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第四章 天使と悪魔
天使軍、みんなでレベリング
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{麗菜さん、そっちの様子はどうかしら?}
{あっ、加奈子さん、え~っと、こっちは1階にゴブリンが居ただけでもう1時間も掛からずに殲滅出来ると思いますよ}
{そろそろお昼前なので、一旦こっちに戻って来てくれないかな}
{ゴブリンは殲滅しなくても良いですからね}
{了解しましたー}
「おぅっ?!」
藤浜武人が戸弩力部屋に入ろうとした時、中から木刀を持った男が勢いよく飛び出してきた。
「気ぃつけんかぃ!」
その男は、自分がぶつかってきたくせに大声で文句を言う。
それを聞いてヒロミがすかさず腹に蹴りを入れ、藤浜が尻を蹴り上げる。
「うっううう、ぼ、暴力反対・・・」
雲国才楊は痛みを押し殺して、木刀をむやみやたらに振り回しその場から逃げる様に去って行った。
「??なんだったんでしょうか?」
2人は首を傾げながら部屋に入っていく。
「ただいまー」
「ど、どちらさまで?」
「徳じい、嫌やなぁ、俺やん俺」
「お、オレオレ詐欺かぁ?」
「半田のばぁちゃん、俺や藤浜やw」
もう40台半ばで高年域に達していた藤浜と言う男が、一晩経ったら急に若返っていた。
「そういや、今ここから飛び出してきた男を蹴り上げちゃったけど、あれは誰?」
「あぁこの人らの元旦那さんや」
「えぇぇぇぇ?すみません、いきなりぶつかってきといて文句言うから蹴っちゃった…」
「別にかまいませんよ、そんな仕打ちを受ける様な人ですからw」
藤浜は下げた頭を持ち上げた。
そして目線を変えてまた頭を下げた。
「加奈子さん、夕べはすみませんでした。。。」
『あらっ?進化して何か考えも変わられたのでしょうか?」
「あの後、トオルさんに諭されまして、今朝に進化した次第です」
『あら、トオルちゃんに相談したのですね』
「はいっ、自分の疑心暗鬼な性格がこれからの進む道を閉ざしているってお説教を頂いて、現実を見る事を躊躇わない様に考え直しました」
「初めまして、藤浜武人の眷属として生きていく事にしました、﨡井戸大海と申します、今後ともお見知り置きを願います」
「また戸弩力さんには言いますが、この子とここで生きていこうと思ってます」
『今朝レベルが付いた割に、Lv20超えとか凄くレベルが高い気がするんですけど?』
「今日の午前はトオルさんの指導で死ぬほどの狩りをしましたのでw」
「本当に死ぬかと思いましたw」
徳太郎は、昨日レベル付きになった自負があるが、今朝レベルを付けたと言う藤浜に大きく差を付けられたことに少し苛立ちと焦りを感じた。
『そうなんですか~ で、今日はお昼から何かなさるおつもりなんですか?』
「昼からはトオルさんの業務を手伝う算段になっています」
『そうですか』
加奈子は、藤浜が一緒にレベリングに参加するとか言い出すのが嫌だったから少し安堵した。
でも加奈子はまだ知らない。
加奈子が何日もかけて練り上げた今のレベルに、たった半日でこの男が追いつき追い越してる事に。
隠蔽でレベル20にしている藤浜は、加奈子より上のレベル26になっている。
エアーエイプと言うパワーレベリングの相手を見つけた事は大きい。
とは言え、大海のLv22藤浜のLv26のステでも、加奈子の戦闘力には到底及ばない。
昼前にはゾロゾロと天使組と戸弩力組が教室に戻って来る。
「おっ?明日桜ちゃんもレベル付けたんやな?緑ちゃんも大きくなったなぁ」
そう言うと、緑は駆け足で徳太郎の胸に飛び込んでいった。
