厄災の街 神戸

Ryu-zu

文字の大きさ
上 下
56 / 154
第三章 健斗と美咲と新たな出会い

努力を進化は裏切らない

しおりを挟む
市役所の横の道に戻ると、みんな座り込んで雑談をしていた。
  「おかえりー」

小気味よいおかえりの言葉に、健斗は少し嬉しくなった。

ほんの半日前に散々けなされて心が折れ曲がり意気消沈していた時を振り返る。
 (あぁやってて良かった・・・)


そして健斗はますます調子に乗るのだろう。



一応下に居る人にこれからの説明をしながら美咲の帰りを待つ。


上空を見上げると、3人が見えたり隠れたりしている。

まだまだ降りて来そうにないので、健斗は風纏を発動する。

  「それって自分らでも覚えられるもんなんでしょうか?」
20代後半くらいのスーツを着た女性が問いかけて来る。

「あぁレベルが付いたら指導しましょうか?」
  「ぜひお願いします」

深く頭を下げて健斗に懇願する女性の横から数人が自分たちもと声を上げる。

  「最初はウサンクサイ話やと思ったし、新手の詐欺かもとか思ってた」

  「あぁ自分らもそうやわ」
  「でも、実際にこの人らが空から降りて来たのを目撃したしな」

  「私もそれを見て、夢でも見とるんやろうかって思ったわ」
  「でもどう考えても現実だし、さっきまでそこに居た子らも空に浮いてるし」

  「いまだに状況はハッキリと掴めてへんけど、これって異世界転移やろ?」

見た目は職人気質な感じがする初老の男性が異世界と言う言葉をもち出した。

「いやー異世界に転移したんじゃなくて、神戸の街が封鎖されて厄災が始まったんです」

  「なんであんたがそんな事を知っとんや?」
  「見たとこ二十歳そこそこの子がさー」

「いやいや、こう見えて自分はもう30超えた中年ですよ(笑)」
「先ほども説明しましたが、レベルが付いて進化すると若返ります」
「でも20歳以下の子らは肉体の強化だけみたいですね」
「昨夜は、50代の方が進化して20歳過ぎくらいまで若返ってましたよ」

ザワザワとしだす。今ここに居るのは20代後半くらいから60歳を超えたくらいまで様々だ。
だが若返ると聞いて、やっぱりいぶかし気な顔を見せる。

「まぁこれ見たら信じてくれるかな?」
健斗はズボンのポケットの二つ折りの財布の中に入っている車の免許証を先ほどの女性に見せる。

  「えぇぇぇぇぇぇぇ?私よりも年上~?」

それを聞いた人々は免許証を覗き込み、目の前の健斗の顔と何度も何度も見比べる。


「自分らは昨日の朝から戦闘を始めたので、色々とスキルも覚えてるんです」
「それで、神戸と芦屋の境目辺りに行ったら、大きな壁で隔離されてるのを見てしまったんです」

健斗は昨日からあった事を掻い摘んで、且つわかりやすく説明する。

  「まだまだ半信半疑やけど、ここの狩人たちも、その進化をしとるって事やなぁ」

「とにかくやってみましょう」
「人間では無くなるけど、見た目も思考もなんも変わらないです」
「ただ、超人になるだけです」

   「ふっ 超人か~」


「まず、仕込みをしてるので、そこに行きましょう」
「二人づつしか運べないけど、何往復かしますねー」

まず、最初に目の前に居る女性二人を担ぎ空を駆ける。

キャーキャー騒ぐが、風疾駆を使い素早く移動する。

コンビニの屋上に二人を降ろし、少し離れた場所に移動していたボアをまた誘導してくる。

「あの大きなイノシシにこのゴルフボールか石を当てていて下さい」



健斗はすぐに戻り、市役所の屋上を目指す。


「お~い美咲~ もうそろそろ降りて来てくれへんか」

 「あいよ~ 二人共もう風纏で動けるようになったよ」
「早いなぁ(笑)」
 「若いからか、物覚えが凄くいいし、順応するのもホント早いわ」

三つ四つ位しかかわらんやろ と小さな声で言ったが、美咲の耳にはハッキリと聞こえていた。
言葉の裏を読み取って、自分がなかなか覚えなかったことを揶揄しているんだろうと感じる。

