厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第三章 健斗と美咲と新たな出会い

眷属にするなら?

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健斗に付き従って森公園まで来てみた一行は、その死体の数に驚いた。

これをたった一人でやり遂げたのかと。
 (((やはりこいつは強い・・・)))

だが、それに対しては、さほど驚きが無い美咲は別の感情を健斗にぶつける。

 「知らん間に勝手に一人でレベリングなんてしやがって~」

美咲は健斗のお尻に膝蹴りを1発放り込む。

「おまえ、寝とったやん、ガァガァといびき掻いて~」
 「そんなん掻いてぇへんわ~」

 『こ、恋人と違うって言いよって、一緒に寝とるんか?』

一度恋人かと聞いたら違うと全否定していた二人の事が少し気になる魔法屋さん。

 「べ、別々の布団やで~」
 「ほ、ほんま恋人ちゃうって」
『なんでそんなに大慌てで否定してるんや?』
 『そ~ゆう事かな~』
『そこまで強く否定するって事はホンマは?』

リーダーの問いかけに真っ赤な顔でさらに否定する美咲。




健斗はそんな事には関わらず、息のあるオオカミを探す。

身体中に風刃の刃痕が残るが、その中に1匹、まだ死んでは居ないオオカミが居る。

もうほとんど虫の息だが、まだかろうじて生きているオオカミを探し出した健斗は大声で皆を呼ぶ。

「お~い、眷属契約覚えたい子はこっちにおいで~」

そう言うと、パーティーメンバー9人全員が寄ってきた。



死にかけとは言え魔獣なので、一応口が開かないように噛みつかないように手で掴み、スキルの発生条件を少し細かく説明する。

まぁ実際は気持ちを込めて撫でるだけなんだが、それをさも大層に言うと尊敬のまなざしで見られると思うと、かなり大袈裟に説明してしまう健斗であった。





ほどなくして全員眷属契約のスキルを覚え、今後の事を妄想してはしゃぐ。

健斗は虫の息だったクーリルウルフに治癒のスキルを掛けて蘇生する。

「キュアレ!」

息を吹き返したオオカミは、健斗の手から逃れようと大層暴れるが、逃げ出す事は敵わない。

「このオオカミ、俺の眷属にしようと思うけど、良いかな?」
 『ちょっと待った~』『ごめんーうちもその子欲しい!』

誰も名乗りなど上げないだろうと思っていたが、魔法屋と魔武闘と弓の双子の片割れが手を上げた。

 「んじゃ~4人でじゃんけんやな~」
美咲がノリノリで仕切ってくる。

 「いっくで~」
 「最初はグ~ じゃんけんほい」

グーとチョキとパーに分かれた。

 「あいこで~ほいっ」

魔武闘の子以外はパーを出し、一人だけチョキであっさりと決着がついた。

  『やったぁ』

凄く嬉しそうにはしゃぐ魔武闘の子をジト目で見ながら肩を落とす3人。




 汝

 我が眷属となりてその身を捧げ

 我が命令に従順に従い

 我が身に危険を寄せ付けず

 我が生き様をその眼で見守り

 我が身が亡びる今際の時まで

 未来永劫共に生きると、誓えっ!!!

