118 / 154
第四章 天使と悪魔
天使の憂鬱ー離婚の決意
しおりを挟む
簡易治癒を施した加奈子は廊下に出て連絡を取る。
{麗菜さん、聞こえるかな}
{な、なんですと?新しいスキルですか?}
{そうなの、徳さんと連絡が取れなくて慌ててたら覚えちゃったのw}
{あはは、これはとても便利そうなスキルですね~}
{いきなり飛んでいっちゃってごめんなさいね}
{大丈夫ですよ、明日桜ちゃんと緑ちゃんが理由を説明してくれました}
{そっか~それは助かったわ、それでね麗菜さん}
{もうそこはゴブリン居ないだろうから、8番街に行って様子を見て欲しいの}
{はいっわかりました}
{それでね、敵がゴブリン以外だったり誰かが怪我したら撤退して欲しいの}
{わかりました。それはそうと、あの細男を私の眷属にしちゃダメですか?}
{使えそうなら良いですよ、眷属化した方が問題は起きないだろうしね}
{ありがとうございます、それでは頑張ってきます}
{フィルー、聞こえてる~?}
{{ヌオッ! ア、アルジヨ オ、オドロカス デ ナイゾ}}
{あはは、いつも冷静なフィルでもびっくりするんだね~}
{{・・・}}
{麗菜さんには言ったんだけど、隣のマンションに行って、狩れたら狩ってね}
{{ウムッリョウショウ シタ}}
{でも、危なそうなら撤退してね}
{明日桜ちゃん、ちょっといいかな~?}
{わぁお~ 新スキルですか~?}
{そうなの、ちょっと便利だね}
{ちょっとどころかw}
{麗菜さんとフィルには連絡したんだけど、言い忘れでね、7番街には行かないでね}
{今、麗菜さんがみんなに説明してる所です}
{朝に偵察した時に、7番街はとても強いのが一杯居たからね}
{はいっわかりました、追加でみんなに言っておきます}
取り敢えず、置いて来たメンバーに連絡は取れた。
教室に戻ると、唐突に雲国紗衣が話を始めた。
「お父さんもちゃんと聞こえてると思うけど、私ね、この機会に離婚しようと思うの。
今までもずっとずっと考えてきた事なんだけど、理由を言えば何から言えば良いのか悩むくらい色々ありすぎて・・・」
「おかあさん?・・・」
「もう彩花も自立できる歳だし、こんな世界になってこんな身体になったからもう良いかなって思ってるの。
こんな人と結婚してしまった事が私の人生の大きな間違いだったって・・・」
「おまえが俺無しで生きていける訳が無いだろうが!」
口がきける程度の回復状態なのに、好き勝手に言われてアドレナリンが駄々洩れてきた。
「お言葉ですが、あなたに何かをして頂いた事はまったくありませんよ?
あなたのせいで嫌な思いは沢山してきましたけどね」
「俺の稼いできた金で生きて来たし、おまえの行動はすべて俺の指示で為された事ばかりだろ!その恩も忘れて自分の権利ばかり主張しやがる!部下と同じ種類のクズだっ!!!」
「生活費を家に入れるのは当たり前でしょ?その対価に私が家の事も子育ても家計のやりくりも、あなたの起こした問題の事後処理もすべてやってきたんですよ?
お金にしても、そのお歳で30年以上も働いて、未だに課長にしかなれず、お給料も同期の方の半分も無いのは良く分かっているでしょ?
その癖に見栄っ張りで金使いの荒いあなたを、ずっと我慢して支えてきたのよ?」
「お、俺がいつ見栄を張った?役職は無能な部下が俺の足を引っ張ってるからだろ!」
「部下の悪口をよく言うけど、あなたの部下がどんどん出世して、あなたの上司になっていくのをどんな思いで見てきたのですか?
今の部下さん達も、何度もいきなり夜中に家に連れて来てたけど、あなたが寝た後にお話を聞けば、相変わらずな事やってるのを何度も何度も聞かされましたよ。
相変わらず他人に向かって『オレ以外はみんなクズっ』って言うけど、自分だけがクズだって事を、いい加減に気づいて下さいな」
普段は夫に絶対に逆らわない妻紗衣が、ここまで一気に捲くし立てた事に夫の才楊は驚きを隠せない。
しかし、言われっぱなしで黙っているほど出来た人間でも無い。
「お、おまえは誰に向かって言っとる!俺が今まで間違った事があるかっ!同期の奴らも部下だった奴らも、どうせ裏で汚い事をしてるのは分かっているんじゃ!
