厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第四章 天使と悪魔

天使と悪魔の邂逅

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 「あの女の人、すげ~なぁ~」
「ですね・・・」

 「あんなに居た魔物たちをあっという間に倒して、とんでもなく凄い魔法使いやなーって思ったのに」
 「なんと、あのハイオークとは一切魔法を使わないで格闘だけで倒してしまうなんて」
「・・・」

 「魔法戦士、いや魔法格闘家なのかなー」
 「まだ興奮してるよー」
 「ぜひ、うちの仲間になってもらおう」
「いや、ちょっと危険じゃないでしょうか?」
「もしも敵対されたら、今のうちの戦力じゃ全員で掛かっても勝てないでしょう」

 「まーそれでも同じ人間なんだし、一度話しかけてみよう」
 「ハイオーク1体倒すのに、うちなら5~6人で傷だらけになってやっとだろ?」
 「それでももうすでにハイオークに3人殺されてるし」
 「それをやね、たった一人やで?見た感じ無傷だし」
 「ハイオークってあんなに弱かった?って思わせる戦い方だったし」

「それでも味方なのかどうかわからないうちは大胆に行くのは推奨出来ませんよ」
 「そうなったらそうなった場合に考えよう」
「・・・」

 「んじゃー行くよ?君」

 (能天気な馬鹿だ。さっさと俺の糧にしてしまおう)
 (しかしあのアマ、いつの間にあんなにすごい力を手に入れてやがったんじゃ)
トオルは異様な迫力を身に付けた理由はこの強さに裏打ちされた自信だったのだろうと分析する。

「僕は見えない位置でいつでも飛び出せるように様子を見ます」
「万が一の事も視野に入れておかないと、もしあなたに何かあれば大変ですから」
 「ん~トオル君は慎重だなー。まぁだからマインダーなんて重要な仕事をお願いしてる訳だし」

[マインダー]とは、指南や指摘、助言、守役、番人、はては管理人や用心棒的な意味を持つ、幅広い意味合いでのサポート職である。minder英語発音はミンダー。ギルドやクランの中では重要な役職である。



その男、七和田 亜生良なわた あきら向洋こうよう町にある中学校と隣の六アイ小学校の避難所を統率している人物である。
人当たりが良く、生真面目でお人好し、ポジティブな言動でリーダーに祭り上げられてる典型的な”良い人”である。
ただ、責任感も強く、視野も広く、全体に配慮も出来るので、祭り上げられてるとは言えリーダー足る素要は持ち合わせている人物でもある。



「すみませ~ん」
七和田は3階のベランダから飛び降りて、早足で先へ進む加奈子を追いかける。

チラっと振り返った加奈子だったが、スルーして先に進む。
 (Lv8かー 頑張ってね。ナンパ男さん)

「すんませ~ん」
完全無視を決め込む加奈子。
 (めんどくさいなー)

 スタッスタッ

「あの~そこのお姉さん、ちょっとだけお話いいですか~?」
知らない女性に声を掛けた事なんて無いんだろう。何かの勧誘みたいに聞こえる。
 
 (はぁ~ 今日はもう帰ろっかなー)


 『グォォォォォォォォオオオオオオオーーー』

どこからともなく頭のてっぺんから全身が痺れるような咆哮が響き渡る。
 ビクッ

加奈子はすぐに誰なのか気づき、声のする方に身体を向け、腰を低くして臨戦態勢を整える。

 (ヒュン)
"千里眼"と言うスキルを覚えた。遠方を広角に見る事も出来る。

振り返った方向にあるイーストコート5番街の西棟の南端のアーチ型のベランダに奴は居た。

精神耐性の無い二人は、その咆哮を聞いただけでその場に座り込み動けない。

加奈子も"威圧"を込めた大声で雄叫びを返す。

 「ウウゥォォォオオオオオーーーーーーーーーーー」

加奈子の"威圧"でトオルたち二人と、遥か向こうに居るキャリヤの取り巻き達が恐怖に崩れ落ちる。


間違いなく気配もオーラも咆哮も"ヤツ"なハズなのだが、見た目が全然違う!

千里眼の遠目ではっきりと見えるが、ブヨブヨだった身体は筋肉質に引き締まり、身長もかなり高くなっている。

取り巻きの大人ゴブリンより頭一つ大きい。
そして、髪の色が碧髪で、人間の顔をしている事に驚く。
 (髪染めと美容整形でもしたのか?)








