厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第四章 天使と悪魔

悪魔に食われる魂

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「おいっ!晩飯じゃー」

トオルの怒鳴り声が階上から響く。

いつもなら床をドンドン蹴るだけなのでそれほどの恐怖は感じなかったが、今は声を聴くだけで怖い。


冷蔵庫の肉や野菜を先に使わないと腐ってしまう。
ご飯も新しく炊けないので、冷ご飯と野菜、肉で焼き飯にした。
少し生ぬるいお茶と一緒に2階に持って上がる。

引きこもってるときは部屋のドアを開けもしなかったのに、今は部屋の中まで持って来いと理不尽に怒鳴る。

また犯されるんじゃないかとビクビクしながら部屋を出ていく。



自分の部屋に戻り、ベッドに横になり目を瞑る。
本当に今日は色々な事がありすぎた。
朝からの事を1つづつ思い出しながら反省をしていく。

極度の精神的疲れから加奈子は深い眠りにつく。



  ギシギシ  ギシギシ

身体の上に重さを感じて目を開ける。

ランタンの灯りが辺りを薄っすら映し出している。
 
 「あっ」

目の前にトオルの顔がある。

 「いっやぁ~」
上に乗ってるトオルの身体を押して離れようとするが無意味な行動だった。

いつの間にか下半身はすべて脱がされて、上に来てたブラウスは前がはだけて、サラシはずらされ乳房があらわになっている。
ここまでされても気づかないほど熟睡していたことに驚く加奈子。

どう抵抗しても逃げることが出来ないと悟って、顔を横に向け全身の力を抜く。







「おいこらっ!」
「今後ガードル、ストッキングは禁止じゃ」
「それとブラも禁止な。ズボンも禁止じゃ!わかったか?」

なんとも理不尽な要求だ。
明らかにレイプを前提にした禁止事項。

「わかったんかってゆ~とんじゃ~」

大声で怒鳴るトオルに加奈子は震えながら小声で
 「はいっわかりました」
と小さく答える。


翌日も朝食を食べ終わるとベッドに押し倒され事を済まし、着替えたトオルは出て行った。
そして夕方くらいに帰ってくる。

すぐに台所まで来て、キッチンに手を付かせ、下着を膝までずらし後ろから激しく突き立ててくる。

今日はダイニングで食事をするようだ。

「米を炊くんにもう一台コンロが要るなー」
飯盒はんごうも必要か」

調理風景を見ながらつぶやく。
「ランタンのオイルももうあんまりないのぉー」


夜は部屋に呼ばれもてあそばれたあげく、眠いから部屋に帰れと追い出される。


翌朝は朝食を作っているとトオルが降りてきてダイニングの椅子に座りキッチンの調理風景を眺めている。
温かいコーヒーとサンドイッチをテーブルに並べる。
食事が終わり後片付けを終えるとトオルに呼ばれる。

「おい、こっちこい」

トオルのそばに行くと下半身をさらけ出して椅子に浅く座っている。

「パンツ脱いでここに座れ」

言われるままにショーツを脱ぎ、トオルの裸になった下半身にまたがる。

「自分で入れろ!」

こんな要求をしてくるなんて、本当に悪魔だ。
でも言われた通りにしないと何をされるかわからない。

「お前が動け」

私は男性経験もないのにそんな事出来るわけもない。
悪魔はそんな事すらわからないのか。

だが言われた通りにしないと本当に何をされるか分からない。恐怖しかない。

トオルの肩に手をついて上下に身体を動かす。

「そろそろ口でするのんも覚えさせんとなー」

口でする?何を?もう私を開放して・・・



トオルが出ていくと家の中の異臭に気づく。

そうだ、父母の遺体を部屋においたままなので腐ってきたのだろう。

久しぶりにリビングの雨戸をあけて庭に出る。
物置から、先の尖ったスコップを出してくる。
母親が大事にしてた花壇も、先日の変な生き物に荒らされ見る影もない。

花壇の土を掘る。スコップで掘る。汗を流しながら掘る。

 ぐぎゃーー
あの変な生き物がどこからともなく入ってきていた。
すぐ目の前まで来ていたのに、掘ることに一生懸命でまったく気づかなかった。
ジャンプして襲い掛かってきたので反射的にスコップで払った。

