13 / 55
1章
12.忍び寄る光?闇? 卓郎編①
しおりを挟む
男子高校生が行方不明になって、はや半年。
もはや生存しているのかも雲行きが怪しくなっている中、この事件に唯一、頭を抱えている人物らがいた。
「んー、やっぱり可笑しい……」
男の名は乙坂卓郎。この行方不明事件を担当している刑事だ。
半年経っても一つも証拠が集まらないこの事件。
捜査担当の刑事が次々と降りてしまい、この事件を調査しているのは卓郎と、後輩の豊永彗のみとなってしまっている。
「せんぱーい、ちょっと休憩しましょうよー。もう何日も徹夜なんですよ~?」
慧は面倒臭がりの新人だが、実力は警視総監のお墨付きで数々の難事件の犯人を追い詰めてきた。
所謂、"天才"だ。
しかし、卓郎は違う。
何十年も刑事として働き、段々と階級を上げていった所謂、ベテラン。つまり、"秀才"。
長い間聞き込みや、情報収集をしてから徹底的な証拠を持って犯人を追い詰める卓郎と事件が起こった時間の前後のことを調べる等、少しだけの証拠を使い天才的な頭脳で推理して犯人を追い詰める彼とは全く持ってタイプが違うのだ。
そう、この二人は根っから合わない。
では、逆に彼らが合わさればどうだろう?
天才と秀才が一人ずつ居ればどんな難事件でも解決できるのではないだろうか。
「で、何がおかしいんですか?」
呆れた口調で溜息を付きながら彗が言う。
正直、彼に意見は言いたくないようだが、仕方なく卓郎は答えた。
「この被害者の少年の通学路……二年前の夏休みに防犯カメラが全て撤去されているんだ」
彼は少し考えながら問い掛けた。勿論、心做しか疑問に思ったようで声色は強ばっている。
「それがどうかしたんですか」
卓郎は一度は頷くが、また頭を抱えてしまう。
「この防犯カメラを撤去した理由は、誰か知らない人に撤去した方がよいと助言されたかららしい。もしかしたら、カメラを撤去しろと言ったのが犯人で計画的犯行の誘拐事件かもな……」
ビンゴだ。
実は犯行に及ぶ準備の一つに"防犯カメラの撤去"というものがあった。
流石、長い間刑事を勤めてきただけある。
因みに理久は防犯カメラを設置している管理人にこう伝えたのだ。
『あそこの防犯カメラ、違う所に設置した方がいいですよ。もし、不審者があそこを通ったら気付いて壊してしまいます。それにここらへんは治安がいいので付けなくてもいいんじゃないですか。そのお金は公園の設備にまわした方が役立つかもしれませんし』
随分、無理を言っている気がするが、相手は老人で子供が大好きな人だった。
確かにこの防犯カメラが役にたった事はないし、実際に公園も設備が整っていないせいで誰も遊んでいない。
だからこそ、老人はその意見に賛同したのだ。きちんと的は得ている。
「しかも、それだけじゃあない。この地域全域だ。コンビニもスーパーも駐車場の防犯カメラは何やら助言されて外したらしい。流石に駅は付いていたが、何も証拠は得られなかった」
理久はそう言った言葉をターゲットに合わせて少しずつ変更しながら、愛斗の住んでいる地域を回って管理人ひとりひとりに言った。
挙句の果てに誰もが怪しげな意見に賛同して外してしまった。自分の大切な人の為に。
他人の善意や愛情を利用したのである。
「わあ、凄い。本当に犯人だとしたら、よくやりますよね。そもそも誘拐される理由って何だと思います?」
一般的に考えて誘拐されるのには理由がある。
身代金や復讐、ストーカー……弓道で全国に行くほどの優等生が憎まれるべき理由が彼等には分からなかった。
「分からんな……被害者の家は凄く裕福という訳でもないし、計画的犯行なら尚更だ」
卓郎の答えを聞いて、閃いたような顔で慧は喋り始める。
「まあ、普通に考えればストーカー……じゃない? いい子でしかも弓道で全国行ってる子でしょ?? サイコ野郎に惚れられちゃってずっとストーカーされてたけど、とうとう誘拐されちゃったとか」
お見事だ。確かに卓郎も見事だが、彼も実際に起こったことを完璧に推理してみせる。
「じゃあ、家に何かあるかもな……強いて言えば盗聴器とか。防犯カメラを撤去させる程計画的なやつだ。あってもおかしくはない」
今得ている情報から考えるには、家には盗聴器も監視カメラも仕掛けられたままに違いない。
理久は愛斗を誘拐した後、そのまま車に乗っけて家に帰ったからだ。
誘拐犯として重大な過ちを犯している。
慎重でここまで計画を練っていたのに、ここまで初歩的なミスをするとは思えないが。
今回は二人に一本取られたようだ。
「なら、早速向かうか」
卓郎の疲れ果てた声に比べて、彼は元気よく返事をして職場から出る。
すると、突然何か重大なことを思い出したように慧は口を開く。