少し前。

そばの大きな公園で、他所のグループのゴブリン多数とオークのグループが戦闘を始めそうだと、リーダーであるキャリアに偵察に出ていたゴブリンから報告が入った。

あわよくば、オークを倒し経験値を稼ぎゴブリンの群れを配下に収めようと、戦闘力の高い側近数人を引き連れて様子を見に来ていた。

そこで、その公園に向かってスタスタと歩いていく人間の女の姿が目に入る。 
 (アヤツダ)
 (ナニをスルツモリダ?)

圧倒的に多数のゴブリンとオークの群れに、怯みもせずに近づいて行くそいつから目が離せない。


そして、瞬く間にそいつらを涼しい顔で殲滅してしまった。

側近の者達がざわめく。
中には何が起こったのかもわからず、ただただオロオロする奴も居る。

 (ワレも キノウヨリもスウバイつヨク ナッタ)
 (ダガ ヤツモ オナジクラいツヨくナッタ)

キャリヤの顔に笑みが浮かぶ。
それを見ていた側近はその意味が理解できない。

キャリヤは興奮の余りに大声で雄叫びをあげた。

 『グォォォォォォォォオオオオオオオーーー』
あ奴は、声を聞くとすぐさまこちらに振り返り戦闘態勢を取る。

やはり楽しい奴だ!









距離にして100mちょっと、跳躍で全力で飛べば4歩か5歩で届く。

キャリヤは腕を組んでにこやかに加奈子に微笑んでいるように見える。
取り敢えず、近くによってステータスを見たい。

そんな事を考えていると、キャリヤ一人がベランダから飛び降りた。
加奈子は考えも無しに一足飛びでキャリヤに近づいて行った。

身体の芯から沸々と戦闘意欲が湧いてくる。
それでも何故か顔がほころぶ。
そんなにヤツと戦うのが嬉しいのだろうか?

100mの距離を3歩で詰めた加奈子の目の前にはニヤケタ顔のキャリヤが腕組をして待っていた。
まだヤツは戦闘態勢に入っていない。

先制は加奈子だった。
まずは様子見のつもりだった
 「火投槍ファイアジャベリン
 「火投槍ファイアジャベリン
 「火球ファイアボール


 『水の盾ウォーターシールド

 バチッバチッ!

 火投槍ファイアジャベリンは跡形もなく水の盾の中に消えていった。
 火球ファイアボールは盾に弾かれて力無く消えていった。

加奈子は驚きを隠せず思わず声が出てしまう。
 「はぁ? 今、何をした?」

戦いの最中に呆けていてはいけない。

 『トリプルウォータージャベリン』

3本の水の槍が加奈子を襲う。

とっさに思いついたのがお返しとばかりの
土盾ソイルシールド

水で出来た槍は土の盾に当たって砕けて弾けた。
土壁の応用で任意の範囲に土を固く圧縮して、岩石のような強度にまで練り上げた応用魔法である。

 『水弾ウォーターバレット!!』

 「土壁ソイルウォール!」

水の無数の弾を土の壁でふさぐ。そしてすかさず

 「火絨毯ファイアカーペット!」

キャリヤは全ての火を消し去る呪文を用意してた

 『大波ビッグウェーブ

幅広く大きな水の波が燃え盛る炎の絨毯を消していく。
絨毯の火が消され水に飲み込まれそうになったので、火力を最大まで上げてみたけど相殺するのがやっとだった。

キャリヤは間髪入れずに次の魔法を唱えた。

 『氷柱アイスニードル!!!』

空から氷のつららが無数に落ちてくる。
前後左右斜め下からも加奈子を狙って飛んでくる。
避ける事も出来ない。
逃げる事も出来ない。
絶体絶命の刹那、加奈子が唱えた魔法は。

 「火絨毯ファイアカーペット
 「火柱ファイアピラー
 「土壁ソイルウォール
 「火鎧ファイアアーマー


 「火の戦闘領域バトルテリトリー!!!」



氷柱つららはすべて高温の熱で溶かされた。

火魔法の複合融合魔法だ。
魔法同士の相乗効果で半径25mほどの炎の半円形ドーム型の戦闘封鎖領域が出来上がった。
 (後回しだなんて考えた私が馬鹿だった)
 (出来る範囲の事は全部やらないとヤツには勝てない!)


テリトリーの中では、圧倒的に加奈子の有利になる。
全ての威力が2倍から3倍に伸び、敵からのダメージも半減する。
高熱高温耐性の無い奴は、そこに居るだけで倒れていくだろう。
酸素が無くても生きていける耐性やスキルが無ければ死に絶えるだろう。


だが、キャリヤはテリトリーの中に囲い込まれたが、さほど危機感は覚えてない。
ただただ(暑いな~)とくらいにしか感じていない。
足元が少し燃えて火傷を負うが、高速治癒ですぐさま傷は治る。

その理由は、加奈子のテリトリーがまだまだ不完全だからだ。
キャリヤの耐性でも十分行動出来る程度だ。
しかし、トオルや七和田なら10秒も生きていられないだろう。


火壁の代わりに土壁を使い、ドームを形成するスキルも足りない。
完全な封鎖領域テリトリーではない。 言い換えれば劣化版のテリトリーだ。

なぜキャリヤはその事を理解しているのか?
不完全なテリトリーはキャリヤも作れるからだ。


最初は偶然だった。
だが、間違いなく火使いのヤツには有効な技だと狂喜した。

しかし、何度やっても不完全にしか出来ない事に苦悩し挫折し、膝から崩れ落ちたが、何が足りないのか理解し、不完全な領域はどうやれば破壊されるのかも解析出来ている。

そして、今回の戦いではこのスキルを使うつもりはなかった。
不完全だからだ。

ただ、あ奴も同じ技を"不完全"に使えるようになっている事に少し嬉しさを感じてしまった。
自分にもその程度の事は出来ると、自慢がしたかった。


 『大波ビッグウェーブ
 『氷柱アイスニードル
 『水壁ナイアガラ
 『水の羽衣ウェットフェザーコート

 『水の戦闘領域バトルテリトリー!!!』

「な、なな、な、なんでなのー?」
「おっおかしいでしょーあんたー」
驚く加奈子の顔を楽し気に見つめるガタイの良いイケメンゴブリン。




七和田のそばに寄ってきたトオルとその戦いを見守りながら、二人は心の中で驚愕する。

  「人間の戦い方ちゃうよな~・・・」
 「至近距離での魔法合戦で、なぜあんなに素早く攻撃して防御出来るのでしょう」
  「まるで相手が何をしてくるのかわかってるみたいだねー」

 「あの青いゴブリン、うちのメンバー何人なら倒せるでしょうか」
  「ん~全滅じゃない?うちが。」
それくらいの戦いを繰り広げる二人に対してもう言葉が出てこない・・・





火の領域が徐々に水の領域に浸食されていく。
丁度半分くらいまで浸食したかと思うと、火と水は相殺され弾け飛ぶ。

数歩、加奈子に近づきキャリヤが口を開く。

『オマエのテリトリーは マダマダフカンゼン』
『オレのテリトリーも マダマダ フカンゼンだ』

「しゃ、喋れるの?ゴブリンが?」

『フッ ジュモンを トナエて イるガ?』
「そりゃ確かに・・・」


『コイ!』

キャリヤは肉弾戦を求めてきた。
昨日のままなら肉弾戦でも楽に勝てるだろう。

だが、明らかに昨日よりもコイツは強い。
加奈子はキャリヤのステータスを最初に見ないとダメだったとようやく思いいった。
 (いつも後悔ばかり・・・)


キャリヤ(6)
Lv 13
種族 【水龍鬼】選択
職業 【--】選択
称号 【百人殺】【怒れる者】
形態 【怒轟変異種】
基本能力一覧
GMR/MSU+
HP 301/308(+32)
MP 48/57(+50)
STR 324(+16)
DEF 295
AGI 166
DEX  128
INT 236(+89)
SP/287
基本技能一覧
      龍鬼化 言語理解 言語操作/中
      咆哮 投擲 高速治癒 遠見 暗視 気配探知 
      水魔法-[水弾]-[水壁]-[大波]-[水の羽衣Ⅱ]-[水の刃]
         -[水の盾]
      氷魔法-[氷礫]-[氷柱]
      
耐性一覧
      無酸素耐性 耐熱 耐寒 氷冷耐性 物理耐性 火魔法耐性
2386/2046


「なっ?」
「すっ水龍鬼ってなんだよー?」

おもわず加奈子は叫んでしまった。

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