。」
ビクッ!と、鋭い声に肩が飛び跳ねる。
腕を組んで、目の前に立っていたのは…航だった。
「一体、こんな時間まで、どこで何をしてたの。
今日は早く帰ってこいって、言ったはずだよね?」
「あっ……や、その……………………」
あまりにも突然のことに、思わず泣きそうになる。
(駄目っ……みんなが、いるんだから……泣いちゃ駄目!
これ以上…心配、かけるわけにはいかない……っ、泣き顔なんて…見せられない……!)
唇を噛み締める。頬がひきつるのを感じながら、ゆのかは航に笑顔を向けた。
「きょっ…今日ねっ……みぃちゃんと、大和と、よしくんが、遊びに来てくれた…から……ひっ、久しぶりに…お話ししない……?」
言い終えた瞬間、泣き出さないようにまた唇を噛んだ。
(…言えた。)
かなり、無理をした気がするが、とりあえず、ホッとした。
「航!久しぶりじゃん!!
覚えてっか?オレ、大和!」
「航くん!!みぃだよ?
戻ってきてくれて、嬉しい!!」
「元気そうだな。」
3人は気さくに、航に話しかける。そんな3人を、航はジロジロ見た。
「……それもそうだね。」
航の声が、穏やかになった気がした。
(よかった……声、優しくなった……
この3人と話せば……もしかしたら、航ちゃんは、元に戻るかも…)
安心して、胸を撫で下ろす。
「警告。これ以上、ゆのかに近づくな。
僕からはそれ以外、話すことはない。」
だが、次の瞬間、ゆのかは一気に、現実へ引き戻された。
航の言い方は、酷く機械的で冷たくて、ゆのかは言葉を発することができなかった。
「おっ…おいおい!
航…何言ってんだよ?冗談はよせっ!」
「ゆのかが誰と仲良くするなんて、航に決める権利はないだろう。」
「そっ…そそっ、そうだよ航くん!
私達、ゆのかの大親友なんだよ…?」
大和は戸惑い、良也はしかめ面をした。水湖はゆのかに抱きついて、航の変貌ぶりに目を丸くしている。
航は…はぁ。と、溜め息を漏らした。そして、ゆのかを睨みつけた。
「ゆのか。」
「っ…!!」
体がビクリと震える。
航がゆのかの腕を強く引っ張ると、水湖の手は、簡単に離れていった。
「放課後は遊ぶなって、言ったよね?
よっぽど罰受けたいんだ。来て。」
「痛っ……
やっ…離して……航ちゃん!」
冷たい声に、必死に、抵抗する。
手を引っ張られている状況は、同じなのに
『ゆのかちゃんっ、行こ!!』
出会った頃の優しさなんて、どこにもなかった。
「航っ…テメェ…ふざけんな!!」
「きゃっ……」
大和が、航に体当たりした。その衝動で、ゆのかの手は航から離れる。
ゆのかはその場で、尻もちをついた。
「………チッ」
「ゆのかっ…大丈夫!?」
「う…ん………」
水湖が駆け寄って、手を差し出してくれた。
その手に掴まって、慌てて立ち上がる。大和が、航の胸倉を掴んでいた。
「なにがあったんだよ……っ?!
勝手にいなくなりやがって…やっと戻って来たと思ったら、こんなんになって……
昔のオマエはっ…俺らの知ってる航は、どーしたんだよっ?!」
怒りと悲しみが混ざった眼差しを航に向ける。
「弱いくせにっ…ヤなことあっても、誰も傷つけねぇくらい、優しいヤツで…
オマエはいつも、誰かを笑顔にしてたよな?!なんでゆのかを…み…んなをっ………悲しませるよーなことするんだよ!!!」
大和は肩で息をしている。
「ふ…あははははははは!!」
航は、そんな大和を馬鹿にするように笑った。
「てめぇ…何笑ってんだ!!」
「ははっ…あははははは!!!!
あのさ。誰に向かって…口を聞いているわけ?」
低い声に、ゆのかは心臓が止まりそうになった。航は、ギロリと大和を睨みつける。
「僕は、州長直々の部下。お前ごとき、簡単に潰すことができる。
身をわきまえて欲しいんだけど。」
「チョーシに乗るんじゃねぇよ!!」
大和は拳を振り上げて、航を殴ろうとした。
「ゆのかっ、今日の放課後、私んち来てよ~
お母さんが、ケーキ作ったんだって!せっかくだから、海に持っていって食べよーよ!」
次の日の休み時間、水湖がゆのかの腕に絡みつく。
「おっ、ケーキ!いいねぇ~!!