「そういえば、ボクのこと、考えてくれました? 責任……とってくれますよね?」
彼はニヤニヤと笑いながら言っているので、疑問は疑問でも半分冗談の疑問と言っても良いだろう。
当然のように、続いて言うその返答も彼をあしらったもので、話している途中も卓郎は黙々と車に向かって歩き続けていた。
「だから俺はゲイじゃないんだ。あのときバーに居たのも無理やり連れて来られただけで……」
その言い訳交じりの返答に彼は頬を膨らませて、ムッとした顔をする。
「じゃあ、あの後二人でホテルに行ったのはなんだったんですかね~? あの時の先輩、甘えん坊さんですっごく可愛かったな~」
「うっ、だから酔ってて覚えてなくて……」
二人は世間話をしながら、警察署を背に車に乗るのだった。
もはや生存しているのかも雲行きが怪しくなっている中、この事件に唯一、頭を抱えている人物らがいた。
「んー、やっぱり可笑しい……」
男の名は乙坂卓郎。この行方不明事件を担当している刑事だ。
半年経っても一つも証拠が集まらないこの事件。
捜査担当の刑事が次々と降りてしまい、この事件を調査しているのは卓郎と、後輩の豊永彗のみとなってしまっている。
「せんぱーい、ちょっと休憩しましょうよー。もう何日も徹夜なんですよ~?」
慧は面倒臭がりの新人だが、実力は警視総監のお墨付きで数々の難事件の犯人を追い詰めてきた。
所謂、"天才"だ。
しかし、卓郎は違う。
何十年も刑事として働き、段々と階級を上げていった所謂、ベテラン。つまり、"秀才"。
長い間聞き込みや、情報収集をしてから徹底的な証拠を持って犯人を追い詰める卓郎と事件が起こった時間の前後のことを調べる等、少しだけの証拠を使い天才的な頭脳で推理して犯人を追い詰める彼とは全く持ってタイプが違うのだ。
そう、この二人は根っから合わない。
では、逆に彼らが合わさればどうだろう?
天才と秀才が一人ずつ居ればどんな難事件でも解決できるのではないだろうか。
「で、何がおかしいんですか?」
呆れた口調で溜息を付きながら彗が言う。
正直、彼に意見は言いたくないようだが、仕方なく卓郎は答えた。
「この被害者の少年の通学路……二年前の夏休みに防犯カメラが全て撤去されているんだ」
彼は少し考えながら問い掛けた。勿論、心做しか疑問に思ったようで声色は強ばっている。
「それがどうかしたんですか」
卓郎は一度は頷くが、また頭を抱えてしまう。
「この防犯カメラを撤去した理由は、誰か知らない人に撤去した方がよいと助言されたかららしい。もしかしたら、カメラを撤去しろと言ったのが犯人で計画的犯行の誘拐事件かもな……」
ビンゴだ。
実は犯行に及ぶ準備の一つに"防犯カメラの撤去"というものがあった。
流石、長い間刑事を勤めてきただけある。
因みに理久は防犯カメラを設置している管理人にこう伝えたのだ。
『あそこの防犯カメラ、違う所に設置した方がいいですよ。もし、不審者があそこを通ったら気付いて壊してしまいます。それにここらへんは治安がいいので付けなくてもいいんじゃないですか。そのお金は公園の設備にまわした方が役立つかもしれませんし』
随分、無理を言っている気がするが、相手は老人で子供が大好きな人だった。
確かにこの防犯カメラが役にたった事はないし、実際に公園も設備が整っていないせいで誰も遊んでいない。
だからこそ、老人はその意見に賛同したのだ。きちんと的は得ている。
「しかも、それだけじゃあない。この地域全域だ。コンビニもスーパーも駐車場の防犯カメラは何やら助言されて外したらしい。流石に駅は付いていたが、何も証拠は得られなかった」
理久はそう言った言葉をターゲットに合わせて少しずつ変更しながら、愛斗の住んでいる地域を回って管理人ひとりひとりに言った。
挙句の果てに誰もが怪しげな意見に賛同して外してしまった。自分の大切な人の為に。
他人の善意や愛情を利用したのである。
「わあ、凄い。本当に犯人だとしたら、よくやりますよね。そもそも誘拐される理由って何だと思います?」
一般的に考えて誘拐されるのには理由がある。
身代金や復讐、ストーカー……弓道で全国に行くほどの優等生が憎まれるべき理由が彼等には分からなかった。
「分からんな……被害者の家は凄く裕福という訳でもないし、計画的犯行なら尚更だ」
卓郎の答えを聞いて、閃いたような顔で慧は喋り始める。
「まあ、普通に考えればストーカー……じゃない? いい子でしかも弓道で全国行ってる子でしょ?? サイコ野郎に惚れられちゃってずっとストーカーされてたけど、とうとう誘拐されちゃったとか」
お見事だ。確かに卓郎も見事だが、彼も実際に起こったことを完璧に推理してみせる。