おまえも、家事育児を全部やったとか言いやがるが、三食昼寝付きの分際で家事や育児をするのは当たり前やろがっ!」
それを聞いていた半田檸檬は大きく深いため息をついて独り言のように呟く。
「もうこんな不毛な言い争いは終わろうよ、奥さんが別れたいって言ってるんやから素直に解放してあげたらどうなん?
もうひとつ言えば、子供がおる専業主婦は昼寝なんてしとる暇なんかあるかぁっ!」
「うちは離婚に大賛成やで、お母さんとは血の繋がりも無いのに良くしてもらったしね」
「えっ?知ってたの?ってか、いつから?」
「高校の卒業旅行の時、パスポート取るのに戸籍謄本見たからなぁ」
「そんな前から… でもそれからもずっとおかあさんと呼んでくれてたんだね…」
「ショックだったよ、だからおとんとおかあさんとのDNA鑑定もしちゃったの」
「お、おまえは俺が信用出来んかったんか!」
「はぁ?戸籍謄本に養女ってあったら誰でもショック受けるやろが?
それで真実を知りたいって思うんは普通やぞ?それでなくてもウザイ親父やねんから。
おまけに、おとんとは血縁あるけど、おかあさんは100%他人やってDNA鑑定の結果や。
しばらく落ち込んだけど、おかあさんはいつでも優しいしうちの事大事にしてくれとったからな」
「そ、それでも俺の娘には違いないやろが」
「あほやで、それがいっちゃん嫌やねん、それくらい分らんのか」
「お、親に向かってなんちゅう事言うんじゃ!
「ウッザイなぉ~ なぁ、もうこうなったらさぁうちの出生をおしえてくれへん?」
「じゃあハッキリ言うわね。あなたのお母さんはこの人の会社の部下の女性なの」
紗衣はもう包み隠さず皆の前でもいいから彩花に本当の事を告げて、これからの人生をやり直す事にシフトしていって欲しかった。
「ちょっと話が長くなるけど、良いかな?加奈子さんも聞いておいてください」
「はいっ・・・」
高校を卒業して、紗衣がまだ19歳になる前に半お見合いの様に、才楊の知人と紗衣の父が決めた事で結婚した二人だが、元々動物好きだった紗衣は、共働きで動物を扱う仕事がしたいと言っていた。 が、才楊は『妻は家に居るもんだ』と言い張りそれはかなわなかった。
そして嫌がらせの様に、ペット禁止のマンションに移り住み、神戸に引っ越してきた際もやっぱりペット禁止のマンションを探して借りている。
それなら20代前半のうちに早く子供が欲しいと言ったのだが、今は無理だと何度も言われ、夫婦生活も新婚から2年ですっかりセックスレスになってしまい、またそれも叶わなかった。
紗衣が21歳になったある日、お腹が大きい女性が親を伴って家に尋ねて来た。
その親娘が言うには、お腹の子は才楊の子であると。
会社の勘違いで、入社3年で係長に出世した才楊は、自分が偉いと思い違いをしていた。
新卒入社し才楊の部下となったその女性は、才楊のターゲットにされたようだ。
嫌がる女性に『俺の部下なんだから当然だ』と上から目線の威圧で脅されて、社会の実情を全く知らない女性はセックスを強要されてその行為に至っていた。
中学高校と良い大学に入るために勉強しかしてこなかった小娘が、狡猾な大人の策略に抗えるはずも無い。
紗衣よりは年上だが、その若い肉体におぼれ、2年も抱き続けてきた嫁に興味が持てなくなり、事有るごとにその女性をおもちゃにしていたようである。
そして、妊娠が発覚した時にはもう200日を過ぎていたので堕胎も出来ず、誰にも話せずに会社をひっそりと辞めていったそうだ。
会社を辞めてからも、携帯で呼び出してセックスの強要は続き、そして臨月でお腹が目立つようになって初めて母親に涙ながらに相談し話し合い、その日に至った。
「ち、違う!あれは合意の上やったんや!相手も俺の事が好きやったんや」
紗衣たちはチラリと才楊を見たが、無視して話を続ける。
そこからの紗衣の行動は早かった。
まずはその母娘を出産までの間、自分の家に住まわせて世話をし、病院も家の近くに転院させた。
出張から帰った才楊は玄関先で、迎えに来なかった紗衣に怒声を浴びせかける。
だが、リビングに入った瞬間に身も心も凍り付く。
母親は、刑事と民事で争うと言い張るが、娘は子供さえ無事に引き取ってくれれば良いと提案する。
それでもハラワタが煮えくり返る思いの母親から、才楊は罵声を浴びせられても反論しかしない。
