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第四章 天使と悪魔
悪魔と天使の心理戦
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晩御飯の用意をしているとトオルが帰ってきた。
いつものようにキッチンに入ってきて加奈子を凌辱しようスカートを捲りあげる。
いつもと違うのは、加奈子がトオルの腕を叩き払った事だ。
「おんどれーわしに逆らうんか~?ぁあ~?」
加奈子は意に介せず、背中を向け夕食の支度を続ける。
トオルが掴みかかってくるが、朝までの加奈子では無かった。
キャリヤに比べればトオルなんざ怖くもなんともない。
レベルも見てみたが、まだ6しかなく、加奈子の相手にはならない。
ただ、スキルは凄い数を持っている。
トオルの腕をひねり、包丁を顔に向け
「危ないよ、トオルちゃん」
「・・・」
「もうちょっとで晩御飯出来るから椅子に座って待っててね」
「・・・」
椅子に座りトオルは加奈子をにらみつける。
だが、一度も目が合わない。
魚介類と米をブイヨンで炊き込んだシーフードピラフとサラダをテーブルに並べる加奈子。
「こんなのしか出来なくてごめんね」
トオルはふくれっ面をして無言で飯を喰らう。
「トオルちゃんは毎日どこへ出かけてるの?」
ムシャムシャと食いながら一言いう。
「お茶じゃ」
「あら、ごめんなさい」
慌ててキッチンからぬるいペットボトルのお茶を持ってくる。
「ごめんねートオルちゃん。気が付かなかった。テヘェ」
「・・・」
「今日ね、お父さんとお母さんを火葬してお庭に埋めてあげたよ」
「・・・」
「何回も聞いてごめんね。毎日どこへ行ってるの?」
「・・・」
「トオルちゃん、明日からお姉ちゃんも着いて行っていいかな?」
「はぁ~?ダボちゃうんかー」
「だめ~?」
「くっそダボがっ」
そう捨て台詞を残して、ペットボトルを掴んだトオルは2階に上がっていく。
洗い物を片付け、ランタンを手に持ち2階の自室に戻る。
自室に戻ると、節約のためにランタンの火を落とす。
手のひらの上に小さな火を灯す事くらいは出来るが、まだ空中に固定する事は出来ない。
ランタンの中に火を閉じ込められればオイルも要らない。
まぁそんな生活魔法は今すぐじゃなくても良い。
次にキャリヤに出会うまでに攻撃魔法を充実させたい。
今日の出来事を思い起こしながら、明日からの方向性を考える。
(やっぱり今の強さなら"ヤツ"には勝てない)
真っ暗な部屋の天井を見つめながら、まずは土魔法を使えるようにしないと。
魔法だけじゃ"ヤツ"には勝てないので、体術も鍛えないと。
(ヒュン)
もうトオルに対する恐怖心や依存心など微塵もなかった。
一方、トオルは加奈子の態度の変化に苛立ちを隠せない。
(くっそー、あの女、一体何があったんじゃ)
(妙な迫力身に着けやがって)
癇癪虫が収まらず、こっそりと加奈子の部屋に忍び込み襲おうと計画する。
抵抗できないように手足を拘束する結束バンドもちゃんと持った。
すぐに出来るように下半身は裸だ。
足音がしないように爪先で静かに歩き、ゆっくりと加奈子の部屋のドアを開ける。
「トオルちゃん、もうそんな事はお姉ちゃん許さないよ」
部屋の中から諫める言葉が聞こえてくる。
恐怖を覚えたトオルはゆっくりとドアを閉めた。
[暗視]という暗闇の中でも目視が出来るスキルを手に入れていた加奈子は、ドアが開きかけてるのにすぐに気づいていた。
翌朝、トオルはいつもより早くダイニングに降りてきた。
加奈子はすでにサンドウィッチを口に運び、カフェオレを飲んでいたがトオルの姿を見るとすぐに朝食の用意を始めた。
「おはよートオルちゃん」
「・・・」
相変わらず仏頂面で加奈子の朝の挨拶には何も返さない。
無言でさっさと食事を済ませると、トオルはいつものように出かけて行った。
加奈子は自分のお弁当を作り、オレンジジュースを水筒に入れ、どちらもリュックに仕舞って背負う。
(さて、今日は西側のマンション群に行ってみよう)
狩りに行く前に庭で土魔法の使い勝手を試してみる。
それと機敏に動く練習もしておかないと、今のままでは駄目だ。
土魔法で覚えていたのは、土壁、土遁、土針。
土壁は字面で大体わかるが、土遁って?