「じゃあ、家に何かあるかもな……強いて言えば盗聴器とか。防犯カメラを撤去させる程計画的なやつだ。あってもおかしくはない」
今得ている情報から考えるには、家には盗聴器も監視カメラも仕掛けられたままに違いない。
理久は愛斗を誘拐した後、そのまま車に乗っけて家に帰ったからだ。
誘拐犯として重大な過ちを犯している。
慎重でここまで計画を練っていたのに、ここまで初歩的なミスをするとは思えないが。
今回は二人に一本取られたようだ。
「なら、早速向かうか」
卓郎の疲れ果てた声に比べて、彼は元気よく返事をして職場から出る。
すると、突然何か重大なことを思い出したように慧は口を開く。
「そういえば、ボクのこと、考えてくれました? 責任……とってくれますよね?」
彼はニヤニヤと笑いながら言っているので、疑問は疑問でも半分冗談の疑問と言っても良いだろう。
当然のように、続いて言うその返答も彼をあしらったもので、話している途中も卓郎は黙々と車に向かって歩き続けていた。
「だから俺はゲイじゃないんだ。あのときバーに居たのも無理やり連れて来られただけで……」
その言い訳交じりの返答に彼は頬を膨らませて、ムッとした顔をする。
「じゃあ、あの後二人でホテルに行ったのはなんだったんですかね~? あの時の先輩、甘えん坊さんですっごく可愛かったな~」
「うっ、だから酔ってて覚えてなくて……」
二人は世間話をしながら、警察署を背に車に乗るのだった。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
「こんにちは」は夜だと思う
あっちゅまん
ホラー
主人公のレイは、突然の魔界の現出に巻き込まれ、様々な怪物たちと死闘を繰り広げることとなる。友人のフーリンと一緒にさまよう彼らの運命とは・・・!? 全世界に衝撃を与えたハロウィン・ナイトの惨劇『10・31事件』の全貌が明らかになる!!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
Catastrophe
アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。
「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」
アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。
陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は
親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。
ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。
家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。
4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~
ぽんぽこ@書籍発売中!!
ホラー
【8秒で分かるあらすじ】
鋏を持った女に影を奪われ、八日後に死ぬ運命となった少年少女たちが、解呪のキーとなる本を探す物語。✂ (º∀º) 📓
【あらすじ】
日本有数の占い師集団、カレイドスコープの代表が殺された。
容疑者は代表の妻である日々子という女。
彼女は一冊の黒い本を持ち、次なる標的を狙う。
市立河口高校に通う高校一年生、白鳥悠真(しらとりゆうま)。
彼には、とある悩みがあった。
――女心が分からない。
それが原因なのか、彼女である星奈(せいな)が最近、冷たいのだ。
苦労して付き合ったばかり。別れたくない悠真は幼馴染である紅莉(あかり)に週末、相談に乗ってもらうことにした。
しかしその日の帰り道。
悠真は恐ろしい見た目をした女に「本を寄越せ」と迫られ、ショックで気絶してしまう。
その後意識を取り戻すが、彼の隣りには何故か紅莉の姿があった。
鏡の中の彼から影が消えており、焦る悠真。
何か事情を知っている様子の紅莉は「このままだと八日後に死ぬ」と悠真に告げる。
助かるためには、タイムリミットまでに【悪魔の愛読書】と呼ばれる六冊の本を全て集めるか、元凶の女を見つけ出すしかない。
仕方なく紅莉と共に本を探すことにした悠真だったが――?
【透影】とかげ、すきかげ。物の隙間や薄い物を通して見える姿や形。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる