めぐり、つむぎ

竜田彦十郎

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はじまり

060 虚脱

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(よう、久し振りだな…って、随分とこっぴどく痛めつけられたもんな)

 何日振りかに聞く大宇宙昴の声は、呆れ顔が容易に想像できそうな、盛大なる溜息から始まった。

――あれ…? 俺…?

 水中を漂うような感覚に包まれていた圭は、その言葉の意味が理解できなかった。
 痛めつけられた?
 大宇宙昴この男は何を言っているのだろうか。

――俺は…たしか…。

 糸が絡まったような記憶を辿り、たった今まで自分が置かれていた筈の状況を解きほぐしてみる。

――ああ、ヒミカと戦っていて……。

 戦っていた事は思い出した。
 決着がついたという記憶がないままに大宇宙昴の声を聞いているという事は、途中で気絶してしまったのだろう。

(そうだな。かなりボコボコにされていたからな)

 その声の様子からすると、戦闘の推移は見えていたようだ。

――俺、負けたのか…? もう死んだって事なのか?

 夢の中ではこれまでも四肢の感覚など皆無だったが、それを抜きにしても意識がひどく重く感じた。
 思考そのものが煩わしくなってくる程に。

(気分が重いのなら、まだ生きているって事さ。肉体の状態は精神を引っ張るからな)

――そうか。

 返事をするのも億劫だった。
 まだ生きていると聞かされながらも、そこにある意味を導き出す事さえできない。
 動けるのであれば早々に覚醒して戦闘を再開しなくてはならないのだろうが、そうしなければという欲求がとても希薄なものにしかならない。

――行かなくちゃ…

 しかしそれは言葉ばかりで、意識が浮上するような兆候は僅かばかりもない。

――おかしいな…

 確かに圭は夢の世界を脱しようと試みているのだが、どうした事か、この場に縫い付けられてしまったかのように動けなかった。
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