土から遁れるか?意味が分かりにくい。
土針はなんとなくだがわかりそう。
「土壁!」
目の前に土の壁が現れる。
範囲や高さをイメージで調整できる。
(これは"ヤツ"の投擲防御に使えるね)
対キャリヤ戦で使えそうなスキルはいくつあってもいい。
幅広く作ってみたり小さく作ってみたりした。
また、厚みを付けて防御力を高めてみたり、四角以外の形に出来ないかやってみた。
まだまだ上手くは出来ないが、練習次第で使えるスキルになるだろう。
「土針!」
地面から三角錐の土が固まったような岩石のような物が突きあがる。
(まるで土の槍が生えてきたような)
これは目視できる範囲ならどこにでも出せるようだ。
ただ離れるほど精度も威力も落ちていく。
「土遁!」
足元に身体全部がスッポリ入る穴が開き、そこに嵌って落ちたら上から一気に土が覆いかぶさってきた。
ほんの一瞬の出来事だった。
息が出来ずに死ぬ思いをしたが、自力で這い上がってきた。
(ハァハァハァ これはもうちょっと練習と使い方考えないと死ぬかもしれない)
土に遁れるだった。
父母を穴の中に埋めたから覚えたスキルだろうか。
パニックになって必死で息をしようと藻掻いたが、酸欠体制があったから生きていると言う事を加奈子は気づいていない。
反復横跳びで足腰の筋力と俊敏さを鍛える。
(こんなことするのって中学生以来かな ふふっ)
最初こそ身体が思うようについて来なかったが、すぐに[瞬動]スキルを覚えた。
前後左右にかなりの距離を一瞬で飛び移れる。
(これがあったら、キャリヤの拳も避けれただろう)
(いや、目を閉じた時点で私の負けは確定してた・・・)
また悔しい気持ちを思い出した。
(今度こそは)
2時間ほど土魔法と火魔法と俊敏に動く練習をして、今日の狩場に向かう。
火魔法で、小さな火球を練習してると新しいスキル[火弾]を覚えた。
火球小より小さな弾を連続で無数に打てる殲滅スキルである。
ピョンピョン飛んでいると[跳躍]スキルも覚えた。
かなりの高さまで飛び上がる事が出来るようになった。
ただ、着地の際に少し足に響くのであまり使う事は無いかな?と思う。
家を出てイーストコート4番街に向かう。
1戸建ての住宅街の先に見えるマンション群が4番街。
住宅街には、たまにゴブリンが出るくらいで危険な範囲では無くなっている。はずだ。
しかし、向こうから豚のような顔をした大柄のモンスターが3体走ってくる。
ステータスを鑑定で見ると「オーク」と言うやつらだった。
レベルは2とか3なので恐れることは無いだろう。
相手が誰であろうがどんな奴だろうがやることは同じだ。
「火投槍」
「火投槍」
「火投槍」
スキルの熟練度が上がっているのだろう、的確に相手の身体の中心線を狙う。
初めて見たであろう攻撃魔法に、オークは避ける事すら出来なかった。
バタバタと目の前で倒れていき、その横を涼しい顔で加奈子は先に進む。
目の前には大マンション群が立ち並ぶ。
ここイーストコート4番街は、1番館から13番館まで低層マンション~20階位の中層マンションが25棟ほど立っているマンション群だ。
土地の一角が戸建て群と接しているために、他の番街とは違い三角形の形に立ち並んでいる。
三角形の真ん中には、やはり広場や公園や駐車場がある。
マンション群の近くの通称東公園とか4番街公園と呼んでいる結構大きな公園で、ゴブリンの大群とオークの団体が戦っていた。
加奈子はお構いなしに近づいて、火の絨毯を拡げる。
「火床」
前方15mくらいの範囲でモンスター共を焼き嬲る。
火の床の範囲から逃げ出す奴らには火の弾が飛んでいく。
「火弾」
バババババヒュンとパチンコ玉くらいの小さい火の弾が無数に高速で飛んでいく。
まるで機関銃の様だ。
( カ・イ・カ・ン )
レベルが低いやつらは火弾が貫通して致命傷を与える。
火弾に耐えた奴らには
「火投槍」
「火球」
「火投槍」
「火球」
数分も経たないうちにモンスターの大群は地面に横たわる。
奥の方に一際大きなオークが居る。
黄色っぽい金色のような髪を肩まで伸ばした変な豚顔のモンスター。
(ハイオーク?オークの強い奴かな?)
