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社長編

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「なんだ・・・これは?」

 俺は自席にあった本を指さす。

「ええっ、オメガバースを知らないんですかっ!?」

 俺様が睨み返すと、一瞬たじろぐ女性社員たち。
 この前、田島くんを庇って俺様の悪口を言っていた社員たちだ。
 髪形と化粧を変えても、メガネをかけても、してはいないが、多少の整形をしようと俺様は忘れることはできない。

「なんなんだ?オメガバースとは・・・・・・」

 そんな単語を俺様は聞いたことがない。
 ただ、こうやって彼女達が社長室まで持ってきたと言うことは経済用語、もしくは新たな新規開拓事業などのタイムリーなワードなのだろう。

「ふふふっ、じゃー仕方ないですね。この本をお貸ししますよ。ねーーーっ」

 冗談っぽく言おうとしているのだろうが、声が震えている。
 何か裏があるのか?

「じゃっ、私たち、失礼して仕事に戻りますっ」

「おっ、おいっ」

 俺様のありがたい言葉も無視して、せかせかと社長室から出ていく女性社員たち。俺様はその本を見る。分厚い黒い表紙にデザインが中二病っぽいが、金字の筆記体で何かが書かれている。

「古臭いと言うことは、古くからある言葉なのか?」

 スマホで調べてもいいが、俺様は速読もできるのだ。瞬間記憶能力と速読。
 これさえあれば、ある程度の奴ならそれなりの人生を歩めるだろう。だが、俺様はさらに天災なので、エリート社長になって君臨しているのだ。

 ちらっと横を見るが、今日は田島くんはいない。
 と言っても、休ませているわけではなく、田島くんを気に入っている社長のところに行かせているのだ。右腕の田島くんを行かせるのは本当は嫌だが、そこの社長は癖が物凄いあるが、俺様と同じくらい資本力を持っているので、無下にもできない。

「まっ、読んでみるか」

 分厚いと言っても、本は本。
 紙質が破れやすくなければ、俺様の速読で1分で概要を、3分もあれば話の全体を、5分もあれば内容の理解までできてしまうに違いない。

 俺様は表紙を開ける。

「なんだ、これは・・・?」

 α、β、Ωの男女、計6パターンの絵と、36通りの組み合わせなどが書かれており、絵が多い本だった。

「絵があるということは抽象的・・・10分かかるか?」

 訂正しよう、5分で解読は無理だ。
 優秀な人間は間違いをすぐに認めて修正できる。
 これを揚げ足取ろうとするような輩は、だから成長できず、袋小路を彷徨うことになるのだ。
 優秀な俺様は輝かしい未来のために、見栄など張らない。まぁ、張らなくてもこの溢れんばかりの有能さで俺様自身が眩しい目指すべきゴールになってしまうかもしれないがな。

「ん? ようこそ、オメガバースの世界へ?」

 白紙のページに大きく書かれた光る文字を読み上げると、俺様は本の中に引き込まれて行った。
 まるで西遊記に出てくる瓢箪の紫金紅葫蘆のように。
 そして、この完璧エリート社長の俺様が、その話のように官能的な世界に溶けてしまうことになるとは、その時はまったく想像していなかった。
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