一言謝れば状況も変化するだろうに、相思相愛だったと言って引かず反省の欠片も無い。
女性はもちろん愛情等無いと拒絶する。
結局、証拠不十分で刑事事件にはならず、民事裁判でも、ホテルに付いて行ったのは女性にも非が有ると言うような風潮がある時代の為、慰謝料もたった80万しか取れなかった。
それは、妻が居るのに妊娠出産させた事に対するだけの慰謝料である。
本当に女性が生きづらい時代だった。
紗衣は、予定日が近づくと、毎日朝から病院にお見舞いに行っていた。
女性ともすっかり仲良くなったが、最低限の一線は超えない様に務めていた。
そうして生まれた子が彩花である。
「ほんっとうに酷い男ね、良く今まで我慢してきたよね」
「あぁ。聞いてて気分が悪くなってきた」
「雲国さんは最初からおかしな人だとは思っていたけど、怪我が治ったら悪いがここから出て行ってくれるかな?紗衣さんも彩花ちゃんもそれで良いかな?」
「うちらの為なんやったら、うちとお母さんが出て行くで?」
「ちゃうよ、さっきの戦闘もまったく言う事聞かんし、おまけに実力も無いのに勘違いしてゴブリンに向かって行って返り討ちに逢う始末。 今後こんな人が居るととばっちりで怪我する人が出て来る。 それだけは有ってはならん事なんだよ」
「そうやで、最初に簡単に倒せたんは徳さんが火の絨毯で弱らせてくれとったからって、なんであんたはわからんのかなぁ?」
それまで、須布来人は、自信の浮気が原因で離婚した事が2度もあるので、話には入らないつもりだった。
でもその話は終わり、戦闘場面の話になったので急にしゃしゃり出て来た。
『エンジェルヒール』
加奈子は才楊を完全治療し、いつでも出て行けるようにした。
『その木刀は、戸弩力ファミリーからの選別です』
才楊は紗衣だけを睨みつけ、黙ってそのまま部屋から出て行った。
{麗菜さん、聞こえるかな}
{な、なんですと?新しいスキルですか?}
{そうなの、徳さんと連絡が取れなくて慌ててたら覚えちゃったのw}
{あはは、これはとても便利そうなスキルですね~}
{いきなり飛んでいっちゃってごめんなさいね}
{大丈夫ですよ、明日桜ちゃんと緑ちゃんが理由を説明してくれました}
{そっか~それは助かったわ、それでね麗菜さん}
{もうそこはゴブリン居ないだろうから、8番街に行って様子を見て欲しいの}
{はいっわかりました}
{それでね、敵がゴブリン以外だったり誰かが怪我したら撤退して欲しいの}
{わかりました。それはそうと、あの細男を私の眷属にしちゃダメですか?}
{使えそうなら良いですよ、眷属化した方が問題は起きないだろうしね}
{ありがとうございます、それでは頑張ってきます}
{フィルー、聞こえてる~?}
{{ヌオッ! ア、アルジヨ オ、オドロカス デ ナイゾ}}
{あはは、いつも冷静なフィルでもびっくりするんだね~}
{{・・・}}
{麗菜さんには言ったんだけど、隣のマンションに行って、狩れたら狩ってね}
{{ウムッリョウショウ シタ}}
{でも、危なそうなら撤退してね}
{明日桜ちゃん、ちょっといいかな~?}
{わぁお~ 新スキルですか~?}
{そうなの、ちょっと便利だね}
{ちょっとどころかw}
{麗菜さんとフィルには連絡したんだけど、言い忘れでね、7番街には行かないでね}
{今、麗菜さんがみんなに説明してる所です}
{朝に偵察した時に、7番街はとても強いのが一杯居たからね}
{はいっわかりました、追加でみんなに言っておきます}
取り敢えず、置いて来たメンバーに連絡は取れた。
教室に戻ると、唐突に雲国紗衣が話を始めた。
「お父さんもちゃんと聞こえてると思うけど、私ね、この機会に離婚しようと思うの。
今までもずっとずっと考えてきた事なんだけど、理由を言えば何から言えば良いのか悩むくらい色々ありすぎて・・・」
「おかあさん?・・・」
「もう彩花も自立できる歳だし、こんな世界になってこんな身体になったからもう良いかなって思ってるの。
こんな人と結婚してしまった事が私の人生の大きな間違いだったって・・・」
「おまえが俺無しで生きていける訳が無いだろうが!」
口がきける程度の回復状態なのに、好き勝手に言われてアドレナリンが駄々洩れてきた。
「お言葉ですが、あなたに何かをして頂いた事はまったくありませんよ?