「徳じぃ~走れたよぉ跳べたよぉ戦えたよぉ」
「よ、良かったなぁ・・・」
「これでながいきできるかもしれ~ん」
徳太郎の胸に熱いものが込み上げてくる。
「おやおや、子オオカミもえらい大きなって」
「明日桜ちゃん、考え直してくれたんやね。良かった・・・」
明日桜の事を一番心配していた戸弩力の胸にも熱いものが込み上げてくる。
「加奈子さん、ありがとうございました」
『いえいえ、明日桜ちゃんの意思であって、私は何もしてませんよ」
「初めまして、今朝は色々あって籍を外してたんですが、藤浜と申します」
加奈子の眷属達に挨拶をした藤浜に、雲国母娘と貴崎麗菜達がお互いに自己紹介を交わす。
「戸弩力さん、この子は昔からの知り合いで﨡井戸大海と言います。これからここで一緒に生きていきたいと思ってます」
「宜しくお願いします」
「あっ、戸弩力さん、こっちは先ほど仲間になった棒妻洋路といいます。自分の眷属になって貰おうと思ってます」
「よろしくおねがいします」
「よろしくね、どちらもレベル付きかぁ、藤浜君も思い直してくれて良かったよ」
「これで戸弩力組と天使組は全員新人類になったって事やな」
「あとは皆で強くなる事ですね、ここのクラン内で戦闘組と呼ばれるくらいに」
「がんばりましょう!」
昼ごはんも終わり、一時の団欒の後、藤浜と﨡井戸を抜いた戸弩力組天使組総勢32人と3匹の戦闘組が歩み出す。
まずは6番街でレベル上げからだ。
中学から6番街まで歩いて2~3分の距離だ。
道すがら、麗菜が加奈子に伝える。
「そう言えば、8番街で狩ってたらトオルって人が声を掛けてきましたよ?」
「加奈子さんを良く知ってる様な言い回しでした」
『トオルちゃんは私の実の弟ですよ』
「えぇぇぇぇ?先に聞いておけばもっと良い対応できたのにぃ」
『気にしなくて良いですよw』
「でも、あの人ら、警告したのに二人で7番街に入って行っちゃいました」
『まぁ大丈夫じゃないの?』
加奈子の心の中には、トオルがどうなろうが全く関心は無いといった感情が沸いている。
6番街の1番館に着くとまずは加奈子と徳太郎の火の絨毯を全面に拡げる。
弱ってきた所で、レベルが付いたばかりの大勢のメンバーで殲滅していく。
危なそうならレベル付きがサポートに回る。
エントランスでは、60体くらいのゴブリンを瞬殺したファミリーが一段落していた。
「まだまだ奥に居るみたいだから、俺と徳さんで誘導してくるよ」
戸弩力の提案に徳太郎が乗って、二人で奥へと消えていく。
「はぁ~こわかったぁ~ 緑ちゃんすごいなぁ~」
「ら、らくしょうやったぁ~」
「だめだよぉ~そんなん言ったらぁ、みんながいるからたおせたんよ」
「加奈子さんがいつも言ってるけど、慢心は駄目だぞ」
小学生組が初の戦闘で興奮して話す。
中学生組も高校生組も興奮気味に、初めて自分の力で魔物を倒した事に喜んでいるようだ。
「うちも眷属が欲しいなぁ~緑ちゃんも明日桜もいいなぁ~」
「あとで加奈子さんにお願いしてみて、良きにしてくれると思うよ」
未成年組が興奮冷めやらぬ会話を続けている横で、大人組も興奮していた。
「私に生き物が殺せるのかと思ってたけど、案外違和感は無かったかな?」
「刃物で刺す瞬間、目を閉じてしまった・・・」
『一つだけ言っときますねー、戦いの最中に目を閉じたらそれは死に近づくという事』
『怖くても何があっても最後まで眼を開いて戦う意思を継続して下さいなー』
加奈子は自信の過去の過ちを皆にはして欲しくないと言う強い思いから大声で叫んだ。
戦いの余韻を楽しんでいる所に、戸弩力と徳太郎が帰ってきた。
後ろに多勢のゴブリンを引き連れて。
その数ざっと150体。
