厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第四章 天使と悪魔

天使の眷属

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加奈子の奇跡を見たファミリーの人達も落ち着き、自分自分の事に戻って行く。


戸弩力ファミリーのおかげで種族進化し、新しい称号やスキルも付いた事を雅史に話す。

 「お、お役に立てたなら光栄です」
「それで、私はここのファミリーに恩返しをしなくてはなりません」
 「そ、そんな恐れ多いですよ。けが人も治して頂いたのに・・・」

「ううん、ここに来なけりゃこんなにステータスも上がってないし」
「私のステータスはね、【大器晩成型】と言って、レベルが低い内は能力が人よりかなり低いの」
「そしてレベルも上がりにくいから、どちらかと言えば弱いんだけどね」
 「だ、誰が言ってるんですか?そんなに強いのに」

「ふふっ ありがとねー」
「最初に覚えた魔法がたまたま強かっただけで、それがなかったらただの小娘よ」

「ただね、他の人にはない LUK ってスキルがあるの」
 「運 ですよね」
「そうなんだけど、今までなかったのに急に出てきたの」
「種族が変わった第一号とか幸運の天使とかって称号も付いたからその効果かな?」
 「憶測ですが、それって隠しスキルじゃなかったんですか?」
「うん、そう思えば思い当たる節は多々あるの」

加奈子は腕輪を見せて語り出す。
「この腕輪はちょっと強いゴブリン倒したときに出てきたの」
 「モンスターからドロップなんて聞いたことが無いです」
「でしょ?」
  (ドロップって言うのね)
「それも、火の鎧を纏えて火熱耐性まで付くような珍しい装備だと思うの」
 「レア装備ですね」
「それと、やたら簡単に、使えるスキルを覚えるの」
「それも、今すぐ必要な物ばかり」
 「うらやましいです」
「それがなかったらもう死んでるよ、うふふっ」

 「それを笑って言えるのが凄いです」

そんな話をしながら加奈子が考えている今後の事を話しだす。

まずはクラン全体の食料確保。
これは必須問題だと思うから、早急に取り組みたい。
戦力補強も早急な課題だ。

「明日からここのファミリーを戦闘ファミリーにしたいと思ってるの」
 「加奈子さんのご指導でですか?」
「ん~私はあんまりこういった事の知識が乏しいから、サポートしてくれる人が必要なの」
 「ドロップなんて言葉、ついさっき覚えたくらいよ(笑)」

そんな話をしていると、先ほど死について問いかけたご老人が話しかけてくる。

   「天使様、わしらも戦闘員になれるんやろうか」
   「老爺と老婆じゃよ」
   「もしもさっきの話の通り、若返って戦えるんなら天使様に我が身を委ねたい」
   「「「「「「「お願いします」」」」」」」

   「天使様に問われて、この先の事を考えとると死にたくなる」
   「そりゃ本末転倒じゃ」
   「「「「「「あはははは」」」」」」

「ありがとうございます」
「まずは、皆さんのレベルを付ける事から始めましょう」
「戸弩力さん、手伝ってくださいな」
 「よ、よろこんでー」
   「どこの居酒屋じゃ」
   「「「「「「「あははははははは」」」」」」」

「それじゃ、まずはグラウンドの端で安全にゴブリンを倒しましょう」

   「ちょっと待ってくれんかね天使様」
唐突に一人の老人が加奈子に問いかける。

「どうしました?」
   「わしは脳性麻痺で左半身が上手く動かんのじゃよ」
   「それでも戦闘員になれるんか?」

「大丈夫ですよ、ちょっとごめんなさいね」
そう言って加奈子はその車いすの老人の前に立つ。

「エンジェルヒール!!!」
淡い光に包まれて、老人の顔から生気が溢れ出す。
呪文を唱えた加奈子は、そのネーミングに少し恥ずかしい気持ちが先に立つ。

「もう立てますよ。頑張りましょう」
爺Tお?っお?おっ?おー おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?」


爺ぃが立った。


   「あああああああああああああ」
   「ありがとうございますううううううううう」
   「うっうっううう」
もう何年も自分の力で立てなかった男は、久しぶりに動き出した自分の手足に感動する。
筋力が落ちているので、自由自在と言う訳では無いが、思うように動く。

そして涙が止まらない。
   「うっうっうっ」
おもわず、他の老人たちも貰い泣きする。
   
   「わしゃもう な~にがあっても 天使様にウゥついていきますわ」
   「おううぅおぅうううううううう」

「もうーそんな大げさですよー」

加奈子もここまで喜んでもらえた事に、少し目頭が熱くなる。



グラウンドに出るために皆で歩きながら大事な事を話す。

まず、経験値を得ると進化する事。
その時に死ぬような痛みに襲われる事。
その後は、モンスターを倒すたびに経験値を得てレベルが上がる事。
レベルが上がると職業を覚える事。
何かの行動を復習するとスキルを覚える事。

その他、大事な事だと思う事を雅史にも言ってもらった。

後は他愛ない雑談を続ける。

この老人たちは、すぐそこの六甲アイランド中央の病院に入院していた仲の良い患者たちだった。
老けて見えていたが、まだみんな70代前半と若かった。
最近の70歳代なんて、走れるくらい元気だ。
磯野波平の時代とはかなり違う。あの人はまだ54歳なのに老けすぎだ。船さんもね。

そんな話をしているとグラウンドの端に着いた。

「ここで安全にこちら側から、フェンスの向こう側のゴブリンにダメージを与えます」
「その後にゴブリンを倒すと進化が始まります」
   「な~んか、痛いの嫌じゃな~」
「長い人生の中のたった数分で肉体も若返り、病気も無くなるんですよ」
   「それくらいのリスクはしゃ~ないやろ」

「それじゃーここら辺でやりますか」

千枚通しが3本しかなかったのでそれを3人に持たせ、残りは鉛筆とか小さなバールを持たせた。
大きな武器ならゴブリンがすぐに死んでしまうし、出来れば全員同時に進化させたいからである。
理由は、苦しむ人を見ると進化する事に躊躇ちゅうちょしないとも限らないからだ。

「じゃ捕まえてきますね」
   「い、生け捕り?」
「はいー。 戸弩力さん、外に出るのでこちらで待機しといてくださいな」

加奈子は2m以上あるフェンスを軽く飛び越えて出て行った。
   

   「ほぇ~すんごいジャンプ力やな~」
 「レベルが付けば簡単な事ですよ」
ニコニコとしながら戸弩力は言う。

   「雅史も出来るんか?」
 「そりゃ飛ぶくらい出来ますよ」
   「な~んか嘘っぽいの~」
 「酷いな~」



数分もしないうちに加奈子はギャーギャー叫ぶゴブリンを連れて帰ってきた。
全員に緊張の糸が張り詰める。

「それでは、このゴブリンにダメージを与えてもらいます」
「戸弩力さん、そちらの手を中から持てますか?」
フェンスの隙間からゴブリンの左手を引き出して逃げれないように持つ。
右手は外で加奈子が持っている。
罪悪感や恐怖感を持たないように、皆にはゴブリンの背中が見えるようにしている。

「それでは皆さん、持っている武器でこいつを刺して下さい」

良く考えれば、怖い事を言ってるもんだ。

まず最初に車いすに乗っていた男性が鉛筆でわき腹辺りを刺す。
 ウギャー

続けて他の人たちも刺していく。
ゴブリンは死ぬほどの痛みじゃないけど、チクチクと見えない所から刺されることに強いストレスを感じ、頭を振りながらウギャウギャと叫んでいる。

 「加奈子さん、全員刺しました」
「それじゃーこいつは殺しますね」

加奈子は軽い言葉でそう言うとゴブリンを離す。
雅史も同じくゴブリンの手を離すと、凄い勢いで逃げていく。

土針ソイルニードル!」

ゴブリンは地面から生えてきた土の大針に刺され絶命する。
その瞬間から老人セブンズの進化の苦悶が始まる。

   「「「「「「「ウギャ~~~」」」」」」」




数分間、悶え苦しみ喚き散らし、黒い肉塊の様な物をその辺に吐き散らかし、歯は抜け替わり、目も耳も補助器具が要らなくなり、そして肉体も若返る。

1人の女性は淡い青髪になり、一人の男性は薄い茶色の髪になる。
そしてもう一人、車椅子だった男はオレンジ色の髪になる。

「この髪の毛の色って何が要因で変わるんでしょうね」
 「ですねー。 ここでも色が変わった人も居ればそのまま黒い人も居る」

   「「「「「「「ハァハァハァハァ」」」」」」」
   「「「「「「「ハァハァハァ」」」」」」」

7人は息も絶え絶えだったが、少し落ち着いてきて、自分の肉体の変化に驚いている。
全員が見た目30歳前後の青年になり身長も若いころよりかなり高くなっている。
   「もうこの歳になったら、毎年身長は減っていくもんやからなー」
   「この肌の張り♪ 女に戻ったよ!!!」
   「あぁ~?何をエロい目で見とんやー」

「みなさん、ステータスオープンと唱えて、自分のステータスを見てください」

   「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉっ」」」」」」」

今まで見た事も無いホログラムのような自分のステータスを堪能している。

「スキルが最初からついてる人とか居ますか?」
「称号とか付いてる人いますか?」

スキルは全員が何かしら持っていた。それは70年以上も生きてきた勲章なのかも知れない。
とは言え、裁縫 とか 調理 とか女性は大体生活スキルだった。

青髪の女性は水魔法を覚えていた。
オレンジの髪の男は火魔法を覚えていた。
薄い茶色の髪の男は土魔法を覚えていた。

攻撃魔法を覚えてるわけではない。

攻撃スキルを持っていたのは男性2人だけだった。

1人は剣道2段の猛者で剣術と言うスキル。
もう1人は、若いころはよく喧嘩をしていたからだろうと言う、鉄拳と言うスキルを持っていた。

さすがに称号を最初から持ってる人は居なかったが。

自分のイメージでスキルは作れるという事を教えておく。

水魔法なら、水を何度も何度も飛ばしていたら、多分水弾を覚えるだろう。
土魔法なら砂埃を何度も何度も巻き上げていれば、風魔法も覚えて竜巻とかおぼえるだろう。

そうやって自分の可能性は無限大だという事を認識させておく。



最初は戦闘に必須の跳躍とか俊動とかを覚えてもらう。
後は個性を大事に、自分の創造で魔法でも攻撃スキルでも作っていこうと励ました。

みんな日が傾いて来るまで楽しんでた。
もう何年も自由に走ったり飛んだり出来なかったのが、若い頃よりも激しく動ける事の喜び。

水魔法の女性は水弾と水鞭を覚えた。それはそれは嬉しそうに報告に来た。
土魔法の男は地揺らしと木枯らしという風魔法を覚えた。加奈子が例に出して例えた事から想像しやすかったのかも知れないが、なかなかの努力と成果だ。

加奈子の持つ土魔法を見せるとまた練習に戻っていった。
すぐに今見たばかりの土魔法も覚えるだろう。

そして、火魔法の男は、暗くなってから一緒に修行をしに行く事になっている。
それまでは体術に使える蹴りや殴り、回転や宙返り側転等を練習させている。

加奈子も新しく覚えたスキルの練習をしたいが、人の多い所では危険なので、夜に住宅街を出て、外周地帯か海浜公園か埠頭でやる事になっている。
もちろん雅史も着いていくと懇願されたので了承している。

火魔法の男は名前を 原田徳太郎と言う。
「原田さん、私の弟子って事でいいでしょうか?」
  「いえ、私は天使様の眷属しもべです」
「あははっ そんな堅苦しいのは辞めてくださいな」
「私の事は加奈子と呼んでください」 
  「わかりました、加奈子様」
「様付けもやめてよ~」
 「徳太郎さん、良くわかりますよ」
 
雅史は自分が加奈子を神聖視していたから、本当に気持ちは良くわかる。

「それでは私も 徳さんと雅史さんと呼ばせてもらいます」
 「「光栄です!!!」」

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