あなたのせいで嫌な思いは沢山してきましたけどね」
「俺の稼いできた金で生きて来たし、おまえの行動はすべて俺の指示で為された事ばかりだろ!その恩も忘れて自分の権利ばかり主張しやがる!部下と同じ種類のクズだっ!!!」
「生活費を家に入れるのは当たり前でしょ?その対価に私が家の事も子育ても家計のやりくりも、あなたの起こした問題の事後処理もすべてやってきたんですよ?
お金にしても、そのお歳で30年以上も働いて、未だに課長にしかなれず、お給料も同期の方の半分も無いのは良く分かっているでしょ?
その癖に見栄っ張りで金使いの荒いあなたを、ずっと我慢して支えてきたのよ?」
「お、俺がいつ見栄を張った?役職は無能な部下が俺の足を引っ張ってるからだろ!」
「部下の悪口をよく言うけど、あなたの部下がどんどん出世して、あなたの上司になっていくのをどんな思いで見てきたのですか?
今の部下さん達も、何度もいきなり夜中に家に連れて来てたけど、あなたが寝た後にお話を聞けば、相変わらずな事やってるのを何度も何度も聞かされましたよ。
相変わらず他人に向かって『オレ以外はみんなクズっ』って言うけど、自分だけがクズだって事を、いい加減に気づいて下さいな」
普段は夫に絶対に逆らわない妻紗衣が、ここまで一気に捲くし立てた事に夫の才楊は驚きを隠せない。
しかし、言われっぱなしで黙っているほど出来た人間でも無い。
「お、おまえは誰に向かって言っとる!俺が今まで間違った事があるかっ!同期の奴らも部下だった奴らも、どうせ裏で汚い事をしてるのは分かっているんじゃ!
おまえも、家事育児を全部やったとか言いやがるが、三食昼寝付きの分際で家事や育児をするのは当たり前やろがっ!」
それを聞いていた半田檸檬は大きく深いため息をついて独り言のように呟く。
「もうこんな不毛な言い争いは終わろうよ、奥さんが別れたいって言ってるんやから素直に解放してあげたらどうなん?
もうひとつ言えば、子供がおる専業主婦は昼寝なんてしとる暇なんかあるかぁっ!」
「うちは離婚に大賛成やで、お母さんとは血の繋がりも無いのに良くしてもらったしね」
「えっ?知ってたの?ってか、いつから?」
「高校の卒業旅行の時、パスポート取るのに戸籍謄本見たからなぁ」
「そんな前から… でもそれからもずっとおかあさんと呼んでくれてたんだね…」
「ショックだったよ、だからおとんとおかあさんとのDNA鑑定もしちゃったの」
「お、おまえは俺が信用出来んかったんか!」
「はぁ?戸籍謄本に養女ってあったら誰でもショック受けるやろが?
それで真実を知りたいって思うんは普通やぞ?それでなくてもウザイ親父やねんから。
おまけに、おとんとは血縁あるけど、おかあさんは100%他人やってDNA鑑定の結果や。
しばらく落ち込んだけど、おかあさんはいつでも優しいしうちの事大事にしてくれとったからな」
「そ、それでも俺の娘には違いないやろが」
「あほやで、それがいっちゃん嫌やねん、それくらい分らんのか」
「お、親に向かってなんちゅう事言うんじゃ!