「ごめ~ん、ちょっと引っ張ってき過ぎた~w」
数が多いなとは思ったけど、危うい戦闘になるとは思ってない戸弩力は半笑いである。
「火撒!!!」
徳太郎が火の絨毯を本館への入り口手前に展開する。
先頭のゴブリンはその火の絨毯を踏むのを躊躇していたが、後ろからドンドン押されて無理やりな感じでエントランスに侵入してしまう。
グギャッ ブギャー
広い広いエントランスで2回戦が始まった。
先ほどよりも火力を弱めに絨毯を拡げているために、結構間近までゴブリンが寄ってくる。
「少し熱いけど、火の耐性の無い奴はドンドン火の中に入って行ってくれ」
「少し我慢したら火熱耐性を覚えるから、必ず覚えておくれー」
2人はここのファミリー全員に火熱耐性を覚えてもらうつもりだ。
その意図を察した加奈子が、ファミリーの後ろにも火の絨毯を拡げ、退路を断った。
「お、鬼かぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あちらこちらで「熱い」「熱い」と言う声が聞こえて来る。
熱さに気が削がれてゴブリンの攻撃を受けてしまう人も多い。
加奈子はヒールを頻繁に掛けて回るが、広いエントランスの全域を動き回るには限界がある。
徳太郎はそんな事はあまり気にせずに火力をドンドン上げていく。
端っこの方で熱さとゴブリンの攻撃で倒れ込む女性が目に入った加奈子は、気持ちが焦ってヒールを投げようとした。
その行動で新しい治癒系スキルを覚えた。
『投げヒール』
それは、目標の相手にヒールを飛ばすスキルだ。
倒れた女性にヒールが届き、その場に復活した。
『目の前の敵にも注意を怠らないで下さいね~』
(ふふふっ面白いスキルを覚えたわ)
加奈子のヒールが間に合わなかった数人のステータスボードには【ヒール】と言う初級の治癒魔法が新しく増えていく。
加奈子は宙に浮き、スロウヒールをあちらこちらに投げ回る。
そしてその行動で、もう一つ新しい治癒魔法が増えた。
『グランドヒール』
自分の意図する味方にのみ治癒を効かせる事も出来る広範囲治癒魔法であった。
まずは自分の味方だけを治癒していく。
治癒魔法で傷も癒され、徳太郎の容赦のない火力上昇でドンドンと高レベルの火熱耐性と無酸素耐性を覚えていく。
中には無酸素呼吸と言うスキルも併せて覚えていく人も居る。
弱っているとはいえ、数多くのゴブリンが次から次に押し寄せて来る。
武器を持ってない人がほとんどだったけど、ゴブリンが落とす拙い武器でも、それを拾って手に持つと戦闘意欲も高まって興奮してくる。
武器を持たずに体術だけで戦う人も居る。
自分より背の低いゴブリンの頭頂に踵落としを食らわせる。
ゴブリンの頭部がひしゃげて息絶える。
顔面に正拳突きを連打する。
顔面が潰れて息絶える。
長めの棍棒を拾った女性は、棒術を駆使してゴブリンを屠る。
水平に構えた棒を左右に上手く捌きダメージを入れていく。
上段に持ち替えてゴブリンの頭部に叩きこむ。
頭蓋骨が爆ぜて息絶える。
火の中で戦っていると初期の火魔法からの派生で上位の火魔法を覚える人も出て来る。
「火列車!」
火の塊りがいくつか列車の様に敵に向かって追尾し高速で地面を走って行く。
そして、敵に当たると盛大に弾けて火の特急列車は消える。
敵も消える・・・
「火の渦巻!」
火の渦巻が水平に敵に向かって渦巻いていく。
先に行くほど広範囲に広がって行き、敵は逃げ場を失う。
「火の雨!」
上空から小さな火の粒が雨の様に降り注ぐ。
防御力の低い敵は身体を火が貫通して死に至る。
貫通しなかった敵も大量の火の雨に打たれ、火熱系の高いダメージを受ける。
新しく攻撃魔法を覚えた人たちは大歓喜する。