 「おっさーん、またシバかれたいみたいやな?」

「な、なんでやねん、俺がなにをしたと?」
 「うちは地獄耳と言うスキルを持っとんやぞー」
「若婆ぁ(笑)」

 「ムッキ~」

また美咲の殴る蹴るの攻撃が健斗に襲い掛かる。
健斗はそのことごとくをさばききる。

攻撃をかわされた美咲はムキになり速度を上げる。
本気の攻撃では無いので、健斗クラスなら簡単に捌ける。

2人の目にも止まらぬ速さの攻撃と防御に下と上に居る避難民達が感嘆の声を上げる。

  「おぉぉぉぉ~すんげぇ~」
  「攻撃が全く見えん!!!」

  『ほんとにこの人ら、凄いなあ』
   『お兄ちゃんもあんな風になってうちら守ってや~』

誰ともなく拍手が始まり、美咲はその賞賛の嵐に照れる事しか出来なかった。

「ま~こんなデモンストレーションじゃぁ分かりずらいかも知れないけど、自分らみたいな戦闘特化の進化が良いのか悪いのかは別にして、自分の身を守るだけのスキルや技術は取得しています」

「それより、先に行った人が待ちくたびれるので順次行きましょう」

どうしても美咲といると脱線するので、さっさと仕込みの場にみんなを連れて行きたい。

「美咲も二人運んでくれる? そこの兄妹は人を担いで飛べるんかな?」

 『やってみます』

 『ちー子は一人くらいならいけそうか?』
  『うち、力無いしなぁ』

「無理はしないでいいよ、俺と彼女でピストン輸送するから」
ステを見てるので、大人二人位は軽く運べるだろうけど、無理はしない方が良い。

そう言って二人と二人、兄が一人、計5人を一回の飛行で運んでいく。

4往復程して全員をコンビニの屋根の上に集めて説明する。


人数を数えてみたら、母親を入れて避難民が18人と兄妹で丁度20人。
ちょっとしたパーティーを超えて、クランと名乗っても良いくらいの人数だ。


「それではあの大きなイノシシにゴルフボールか石で軽いダメージを与えて下さい」

兄妹にも経験値が入るように、二人にもボールを投げてもらう。


屋根の上からだけ攻撃していると、何度もボアが店舗の中に突っ込んでしまうので美咲と二人で石やボールを投げやすい位置に誘導する。

みんな目の前の大きな魔物を見て緊張で強張こわばっていたのだが、安全に攻撃できる事でかなりリラックスしてきているみたいだ。

  「もののけ姫の各地の主様みたいな感じやな~」
  「んなら、こいつらのまだ上がおるんやな?」
  「乙事主みたいなん、倒せんやろ~」



「全員少なくとも1発以上は当てたかな~」

  『あっ』

兄妹がほぼ同時くらいに小さく声を上げる。

 「どないしたん?」
 『あの~ 投擲ってスキルを覚えました・・・』
  『ゴルフボールを投げてただけやのに・・・』

「これが行動発生系のスキル取得条件ですよ」
「何かの行動を繰り返し復習する事でスキルが発生するんです」

良い実例を皆に見せれた事に少し健斗の顔がほころぶ。


カゴの中のゴルフボールがもう無いみたいだから、全員1発は当たっているだろう。
もしも抜けがあれば、近場でゴブリンを探して来れば良いだけだ。


「それでは、出来るだけ真ん中辺で適切な距離を保って下さいねー」
 「ソーシャルディスタンス守ってね~」

「いよいよいきますよ~」
 「健ちゃん、ちょっと待って~」

いよいよという時に美咲からストップが掛かった。

 「健ちゃん、うちと兄妹で1匹倒させてくれん?」
「いいけど、大丈夫か?美咲は問題無いやろうけど、ゴブリンよりかなり強いぞ?」

 「ふふふ大丈夫だよ~ん」

 「んじゃ~お二人さん、いきましょか~」

3人が風纏で宙に浮き3方向に分かれる。
3人共黄緑系でそれぞれ少しづつ違う色の風で、見ていて綺麗に思う。

  「お~お~お~」
  「なんかCGをリアルで見てるみたいやなー」
  「私もあんなんやりたいなぁ~」

美咲が何やら二人に指示をしながら準備を進めていく。
 3人でアイコンタクトを取りながら美咲が叫ぶ。

 「んじゃ~いっくよ~」

 「『『火球ファイアーボール』』」

「えぇぇぇぇぇぇぇ?」
  「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」
  「これが魔法攻撃かぁ~」
  「ほんまにCGみたい~」
  「これって夢ちゃうよなぁ?」
  「ひ、火の球~?」

威力はさほど高くは無いものの、3人から絶え間なく撃たれる火球に1匹のストライプボアが燃え上がり死出の道を歩む。


「お、おまえらいつの間に?」

 「ふふふ、健斗君、人は日々成長しとるんじゃよ」
「クソったれぇぇぇぇぇぇぇ」

魔法適性が低い美咲が火魔法を覚えるなんて、信じられないが事実だ。
本当に驚いた。

でも、とても悔しそうな演技をしておこう。



切り札を見せる時が来たようだ!

  ニヒッ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...