レベルは7で今までの奴らよりかなり強い。
とは言え、昨日のキャリヤくらいの強さだ。
スキルも[剛腕][剛力]と力任せな感じのスキルしか無い。
(剛腕って、野球選手かよっ。クスッ)
剛腕は投擲スキルで、まだかなり距離があるのにレンガの様な物を投げてきた。
軽く避けた加奈子の顔のそばを通り過ぎる。
("ヤツ"とやる前に体術や体裁きも鍛え上げておきたいな)
(悪いけど、練習相手になってよね)
昨日より間違いなく強くなった自覚がある加奈子は、このハイオークで格闘の練習をする事にした。
自分が強くなっているのだから、"ヤツ"が昨日のままのはずが無い。
あえて魔法は使わずに、ハイオークに身体ごと突っ込んでいく。
レベルも上がってAGI(素早さ)の数値も高まり、そこらのモンスターじゃ追いつけないくらい早い。
元々DEX(器用さ)も高めなので小手先の攻撃も有効だろう。
配分が出来るポイントも攻撃と防御に割り振った。
今、自分に出来る最善で万全な体制で戦う。
櫻庭加奈子(31)
Lv 15
種族 【新人類】 選択
職業 【火魔導士】 選択
称号 【火葬奏者】
基本能力一覧
GMR/LAT
HP 173/153[+20]
MP 1625/1269(+415)
STR 97 [+100]
DEF 117[+90]
AGI 145
DEX 185
INT 283(+56)
SP/0
基本技能一覧
火絨毯 鑑定 威圧 瞬動 跳躍
火魔法-[火球]-[火投槍]-[火柱]-[火弾]
土魔法-[土壁]-[土遁]-[土針]
治癒魔法-[ヒール]-[ハイヒール]
耐性一覧
恐怖耐性 絶対火炎耐性 酸欠耐性 精神支配耐性
3864/3555
火床が先ほどの攻撃でランクアップして火絨毯に昇格した。
範囲が広くなり火力も段違いに上がり、自分を中心に半径10mくらいのサークルで、後方にも拡がるようになったから死角が少なくなった。
火柱や土壁も併用すればもっと死角は無くなるだろう。
火鎧とかも併用すれば絶対領域も出来るかも知れない。
でもまあ必要の無い事は後回しだ。
相手に正対すると、加奈子はあっという間に距離を詰め、ハイオークの真正面に立つ。
ハイオークが腕を大振りし、加奈子に殴りかかる。
それを素早く避けて、空振った腕の方の真横に回り込み、わき腹に膝蹴りを入れる。
加奈子の攻撃力は全体から見ても低いが、このハイオークの防御力ではダメージ軽減程度で、防ぐ事は出来ないくらいの差がある。
痛みを堪えハイオークは逆手の裏拳で加奈子に殴りかかる。
変則な動きを予測出来なかった加奈子の顔面に大きな拳が襲い来る。
だが今回はしっかりと目を開け攻撃を見据え、拳が被弾する前に、両手を自分の顔とハイオークのパンチの間に差し入れられたので、顔面への直撃は避けられた。
だが後方に吹き飛ばされた加奈子は、一旦尻もちを着きすぐに立ち上がるが、もうすでにそこにはハイオークの大振りのパンチが迫っていた。
両腕でガードし火鎧を発動させたが、もう一度吹き飛ばされて、結構なダメージを負う。
(火鎧のダメージ軽減は10%ないなー)
HPが100を切ったのですぐに治癒魔法を掛けて次の態勢に入る。
昨日のキャリヤと同じで、自分の攻撃に手ごたえを感じているのだろう。
少しニヤケた顔でこちらにゆっくりと歩いて来る。
しかし加奈子は治癒魔法で、ほぼノーダメージだ。
ハイオークに向かい、素早い足歩で勢いをつけて近づく。
両腕を振り上げたハイオークの正面から足刀蹴りで鳩尾に大きな一撃を喰らわす。
ガハッ
膝をついて苦悶するハイオーク。
ボゴッ バキッ ドゴンッ ゴキッ バゴーンッ
無防備に晒された顔面を、殴る蹴る殴る蹴る殴る!