「ウッザイなぉ~ なぁ、もうこうなったらさぁうちの出生をおしえてくれへん?」
「じゃあハッキリ言うわね。あなたのお母さんはこの人の会社の部下の女性なの」
紗衣はもう包み隠さず皆の前でもいいから彩花に本当の事を告げて、これからの人生をやり直す事にシフトしていって欲しかった。
「ちょっと話が長くなるけど、良いかな?加奈子さんも聞いておいてください」
「はいっ・・・」
高校を卒業して、紗衣がまだ19歳になる前に半お見合いの様に、才楊の知人と紗衣の父が決めた事で結婚した二人だが、元々動物好きだった紗衣は、共働きで動物を扱う仕事がしたいと言っていた。 が、才楊は『妻は家に居るもんだ』と言い張りそれはかなわなかった。
そして嫌がらせの様に、ペット禁止のマンションに移り住み、神戸に引っ越してきた際もやっぱりペット禁止のマンションを探して借りている。
それなら20代前半のうちに早く子供が欲しいと言ったのだが、今は無理だと何度も言われ、夫婦生活も新婚から2年ですっかりセックスレスになってしまい、またそれも叶わなかった。
紗衣が21歳になったある日、お腹が大きい女性が親を伴って家に尋ねて来た。
その親娘が言うには、お腹の子は才楊の子であると。
会社の勘違いで、入社3年で係長に出世した才楊は、自分が偉いと思い違いをしていた。
新卒入社し才楊の部下となったその女性は、才楊のターゲットにされたようだ。
嫌がる女性に『俺の部下なんだから当然だ』と上から目線の威圧で脅されて、社会の実情を全く知らない女性はセックスを強要されてその行為に至っていた。
中学高校と良い大学に入るために勉強しかしてこなかった小娘が、狡猾な大人の策略に抗えるはずも無い。
紗衣よりは年上だが、その若い肉体におぼれ、2年も抱き続けてきた嫁に興味が持てなくなり、事有るごとにその女性をおもちゃにしていたようである。
そして、妊娠が発覚した時にはもう200日を過ぎていたので堕胎も出来ず、誰にも話せずに会社をひっそりと辞めていったそうだ。
会社を辞めてからも、携帯で呼び出してセックスの強要は続き、そして臨月でお腹が目立つようになって初めて母親に涙ながらに相談し話し合い、その日に至った。
「ち、違う!あれは合意の上やったんや!相手も俺の事が好きやったんや」
紗衣たちはチラリと才楊を見たが、無視して話を続ける。
そこからの紗衣の行動は早かった。
まずはその母娘を出産までの間、自分の家に住まわせて世話をし、病院も家の近くに転院させた。
出張から帰った才楊は玄関先で、迎えに来なかった紗衣に怒声を浴びせかける。
だが、リビングに入った瞬間に身も心も凍り付く。
母親は、刑事と民事で争うと言い張るが、娘は子供さえ無事に引き取ってくれれば良いと提案する。
それでもハラワタが煮えくり返る思いの母親から、才楊は罵声を浴びせられても反論しかしない。
一言謝れば状況も変化するだろうに、相思相愛だったと言って引かず反省の欠片も無い。
女性はもちろん愛情等無いと拒絶する。
結局、証拠不十分で刑事事件にはならず、民事裁判でも、ホテルに付いて行ったのは女性にも非が有ると言うような風潮がある時代の為、慰謝料もたった80万しか取れなかった。
それは、妻が居るのに妊娠出産させた事に対するだけの慰謝料である。
本当に女性が生きづらい時代だった。
紗衣は、予定日が近づくと、毎日朝から病院にお見舞いに行っていた。
女性ともすっかり仲良くなったが、最低限の一線は超えない様に務めていた。
そうして生まれた子が彩花である。
「ほんっとうに酷い男ね、良く今まで我慢してきたよね」
「あぁ。聞いてて気分が悪くなってきた」
「雲国さんは最初からおかしな人だとは思っていたけど、怪我が治ったら悪いがここから出て行ってくれるかな?紗衣さんも彩花ちゃんもそれで良いかな?」
「うちらの為なんやったら、うちとお母さんが出て行くで?」
「ちゃうよ、さっきの戦闘もまったく言う事聞かんし、おまけに実力も無いのに勘違いしてゴブリンに向かって行って返り討ちに逢う始末。 今後こんな人が居るととばっちりで怪我する人が出て来る。 それだけは有ってはならん事なんだよ」
「そうやで、最初に簡単に倒せたんは徳さんが火の絨毯で弱らせてくれとったからって、なんであんたはわからんのかなぁ?」
それまで、須布来人は、自信の浮気が原因で離婚した事が2度もあるので、話には入らないつもりだった。
でもその話は終わり、戦闘場面の話になったので急にしゃしゃり出て来た。
『エンジェルヒール』
加奈子は才楊を完全治療し、いつでも出て行けるようにした。
『その木刀は、戸弩力ファミリーからの選別です』
才楊は紗衣だけを睨みつけ、黙ってそのまま部屋から出て行った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる