厄災の街 神戸

Ryu-zu

文字の大きさ
上 下
71 / 154
第三章 健斗と美咲と新たな出会い

欲しいモノは欲しいんじゃ~

しおりを挟む
「あのタワーマンションの所やな」

 『着いたらもう終わっとうって事、無いかな?』
「あるかも知れんな~」
「でもまぁまだ麗里は進化してなかったから、そんなにレベルも上がって無いんやろ」
 『そんなんあの距離で見えてたん?』

「遠目のスキルあるからな」
「咲空も遠くのどっか1点をしばらく見続けてみ、簡単に覚えるで」

しばし咲空は遠目のスキル獲得に向けて正面を凝視する。
横でシュヴァも同じようにしていた。

 『ほぉ~さすがはうちやなぁ すぐに覚えた』
 「ウォオ~ン」

「おっ?宝箱や~~~」
 『お~~~初めて見た~』

JRA神戸ウィンズB館の屋上のゴチャゴチャした所に、その場所にそぐわない木箱を見つけた。

急いでそこに降り立ち、宝箱を見つめる咲空とシュヴァルツ。

「人生2個目の宝箱やで~」
 『うちは始めてや』

 『まぁうちの初めては全部おっちゃんにあげるんやけどなっw』
「・・・」
「おまえ~ 人前でそれ言うなよ!」
 『え~?二人っきりやったら抱いてくれるって事かぁ?』
 
「な、なんてっ? そ、そうゆぅ意味とちゃうわ~」
「お、おまえは何を言っとんかわかっとんかぁ~」

 『ふふふ、照れ屋さん♪』

「・・・」
「ほんましばくぞ?おまえは~」

 『し、しばかれるんは嫌や~』

そう言って咲空は健斗に抱きつき顔を埋める。

「ちょ、ちょ、ちょっと、咲空さくらちゃ~ん?」

 『焦って急にまたチャン付けかよ~』
 『結構チョロいって言われるやろ~(笑)』

「お、お前は・・・」
「お前は絶対に普通の13歳とちゃうわ~」
「おばはんが転生して、前世の記憶を持っとるやつやろ~」
「中身ホンマおばはんやし~」
「い、今から、お前の事はミチョパと呼ぶからな~」

 『ひ、ひどいっ』
グスグスと泣き出す咲空に、健斗はちょっと言い過ぎたのかな?と自分の言葉に後悔する。
おばさんギャルと呼ばれるのがそんなに嫌だったのだろうか?
多分、違うな。
中一女子に向かって、中身おばはんはちょっと言い過ぎたのか・・・

「ご、ごめんな?ちょい泣き止んで~ほら~宝箱開けるから見といて~」
「なっ?なっ?ほら~開けるでぇ~」

 『ガキ扱いすんなやぁ~ ぐすんっ」
「ご、ごめんごめん機嫌なおしてや~」

そう言って健斗は背を向けている咲空の両肩に手を掛けた。
咲空さくらはその手を自分の両手で握りしめ、声を震わせて言った。

 『ホンマおっさん、チョロいのぉ~』
 『がっはははははっ』

 『グッ グフッ ぐ、ぐるじい~』

咲空のあごの下に、綺麗に健斗のひじが入っている。
完璧なチョーク・スリーパー。
顎に肘を引っかけて、頸動脈だけを絞める裸締めスリーパーホールドでは無く、頸動脈と同時に呼吸も止めてしまう完ぺきな殺し技だ。

健斗から軽い殺意を感じ取り、シュヴァルツが慌てて健斗の右腕に齧るつく。
本気で噛みついて良いものか思案している黒いオオカミ。
足でガリガリと足掻あがくと健斗は腕をほどいた。
 
 『ブッ、ブッハァ~』

 『ハァハァハァ』
「チッ!」

真顔で舌打ちをする健斗に、咲空は恐怖を覚えた。

チラリと咲空が上目使いで顔を見ると、ゾンビの様に死んだ目をしていた。

怒らせたら駄目なタイプだったと咲空は益々恐怖に駆られるが、その時[恐怖耐性]を覚えた。

「あっはははははは」
「おいおいっ、オシッコちびってないかぁ~」
「は~はっはははは」
「仕返しじゃ~」

 『ビビらすから[恐怖耐性]覚えてしもたやろがぁ』
「良かったやないか~」



「んじゃ~宝箱開けよか」

「我が意に沿い 解錠せよ!」

カチャっと音がして掛かっていた鍵が開いた。

 『ほ~それが解錠の文言か~』
「えぇ事を教えたろ」

「普通に"オープン"だけでも開くんやで(笑)」
 『ははっ・・・』
 『やっぱりイチビリやなぁ』


宝箱の中には宝珠が2つと刀剣の形をしたアクセサリーが付いたブレスレットが入っていた。

「おっそうや、咲空はまだ鑑定覚えてないよな?」
 『うん、お姉ちゃんは覚えたって言いよった』

「んじゃ~その珠を持って、色々と観察してみて」
 『んっ?』

咲空は手渡された宝珠を持って観察を始めた。

健斗はブレスレットを鑑定してみる。

大剣の腕輪〔夜光〕[所有者:----]大剣豪 成長度技能覚醒 SSRユニークウェポン
[収納時自動修復]-[装着時HP,STR,5%アップ]


「おおおおおおおおおおおおお!!!」

大剣は母が欲しがってたのは分かっているが、これを見つけたのは自分だから所有権は自分だと健斗は考えた。
偽善心で母に渡さなくてはとも考えたが、まずはその正体を見てみたい。

 『おっ?もう覚えたで~』
 「クォ~ン」

「咲空、これ見とってな」

健斗は早速ブレスレットを腕に嵌めると所有者登録が終わり、そしてミニチュアの剣の形をした部分に触れる。
「夜光っ!」

すると、健斗の手に幅広の幻想大剣ファンタジーソードが顕現した。

刃の部分は銀色に煌めき、刀身部分は真っ黒でその中に無数の星をちりばめたようにキラキラと輝いている。 つばの部分は、三日月の形が4方向に伸び、束の部分は両手で持てるくらいの長さがあり、色は漆黒だ。

 『すんげぇ~』
「大剣豪ってスキルも覚えたぞ」
 『やっと剣士になったな(笑)』

そして、残りの宝珠の鑑定を咲空がする。

 『こっちは、[鍛冶師]と[空間倉庫]』
「ほぉ~大当たりの宝箱やったなぁ」
「どっちか要るか?」
 『う~ん・・・ 今の所あんまり欲しいと思わん』
 『シュヴァルツに使えるスキルか武器が欲しかったなぁ』

「おまえは欲が無い子じゃ」
 『あかん子って事?』

「ちゃうちゃう、えぇ子や」
 『てへへ♪』

そういってまた咲空は健斗に抱きついた。

健斗ももう慣れたのか、特に引き離す訳でも無く、頭を撫でている。
185㎝と165㎝、身長差はあるが大人と子供には見えない。
見た目で言えば、女子高生と大学生のカップルにしか見えないだろう。

これを美咲が見たらどう思うのだろうか・・・



「シュヴァは刀使えないか?」
 「クォ~ン?」

「この大剣が手に入ったから、俺の刀シュヴァが使えたらなぁって思ってな」
 『忍犬みたいな感じやな』
「おぉ~なんかカッコイイ♪」

だが、狼が刀を口に咥えて戦うのはとても現実的ではない。
海賊で3刀流とか言って口に1本くわえてる人も居るけど、ちょっと切るには無理がある。

仕方ないので、元の剣と宝珠はルームの中に放り込んでおいた。


「んじゃ~行くか」
 『いっこかぁ~』


数十メートル飛ぶと大きな声が聞こえて来て、眼下ではあちらこちらで戦闘がおこなわれていた。

 『お姉ちゃんはっけ~ん』

いくつかの戦闘集団を見ていると、中に素早い熊がゴブリンと戦っている所があった。
2人はゆっくりと近寄り、声を掛ける。

「お母ちゃん、どこにいこか?」
『おっ?おかえり~』
『取り敢えず戦力が低い所に応援入る感じでやってるよ』

「んじゃ~俺と咲空はちゃうとこ行くか~」

ほんの少し離れた所に、オークが30体くらいに戦士が10人程の集団があった。

「そこのオークとやって来るね~」
『ほいよ~』

「咲空~シュヴァ~行くよ~」

2人と1匹はオークの攻撃に押され気味のパーティーを応援しに行った。

「夜光っ!!!」

健斗は大声で大剣を自慢げに顕現させた。

 『おぉおぉ、イチビれとるよ~』

何気なく見ていた母が自分の戦闘範囲から離脱し、健斗に駆け寄ってきた。

『な、なんやの~その剣は~』

「あっやっぱり気づいた~?」
『く、くれっ!』

「嫌じゃ!!」
『うちの身体と交換でどないや~』

「・・・」
「まぁ考えとくわ」
『今すぐ欲しいんじゃ~』

「これは固有登録武器やから譲渡出来んのよ」
そう言って母に持たせてみたが、重くてとてもじゃないが振れなかった。

「ごめんな~」

『どこで手に入れたん?』

 『ビルの屋上にあった宝箱からやで』
咲空が横から口を挟んで来る。

「そそっ宝箱から出た奴」

『宝箱探してくる~』
「そう何個も無いわ(笑)」

健斗をキッとにらみ、母は上空へと消えていった。


『うちらの方が先に通ったのに、見逃すとは・・・』
『クッソ~』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

処理中です...