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1章

12.忍び寄る光?闇? 卓郎編①

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 男子高校生が行方不明になって、はや半年。
 もはや生存しているのかも雲行きが怪しくなっている中、この事件に唯一、頭を抱えている人物らがいた。

「んー、やっぱり可笑しい……」

 男の名は乙坂卓郎おとさかたくろう。この行方不明事件を担当している刑事だ。
 半年経っても一つも証拠が集まらないこの事件。
 捜査担当の刑事が次々と降りてしまい、この事件を調査しているのは卓郎と、後輩の豊永彗とよながすいのみとなってしまっている。

「せんぱーい、ちょっと休憩しましょうよー。もう何日も徹夜なんですよ~?」

 慧は面倒臭がりの新人だが、実力は警視総監のお墨付きで数々の難事件の犯人を追い詰めてきた。
 所謂、"天才"だ。

 しかし、卓郎は違う。
 何十年も刑事として働き、段々と階級を上げていった所謂、ベテラン。つまり、"秀才"。
 長い間聞き込みや、情報収集をしてから徹底的な証拠を持って犯人を追い詰める卓郎と事件が起こった時間の前後のことを調べる等、少しだけの証拠を使い天才的な頭脳で推理して犯人を追い詰める彼とは全く持ってタイプが違うのだ。

 そう、この二人は根っから合わない。
 では、逆に彼らが合わさればどうだろう? 
 天才と秀才が一人ずつ居ればどんな難事件でも解決できるのではないだろうか。

「で、何がおかしいんですか?」

 呆れた口調で溜息を付きながら彗が言う。
 正直、彼に意見は言いたくないようだが、仕方なく卓郎は答えた。

「この被害者の少年の通学路……二年前の夏休みに防犯カメラが全て撤去されているんだ」

 彼は少し考えながら問い掛けた。勿論、心做しか疑問に思ったようで声色は強ばっている。

「それがどうかしたんですか」

 卓郎は一度は頷くが、また頭を抱えてしまう。

「この防犯カメラを撤去した理由は、誰か知らない人に撤去した方がよいと助言されたかららしい。もしかしたら、カメラを撤去しろと言ったのが犯人で計画的犯行の誘拐事件かもな……」

 ビンゴだ。
 実は犯行に及ぶ準備の一つに"防犯カメラの撤去"というものがあった。
 流石、長い間刑事を勤めてきただけある。
 因みに理久は防犯カメラを設置している管理人にこう伝えたのだ。

『あそこの防犯カメラ、違う所に設置した方がいいですよ。もし、不審者があそこを通ったら気付いて壊してしまいます。それにここらへんは治安がいいので付けなくてもいいんじゃないですか。そのお金は公園の設備にまわした方が役立つかもしれませんし』

 随分、無理を言っている気がするが、相手は老人で子供が大好きな人だった。
 確かにこの防犯カメラが役にたった事はないし、実際に公園も設備が整っていないせいで誰も遊んでいない。
 だからこそ、老人はその意見に賛同したのだ。きちんと的は得ている。

「しかも、それだけじゃあない。この地域全域だ。コンビニもスーパーも駐車場の防犯カメラは何やら助言されて外したらしい。流石に駅は付いていたが、何も証拠は得られなかった」

 理久はそう言った言葉をターゲットに合わせて少しずつ変更しながら、愛斗の住んでいる地域を回って管理人ひとりひとりに言った。
 挙句の果てに誰もが怪しげな意見に賛同して外してしまった。自分の大切な人の為に。
 他人の善意や愛情を利用したのである。

「わあ、凄い。本当に犯人だとしたら、よくやりますよね。そもそも誘拐される理由って何だと思います?」

 一般的に考えて誘拐されるのには理由がある。
 身代金や復讐、ストーカー……弓道で全国に行くほどの優等生が憎まれるべき理由が彼等には分からなかった。

「分からんな……被害者の家は凄く裕福という訳でもないし、計画的犯行なら尚更だ」

 卓郎の答えを聞いて、閃いたような顔で慧は喋り始める。

「まあ、普通に考えればストーカー……じゃない? いい子でしかも弓道で全国行ってる子でしょ?? サイコ野郎に惚れられちゃってずっとストーカーされてたけど、とうとう誘拐されちゃったとか」

 お見事だ。確かに卓郎も見事だが、彼も実際に起こったことを完璧に推理してみせる。

「じゃあ、家に何かあるかもな……強いて言えば盗聴器とか。防犯カメラを撤去させる程計画的なやつだ。あってもおかしくはない」

 今得ている情報から考えるには、家には盗聴器も監視カメラも仕掛けられたままに違いない。
 理久は愛斗を誘拐した後、そのまま車に乗っけて家に帰ったからだ。
 誘拐犯として重大な過ちを犯している。
 慎重でここまで計画を練っていたのに、ここまで初歩的なミスをするとは思えないが。
 今回は二人に一本取られたようだ。

「なら、早速向かうか」

 卓郎の疲れ果てた声に比べて、彼は元気よく返事をして職場から出る。
 すると、突然何か重大なことを思い出したように慧は口を開く。

「そういえば、ボクのこと、考えてくれました? 責任……とってくれますよね?」

 彼はニヤニヤと笑いながら言っているので、疑問は疑問でも半分冗談の疑問と言っても良いだろう。
 当然のように、続いて言うその返答も彼をあしらったもので、話している途中も卓郎は黙々と車に向かって歩き続けていた。

「だから俺はゲイじゃないんだ。あのときバーに居たのも無理やり連れて来られただけで……」

 その言い訳交じりの返答に彼は頬を膨らませて、ムッとした顔をする。

「じゃあ、あの後二人でホテルに行ったのはなんだったんですかね~? あの時の先輩、甘えん坊さんですっごく可愛かったな~」

「うっ、だから酔ってて覚えてなくて……」

 二人は世間話をしながら、警察署を背に車に乗るのだった。
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