それを、微笑みを浮かべた加奈子と徳太郎が、うんうんと頷きながら眺めて物思う。
(あれはパクらないと・・・)
{あっ、加奈子さん、え~っと、こっちは1階にゴブリンが居ただけでもう1時間も掛からずに殲滅出来ると思いますよ}
{そろそろお昼前なので、一旦こっちに戻って来てくれないかな}
{ゴブリンは殲滅しなくても良いですからね}
{了解しましたー}
「おぅっ?!」
藤浜武人が戸弩力部屋に入ろうとした時、中から木刀を持った男が勢いよく飛び出してきた。
「気ぃつけんかぃ!」
その男は、自分がぶつかってきたくせに大声で文句を言う。
それを聞いてヒロミがすかさず腹に蹴りを入れ、藤浜が尻を蹴り上げる。
「うっううう、ぼ、暴力反対・・・」
雲国才楊は痛みを押し殺して、木刀をむやみやたらに振り回しその場から逃げる様に去って行った。
「??なんだったんでしょうか?」
2人は首を傾げながら部屋に入っていく。
「ただいまー」
「ど、どちらさまで?」
「徳じい、嫌やなぁ、俺やん俺」
「お、オレオレ詐欺かぁ?」
「半田のばぁちゃん、俺や藤浜やw」
もう40台半ばで高年域に達していた藤浜と言う男が、一晩経ったら急に若返っていた。
「そういや、今ここから飛び出してきた男を蹴り上げちゃったけど、あれは誰?」
「あぁこの人らの元旦那さんや」
「えぇぇぇぇ?すみません、いきなりぶつかってきといて文句言うから蹴っちゃった…」
「別にかまいませんよ、そんな仕打ちを受ける様な人ですからw」
藤浜は下げた頭を持ち上げた。
そして目線を変えてまた頭を下げた。
「加奈子さん、夕べはすみませんでした。。。」
『あらっ?進化して何か考えも変わられたのでしょうか?」
「あの後、トオルさんに諭されまして、今朝に進化した次第です」
『あら、トオルちゃんに相談したのですね』
「はいっ、自分の疑心暗鬼な性格がこれからの進む道を閉ざしているってお説教を頂いて、現実を見る事を躊躇わない様に考え直しました」
「初めまして、藤浜武人の眷属として生きていく事にしました、﨡井戸大海と申します、今後ともお見知り置きを願います」
「また戸弩力さんには言いますが、この子とここで生きていこうと思ってます」
『今朝レベルが付いた割に、Lv20超えとか凄くレベルが高い気がするんですけど?』
「今日の午前はトオルさんの指導で死ぬほどの狩りをしましたのでw」
「本当に死ぬかと思いましたw」
徳太郎は、昨日レベル付きになった自負があるが、今朝レベルを付けたと言う藤浜に大きく差を付けられたことに少し苛立ちと焦りを感じた。
『そうなんですか~ で、今日はお昼から何かなさるおつもりなんですか?』
「昼からはトオルさんの業務を手伝う算段になっています」
『そうですか』
加奈子は、藤浜が一緒にレベリングに参加するとか言い出すのが嫌だったから少し安堵した。
でも加奈子はまだ知らない。
加奈子が何日もかけて練り上げた今のレベルに、たった半日でこの男が追いつき追い越してる事に。
隠蔽でレベル20にしている藤浜は、加奈子より上のレベル26になっている。
エアーエイプと言うパワーレベリングの相手を見つけた事は大きい。
とは言え、大海のLv22藤浜のLv26のステでも、加奈子の戦闘力には到底及ばない。
昼前にはゾロゾロと天使組と戸弩力組が教室に戻って来る。
「おっ?明日桜ちゃんもレベル付けたんやな?緑ちゃんも大きくなったなぁ」
そう言うと、緑は駆け足で徳太郎の胸に飛び込んでいった。
「徳じぃ~走れたよぉ跳べたよぉ戦えたよぉ」
「よ、良かったなぁ・・・」
「これでながいきできるかもしれ~ん」
徳太郎の胸に熱いものが込み上げてくる。
「おやおや、子オオカミもえらい大きなって」