サンドバック状態だ。
激しく脳を揺らされ、もうオークに抵抗する意識も力も無い。
ドウンッ ドスンッ ガキンッ
攻撃しながらも慢心せず、左右からのパンチ攻撃に備え、目線を左右に流したり、周辺視で注意を怠らない。 もう加奈子が戦いの最中に手を緩める事は無い。
目から生命力が消えかけて脱力しているハイオークの顎に、思いっきり膝蹴りがヒットする。
跳ね上がった顔に向かって軽く飛び、全体重が乗った肘打ちが脳天に突き刺さる。
ボゴッ
頭蓋骨が爆ぜる感覚を知る。
ハイオークはそのまま力無く真下に倒れていった。
魔法使いが一切魔法を使わないで、肉弾戦のみで強敵を屠る事がどれだけ凄い事か。
だが加奈子は一切納得はしていない。
(強い攻撃を2度も受けて飛ばされてしまった)
(あそこは屈んで躱し、下方からの足刀蹴りで肋骨を折るか)
(ハイキックでアゴを狙うのがベストだった)
(ヒュン)(ヒュン)
またレベルが上がったようだ。
加奈子は手の甲に痛みを感じ見てみると、拳の皮がずる剥けていた。
素手で殴ったからだ。
そして、ヒザ、ヒジの皮も捲れあがって血がにじむ。
素足で膝蹴りやハイキックをしたからだ。
(まだまだ柔な身体だなー)
そう感じながら治癒魔法を唱える。
火装の腕輪で火鎧を出して殴ればもうちょっとましになるのかな?
でもあの火の鎧って、今は火炎がただただ駄々洩れしているだけだ。
炎が揺らいでるのをもっと圧縮して纏めると火魔法のシールド鎧になるはずなんだけど。
(少し練習してみるか)
そんな加奈子のとんでもない戦いっぷりを最初から一部始終見ていた男が二人、近寄ってきたマンションの3階のベランダに居た。
そして遠くにも複数の目があった。
いつものようにキッチンに入ってきて加奈子を凌辱しようスカートを捲りあげる。
いつもと違うのは、加奈子がトオルの腕を叩き払った事だ。
「おんどれーわしに逆らうんか~?ぁあ~?」
加奈子は意に介せず、背中を向け夕食の支度を続ける。
トオルが掴みかかってくるが、朝までの加奈子では無かった。
キャリヤに比べればトオルなんざ怖くもなんともない。
レベルも見てみたが、まだ6しかなく、加奈子の相手にはならない。
ただ、スキルは凄い数を持っている。
トオルの腕をひねり、包丁を顔に向け
「危ないよ、トオルちゃん」
「・・・」
「もうちょっとで晩御飯出来るから椅子に座って待っててね」
「・・・」
椅子に座りトオルは加奈子をにらみつける。
だが、一度も目が合わない。
魚介類と米をブイヨンで炊き込んだシーフードピラフとサラダをテーブルに並べる加奈子。
「こんなのしか出来なくてごめんね」
トオルはふくれっ面をして無言で飯を喰らう。
「トオルちゃんは毎日どこへ出かけてるの?」
ムシャムシャと食いながら一言いう。
「お茶じゃ」
「あら、ごめんなさい」
慌ててキッチンからぬるいペットボトルのお茶を持ってくる。
「ごめんねートオルちゃん。気が付かなかった。テヘェ」
「・・・」
「今日ね、お父さんとお母さんを火葬してお庭に埋めてあげたよ」
「・・・」
「何回も聞いてごめんね。毎日どこへ行ってるの?」
「・・・」
「トオルちゃん、明日からお姉ちゃんも着いて行っていいかな?」
「はぁ~?ダボちゃうんかー」
「だめ~?」
「くっそダボがっ」
そう捨て台詞を残して、ペットボトルを掴んだトオルは2階に上がっていく。
洗い物を片付け、ランタンを手に持ち2階の自室に戻る。
自室に戻ると、節約のためにランタンの火を落とす。
手のひらの上に小さな火を灯す事くらいは出来るが、まだ空中に固定する事は出来ない。
ランタンの中に火を閉じ込められればオイルも要らない。
まぁそんな生活魔法は今すぐじゃなくても良い。
次にキャリヤに出会うまでに攻撃魔法を充実させたい。
今日の出来事を思い起こしながら、明日からの方向性を考える。