オレの大好物じゃん!!よしも来いよ!今日、塾ない日だろっ?」
「いや、俺は別に…」
襟元を掴まれた大和に、良也は迷惑そうな顔をする。
「誰もあんた達、誘ってないしっ!」
「えぇ~いいじゃん!
みぃのケチィ~!そんなんじゃ、モテないぞ…ウグッ!」
「よけーなお世話!!」
水湖の鉄拳が、大和の顎に炸裂。良也は呆れ顔をしている。そんな…いつもと変わらない生活。
……だが
『今日から放課後、遊びに行くの禁止。
破ったら罰、って昨日言ったよね?』
朝、学校に行く前、航に言われた言葉が、ゆのかの頭を支配する。
(罰って…何…?
お家、帰ったら…おじいちゃんはいなくて……あの怖い航ちゃんが、いるの…?
嫌だ…どうして航ちゃんは…あんなに怖くなっちゃったの?元の航ちゃんは、どこに行ったの…?)
泣きそうになるのを、必死に耐える。
葬式の次の日。本当なら、学校を休んでもよかった。
それでも何とか登校したのは…恐ろしい祖母と航がいるあの家に居たくなかったからだ。
「…………いっ!
おい、ゆのか!」
大和の声に、ハッと我に返った。
3人が、ゆのかに視線を送っている。咄嗟に、明るい声を出す。
「あ……ごめんね!
えっと…聞いてなかった。何?」
「…大丈夫か?」
大和の腕から逃れた良也が、心配そうにゆのかに聞く。
(きっと…おじいちゃんが亡くなった次の日だから、元気がないんだろうって…みんな、心配してくれてる……)
なんて言えばいいのか分からず、ゆのかは必死に考えた。
(航ちゃんが帰ってきたよ…って、言うべき…?
でも、あの航ちゃんを見て……みんな、何て思うかな…………)
言いたい気持ちと、言ってしまえばみんなが傷つきそうな気がして……さらに深く考え込む。
(でも………みんなに隠し事はしたくないし……
でも…でもっ……!)
何が正しいのか、分からない。ゆのかはもう、頭がぐちゃぐちゃだった。
「ちょ…ゆのか?!
えっとっ……ハンカチ…ハンカチ………あれっ、ポッケにない!!!」
いつの間にか、ボロボロ泣いていたゆのか。水湖が、慌ただしくハンカチを探す。
そんな水湖を横目に…良也はゆのかに、ティッシュを渡した。
「大事な人が亡くなって…大丈夫なわけないよな。」
「よし…くっ…」
「あのイヤミなババアに、何か言われたのか?
それとも…他に何かあった?」
「っ…!」
良也の優しい言葉に…ゆのかは、我慢の糸が切れてしまった。
「航…ちゃんっ……帰っ…て…きたの…っ………」
3人の表情が固まった。
「航くんが、帰ってきた……?
どういうこと?!!」
水湖は、ハンカチを探すのを止めて、目を大きく開いている。
「昨日……っ、突然…私の家に…来て……っ……
私の…ボディー…ガード……っ、する…って……」
「マジかよ…っ!
アイツ、帰ってきたのか?!すげぇじゃんっ!!!」
「……なんでゆのかは、泣いてんの?」
嬉しそうな大和とは対照的に、良也は冷静だった。
「私だってっ……航ちゃんが、生きててくれて……会えて……本当に…嬉しかったっ…!……でもっ…航ちゃん…変わっちゃった…」
この2年間、航に何があったのかは知らない。
だが、確実に……航は、あの時の航ではなかった。
「怖…くて……っ、どうすれば、いいか…分かんなくて……ふっ…く…」
ゆのかの手を、力強く振り払った航。ずっと無表情で言葉は冷たくて、ゆのかに憎しみをぶつけるように笑っていた。
何か訳があるに違いない。そんな可能性が考えられないくらい…祖父を亡くしたゆのかに、心の余裕はなかった。
「じゃあさっ!」
大和が、明るく口を開く。
「今日、ゆのかんちに、遊びに行ってもいいか?」
「……え?」
「航にも、久しぶりに会いたいし!