「明日桜ちゃん、考え直してくれたんやね。良かった・・・」
明日桜の事を一番心配していた戸弩力の胸にも熱いものが込み上げてくる。
「加奈子さん、ありがとうございました」
『いえいえ、明日桜ちゃんの意思であって、私は何もしてませんよ」
「初めまして、今朝は色々あって籍を外してたんですが、藤浜と申します」
加奈子の眷属達に挨拶をした藤浜に、雲国母娘と貴崎麗菜達がお互いに自己紹介を交わす。
「戸弩力さん、この子は昔からの知り合いで﨡井戸大海と言います。これからここで一緒に生きていきたいと思ってます」
「宜しくお願いします」
「あっ、戸弩力さん、こっちは先ほど仲間になった棒妻洋路といいます。自分の眷属になって貰おうと思ってます」
「よろしくおねがいします」
「よろしくね、どちらもレベル付きかぁ、藤浜君も思い直してくれて良かったよ」
「これで戸弩力組と天使組は全員新人類になったって事やな」
「あとは皆で強くなる事ですね、ここのクラン内で戦闘組と呼ばれるくらいに」
「がんばりましょう!」
昼ごはんも終わり、一時の団欒の後、藤浜と﨡井戸を抜いた戸弩力組天使組総勢32人と3匹の戦闘組が歩み出す。
まずは6番街でレベル上げからだ。
中学から6番街まで歩いて2~3分の距離だ。
道すがら、麗菜が加奈子に伝える。
「そう言えば、8番街で狩ってたらトオルって人が声を掛けてきましたよ?」
「加奈子さんを良く知ってる様な言い回しでした」
『トオルちゃんは私の実の弟ですよ』
「えぇぇぇぇ?先に聞いておけばもっと良い対応できたのにぃ」
『気にしなくて良いですよw』
「でも、あの人ら、警告したのに二人で7番街に入って行っちゃいました」
『まぁ大丈夫じゃないの?』
加奈子の心の中には、トオルがどうなろうが全く関心は無いといった感情が沸いている。
6番街の1番館に着くとまずは加奈子と徳太郎の火の絨毯を全面に拡げる。
弱ってきた所で、レベルが付いたばかりの大勢のメンバーで殲滅していく。
危なそうならレベル付きがサポートに回る。
エントランスでは、60体くらいのゴブリンを瞬殺したファミリーが一段落していた。
「まだまだ奥に居るみたいだから、俺と徳さんで誘導してくるよ」
戸弩力の提案に徳太郎が乗って、二人で奥へと消えていく。
「はぁ~こわかったぁ~ 緑ちゃんすごいなぁ~」
「ら、らくしょうやったぁ~」
「だめだよぉ~そんなん言ったらぁ、みんながいるからたおせたんよ」
「加奈子さんがいつも言ってるけど、慢心は駄目だぞ」
小学生組が初の戦闘で興奮して話す。
中学生組も高校生組も興奮気味に、初めて自分の力で魔物を倒した事に喜んでいるようだ。
「うちも眷属が欲しいなぁ~緑ちゃんも明日桜もいいなぁ~」
「あとで加奈子さんにお願いしてみて、良きにしてくれると思うよ」
未成年組が興奮冷めやらぬ会話を続けている横で、大人組も興奮していた。
「私に生き物が殺せるのかと思ってたけど、案外違和感は無かったかな?」
「刃物で刺す瞬間、目を閉じてしまった・・・」
『一つだけ言っときますねー、戦いの最中に目を閉じたらそれは死に近づくという事』
『怖くても何があっても最後まで眼を開いて戦う意思を継続して下さいなー』
加奈子は自信の過去の過ちを皆にはして欲しくないと言う強い思いから大声で叫んだ。
戦いの余韻を楽しんでいる所に、戸弩力と徳太郎が帰ってきた。
後ろに多勢のゴブリンを引き連れて。
その数ざっと150体。
「ごめ~ん、ちょっと引っ張ってき過ぎた~w」
数が多いなとは思ったけど、危うい戦闘になるとは思ってない戸弩力は半笑いである。
「火撒!!!」
徳太郎が火の絨毯を本館への入り口手前に展開する。
先頭のゴブリンはその火の絨毯を踏むのを躊躇していたが、後ろからドンドン押されて無理やりな感じでエントランスに侵入してしまう。
グギャッ ブギャー
広い広いエントランスで2回戦が始まった。
先ほどよりも火力を弱めに絨毯を拡げているために、結構間近までゴブリンが寄ってくる。
「少し熱いけど、火の耐性の無い奴はドンドン火の中に入って行ってくれ」
「少し我慢したら火熱耐性を覚えるから、必ず覚えておくれー」
2人はここのファミリー全員に火熱耐性を覚えてもらうつもりだ。
その意図を察した加奈子が、ファミリーの後ろにも火の絨毯を拡げ、退路を断った。
「お、鬼かぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あちらこちらで「熱い」「熱い」と言う声が聞こえて来る。
熱さに気が削がれてゴブリンの攻撃を受けてしまう人も多い。
加奈子はヒールを頻繁に掛けて回るが、広いエントランスの全域を動き回るには限界がある。
徳太郎はそんな事はあまり気にせずに火力をドンドン上げていく。
端っこの方で熱さとゴブリンの攻撃で倒れ込む女性が目に入った加奈子は、気持ちが焦ってヒールを投げようとした。
その行動で新しい治癒系スキルを覚えた。
『投げヒール』
それは、目標の相手にヒールを飛ばすスキルだ。
倒れた女性にヒールが届き、その場に復活した。
『目の前の敵にも注意を怠らないで下さいね~』
(ふふふっ面白いスキルを覚えたわ)
加奈子のヒールが間に合わなかった数人のステータスボードには【ヒール】と言う初級の治癒魔法が新しく増えていく。
加奈子は宙に浮き、スロウヒールをあちらこちらに投げ回る。
そしてその行動で、もう一つ新しい治癒魔法が増えた。
『グランドヒール』
自分の意図する味方にのみ治癒を効かせる事も出来る広範囲治癒魔法であった。
まずは自分の味方だけを治癒していく。
治癒魔法で傷も癒され、徳太郎の容赦のない火力上昇でドンドンと高レベルの火熱耐性と無酸素耐性を覚えていく。
中には無酸素呼吸と言うスキルも併せて覚えていく人も居る。
弱っているとはいえ、数多くのゴブリンが次から次に押し寄せて来る。
武器を持ってない人がほとんどだったけど、ゴブリンが落とす拙い武器でも、それを拾って手に持つと戦闘意欲も高まって興奮してくる。
武器を持たずに体術だけで戦う人も居る。
自分より背の低いゴブリンの頭頂に踵落としを食らわせる。
ゴブリンの頭部がひしゃげて息絶える。
顔面に正拳突きを連打する。
顔面が潰れて息絶える。
長めの棍棒を拾った女性は、棒術を駆使してゴブリンを屠る。
水平に構えた棒を左右に上手く捌きダメージを入れていく。
上段に持ち替えてゴブリンの頭部に叩きこむ。
頭蓋骨が爆ぜて息絶える。
火の中で戦っていると初期の火魔法からの派生で上位の火魔法を覚える人も出て来る。
「火列車!」
火の塊りがいくつか列車の様に敵に向かって追尾し高速で地面を走って行く。
そして、敵に当たると盛大に弾けて火の特急列車は消える。
敵も消える・・・
「火の渦巻!」
火の渦巻が水平に敵に向かって渦巻いていく。
先に行くほど広範囲に広がって行き、敵は逃げ場を失う。
「火の雨!」
上空から小さな火の粒が雨の様に降り注ぐ。
防御力の低い敵は身体を火が貫通して死に至る。
貫通しなかった敵も大量の火の雨に打たれ、火熱系の高いダメージを受ける。
新しく攻撃魔法を覚えた人たちは大歓喜する。
それを、微笑みを浮かべた加奈子と徳太郎が、うんうんと頷きながら眺めて物思う。
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