 ボギャ?
その生き物の頭に当たり、せっかく掘った穴の中で息絶える。
 
 (ヒュン)
 「そこは父さんと母さんが入るから駄目だよ」
そう言ってスコップで変な生き物を穴から出し、フェンスの向こうに捨てた。

穴掘りの続きをする。
先ほどより力が入る。サクサクと掘れる。深く掘れる。そして疲れない。



父さんと母さんの遺体を穴に入れる。
でもニオイが凄くキツイ。
これは一旦燃やしてから埋めた方が良いかもと思う。


物置にしまっておいた灯油を遺体にたっぷり掛ける。

 「父さん母さん、さようならね」
マッチを1本擦って投げ入れる。
火はつかずにマッチは ジュッ という音を残して消えていった。

次は何本かまとめて火をつけて投げ入れた。

ゴォ~と勢いついた炎が上がる。

悲しいと言う感情はあまり湧いてこない。
父母が火葬されていくのを、鼻歌を歌いながらボーっと眺めていた。
飛んでくる火の粉を片手ではらう。
手に持っていたマッチを投げ入れる。
小枝を拾い火の中に投げ入れる。
そしてまたボーっと火を眺めていた。

 (ヒュン)
先ほどから何かが頭の中を通り過ぎる感覚になる。

急に力が湧いてきたのもあの感覚の後だった。
これって変な生き物倒したからレベルが上がった?
それじゃ今のは?

 「ステータスオープン」

加奈子は自分のステータスを眺めて、レベルが上がってる事とスキルを覚えたことに気づく。



櫻庭加奈子(31)
Lv 2
種族 【新人類】 選択
職業 【--】 選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/LAT
HP 21/21
MP 16/16
STR 14
DEF 15
AGI 16
DEX 18
INT 24
SP/9
基本技能一覧
      火魔法[火球][火投槍]
27-0/11+0


 「火球?」「火投槍??」

 「どうやって使うんだろう?」

囂々ごうごうと燃えている炎を見つめ呪文を唱える。

 「火球ファイアボール

ボーと突っ立ってた足元に火の球が炸裂する。

 「きゃ~」

熱くはなかったがとても驚いた。
右手は方向指示なんだね。
もう一度。
今度は前方に腕を伸ばし、手のひらを前に向けて唱える。

 「火球ファイアボール

バレーボールくらいの火の球は20~30m飛んで弾けて消えた。
次はもう一個のやつ。

 「火投槍ファイアジャベリン

細い火の槍がまっすぐに飛んでいく。

道路を超えて向かいの塀を突き抜け数軒先のブロック塀に当たって弾けて消えた。
 (すごい)
魔法使いみたい。

いや、魔法なんです。


父母を燃やす炎はまだ消えず勢いも衰えない。
その火を見つけ数匹のゴブリンが集まってくる。

加奈子はゴブリンを見つけるとそちらに手をかざし呪文を唱える。

 「火球ファイアボール

今度はソフトボールくらいの火の球が5個飛んで行った。

なんとなく頭の中に浮かんだ方法だ。
手を大きく開き指を前方に伸ばして唱えると、指の数だけ球が出る。
だが1個1個の火力は小さくなる。

とは言え、ゴブリン相手だとその小さな火球でも十分致命傷になる。

(この力でトオルと戦ったら勝てるのだろうか?)
多分無理だろうと諦める。

襲ってきたゴブリンは全部倒したと思ってたが、火傷を負いながらもまだ向かってくる奴がいた。

 「火球ファイアボール

今度は大きな1発を使った。

 ゴゥフォー

しぶといゴブリンは大火傷を負いながらもまた立ち上がってくる。

 「火投槍ファイアジャベリン

今度はゴブリンを貫いたからもう立ち上がることはない。

 (ヒュン)

 「あっまたレベルが上がったみたい」

 「ステータスオープン」

 「職業が選択できる!  って、一つしかない」



櫻庭加奈子(31)
Lv 4
種族 【新人類】 選択
職業 【火魔導士】 選択
称号 【火葬奏者】
基本能力一覧
GMR/LAT
HP 30/30
MP 38/38(+19)
STR 23
DEF 26
AGI 30
DEX 36(+8)
INT 52(+14)
SP/29
基本技能一覧 
      火床
      火魔法-[火球]-[火投槍]-[火柱]
125-0/96+0

 
新しいスキルを使ってみる
 「火柱ファイアピラー

ゴォーという音がして直径3mほどの炎の柱が立ち上がる。
高さも4~5mほど。これはすごい。

 「火床ファイアフロア

目の前に炎の絨毯が燃え広がる。
火柱は高さ1mほどだが、広範囲にわたるスキルだ。
30秒ほどで鎮火する。


 「なんだーレベルって簡単に上がるんだね」
 「称号ってなんだろ?父さん母さんを火葬で送ったから?」

 「夕方までもうちょっと変な生き物探してみようかな」

 加奈子は久しぶりに家の門の外に出た。




南に行けば大きな中学校があるが、そこは多分避難所になっているだろう。
そんなところに変な生き物は居ないだろう。
北に行ってみよう。

 ブラブラとダラダラと散歩でもするように歩く加奈子。
あぁ服を着替えてきたらよかったなーとか思いながらモンスターを探す。

暫く歩くと、脇道から何かが飛び出してきた。
いきなり出会い頭に4体のモンスターと出くわてしまった。

少し驚いたが、落ち着いて呪文を唱える。

 「火床ファイアフロア
炎の絨毯にそいつらは巻き込まれる。
火の上で、熱さに絶えられず踊り狂うモンスターを薄ら笑いを浮かべながら加奈子は眺めている。


自分の足元に炎が来ても、熱くもないし服も燃えない。
魔法って不思議だなぁ。


そんな事を思いながら、トオルにこの力を使えばどうなるか考えていた。
火の中で踊り狂うトオルを想像すると、とてもじゃないが使えない。

まだまだ自分の中には弟に対するなさけと言う物があるのが分かる。

それは早めにきちんと消してしまわないと駄目なのはわかっている。
だが30年近くも一緒に暮らしてきた弟に、気持ちの上で絶縁する事が難しい。



そんな思考時間が過ぎると、4匹のゴブリンが炎の中に崩れ落ちていく。

 (ヒュン)
またレベルが上がった。

火の絨毯の中に居ると、あつさもさることながら酸素が欠乏するため死に至るようだ。
なかなか恐ろしいスキルだ。
火葬奏者の称号で付与されるセミユニークスキルである。


マンション群に差し掛かると、どこからともなくゴブリンが何体か湧いてくる。
360度、自分の周り全体に火の絨毯を張り巡らす。
この短時間で何回も使っていれば、火力の調整も出来るようになってきている。
極弱めの火力で中まで入らせて、ある程度入り込んだら火力を一気に上げる。
10m四方が急に大きな火の海に包まれる。
何もしなければ30秒ほどで消えるが、時間も自分で調整できるようになった。

頑張って接近してきたゴブリンには火球をお見舞いする。
 
 (ヒュン)
今まで戦闘経験もなかった加奈子が戦うことに快楽を見出し始めた。
戦うことで自分の存在意義を見出せる気がしていた。

魔法使いらしく、自分はダメージを受けないで相手を倒す。
これほど楽な戦いは無い。



櫻庭加奈子(31)
Lv 6
種族 【新人類】 選択
職業 【火魔導士】 選択
称号 【火葬奏者】
基本能力一覧
GMR/LAT
HP 43/43
MP 59/59(+19)
STR 33
DEF 38
AGI 46
DEX 56
INT 83(+36)
SP/51
基本技能一覧 
      火床
      火魔法-[火球]-[火投槍]-[火柱]
343-4/303+2


一日3時間くらい狩りをするだけで結構高レベルになるだろう。
もう厄災から3日目、ゴブリンもレベル2以上とかは少なくない。
多くの人間も殺されている。 またレベルを上げた人間を殺したゴブリンは急成長している。
すでにレベル8以上になり種族進化した個体も何体か居るらしい。

少し奥に入ると人の気配はまったくしない。

マンションの陰から大きなグループが吠えながら近づいてくる。

加奈子の心は少し壊れかけてるのかも知れない。
それはそうだろう、可愛がってきた弟に目のまえで両親を殺され、凌辱されて奴隷のように扱われている。
心が壊れない方がおかしい。
元の加奈子なら20体は居るであろうゴブリンの群れを見たら悲鳴を上げて逃げ出しただろう。
だが今は微笑みすら浮かべて戦いに没頭している。

 「火床ファイアフロア!」

正面から突っ込んでくるゴブリンに対して火の絨毯を広げる。

 「火球ファイアボール!」
フィンガータイプの火球を適当に放った。

20体のゴブリン全部が火の床の上に乗ったのを確認してから火力を最大にする。

 ゴギャァァァ  ウッギャァァァァァァ

火まみれになり暴れまくるゴブリン。
加奈子は薄っすら笑っている。

2体のゴブリンが横に逃げ、火の海から逃れる。
そのまま横の火が無いところから加奈子を襲いに来る。

 「火柱ファイアピラー!!!」

2体のゴブリンは避ける暇もなく瞬時に焼き尽くされた。

絨毯の上ではバタバタと崩れ落ち、生けるゴブリンは見当たらなくなる。

 (ヒュン)

火の絨毯の向こうに、こちらをずっと眺めているひときわ大きいゴブリンと目が合う。
かなり強い気がする。
この群れのボスなんだろう。

でも負ける気がしないし、怖さも感じないのは心のたがが外れたのだろうか?
相手は魔法も持ってないから多分、いけるんじゃないかと甘く考えている。

  「火投槍ファイアジャベリン
高速で飛んでいく火の槍。

避けようとした強そうなゴブリンのわき腹をかすめる。
チラリと傷の部分を見るとこちらを見直し、すごい勢いでこっちに走ってくる。

 ドタドタドタ

足が遅い。

 「火投槍ファイアジャベリン

 「火投槍ファイアジャベリン

 「火投槍ファイアジャベリン

3発とも強そうなゴブリンの腹や足に突き刺さる。
貫通しなかったものは、刺さったまま盛大に弾けて消える。

ゴブリンは炎に包まれて、そのまま倒れ込む。

 (ヒュン)
何か落としたみたいだが焼けて熱くなっている。
腕輪の様だが少し冷めたら拾おう。
加奈子は腕輪をじっと見つめていた。目を凝らして見つめていた。何なんだろうな、としつこく見つめていた。

 (ヒュン)
 
 腕輪〔火装の腕輪〕火炎耐性付与 火装備発動 ユニークウェポン

 「あれっ?」
 「腕輪の詳細が見える」

腕輪を拾うと、迷わず左手に嵌める。
 〔支配権:櫻庭加奈子おおばかなこ 認識登録完了〕
薄汚れていた腕輪がほのかに光り、みるみる輝きを取り戻した。

 「あぁ綺麗な腕輪」
幅3㎝くらいの銀台のベースにちりばめられていた宝石が赤く輝きだす。
真ん中にひときわ大きい宝石が嵌っている。

 「ルビーなのかな?」
右手でその大きな宝石を触ると、全身に炎の鎧が巻き付く。

 「キャー」
だが自分自身はまったく熱くもない。
ただ驚いただけだ。

自分の急激な成長に戸惑いながらも、なぜか喜びを感じる。
 (着実に私は強くなっている)



少し奥まで歩くと、左側から数体のグループ、右前からもゴブリンのグループが襲い掛かる。

近づいてきたので、炎の鎧をまとい呪文を唱える

 「火床ファイアフロア
 「火球ファイアボール
 「火球ファイアボール

火球は今までよりも高速でゴブリンにぶち当たり、今までより大きく弾けた。
火床も最大火力にしたら高さ2m以上の大きさになり、範囲も15m四方くらいの広範囲になっていた。

 (ヒュン)
 (ヒュン)

もう誰も加奈子に近づけない、触れることさえ出来なくなった。

 (ヒュン)



櫻庭加奈子おおばかなこ(31)
Lv 11
種族 【新人類】 選択
職業 【火魔導士】 選択
称号 【火葬奏者】
基本能力一覧
GMR/LAT
HP 74/74
MP 220/220(+72)
STR 53
DEF 63
AGI 76
DEX 97
INT 146(+56)
SP/96
基本技能一覧 
      火床 鑑定
      火魔法-[火球]-[火投槍]-[火柱]
耐性一覧
      絶対火炎耐性 酸欠耐性
1331/1303

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