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2章
54.告白は償い
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幼い頃から何故か同性しか好きになれなかった。
有沙がそれに気付いたのは小学生。
勇気を出して告白してみれば、なぜか周りから煙たがられて、軽いイジメにあった。
だから『好きになってごめんなさい』と謝った。
これは償い。
ずっと黙っていて結婚を期待させるのもよくないと思ったから、親に同性しか好きになれないことを告白した。
母親は有沙を必要以上に気持ち悪がった。
だから『私が産まれてきてごめんなさい』と謝った。
これも償い……償い。
──なんで私だけが、私だけが、愛を知ることが許されないの……?
前世の自分を酷く憎んだ。これはそれに対する償いなのだ、と。しかし、そう考えていたのも束の間、有沙は運命の人に出逢い考え方を覆すことになる。
***
中学校の入学式。一人屋上からコンリートの地面へ飛び降りてしまおうと考えていた。
順番に屋上への階段を一歩、二歩と駆け上がろうとする。まあ、正直屋上への扉の鍵は閉まっていると思っていたし、期待半分好奇心半分でしか無かったけれど。
しかし半信半疑という妄想はいつも平然と裏切られる。
何故ならまだ人の温もりのあるドアノブがしっかりと右に回ったのだから。
一つの大きな風と共に桜が有沙の前に大きく舞う。
どうやら屋上に大きな桜の木が植えられているみたいだ。床は桜の花弁で埋まっていてこういう喩えは浅はかだが、まるで桃色の絨毯のようだった。
「……ふふっ、もしかして貴女も飛び降りに来たの?」
けれどもそこには凛と咲き誇る桜よりも美しく綺麗な少女がフェンス越しに立っている。
それは紛れもなく田中紗代という一人の少女であり、彼女は独りの少女でもあった。
艶のあるミディアムヘアの黒髪に瞬きする度に音を立ててしまいそうな程に量の多い睫毛。セーラー服の下から伸びた人形のように長く、綺麗な足。
数秒という時間も無く有沙は彼女の虜になる。暫くは驚きから瞬き一つせず彼女を見つめていた程だ。
「あんたは何でここに……?」
戸惑いながらも恐る恐る問い掛ける。桜が舞う度に彼女の髪も左右に靡き、一種の映画のワンシーンのようだった。
きっと彼女が映るのはクライマックスのところだろう。対して、自分は……とまた勝手に自身を追い詰め苦しくなってしまう。
「あら、ここに来るなんて飛び降りること以外に何があるの?」
有沙に向けられた氷のように冷めきった瞳が彼女の人生の辛さを物語っていた。だから聞き返す理由も無かった筈。
にも関わらずこのような美しく可憐な少女を追い詰めた何かが死の直前ということもあり、気になって仕方がなかったのだ。
今考えれば少しでも長く紗代を生かそうとしていたのかもしれない。
「違う……。あんたみたいな小綺麗な人間がここで死のうとした理由よ」
聞いてはいけない事かも知れないが、どうせもう二人は死ぬ人間。意を決して再び問い掛けてみる。
しかし彼女は一度天使のように微笑むと、有沙の予想を裏切り、風に吹かれながらぽつりぽつりと過去を紡いでいくのだった。
有沙がそれに気付いたのは小学生。
勇気を出して告白してみれば、なぜか周りから煙たがられて、軽いイジメにあった。
だから『好きになってごめんなさい』と謝った。
これは償い。
ずっと黙っていて結婚を期待させるのもよくないと思ったから、親に同性しか好きになれないことを告白した。
母親は有沙を必要以上に気持ち悪がった。
だから『私が産まれてきてごめんなさい』と謝った。
これも償い……償い。
──なんで私だけが、私だけが、愛を知ることが許されないの……?
前世の自分を酷く憎んだ。これはそれに対する償いなのだ、と。しかし、そう考えていたのも束の間、有沙は運命の人に出逢い考え方を覆すことになる。
***
中学校の入学式。一人屋上からコンリートの地面へ飛び降りてしまおうと考えていた。
順番に屋上への階段を一歩、二歩と駆け上がろうとする。まあ、正直屋上への扉の鍵は閉まっていると思っていたし、期待半分好奇心半分でしか無かったけれど。
しかし半信半疑という妄想はいつも平然と裏切られる。
何故ならまだ人の温もりのあるドアノブがしっかりと右に回ったのだから。
一つの大きな風と共に桜が有沙の前に大きく舞う。
どうやら屋上に大きな桜の木が植えられているみたいだ。床は桜の花弁で埋まっていてこういう喩えは浅はかだが、まるで桃色の絨毯のようだった。
「……ふふっ、もしかして貴女も飛び降りに来たの?」
けれどもそこには凛と咲き誇る桜よりも美しく綺麗な少女がフェンス越しに立っている。
それは紛れもなく田中紗代という一人の少女であり、彼女は独りの少女でもあった。
艶のあるミディアムヘアの黒髪に瞬きする度に音を立ててしまいそうな程に量の多い睫毛。セーラー服の下から伸びた人形のように長く、綺麗な足。
数秒という時間も無く有沙は彼女の虜になる。暫くは驚きから瞬き一つせず彼女を見つめていた程だ。
「あんたは何でここに……?」
戸惑いながらも恐る恐る問い掛ける。桜が舞う度に彼女の髪も左右に靡き、一種の映画のワンシーンのようだった。
きっと彼女が映るのはクライマックスのところだろう。対して、自分は……とまた勝手に自身を追い詰め苦しくなってしまう。
「あら、ここに来るなんて飛び降りること以外に何があるの?」
有沙に向けられた氷のように冷めきった瞳が彼女の人生の辛さを物語っていた。だから聞き返す理由も無かった筈。
にも関わらずこのような美しく可憐な少女を追い詰めた何かが死の直前ということもあり、気になって仕方がなかったのだ。
今考えれば少しでも長く紗代を生かそうとしていたのかもしれない。
「違う……。あんたみたいな小綺麗な人間がここで死のうとした理由よ」
聞いてはいけない事かも知れないが、どうせもう二人は死ぬ人間。意を決して再び問い掛けてみる。
しかし彼女は一度天使のように微笑むと、有沙の予想を裏切り、風に吹かれながらぽつりぽつりと過去を紡いでいくのだった。
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