覚えてるか?航ってさ、昔はすげぇチビで、俺がいなきゃ、上級生にいじめられてさ……航と2人でよく、仕返ししてただろ?
だから…もし、航が変わっても……戦友の俺なら、何とか出来る気がすんだよな!………なーんて。」
「私も、航くんにめちゃくちゃ会いたい!!
ゆのかの様子も変だし、私も遊びに行ってもいいかなっ?」
水湖も、大和の意見に賛成する。
「よしは?来るよなっ?」
大和が良也に聞く。ついてくるのが当然のような空気に、良也は溜め息を1つ吐いた。
「俺は……あまり、乗り気じゃない。」
「なっ…!なんでだよっ!?」
「今の州長に関して、あまりいい噂が流れてないから。
裏でヤバい奴らと組んでて、犯罪をもみ消しているらしいとか…近々、禁海法を実施するかもしれないとか…
もしかしたら……航の母親の死と関係している可能性もある。」
「……?!!」
良也の言う噂に、ゆのか達3人は、驚きを隠しきれない。
「それ、マジか?!」
「……まぁ、あくまでも噂だからな。
けど、そんな噂が出るような州長だ。普通なら、無闇に関わらない方がいい。」
正論に何も言い返せないようで、水湖と大和は黙った。
だけど、良也は…ゆのかを見て、小さく笑った。
「でも…ゆのかが関わってる。
航だって大事な幼馴染だ。俺は2人を放っておけない。」
「……!」
クールで、たまに何を考えているのか、分からない時もあるが……良也の顔は、優しかった。
ゆのかはまた、涙が出そうになった。
「それに…少なくとも、ケーキよりかは興味があるし。」
「おまえ、一言余計だっつーの!!
それ言わなきゃ、かっこよかったのに…くそっ、もったいないっ!」
大和が残念そうに呟く。水湖は、クスクス笑った。
いつもの様子を見て、ゆのかの気持ちは、ほんの少し軽くなった。
(それに…明日は、小学校の卒業式……落ち込んでなんか…いられない。
とにかく、3人に会わせて……航ちゃんを、元に戻さなきゃ…!)
両頬をペチンと叩いて、ゆのかは、なんとか自分を奮い立たせた。
だが、この選択が、後に大きな過ちにとなることを……この時のゆのかは、知る由もなかった。
◇◇◇
卒業式前日ということで、学校は早帰りとなった。
いつもより長い放課後。ゆのかは3人を連れて、家までやってきた。
門を開けてもらって、庭を通りかかる。すると大和の目が輝いた。
「いつ見ても、ゆのかんちってスゲーよなぁっ!
でっけーイスに座って、オホホ~とか、やるんだろ?!」
「うーん……
ちょっと…やってないかなぁ…」
ちょっとというか、全くやってないゆのかは、返事に困ってしまう。その様子に、水湖は頬を膨らませた。
「大和はしゃぎすぎっ、ゆのかがそんな風に笑うわけないでしょ?!
まったく…少しは、よっしー見習ったら??」
「みぃだって、いつもはうるさいくせに~こーゆー時だけ、いい子ぶるなよ~」
「はぁ?!あんたにだけは言われたくない!!」
水湖と大和が、さっそく漫才をしている。
「…もういい。
ゆのか、あの2人ほっといて、早く中に入ってくれ。」
良也は、すっかり呆れ顔だった。ゆのかは苦笑いしながら、ドアを開ける。
「ただい…」
「遅い。」
ビクッ!と、鋭い声に肩が飛び跳ねる。
腕を組んで、目の前に立っていたのは…航だった。
「一体、こんな時間まで、どこで何をしてたの。
今日は早く帰ってこいって、言ったはずだよね?」
「あっ……や、その……………………」
あまりにも突然のことに、思わず泣きそうになる。
(駄目っ……みんなが、いるんだから……泣いちゃ駄目!
これ以上…心配、かけるわけにはいかない……っ、泣き顔なんて…見せられない……!)
唇を噛み締める。頬がひきつるのを感じながら、ゆのかは航に笑顔を向けた。
「きょっ…今日ねっ……みぃちゃんと、大和と、よしくんが、遊びに来てくれた…から……ひっ、久しぶりに…お話ししない……?」
言い終えた瞬間、泣き出さないようにまた唇を噛んだ。
(…言えた。)
かなり、無理をした気がするが、とりあえず、ホッとした。
「航!久しぶりじゃん!!