(やっぱり今の強さなら"ヤツ"には勝てない)
真っ暗な部屋の天井を見つめながら、まずは土魔法を使えるようにしないと。
魔法だけじゃ"ヤツ"には勝てないので、体術も鍛えないと。
(ヒュン)
もうトオルに対する恐怖心や依存心など微塵もなかった。
一方、トオルは加奈子の態度の変化に苛立ちを隠せない。
(くっそー、あの女、一体何があったんじゃ)
(妙な迫力身に着けやがって)
癇癪虫が収まらず、こっそりと加奈子の部屋に忍び込み襲おうと計画する。
抵抗できないように手足を拘束する結束バンドもちゃんと持った。
すぐに出来るように下半身は裸だ。
足音がしないように爪先で静かに歩き、ゆっくりと加奈子の部屋のドアを開ける。
「トオルちゃん、もうそんな事はお姉ちゃん許さないよ」
部屋の中から諫める言葉が聞こえてくる。
恐怖を覚えたトオルはゆっくりとドアを閉めた。
[暗視]という暗闇の中でも目視が出来るスキルを手に入れていた加奈子は、ドアが開きかけてるのにすぐに気づいていた。
翌朝、トオルはいつもより早くダイニングに降りてきた。
加奈子はすでにサンドウィッチを口に運び、カフェオレを飲んでいたがトオルの姿を見るとすぐに朝食の用意を始めた。
「おはよートオルちゃん」
「・・・」
相変わらず仏頂面で加奈子の朝の挨拶には何も返さない。
無言でさっさと食事を済ませると、トオルはいつものように出かけて行った。
加奈子は自分のお弁当を作り、オレンジジュースを水筒に入れ、どちらもリュックに仕舞って背負う。
(さて、今日は西側のマンション群に行ってみよう)
狩りに行く前に庭で土魔法の使い勝手を試してみる。
それと機敏に動く練習もしておかないと、今のままでは駄目だ。
土魔法で覚えていたのは、土壁、土遁、土針。
土壁は字面で大体わかるが、土遁って?
土から遁れるか?意味が分かりにくい。
土針はなんとなくだがわかりそう。
「土壁!」
目の前に土の壁が現れる。
範囲や高さをイメージで調整できる。
(これは"ヤツ"の投擲防御に使えるね)
対キャリヤ戦で使えそうなスキルはいくつあってもいい。
幅広く作ってみたり小さく作ってみたりした。
また、厚みを付けて防御力を高めてみたり、四角以外の形に出来ないかやってみた。
まだまだ上手くは出来ないが、練習次第で使えるスキルになるだろう。
「土針!」
地面から三角錐の土が固まったような岩石のような物が突きあがる。
(まるで土の槍が生えてきたような)
これは目視できる範囲ならどこにでも出せるようだ。
ただ離れるほど精度も威力も落ちていく。
「土遁!」
足元に身体全部がスッポリ入る穴が開き、そこに嵌って落ちたら上から一気に土が覆いかぶさってきた。
ほんの一瞬の出来事だった。
息が出来ずに死ぬ思いをしたが、自力で這い上がってきた。
(ハァハァハァ これはもうちょっと練習と使い方考えないと死ぬかもしれない)
土に遁れるだった。
父母を穴の中に埋めたから覚えたスキルだろうか。
パニックになって必死で息をしようと藻掻いたが、酸欠体制があったから生きていると言う事を加奈子は気づいていない。
反復横跳びで足腰の筋力と俊敏さを鍛える。
(こんなことするのって中学生以来かな ふふっ)
最初こそ身体が思うようについて来なかったが、すぐに[瞬動]スキルを覚えた。
前後左右にかなりの距離を一瞬で飛び移れる。
(これがあったら、キャリヤの拳も避けれただろう)
(いや、目を閉じた時点で私の負けは確定してた・・・)
また悔しい気持ちを思い出した。
(今度こそは)
2時間ほど土魔法と火魔法と俊敏に動く練習をして、今日の狩場に向かう。
火魔法で、小さな火球を練習してると新しいスキル[火弾]を覚えた。
火球小より小さな弾を連続で無数に打てる殲滅スキルである。
ピョンピョン飛んでいると[跳躍]スキルも覚えた。
かなりの高さまで飛び上がる事が出来るようになった。
ただ、着地の際に少し足に響くのであまり使う事は無いかな?と思う。
家を出てイーストコート4番街に向かう。
1戸建ての住宅街の先に見えるマンション群が4番街。
住宅街には、たまにゴブリンが出るくらいで危険な範囲では無くなっている。はずだ。
しかし、向こうから豚のような顔をした大柄のモンスターが3体走ってくる。
ステータスを鑑定で見ると「オーク」と言うやつらだった。
レベルは2とか3なので恐れることは無いだろう。
相手が誰であろうがどんな奴だろうがやることは同じだ。
「火投槍」
「火投槍」
「火投槍」
スキルの熟練度が上がっているのだろう、的確に相手の身体の中心線を狙う。
初めて見たであろう攻撃魔法に、オークは避ける事すら出来なかった。
バタバタと目の前で倒れていき、その横を涼しい顔で加奈子は先に進む。
目の前には大マンション群が立ち並ぶ。
ここイーストコート4番街は、1番館から13番館まで低層マンション~20階位の中層マンションが25棟ほど立っているマンション群だ。
土地の一角が戸建て群と接しているために、他の番街とは違い三角形の形に立ち並んでいる。
三角形の真ん中には、やはり広場や公園や駐車場がある。
マンション群の近くの通称東公園とか4番街公園と呼んでいる結構大きな公園で、ゴブリンの大群とオークの団体が戦っていた。
加奈子はお構いなしに近づいて、火の絨毯を拡げる。
「火床」
前方15mくらいの範囲でモンスター共を焼き嬲る。
火の床の範囲から逃げ出す奴らには火の弾が飛んでいく。
「火弾」
バババババヒュンとパチンコ玉くらいの小さい火の弾が無数に高速で飛んでいく。
まるで機関銃の様だ。
( カ・イ・カ・ン )
レベルが低いやつらは火弾が貫通して致命傷を与える。
火弾に耐えた奴らには
「火投槍」
「火球」
「火投槍」
「火球」
数分も経たないうちにモンスターの大群は地面に横たわる。
奥の方に一際大きなオークが居る。
黄色っぽい金色のような髪を肩まで伸ばした変な豚顔のモンスター。
(ハイオーク?オークの強い奴かな?)
レベルは7で今までの奴らよりかなり強い。
とは言え、昨日のキャリヤくらいの強さだ。
スキルも[剛腕][剛力]と力任せな感じのスキルしか無い。
(剛腕って、野球選手かよっ。クスッ)
剛腕は投擲スキルで、まだかなり距離があるのにレンガの様な物を投げてきた。
軽く避けた加奈子の顔のそばを通り過ぎる。
("ヤツ"とやる前に体術や体裁きも鍛え上げておきたいな)
(悪いけど、練習相手になってよね)
昨日より間違いなく強くなった自覚がある加奈子は、このハイオークで格闘の練習をする事にした。
自分が強くなっているのだから、"ヤツ"が昨日のままのはずが無い。
あえて魔法は使わずに、ハイオークに身体ごと突っ込んでいく。
レベルも上がってAGI(素早さ)の数値も高まり、そこらのモンスターじゃ追いつけないくらい早い。
元々DEX(器用さ)も高めなので小手先の攻撃も有効だろう。
配分が出来るポイントも攻撃と防御に割り振った。
今、自分に出来る最善で万全な体制で戦う。
櫻庭加奈子(31)
Lv 15
種族 【新人類】 選択
職業 【火魔導士】 選択
称号 【火葬奏者】
基本能力一覧
GMR/LAT
HP 173/153[+20]
MP 1625/1269(+415)
STR 97 [+100]
DEF 117[+90]
AGI 145
DEX 185
INT 283(+56)
SP/0
基本技能一覧
火絨毯 鑑定 威圧 瞬動 跳躍
火魔法-[火球]-[火投槍]-[火柱]-[火弾]
土魔法-[土壁]-[土遁]-[土針]
治癒魔法-[ヒール]-[ハイヒール]
耐性一覧
恐怖耐性 絶対火炎耐性 酸欠耐性 精神支配耐性
3864/3555
火床が先ほどの攻撃でランクアップして火絨毯に昇格した。
範囲が広くなり火力も段違いに上がり、自分を中心に半径10mくらいのサークルで、後方にも拡がるようになったから死角が少なくなった。
火柱や土壁も併用すればもっと死角は無くなるだろう。
火鎧とかも併用すれば絶対領域も出来るかも知れない。
でもまあ必要の無い事は後回しだ。
相手に正対すると、加奈子はあっという間に距離を詰め、ハイオークの真正面に立つ。
ハイオークが腕を大振りし、加奈子に殴りかかる。
それを素早く避けて、空振った腕の方の真横に回り込み、わき腹に膝蹴りを入れる。
加奈子の攻撃力は全体から見ても低いが、このハイオークの防御力ではダメージ軽減程度で、防ぐ事は出来ないくらいの差がある。
痛みを堪えハイオークは逆手の裏拳で加奈子に殴りかかる。
変則な動きを予測出来なかった加奈子の顔面に大きな拳が襲い来る。
だが今回はしっかりと目を開け攻撃を見据え、拳が被弾する前に、両手を自分の顔とハイオークのパンチの間に差し入れられたので、顔面への直撃は避けられた。
だが後方に吹き飛ばされた加奈子は、一旦尻もちを着きすぐに立ち上がるが、もうすでにそこにはハイオークの大振りのパンチが迫っていた。
両腕でガードし火鎧を発動させたが、もう一度吹き飛ばされて、結構なダメージを負う。
(火鎧のダメージ軽減は10%ないなー)
HPが100を切ったのですぐに治癒魔法を掛けて次の態勢に入る。
昨日のキャリヤと同じで、自分の攻撃に手ごたえを感じているのだろう。
少しニヤケた顔でこちらにゆっくりと歩いて来る。
しかし加奈子は治癒魔法で、ほぼノーダメージだ。
ハイオークに向かい、素早い足歩で勢いをつけて近づく。
両腕を振り上げたハイオークの正面から足刀蹴りで鳩尾に大きな一撃を喰らわす。
ガハッ
膝をついて苦悶するハイオーク。
ボゴッ バキッ ドゴンッ ゴキッ バゴーンッ
無防備に晒された顔面を、殴る蹴る殴る蹴る殴る!
サンドバック状態だ。
激しく脳を揺らされ、もうオークに抵抗する意識も力も無い。
ドウンッ ドスンッ ガキンッ
攻撃しながらも慢心せず、左右からのパンチ攻撃に備え、目線を左右に流したり、周辺視で注意を怠らない。 もう加奈子が戦いの最中に手を緩める事は無い。
目から生命力が消えかけて脱力しているハイオークの顎に、思いっきり膝蹴りがヒットする。
跳ね上がった顔に向かって軽く飛び、全体重が乗った肘打ちが脳天に突き刺さる。
ボゴッ
頭蓋骨が爆ぜる感覚を知る。
ハイオークはそのまま力無く真下に倒れていった。
魔法使いが一切魔法を使わないで、肉弾戦のみで強敵を屠る事がどれだけ凄い事か。
だが加奈子は一切納得はしていない。
(強い攻撃を2度も受けて飛ばされてしまった)
(あそこは屈んで躱し、下方からの足刀蹴りで肋骨を折るか)
(ハイキックでアゴを狙うのがベストだった)
(ヒュン)(ヒュン)
またレベルが上がったようだ。
加奈子は手の甲に痛みを感じ見てみると、拳の皮がずる剥けていた。
素手で殴ったからだ。
そして、ヒザ、ヒジの皮も捲れあがって血がにじむ。
素足で膝蹴りやハイキックをしたからだ。
(まだまだ柔な身体だなー)
そう感じながら治癒魔法を唱える。
火装の腕輪で火鎧を出して殴ればもうちょっとましになるのかな?
でもあの火の鎧って、今は火炎がただただ駄々洩れしているだけだ。
炎が揺らいでるのをもっと圧縮して纏めると火魔法のシールド鎧になるはずなんだけど。
(少し練習してみるか)
そんな加奈子のとんでもない戦いっぷりを最初から一部始終見ていた男が二人、近寄ってきたマンションの3階のベランダに居た。
そして遠くにも複数の目があった。
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