 『ブローブン!』



魔武闘の子の手から発せられた淡い光がクーリルウルフの身体を包み込む。

そして、オオカミの口を持っていた健斗も淡い光に包まれていく。
 「えぇぇぇぇぇぇぇ?」
 『おぉぉぉぉぉ?』『あれれ~?』





とんでも無い事故が起こった。

それまで疑問だった人間でも眷属契約が出来るのかはわかったが、健斗が魔武闘の子の眷属になってしまった事は美咲には到底受け入れられる事態では無かった。

リーリの時も、最初は健斗が身体を押さえていたが、契約呪文を唱えている時には美咲だけがリーリに触れていた。
その為にこんな事態が起こるとは思ってもみなかった。

だが、契約個体に触れていると、同時に契約されてしまうと言う事も新しい知識になった。


  『ご、ごめんなさい、すぐに解除しますー』
「いや、別にこのままで良いですよ」
 「あかんに決まっとろうが~」

健斗はすでに眷属の意識になっているので、特に問題は感じていない。
だが、このまま他人の眷属になったままの健斗はとてもじゃないが我慢ならない。

 「ほんまにごめん、契約解除してもらえん?」
  『は、はいっ』
  
健斗の額に手を当てて、魔武闘の子が解除の文言もんごんを唱える。

宍蔵魔琴ししくらまことの名に措いて命ずる 汝との契約を還付かんぷする』
 

健斗の契約が解けて、我に返ったように魔武闘の子を見つめる。

 「はぁ~良かった~」
 「びっくりしたわ」
  『ほんと、ご迷惑おかけしました』

魔武闘の子が悪い訳では無いのだが、何故か謝らないといけない気持ちになっていた。
だが、そのかたわらには、眷属となったクーリルウルフが顔を擦り付け寄り添う。

魔武闘の子は少ししゃがみ、クーリルウルフの頭を撫でる。

狼種の中では小型だと言っても、体高は頭の上までで150㎝はあるだろうし、体長は2m近くはあるだろう。
立ち上がれば健斗くらいの高さは有ると思われる。

首に腕を巻き付け頬刷ほおずりをしまくる。
  『イヤァ~可愛すぎ~♪』

 「ちゃんとその子に名前を付けたげるといいよ」

  『名前はたった今決めたよ~』
 「ほぉ~早いなぁ」
  『ふふふ、4人の抽選で私が勝ち取った子だからね~』

  
  『宍蔵魔琴ししくらまことの名に措いて命ずる 汝を”ラッキー”と命名す』

一瞬淡く光ったように見えてすぐに消えた。

ステータス画面を見ると、ラッキーのステータスに補正が付いている。

これは眷属に命名した事による恩恵なんだろうか?と魔武闘の子は思った。
自分の眷属がちょっとでも強くなることはとても嬉しい事だ。

「ラッキーって、良い名前だね~ 魔琴」
 「はぁ?なんで名前呼びしてんねん?」

健斗は、また美咲に蹴られるか殴られるかするもんだと身構えたが、何もしてこなかった。

魔武闘の子は少し赤い顔をしている。



一通りのスキルを伝授したので、健斗は当初の目的の垂水区に向かう事を皆に告げる。

 『またどっかで会えるよね?』
  『師匠~ 寂しいですぅ』『師匠~お元気でぇ~』
『二人共本当にありがとな』
『最後にその子をちょっとだけ抱かせてもらえんかな?』

健斗がニヤリと笑いリーリを大剣戦士に預ける。

『お別れにゃ~ 元気でにゃ~ また会おうにゃ~』

またネコ娘に変身した。


その様子を皆が微笑みの顔で見守る。





「まぁ行くと言っても、仕事の現状と経過と今後の事を聞きに行くだけやから」
 「またこっちに戻ってくるんやろ?」
美咲が健斗に聞く。

「拠点はどの道、灘区から東灘区になると思うよ」
 『それじゃーまたここに戻ってきてくれるんやね?』

健斗は少し返事に困った。
特に避ける必要も無いけれど、また一緒に行動する事もあまり考えていない。

「こっちに帰ってきたら、取り合えず六甲アイランドに行こうかと思ってるんよ」
「あとは灘区に戻って、鶴甲つるかぶとや鴨子ヶ原の辺の団地も考えてる」

 『そっかー・・・』
  『帰ってくるまでに全部うちらが荒らしとくわ』
 「トロールにやられんようになー」
『トロールを眷属にしたるわ!』
 「小動物フェチのくせに、そりゃ無理やろ~」



「それじゃあね~」
 「まったね~」
 『師匠また~』『師匠待ってますぅ』
『色々とありがとな』
 
  『健斗さんの意思を継いで、戦える人を増やす事にも力を入れますねー』
「頼むよ~」

笑いながら寂しそうな顔で健斗と美咲を送り出した9人であった。





風纏でゆっくりと上昇すると、北の方に神社が見える。
 「あんなとこに神社があるんやなー」
「稲荷神社やね。森稲荷神社って言うらしい」


2人は西に飛び立った。
上空を飛びながら、美咲は健斗に問う。

 「あの子らと一緒にやるつもりは無いん?」
「ん~なんて言うのかな?通りすがりに知り合った子たちって感じやしな」
「俺の眷属主の子はもう一度会わないとあかんやろうけど(笑)」
 「いらんわ~」

「あのオオカミ、残念やったわー」
 「狼なんて、いくらでもおるやろ~」
「そうなんやけど・・・」

2人は風纏を合体させて、仲良くその風に包まれる。
そうしないと会話が出来ないのもあるが、やはり一体感と言うものが大きいのだろう。

美咲は手を繋ぎたかったが、健斗はアトム飛びをしている。
美咲は戦闘民族飛びである。

 「しばらくここともお別れなんやなぁ」
「まぁ垂水で、な~んも無けりゃすぐにでもこっちに戻って来るさ」








«近い将来に、この辺りに戻って来なければいけない事態に為る事を健斗はまだ知る由も無い»

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