覚えてっか?オレ、大和!」
「航くん!!みぃだよ?
戻ってきてくれて、嬉しい!!」
「元気そうだな。」
3人は気さくに、航に話しかける。そんな3人を、航はジロジロ見た。
「……それもそうだね。」
航の声が、穏やかになった気がした。
(よかった……声、優しくなった……
この3人と話せば……もしかしたら、航ちゃんは、元に戻るかも…)
安心して、胸を撫で下ろす。
「警告。これ以上、ゆのかに近づくな。
僕からはそれ以外、話すことはない。」
だが、次の瞬間、ゆのかは一気に、現実へ引き戻された。
航の言い方は、酷く機械的で冷たくて、ゆのかは言葉を発することができなかった。
「おっ…おいおい!
航…何言ってんだよ?冗談はよせっ!」
「ゆのかが誰と仲良くするなんて、航に決める権利はないだろう。」
「そっ…そそっ、そうだよ航くん!
私達、ゆのかの大親友なんだよ…?」
大和は戸惑い、良也はしかめ面をした。水湖はゆのかに抱きついて、航の変貌ぶりに目を丸くしている。
航は…はぁ。と、溜め息を漏らした。そして、ゆのかを睨みつけた。
「ゆのか。」
「っ…!!」
体がビクリと震える。
航がゆのかの腕を強く引っ張ると、水湖の手は、簡単に離れていった。
「放課後は遊ぶなって、言ったよね?
よっぽど罰受けたいんだ。来て。」
「痛っ……
やっ…離して……航ちゃん!」
冷たい声に、必死に、抵抗する。
手を引っ張られている状況は、同じなのに
『ゆのかちゃんっ、行こ!!』
出会った頃の優しさなんて、どこにもなかった。
「航っ…テメェ…ふざけんな!!」
「きゃっ……」
大和が、航に体当たりした。その衝動で、ゆのかの手は航から離れる。
ゆのかはその場で、尻もちをついた。
「………チッ」
「ゆのかっ…大丈夫!?」
「う…ん………」
水湖が駆け寄って、手を差し出してくれた。
その手に掴まって、慌てて立ち上がる。大和が、航の胸倉を掴んでいた。
「なにがあったんだよ……っ?!
勝手にいなくなりやがって…やっと戻って来たと思ったら、こんなんになって……
昔のオマエはっ…俺らの知ってる航は、どーしたんだよっ?!」
怒りと悲しみが混ざった眼差しを航に向ける。
「弱いくせにっ…ヤなことあっても、誰も傷つけねぇくらい、優しいヤツで…
オマエはいつも、誰かを笑顔にしてたよな?!なんでゆのかを…み…んなをっ………悲しませるよーなことするんだよ!!!」
大和は肩で息をしている。
「ふ…あははははははは!!」
航は、そんな大和を馬鹿にするように笑った。
「てめぇ…何笑ってんだ!!」
「ははっ…あははははは!!!!
あのさ。誰に向かって…口を聞いているわけ?」
低い声に、ゆのかは心臓が止まりそうになった。航は、ギロリと大和を睨みつける。
「僕は、州長直々の部下。お前ごとき、簡単に潰すことができる。
身をわきまえて欲しいんだけど。」
「チョーシに乗るんじゃねぇよ!!」
大和は拳を振り上げて、航を殴ろうとした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
シーン・グラムーンがハンデを乗り越えて幸せになる
家紋武範
恋愛
都の城塞の司令官であるアルベルト・グラムーン伯爵の息子シーンは生来読み書きも出来ず、話すこともままならない。
家督であるシーンをどうにか盛り立てるため後ろ楯となる公爵や侯爵のご令嬢と婚姻を結びたいものの、あちらはどうしても首を立てにふらない。
そればかりか貴族学校ではシーンは虐められる最下層の扱いを受けていた。
そんなおり、アルベルトの旧知であるパイソーン伯爵の娘エイミーが都見物にきたはいいものの、家来に裏切られグラムーン家を頼ってきた。
アルベルトはこのエイミーをシーンの嫁にしようと画策する。そしてエイミーのほうもまんざらではないようだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる