厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第三章 健斗と美咲と新たな出会い

ボスたる能力

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剣術を持つ女性は剣を持った事で、その戦闘能力は格段に上がったのが誰の目から見ても分かる。
元々レベルも21と高かったのが、その戦闘力を伸ばした事でこの場のTOP戦力にまで駆け上がった。

今まで手古摺てこずっていたハイオークも、クランの戦闘員が増えた事もあって、続々と倒されていく。

だが、やはりオーガは強かった。

最高レベルの格闘家が単騎で挑んでいたが、もうその容姿はボロボロな状態だった。
手が空いた他の格闘家や武闘家も戦闘に参加しだしたが、オーガはスキルを使用せずに格闘だけでそのメンバーを圧倒していた。

そこに剣術女が参加した事でオーガの動きが少し変わってくる。

 「オォ~リャ~」

剣術女の刃先がオーガの腕を切り裂き、初めて血を見せられ焦る。

 グォオオオオオオオオオオオオオ

オーガの咆哮に、その場にいたほとんどのクラン員は地に伏した。

 「あががああぁ」
動きたいのに動けない。
 
 「こ、こんなスキルがまだあったなんて・・・」
 「お、俺は遊ばれてたのか・・・」
最高レベルの格闘家が独りちた。


そんな中で、威圧や咆哮に耐性を持つ生田川メンバーが満を持して戦闘開始する。

千里が眷属の麗里と連携しながら正面から剣と熊爪でオーガを削っていく。

 グオオオオオオオオオオオ!!!

今まで余裕を見せていたのが少しだけ本気になった事は、それまで戦闘に参加していた皆にはすぐに理解出来た事だった。

咲空とリトルは負傷者や軽症の者も含めて治癒魔法を掛けていく。

もうボロボロになっていた格闘家も、咲空のヒールでその意欲も回復していく。


姉と小熊達も戦闘に参加した事でもうオーガの討伐は目に見えていた。


回復した格闘家や剣術女も参加してオーガを甚振いたぶっていく。

咲空たちは風纏で空に浮き、上部をザクザクと削って行った。

もう少しで倒れるだろう。
もう討伐間近なんだろう。
もう終わるだろう・・・



早く倒れてくれないかなぁ・・・



 ガァァァァァウゴォォォォォ

オーガは雄叫びを上げた。
それは単なる叫び声では無く、自信を奮い立たせ全細胞の修復機能を最大限に引き上げる、治癒+能力向上のスキルであった。

元々高いステータスを持つオーガだったが、雄叫びで身体能力が大きく向上し、さらにダメージも修復されてしまった。

「やっばいなぁ~」
剣女の千里せんりがつぶやく。

「お姉ちゃん、あいつあとどんなスキルを持ってるん?」
 「咆哮に鬼の雄叫びに格闘術に雷輪らいわに稲妻」
 「こいつっ雷属性やのに、いままでまったく使ってこなかったよな」

咲空も怪訝な顔で言葉を返す。
『千里さん、要注意やでー』
『シュヴァ~気ぃつけてな』

咲空は大声で三ノ宮クランの人達にも聞こえる様に叫んだ。


千里は地に足を付け、剣技を発動させる。

 「惨倒剣っ!」

剣に淡い光がまとわりつき、瞬間的に千里の素早さと強さを引き上げる。

 ザシュッ

素早い剣技で振り下ろした刀が、攻撃を避けようと出したオーガの右腕を切り落とす。

 ガッァァァァウッゴォォォォォ~

痛がるオーガに第二撃を見舞うため、近寄っていく。
その反対側からシュヴァルツが固有スキルの狼牙ろうがをオーガのわき腹に食い込ませる。
格闘家集団が一斉に襲い掛かる。

その時、オーガを中心に足元から光の輪が広がっていく。

 グッホ~

光の輪は雷属性の攻撃で、その場の地面に居た全員が感電する。

 「グッ・・・ギィ・・・」
死に至るほどの強い電撃では無いけれど、ほとんどの人が動けなくなるほどの高ダメージ攻撃だった。

 「ギャンッ」
オオカミのシュヴァルツは直接オーガに噛みついていたので電撃は避けれたが、左腕で頭を掴まれ投げ飛ばされた。

 「微風ソヨカゼ~」
『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』

小熊のリトルと咲空は回復呪文を掛けて回っている。
姉は倒れてる人を介抱している。


オーガは切られた腕の断面に、みずから稲妻を落とし肉を焼き止血した。
 グォ~ゥッグゥ~

そして、回復呪文を唱えてる敵に目を向けた。
今のオーガにとって、戦闘員よりも回復要員を排除しないと勝機は薄いと考えていた。


「どお~りゃ~」

とっさに空中に浮かび上がり、電撃をけた千里がオーガに切りかかる。

上段から振り下ろされたその剣をオーガは間一髪かわし、空ぶった千里の態勢が崩れたその背中を、残った左手の拳で強く叩きつけた。

「グォホォッ」
「ゴボッ」

 グッシャーン

口から真っ赤な液体を撒き散らし地面に叩きつけられ、大きな音と共に千里はその場に埋もれた。

 「センリーッ」
小熊の麗里が自分の主人の元に走り寄ってきた。

その小熊目掛け蹴り出したオーガの攻撃がまともに腹に入った。
千里の方しか見て無くて、まったくオーガに意識がいってなかった為にそんな大した事も無い蹴りを喰らってしまった。

大したことが無い攻撃でも、ボス級のそれはまともに当たればその威力は半端ない。
小熊の麗里も口から吐血し、千里の手前に倒れ込む。
それでも主人に近づこうと、ズリズリと匍匐ほふく前進をするが、そこまで届かず力尽きる。
 「セ、セ、ン、リィ・・・」

『麗里~千里~』

2人の元に駆け寄り、治癒魔法を唱える咲空さくらとリトル。

その咲空さくらとリトル目掛けてオーガの稲妻が炸裂する。

『あぶな~い』
先に察知した咲空がリトルを突き飛ばし、一人で稲妻を受けてしまった。

 ドッゴーン!

『あっ・・・がはっ』

『ヒール・・・ヒール・・・ヒー・・・』
喉も焼かれ、かすれた小さな声で、回復呪文を自分に向けて唱える。

主人の危機に、その場に居れないシュヴァルツが遠吠えで主人を見舞う。


しかし、咲空目掛けて2撃目の稲妻が飛んでくる。
 
 ドッガーン!

『グフッ』

『おっおっちゃ…ん…』
咲空さくらは意識を刈り取られ、そのまま黒焦げになりその場に倒れ込む。


 「ソヨカゼ~ソヨカゼ~」
リトルは泣きながら呪文を唱え続ける。
自分を助けたが為に黒焦げた咲空をり起こしながら、何度も何度も治癒魔法を唱える。

 「咲空~咲空~さくらあ~」
 「くっそ~あのボケ~」
 「リトル~咲空を頼んだよ~」

無謀にも単独でオーガに立ち向かいに行く姉の咲宙はなび

その勇姿を見ているだけの三ノ宮クランの面々。

電撃を受けた恐怖で動けない連中を見かねて檄を飛ばす統括者。
 「あ、あの人らだけに任せといたらあかんやろ~」
 「助っ人さんに任せっきりなんて絶対にあか~ん」

そう言いながらも、間近で電撃を受けて下半身が痺れで立ち上がれない自分にも言い聞かせている。

戦えるレベルの精鋭たちも起き上がろうと、立ち上がろうとしているが、オーガの強さに恐怖してしまったその身体は、意思とは裏腹に動こうとはしなかった。

前線で戦っていた精鋭たちも、間近で受けた電撃攻撃に足がしびれて立てない。
恐怖耐性を持つ者、心の強い者も居るが、電撃で痺れて皆立ち上がれない人ばかりだ。

最高レベルの格闘家が自分の太ももを何度も何度も叩く。
 「う、動け、動けっ動けぇぇぇぇぇぇぇぇ~」
 

怒りで我を忘れて突撃する姉咲宙はなび

だがオーガはそんな咲宙を相手にせずに、再三再度リトルと咲空に向かって稲妻を落とす。

 「ウオ~ン」

なんとか間に合った咲空の眷属、ブラックウルフのシュヴァルツが、主人である瀕死の咲空の服を噛み、自分の背に乗せその場から離脱させる。
今度はリトルも攻撃に気が付き、息を吹き返していた千里と麗里と共にその場から飛びのいた。

リトルと咲空が居た場所に落ちた稲妻は、大きく弾けて周りに電撃を撒き散らす。

その余波に巻き込まれた近くに居た人々がまたバタバタと倒れていく。


空中から着地したリトルは、また広範囲治癒魔法を唱えた。

だがこのままではイタチごっこのままだ。
回復とダメージのターン制バトル。

なんとかオーガを倒す算段をしないと、そのうち大勢の死人が出るだろう。

今も一人、咲空が瀕死のままだ。
下位の治癒魔法では命を繋ぐだけで回復まで出来ていない。
上位の治癒魔法を掛けないともう時間の問題だろう。

千里や麗里も息は吹き返したが、受けたダメージが大きすぎて体力が全く回復しない。
次に同じ程度の攻撃を受ければ体力が無くなり死に至るだろう。

このままではジリ貧だ。



健斗と母が帰ってくればまた何かの打開策はあるのだろうが・・・


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